一日で記憶を失う令嬢が初対面の最強騎士様に婚約破棄された理由(ワケ)
「婚約者ぁ~!?」
うららかな春の日に、事件は起こった。
桜が舞い散るのどかな田舎街の風情に似合わぬすっとんきょうな大声が、プロヴィデンス辺境伯家の邸宅に響きわたる。
声の主こそがこの物語の主人公、プロヴィデンス地方を治める辺境伯の一人娘『カナリア』であった。
「そんな大切なコト、もっと早くに言ってちょうだいよぉ! ヒバリのイジワル!」
「何度も言いましたよ。カナリィがまた忘れてしまっただけでしょう」
「そんな言い草はないじゃない! わたしのもの覚えの悪さなんてヒバリが一番よく知ってるでしょう!?」
「もちろん、それはもうよーく存じ上げております。しかしながら、てっきり日記に書いているものかと」
「それが書いてなかったのよぉ、婚約だなんて人生最大級のビッグイベントだっていうのにぃー! なんで、なんでよぉーわたしのドジ!!」
「大丈夫、カナリィのドジは今に始まったことではありませんよ」
「フォローになってないしむしろ追い打ちしてない!?」
必死で着慣れない母のお下がりのドレスを身に着けようとするカナリア。
狼狽する主人とは対照的に、冷静に着付けを進めてゆく女性はカナリア付きの使用人『ヒバリ』。
なんとか着付けに成功した二人は早足で応接室に向かった。
「ああ、わたしの婚約者様。いったいどのような素敵な男性なのかしら」
「素敵と決まったワケではありませんが……名前はケイジ。平民出身の軍人のようです。年齢は21。カナリィより3つ上ですね」
「平民? 軍人さん? 婚約というからにはお相手も貴族かと思ったのだけど」
「特殊な事情があるようです。彼は先の”魔女戦争”にて武勲を立て、皇帝陛下より騎士の称号を授与されており、現在の所属は皇都騎士団。超がつくほどのエリートですね」
「皇都の騎士様!?」
カナリアはその言葉の響きにパァっと目を輝かせた。
「ああ皇都……都会の中の都会。なんて甘美な響きなの」
「カナリィはプロヴィデンス地方から出たことのない生粋の田舎者ですからね」
「そう、わたしは田舎貴族の中の田舎貴族――って何言わせるの!?」
「おぉ……皇都で流行と噂のノリツッコミ」
「田舎娘だったのも今日までのことよ! きっと騎士様はわたしを都会から白馬に乗って迎えに来てくれたんだわ!」
「いえ、魔動機関車で移動してきたと言っていました。今どき馬で何日もかけて皇都からこの辺境の地を訪れる奇特な人などいないでしょう。頭中世ですか?」
「辛辣!? ちょっとくらい夢をみたっていいじゃない!」
プンスカと頬を膨らませてズカズカとガニ股で歩くカナリアと、そんな主人をクスクス笑いながら見守るヒバリ。
ついに応接室の前に到着すると、ヒバリの目つきが変わった。いままでのまるで友人のようなフランクな態度から、一気に主従関係に空気が切り替わる。
「ではカナリアお嬢様、中で婚約者のケイジ様がお待ちです。心の準備はよろしいでしょうか?」
「ええいいわ、お父様が言っていたもの、『なにごとも挑戦だ』ってね。開けて、ヒバリ」
「承知しました」
ヒバリがうなずき、扉を明けた。
きらびやかな装飾こそ少ないものの、落ち着いた気品と厳かさを感じる部屋の中に二人が入る。そこに一人の男性が立っていた。
そう、立っていたのだ。ヒバリが部屋に通した時点でソファに座って待つよう言ったにもかかわらず。だからカナリアの目からも彼の全身がよく見えた。
軍人というのだから筋骨隆々の大男を想像していたが、違った。
身長はカナリアよりも頭一つ高く、すらりと伸びた手脚がスマートな印象を与える線の細い美男子だった。
精悍な顔つきは戦争のなごりだろう、癒えない疵痕がところどころ散見されるが、同時に人生経験や意志の強さも感じさせる。
それによく目を凝らすと、一見細い肢体は鍛えられ、研ぎ澄まされて一切無駄な贅肉がない。戦うために削ぎ落とされた肉体、と形容するしかなかった。
頑強さと優美さを兼ね備えたこの男性に、カナリアが一目で好感を持つのも無理はなかった。
「お待たせして大変申し訳ございません。おかけになって待ってくださっているものとばかり」
入室したカナリアの第一声は謝罪だった。
男性のほうは低く、しかし濁りのないよく通る軍人式の発声で返答する。
「いえ、お気遣いなく。自分が格下ですから」
軍人らしい率直な口調だった。彼は頭を下げて自己紹介する。
「自分は皇都騎士団所属の騎士、ケイジと申します」
「わたくしはプロヴィデンス辺境伯の長女、カナリアと申します。以後、お見知りおきを」
カナリアは膝を曲げつつスカートの裾を軽く持ち上げ、優雅に令嬢の挨拶をキメた。
伊達に生まれた時からずっと貴族令嬢を続けているワケではない。
(完璧に決まった! 今日はお母様の黄色いドレスも着ているし、これでイケメン騎士様はわたしにメロメロよ! ヒバリはいつもわたしのことを世間知らずの田舎娘ってバカにするけれど、わたしだってやればできるんだから!)なんて自信満々のドヤ顔で男性の顔を覗き込むと――。
「っ――!?」
ゾッとするような感情のこもらない瞳がそこにあった。
彼は不可解なことを口にし始めた。
「申し訳ございません、カナリア様。以後はないのです」
「ぇ?」
「自分はここに結婚するためではなく、婚約破棄を告げるために来たのですから」
「え、あ……え……? な、何を言って……婚約破棄ってどういう意味?」
「言葉通りの意味です。この縁談を反故にする。自分はあなたとは結婚できません」
唖然とするしかない。
婚約者がお屋敷に来たと思ったら、初対面で婚約破棄を告げられた。
本にも書いていないような急展開だった。
頭が真っ白になって口をパクパクさせるしかないカナリアに、騎士は無慈悲に告げる。
「この縁談を持ちかけられた時から、お断りしようと心に決めてここに来ました」
「ど、どうして? わたしが何かあなたの気に障ることを……? わたしドジだから、いつも失敗ばっかりだから、またなにかやらかして――」
「――それだけは絶対に違います」
狼狽するカナリアの自虐を、ケイジがさえぎった。
「誓って申し上げますが、カナリア様が悪いわけではないのです。全ては自分に原因がある」
「原因って、まだあなたとは何も……」
「失敗することがわかっているのなら、最初から何も始めないほうがいい」
「そんなっ……始める前から失敗するかどうかなんてわからないでしょう!? 挑戦してみたらいいじゃない! たとえばほら、桜の――」
「――花びらが散るまでここで過ごしてみたらどうか……ですよね?」
「っ……!」
カナリアの頭に疑問符が大量に浮かんだ。どうして?
(どうしてわたしの言おうとしているコトがわかったの!?)
騎士、ケイジはうつむきながら悲痛な面持ちで告げた。
「カナリア様、窓の外を見てください」
「……」
「もう……桜は散ったんですよ」
確かに。彼の言う通り窓の外を見てわかった。
花びらが散って、枝が露出していた。
カナリアが知らないうちに、季節は過ぎ去っていったようだった。
あれほど栄華を誇示していた桜の木々が今ではどこか寂しげで、痩せてみすぼらしく見えた。
「ぁ……」
それ以上何も言えなかった。
「さようなら、カナリア様。あなたに幸福が訪れんことを」
騎士、ケイジは頭を深々と下げるとそのまま応接室から、そして屋敷から出ていくのだった。
屋敷の門からヒバリに見送られて列車の駅に向かうのが窓から見えた。
散ってしまった桜の花びらを踏みしめながら……。
「おかしい、何かがおかしいわ」
カナリアは早足で自室に戻る。
「初対面で婚約破棄だなんて、どう考えてもおかしい。なにより――」
なによりあの悲痛な表情が頭にこびりついて離れない。
自室についたカナリアは勉強机の引き出しから日記を引っ張り出した。
なにせヒバリの言う通り物覚えが悪いものだから、日々の出来事はここに書き留めておくことにしている。
どこかにこんな状況になったヒントがあるかもしれないと、ページをめくった。
しかし――。
「ない……ない、ないないない……どこにも、ない。どうして、わたしアレがないと何も……わからくなるのに」
ここしばらく、おそらく二週間分のページが抜け落ちていた。
ちょうど桜が開花してから散るまでの日々の記録が。
「何か……あったんだ。あの人の様子がおかしかった理由、そして……ヒバリの様子もおかしかった。何か隠してたんだ」
あの騎士様は初対面だが、ヒバリとは幼少期からの長い付き合いだ。
だからわかる。今日の彼女は明らかに様子がおかしかった。最初は主人の婚約などという大事に直面したからだと思っていた。
だけど違う。何か、抜け落ちた二週間にまつわる何かを……自分に対して隠していると感じた。
「だけどいったい何を……?」
視線を落とすと、いつも日記をしまっている引き出しに別のモノが入っているのをみつけた。
なんだろうとよく見ると、折り紙だった。黄色の紙を折って、鳥を形作っている。
奇妙なことに、その鳥は翼が片方しかなかった。しかもそんな片翼の鳥が二羽、失った翼を補い合うように寄り添っている。
作った人が違うのだろうか。片方は綺麗な折り目だが、もう片方は折り目が不揃いでところどころ歪んでいた。
「”比翼の鳥”……?」
遠い東の国の血を引く母が昔、話してくれたことがある。
片翼の鳥が雄と雌の番で二羽、寄り添い合って飛ぶという伝説を。
だけどどうしてそれを模した折り紙が引き出しの中にあるのかはわからない。
思い出せない。
きっと忘れてしまった二週間にその答えがある。それはなんとなくわかるというのに。
カナリアの頭にズキズキと痛みが走る。古傷が開いてしまうような感覚とともに、痛みが強くなってゆく。
「うっ……うぅ……」
頭痛にうつむきながらも、彼女は折り紙を手に取った。
何か手がかりはないかと、折られた紙をもう一度開く。
そこには――。
『きっと明日も明後日も、わたしはあの人に初恋をする』
と書かれていた。見間違えるワケがない。
「これは……わたしの字……」
そう。
それこそ他でもない自分自身の筆跡だったのだから。
籠の金糸雀は翔ばない
「婚約者?」
冬が終わり、春が訪れる頃。
皇都騎士団の騎士、ケイジは軍部の長である”将軍”に呼び出された。
新たな任務だろうか、と勇んで訪室すると将軍から飛び出したのは意外な言葉だった。
「そうだ、婚約だ。ケイジ、お前にもそろそろ所帯を持つ時が来たってことだ」
「っ……将軍も知っていると思いますが、自分には家族など……」
「そうだな、よく知っている。お前がガキだった頃からの長い付き合いだからよ。とはいえいろいろとややこしい事情があるんだよ。ま、座りな」
「……はい」
ケイジは素直に従った。
将軍は少年兵だった時代から目をかけてくれた恩人だ。
彼の言うことならば、聞かずに断るというわけにはいかないだろう。
将軍は昼間だというのにグラスに蒸留酒を注ぎながら言った。
「縁談を持ってきたのはオレじゃねェ、第一皇子アインラルドだ」
「第一皇子様が? なぜ自分のような末端騎士に?」
「疑問に思うのは無理ねェが、そうだな……”嫉妬”ってとこかな」
「?」
将軍の話を理解できず、ケイジの頭には疑問符ばかりが浮かんでいる。
「ま、順を追って説明してやる」将軍は意を決してグラスの中の酒を一気に飲み干した。
「アインラルドは政治家としては有能だが、お世辞にも武勇に優れているとは言えねェ。先の”魔女戦争”、終結に導いたのは軍部――特にケイジ、お前の力が大きかった」
「俺は何も……」
「謙遜すんじゃねェ、世界全てを飲み込もうとしていた呪いの化け物――”忘却の魔女”を討伐したのはお前だろうが。今では国民の誰もが知ってるぜ、そのへんのガキだってお前のことは英雄って呼んでやがる」
「つまり、第一皇子様は軍部の武勇に嫉妬していると?」
「そうさ。我らが”神星セラエティア皇国”は剣の国、国民全てが剣を取って戦う。武勇こそが尊敬に値する。そこが頭でっかちのアインラルドには気に入らねェんだろうさ」
「気に入らないことと、今回の縁談となんの関係が?」
「そこだ」
将軍はケイジをビシッと指さして言った。
「セラエティアの各地方で、ケイジを次の皇帝にという声が大きくなってきている」
「ぇ……は、俺が!?」
「今やお前はセラエティア最強の剣士にして戦争の英雄だからな、まあ自然な流れだろう」
「いやいや、俺には皇位継承権がありませんよ!」
「その通り。皇位継承権の序列第一位はアインラルド、これは揺るがぬ事実。しかし魔女戦争で前線に出ず保身に走ったと評価された奴は国民からの支持率が低下している。なにより――こいつはウワサだが、皇帝も長男の軟弱さに失望したという話もある。皇女の誰かとケイジを婚姻させ、皇帝の地位を継がせるんじゃないかというウワサは皇都の内外に広まってきている」
「お、俺は全然そんなつもり……」
「しょせんはウワサだが、しかしアインラルドにはこの状況は面白くない。だからこの縁談が計画されたというワケだ。ケイジ、お前にはプロヴィデンス辺境伯の地位が与えられる。今までは勲章のオマケみたいな騎士爵だったが、モノホンの貴族になれるってワケだ。プロヴィデンス地方の支配権と――辺境伯の娘との婚姻によってな」
「なるほど……」
ずっと戦いばかりで政治には疎いケイジにも状況が読めてきた。
第一王子アインラルドの計画。それは英雄であるケイジに土地と爵位をあえて与えることで、皇女との縁談が持ち上がらないように民意を抑制することなのだ。父親である皇帝への牽制でもあるのかもしれない。
加えて、軍属であり直属の上司が将軍だったケイジを、貴族社会に取り込む意図も含まれているのだろう。今回の戦争で人気と勢力を伸ばした軍部と将軍から、最大戦力のケイジを切り離そうという魂胆だ。
実際、この縁談が成立してケイジが辺境伯となった場合、将軍や軍部との形式的な繋がりは途絶えてしまうだろう。個人的な繋がりは別の話として、だが。
ここまで思考を整理してなお、ケイジに一つの疑問が持ち上がる。
「しかし辺境伯家の土地であるプロヴィデンスを何故、第一皇子様が?」
「そいつは……プロヴィデンスは国境付近にある土地だ。我が国最大の敵対国家たる”ヴァル・ヴェルデ”や、紛争地帯として知られる小国”サクラガルド”と隣接している。辺境伯家はかつて優秀な外交官であり、国境の守備も固く皇帝から信頼されていたんだが……ある外交任務の最中に生命を落としたんだ。奥さんも巻き込まれてな」
「なるほど。辺境伯夫妻が亡くなった後は、一時的に土地が第一皇子預かりになっていたと」
「その通り。そしてここからが本題だ。夫妻の忘れ形見である一人娘”カナリア”に政治能力がないために第一皇子預かりとなったプロヴィデンスだが、本来の支配権は今も彼女にある。国境の地域を支配する正当な血族だ」
「その一人娘と俺が婚姻を結べば、俺は貴族社会に吸収されて軍部とは断たれる……と」
「ま、いいじゃねェか」
苦虫を噛み潰したような顔をするケイジに、将軍が微笑みかけた。
この反応はケイジにとって意外だった。最大戦力である自分が軍から離れることは、将軍にとって痛手ではないのか?
「ガキの頃から戦いばかりだったお前が……”家族”を持てるトコロまで来たんだ。この縁談を受けることで第一皇子との確執も解消されるとしたら、お前に損はねェだろ? オレはな、ケイジ。お前のことを引き止めねェ。むしろこの縁談を後押ししてェと思ってる」
「そんな……どうしてですか。将軍にとってオレは……もう、必要ないんですか?」
ケイジの不安そうな視線を、優しく受け止める将軍。
少年の頃から軍部にいたケイジにとって将軍は親代わりのようなものだった。
そんな彼から離れることは、簡単に受け止められるようなことではない。
それは将軍にもわかっていた。しかし、だからこそ――。
「せめて、その娘に会ってこい。腰抜け野郎とはいえ、皇子様が持ち込んだ縁談だ。会いもせずに断れば皇子とお前との関係がさらに悪化して、最悪軍部にも被害が及ぶだろうからよ」
そう言って彼は紙切れを差し出した。
”魔動機関車”の乗車券だった。皇都からプロヴィデンスまでと書かれている。
ケイジはそれを受け取らず、うつむく。
「もしも……実際に会っても、考えは変わらなかったら? 俺に家族なんてもてるわけがなかったら?」
「そん時はオレに任せときゃいい。アインラルドの小僧にはオレから断りを入れてやる。あいつはオレにかなりの恩があるからよ。だから安心して行けよ。なにごとも挑戦だ!」
「……はい」
こうしてケイジは、将軍の差し出した乗車券を受け取ったのだった。
☆ ☆ ☆
魔動機関車に揺られて数時間。
かつては馬車で数日かかったという国境までこれほど早く到着するとは。
技術の進歩に舌を巻きつつ、ケイジはプロヴィデンスに降り立った。
駅の周辺には商店街があって、活気に満ち溢れている。
地図を見ると、商店街を抜けてからしばらく歩けば”プロヴィデンス辺境伯邸”にたどり着けるだろう。
(断ろう)
そう心に決めていた。
将軍には悪いが、自分の手は血に汚れすぎている。
いまさらまともな人間のような顔をして家族など持てるわけがない。
「……?」
そうして商店街を歩くうちに、いつの間にか自分の周囲に人だかりが出来ているのに気づいた。
老若男女、商店街のあらゆる人々がジロジロとケイジの顔を覗き込んでくる。
(な、なんだ? そんなによそ者が珍しいのか?)
警戒して身構えるケイジ。
そんなケイジに向かって、人混みの中の一人の子どもがこう叫んだ。
「英雄だー!!」
「英雄?」「やっぱりケイジ様!?」「魔女戦争の英雄!」
口々に賛美の言葉をつぶやきながら、商店街の人々が集まってくる。
気づけば完全に取り囲まれていた。
「ねーねー、どうして英雄がこんな田舎街に!?」
「え、あ……俺は、その……婚約者に会いに」
「婚約者!? この街の人と結婚するの!? 誰!? 誰!?」
「プロヴィデンス辺境伯の一人娘と――っ」
しまった。子ども相手とはいえ、縁談のことを漏らしてしまった。
するとウワサは伝播し、人々がざわつき始める。
「辺境伯の娘って?」「カナリィだ」「あのお転婆娘が英雄と!」「マジかよ、超玉の輿じゃん!」「全然お似合いじゃなくない?」「だってあのドジのカナリィだし、ねぇ……」
(まずいぞ……大事になりそうだ)
ケイジは自らの口の軽さを悔いた。
そしてこの人混みを無理に抜けていくのは無理だと悟った。今も人が増え続けている。
ケイジは両脚に力を込めて、
「失礼する!」
――跳躍した。
立った状態から予備動作もなくいきなり上空に飛び上がったため、人々からは突然姿を消したようにしか見えないだろう。
このまま姿を消すとしよう。
(しかしこの分だと開けた道は使えないな。将軍の言う通り、俺は思ったより顔を知られているようだ。なんとか迂回していくしかない)
☆ ☆ ☆
商店街を抜けていく舗装された道を行くのは諦め、林や川を抜ける険しい道をあえて行くことにしたケイジ。
とはいえ軍人として、この程度の悪路には慣れている。
問題なく進んでいた――かに見えた。
「迷ったな」
冷静につぶやく。完全に迷った。地図を見ても、目印のない林の中では意味をなさない。
土地勘の無い場所で無茶をしすぎた。
どうしたものか。
困り果ててさまよい歩くケイジ。その時だった。
ボチャン、ボチャンと、何かが水に跳ね落ちる音が聞こえてきた。
何だ? とその方向に向かうと、そこには川があり、川辺には一人の少女が立っていた。
(女の子? 身なりは良いようだが、年頃の女子がどうしてこんな場所に……?)
観察していると、少女は川辺の石を拾ってじっと見ているようだった。
ブツブツと呟いている。「これは重すぎる」「これは細長くて、いい感じに跳ねそう」
「よし、これだ!」石の選別を終えたかと思うと、少女は――振りかぶった。
「――たぁ!!」
気合とともにアンダースローで投げ放たれた石はパシパシと水面を跳ねる。
何度も跳ね、ついに向こう岸へ辿り着こうとしていたが、その直前で力尽きて沈んでしまった。
「あー! もう、また失敗! もうちょっとだったのにぃー!」
悔しそうに地団駄を踏む少女。
ケイジにも理解できた。「水切り」だ。石を投げて水面を跳ねさせ、向こう岸を目指す遊び。
小さな男の子が好む遊びであって、年頃の少女がするようなモノではないと思うが。
とはいえ危険はなさそうだ。ちょうど土地勘のある人間に道案内を頼みたかったところだし――ということで、ケイジは少女に近づいて声をかけた。
「そこのお嬢さん」
「え――ぁ」
いきなり声をかけられて振り向こうとした少女。
しかし濡れた川岸だからだろう、足を滑らせて後ろに倒れ込み始めた。
まずい、水に落ちる!
ケイジは瞬時に距離を詰め、少女の身体を支えた。
「大丈夫か?」
「え、あ……ありがとう」
少女と近くで目があった。
活発そうな大きくて丸い目。パッチリと上向きの長いまつ毛。
宝石のように煌めく碧い瞳。なにより――神星セラエティア皇国では珍しい艷やかな長い黒髪。
これまたこの国では珍しい黄みがかった肌は、今は頬だけが赤く染まっている。
見たこともないような独特な感じの、それでいて美しさを感じる少女だった。ケイジは彼女の身体を抱きかかえたまま、しばらく目を奪われていた。
「あ、あの……もう大丈夫だから。離してもらえる?」
「え、あ……す、すまない。失礼した」
ふたりとも顔を赤くして、気まずそうに離れる。
コホン、ケイジは軽く咳払いをして、当初の目的を思い出した。
「自分は皇都から来た軍人なんだが、道に迷ってしまった。君はこのあたりの人だろう、案内してくれないか?」
「へぇー、軍人さんなのね!」
少女は目を輝かせてケイジの服装を物珍しそうに見た。
どうやら、彼女は「英雄」のことは知らないようだ。さっきみたいな絡み方をされるのはもううんざりだったから、安心した。
だがしかし、次に少女の口から出てきた言葉はそんなケイジの安堵を吹き飛ばした。
「よーし、軍人さん! わたしと勝負して勝ったら案内してあげるわ!」
「しょ、勝負!?」
「そう、”水切り”で勝負! 言っとくけどわたし、この辺の子どもに負けたことないから! チャンピオンだからね!」
「なんで勝負なんて……」
「えーもしかして軍人さんビビってるぅー? ヘイヘーイ、ピッチャービビってるぜー」
「……っ」
スラングなのだろう、言葉の意味はよくわからなかった。
しかし絶妙にイラつく言い方に、ケイジも軽くムキになってしまう。
「いいだろう、その勝負を受けよう」
「やたっ!」
「さっきの君よりも遠くに飛ばせば俺の勝ちだな?」
「それでいいよ〜」
ケイジは川辺の石を適当に拾う。
(水切りなんてほとんどやったことがないが……こっちには男の腕力がある、多少ゴリ押しでも――勝てる!)
さっき見た少女のフォームを思い出し、真似る。
思いっきり振りかぶって――投げた。
目にも留まらぬ速度で放たれた石は水面に到達すると、跳ね……ない。
鋭く突き刺さり、水面を切り裂いてしまう。そのまま向こう岸まで到達した石は地面に突き刺さり、轟音と共に大穴を開けてしまった。
(しまっ……力を入れすぎた!)
もはや”水切り”ではなかった。戦場で使えば人を殺せるレベルの殺人投石。
ロクな武器もない戦場ではこうして敵を殺すしかなかったのだ。
幾多もの戦いの経験がケイジを強くしすぎてしまった。
(やはり俺はまともな人間じゃない……人殺しだ。これではこの女の子も俺を怖がって……)
いくらかの諦めと共に、少女のいる方を向いた。
すると、予想していた畏怖の表情がそこには――なかった。
そこにあったのは、ただでさえキラキラした瞳がさらに輝く光景だった。
「すっっっっごーい!! 軍人さんってこんなにすごいんだー!」
腕をブンブン振って無邪気に喜ぶ少女を前に、杞憂だったと悟った。
とはいえ、勝負は勝負。
「俺の勝ちのようだな。約束通り、案内してもらうぞ」
「いいよー、ついてきて」
案外素直に負けを認めた少女の後ろをついていく。
険しい道だがスルスルと歩く彼女には、確かに土地勘があるようだ。
進んでいくうちに、突然少女が「あっ!」と叫んだ。
「どうした、何かあったのか!?」
取り乱すケイジに、少女が大声で報告する。
「これは……”いい感じの枝”!」
「い、いい感じの枝……?」
「そうよー、見つけちゃったー♡」
嬉しそうに道端に落ちていた枝を手に取る少女。
確かにまっすぐで手に持つと木刀のようだが……ケイジにはなんの変哲もない枝にしか見えなかった。
彼女は嬉々として枝を天高く掲げ、
「どう、”伝説の剣”!」
「どうって……枝だろ」
「伝説の剣なんですー! この価値がわからない軍人さんには絶対あげませーん!」
「いや、別にいらないが……」
「えー! いるでしょ、伝説の剣! 男の子でしょ!?」
「いらない」
「がーん!!」
そうこうしているうちに林を抜けた。
「そういえば、とりあえず林を出ちゃったけど。軍人さんがどこに行きたいかまだ聞いてなかったわ」
「そういえばそうだったな」
思えばただ少女と一緒に歩いているのが楽しかった。
だから目的地を伝えるのをつい忘れてしまった気がする。
「俺が目指しているのはプロヴィデンス辺境伯の邸宅なんだが。ここからどういけばいいのか……君は、知っているのか?」
「もちろん! だってこのあたりの土地はぜーんぶ、うちの家の土地だし!」
「えっ――?」
「っていうか軍人さんの目的地って、わたしの家だし!」
「えええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」
これがセラエティア最強の剣士ケイジと、稀代のおてんば令嬢カナリアの出会いだった。
☆ ☆ ☆
「えー、軍人さんってわたしの婚約者だったの!?」
「事前に教えたはずですが」
「ヒバリはわたしの物覚えが悪いの、よぉーく知ってるでしょ!」
応接室で言い争う令嬢カナリアとその使用人ヒバリ。
主従関係のはずがまるで親友同士のような二人を、ケイジは苦笑しながら眺めていた。
やがて話がまとまったのか、カナリアがこちらを向いてお辞儀をする。
「改めて、プロヴィデンス辺境伯家の娘のカナリアよ。カナリィって呼んでね! みんなそう呼んでるから!」
「カナリィ、いきなり距離を詰めすぎです」
「だいじょーぶだいじょーぶ、もう軍人さんとは一緒に”水切り”までやったんだからお友達だもん。ね!」
ケイジはふっと息を吐く。なんだ、縁談に真面目に悩んでいた自分がバカらしくなってきた。
立ち上がり、頭を下げた。
「自分は皇都騎士団の――」
「あーもう、お固い挨拶はなし!」
「しかし、自分が格下で……」
「だったら貴族令嬢命令よ! 敬語禁止!」
ジトっとした目で指を刺され、そう命令された。
格上に命令されては仕方ない。ケイジは頭を上げ、
「俺はケイジ。皇都で騎士をやっている。よろしく」
「よろしくね、ケイジ! それでいつ結婚するの! 式は教会で!? 新婚旅行は皇都かしら! わたし、一回くらいは皇都に行ってみたかったのよね~」
「いきなり情報が多い! そもそも結婚すると決まったわけでは!」
「え!? 結婚しないの!?」
大げさにショックを受けるカナリア。
正直、断るために訪れた辺境伯家だったが……今、カナリアという少女に何かを感じている自分がいることも否定できない。
だから「結婚しない」と断言することもできなかった。
「実際に会って、それを決めるためにここに来たんだ」
「そう、なんだ……だったら!」
カナリアはこう提案した。
「この地方は今、桜が咲いたばかりなの。だからせめて桜の花びらが散るまでここにいてみたらどう?」
「桜?」
「ここに来るまでにたくさん咲いてたピンクの花よ、この地方の名産なんだから! あと二週間くらいは咲いてるハズだからわたし、その間にプロヴィデンスのいろんな所に案内してあげる。みんな優しくてとってもいい場所だから、きっとケイジも気に入るわ!」
そういえば。ここに来るまでの道のりで、あまり気にしていなかったがセラエティアでは珍しい華やかな木々を見かけた気がする。
二週間か……悪くないかもしれない。少しばかり長い休暇だと思えば。
「では、お言葉に甘えて。これから少しばかり世話になるよ……カナリィ」
「……うんっ!」
少女は満面の笑みで答えた。
思えばこの時。
すでにケイジは、カナリアという少女に惹かれていたのだろう。何かを感じていたのだろう。
その気持ちがどんな名前をしているのか、この時の彼はまだ知らなかった――それだけのことだった。
☆ ☆ ☆
「じゃじゃーん、ここがプロヴィデンス駅前商店街でーす!」
「知っている。一回来た。昨日、案内してもらった時に話さなかったか?」
「あれ、そうだっけ? 忘れちゃった。わたし、あんまり物覚えが良くないから」
カナリアは照れくさそうに笑ってごまかした。
商店街を進む二人。
ケイジはまた昨日のように囲まれるんじゃないかと身構えたが、今日はそんなことはなかった。
「よぅカナリィ、いい魚を仕入れたんだ。おすそ分けしてやるぜ」
「えーいいの!? ありがとう!」
「カナリィちゃん。うちの果物も持っていきな!」
「ありがとー!」
街の誰もがカナリアに声をかけ、物をあげたり言葉をかけたりする。
人々に囲まれ、愛想よく対応するカナリアを少し後ろから眺めることになったケイジ。
(まるで街のみんなから――)
「まるで街のみんなから娘として扱われてるみたいじゃないかね?」
ケイジの思考を先読みしたかのように、先程カナリアに魚を譲った初老の男性が声をかけてきた。
身構えるケイジに、「すまない、驚かせるつもりはなかった」と弁解する男性。
「キミがウワサの英雄クンだね。カナリィの婚約者だとか」
「やっぱり知られてるんですね」
「田舎街のウワサは早いからね、はっはっは」
男性は豪快に笑ったあと、真面目な表情に変わって言った。
「……くれぐれも頼むが、カナリィを悲しませんでくれよ」
「え……?」
「あの子の両親のことは知っているな?」
「はい、国境沿いの紛争に巻き込まれて亡くなったと」
「我々平民にも分け隔てなく接してくれた素晴らしい貴族様だった。あの子はその忘れ形見だ。我々は辺境伯夫妻が亡くなったと聞かされた時、決めたのだ。あの子を我々の娘として育てようと。必ず幸せにしようと」
「そう、だったんですか」
「キミは……カナリィを幸せにしてくれるのか?」
「俺は……」
すぐには言葉が出てこなかった。
ケイジは少しうつむいて、どう答えるべきか考えていた。
その時、
「ケイジ、次は駅の反対側に行きましょう! そっちも楽しい場所がいっぱいあるのよ!」
「え、あ、ああ」
答えを出す前にカナリアに強引に引っ張られ、男性の前から去ることになった。
正直、助かったと思った。
「カナリィを幸せにしてくれるのか?」だなんて問い。
そんなにも重い問題に、即座に応えられるほどの覚悟はまだケイジにはなかったのだ。
☆ ☆ ☆
時間が過ぎるのは早いもので、ケイジが到着してからもうすぐ二週間が過ぎようとしていた。
カナリアとの日々はおどろきの連続だった。
貴族令嬢にも関わらず、プロヴィデンス地方を庭のように歩きまわって様々な遊びに高じるカナリア。彼女の見せる景色はいつも新鮮で、戦いばかりの日々を過ごしてきたケイジを癒やしていった。
「わたし、雨きらーい。せっかくの桜も散ってしまうわ」
「そうだな」
この日は雨が降っていて、屋敷の中から出られなかった。
ケイジ自身は雨でも普通に外で活動できるのだが、令嬢であるカナリアはそうはいかないだろう。
もったいない、と感じる自分に気づく。
彼女とすごす貴重な二週間がこうして何もできず終わるだなんて。
(俺は、どうしたいんだ?)
ケイジは自らに問うた。
(この二週間が終わったら……カナリィと……別れるのか?)
結婚などできない。自分の手は血で染まりすぎている。
まともに結婚して家庭を持つなんて考えられない。
そう思っていた。
だけど彼女の笑顔を見ていたら、そんな自分でも変われるような気がしてくる。
「そうだ、折り紙をしましょう!」
突如、カナリアがそう提案した。
「折り紙?」
「お母様が教えてくれたの。東の国の遊びよ。紙を折っていろんなモノを作るの」
「そうなのか」
「まずはお手本、見せてあげる!」
ヒバリが持ってきた様々な色の小さな紙。
それをテキパキと折っていくカナリア。
やがて気づいた時には、彼女の手の中には小さな蛙が収まっていた。
「じゃじゃーん、蛙でーす。ゲコゲコ」
「すごいな、まるで魔法みたいだ」
「そうそう、小さな頃はわたしも驚いて『お母様って魔女!?』って聞いちゃったわ」
カナリアは色紙をケイジに差し出す。
「次は鳥ね。ケイジも一緒に作りましょう」
「いや、俺はやったことがないから……」
「だれでも最初は初心者よ。『なにごとも挑戦だ』ってお父様はいつも言っていたわ!」
「……カナリィは両親のことが大好きなんだな」
「ええ、大好き!」
彼女の満面の笑みを見ていると、なんだか勇気が湧いてくる。
ケイジは黄色の色紙を一枚手に取った。
カナリアの手付きを真似して、”鳥”を折っていく。折り紙などやったことがないケイジにとっては、制作過程からどういう完成形になるかなど想像もつかない。
おぼつかない手付きで、必死に折り目をつけていく。
「そういえば――」
作業中にカナリアが言った。
「ケイジってどうして軍人さんになったの? もともと平民だったのよね?」
「……そうか、話していなかったか」
「もしかして、聞いちゃダメだった?」
「いいや、話したことがあまりないだけだ。婚約者には……話しておくべきなのかもな」
ケイジはゆっくりと紙を折りながら話し始めた。
「俺は鉱山で生まれた。カナリィも知っているだろう、魔動石のことを」
「え……ごめん、知らない」
「魔動機関車などの原料に使われる、高いエネルギーを秘めた鉱石のことだ。俺は魔動石を採掘するために鉱山に移住した鉱夫の息子だ。母親の顔は知らない。親父が言うには、鉱山の過酷な環境に耐えられずに病気で死んだと。俺が物心付く前にな」
少しずつ、鳥の身体と羽が形作られてゆく。
「幼い頃は危険だからと、鉱山や坑道に入ることは止められていた。それでもなんとか人の役に立ちたくて、鉱夫たちの手伝いを申し出た。そうだ……俺に与えられた役割は”鳥の世話係”だった」
「鳥? 鉱夫さんって鳥を飼うの?」
「ああ。鉱夫たちの詰所で、俺はたくさんの鳥かごに入った鳥たちの世話をしていた。親父や鉱夫たち大人の役に立っていると誇りを持っていた。だがある時……鉱夫が鉱山や坑道に持ち込んだ鳥の数が減っていることに気づいた」
「どういうこと?」
「鳥は人間よりも悪い空気に敏感なんだ。毒ガスなんか吸えばすぐに死んでしまう。つまり……鉱夫が飼う鳥ってのは、坑道を掘り進むうちにガスが出てきた場合、人間よりも先に死ぬことで危険を知らせる役割を担っていたんだ」
「そんな……」
「俺はあの鳥たちを殺すために世話をしていたんだ。それを知って、耐えられなくなって……ある日、全ての鳥かごの扉を開放した。鳥たちに逃げろと言って聞かせた。だが――」
ケイジの手が止まる。
「一羽たりとも、逃げ出さなかった。鳥かごに捉えられ、餌を与えられた鳥たちは……たとえその先がないとわかっていても、死ぬだけだとわかっていても、再び飛び立つことはなかった。ただ、籠の中で死の運命を待つだけだった……」
「ケイジ……」
「俺は耐えられなくなって、鉱山から逃げ出した。その後、身分を問わず入隊できる軍に入り、訓練を受け、戦って、戦って――1人殺した。一人前と呼ばれた。10人殺したら、優秀だと言われた。100人殺したら、最高戦力だと言われた。1000人殺したら――英雄だと言われた」
手が震える。
うまく折れない。震える手が歪な何かを形作ってゆく。
「誰かの役に立ちたかった。誰かを助けたかった。だが俺のやることはずっと、生命を奪う。それだけだ。俺の手は……血で染まっている」
そして、完成した。
その鳥には、片方の翼だけがあって、もう片方は根本からなかった。
不器用に歪んだ、片翼の鳥だった。
「どこかで間違えたのか。それとも最初から歪んでいただけなのか。どちらにせよ俺は……この鳥と同じ失敗作だ。今さらまともな人間みたいな顔をして家族を持てるようなヤツじゃないんだ」
震える唇で告白するケイジ。
どうしてだろう。純粋無垢な少女に話すような内容じゃないというのに。
どうしてカナリアにこんな話をしたのだろう?
最初から、決まっていたじゃないか。縁談は断るって。
なのにズルズルと二週間も関わり続けた。こんな話をするためなのか?
(俺は……ただ、赦されたいのか?)
カナリアは、どんな顔をしているだろう。
彼女の顔を見ることができない。怖い。
するとカナリアは、無言で黄色の紙を折り続けた。
テキパキと完成させるそれは――。
「片翼の――鳥?」
もう一羽の「片翼の鳥」だった。
ただし、羽の有無はケイジの折ったモノと左右逆になっている。
それに折り目がまっすぐで、ケイジの作品より明らかに出来が良かった。
「ケイジ、お母様がこんな話をしてくれたの」
彼女は穏やかな声で語り始める。
「東の国の言い伝えに、”比翼の鳥”というのがあってね。オスとメス、その二羽の鳥たちには片方ずつ翼がないの」
「だったら……翔べないだろう。その鳥は」
「ううん」
カナリアは完成した彼女の鳥を、ケイジの鳥の隣に置いた。
欠けた翼同士をつなぎ合わせるように。
「こうやって手と手を繋げば、翼が一対に揃うでしょ? だから二羽揃えば、ちゃんと翔べるの」
「……!」
「ケイジ、人には誰しも心の欠落があるわ。一人では決して埋められない疵痕だって……だけど二人なら乗り越えられる。二人でなら……翔べるの。この”比翼の鳥”みたいに。なーんて、えへへ。全部お母様の受け売りだけど」
そうやってはにかむ彼女を前に、もう言葉が出なかった。
唇が震えた。
どうしようもなく自覚してしまった。
ああ。俺は――。
(俺は、この女性のことが好きなんだ)
誰かのことを好きになったり、愛したり。そんな感情知らなかった。
不要だと思っていた。
ただ殺すために生きている自分が、誰かを愛することなどできるわけがないと思っていた。
(カナリィに出会って俺は……変われるのかもしれない)
ケイジは一度立ち上がると、カナリアの前にひざまずく。
「え、ちょ……いきなりなに!?」
「カナリィ。いや、辺境伯令嬢カナリア」
「は、はい!」
かしこまった表現に威圧されたのか、カナリアはビシッと背筋を正した。
そんな仕草もかわいくて、愛おしくて。
溢れ出す気持ちが止まらなかった。
「雨の中で今日、桜が散る。約束の日だ。きみとの婚約に答えを出すときが来た」
「そ、そんな急に言われても心の準備がぁ……」
「いきなりですまない。けれど今、言わなきゃならない」
ケイジはすぅーっと大きく息を吸い込み、告げた。
「きみを愛している。どうか俺と結婚してくれないか?」
「っ……!」
その言葉に感極まったカナリアは、くしゃっとした笑みを浮かべる。
目尻には涙が浮かんでいた。
「ホントに……わたしでいいの?」
「ああ、きみがいいんだ」
「ホントにホント? わたしドジだし、忘れっぽいし。きっとケイジに迷惑いっぱいかけると思う。それでもいいの、わたしなんかでいいの?」
「もちろん。きみじゃなきゃダメなんだ」
「……ありがとう。わたしもケイジのことが好き。大好き。お父様とお母様が帰ってきたらお祝いをしなきゃ」
そして、ケイジが差し伸べた手にカナリアが手をそっと重ねる。
二人の手と手が……。
触れることはなかった。
「……カナリィ……?」
「お父様、お母様……? 帰ってくる? いつ……? わたしは、ずっと待ってて……? いつから、待って――」
どさり、と彼女の身体が床に横たわる。
「どうした! 何があった!」
呼吸と脈拍を確認する。戦場で幾多の戦友に行ってきたから、手慣れたモノだった。
意識を失っているだけで、生命に別状はないようだ。
ふぅ、と息を吐く。まずは一安心だ。重篤な状態ではないらしい。
「しかしどうして……」
とにかくベッドに彼女を寝かせなければ。
ケイジはカナリアを抱き上げ、彼女の寝室まで運んだ。
女性の部屋に入るのは初めてだし、無断で入るのは無礼だろうが、緊急事態だ。
仕方がないだろう、とカナリアの身体をベッドに横たえた。
「カナリィの様子は明らかにおかしかった。特に両親の話をした時――」
そうだ。
思い出す。さっきカナリアは「お父様とお母様が帰ってきたらお祝いをしなきゃ」と言っていた。彼女の両親はずっと前に紛争で亡くなったはずだ。
なのになぜ、彼女はそんなことを言った?
まるで――。
「まるで、両親の死を忘れてしまったみたいに」
そこで気づく。
そういえばカナリアが「忘れた」のはこれだけじゃない。
昨日していた会話を次の日にはサッパリ忘れ去っているということもこの二週間で何度もあった。
本人が「忘れっぽい」とか「物覚えが悪い」と何度も言っていたから、そういう大雑把な性格なのだろうと勝手に納得していたが……。
両親の死まで認識していないというのは、はっきりいって異常だ。
「何か……」
その時目についたのは、日記だった。
彼女の寝室、ベッドの横の机の上。そこに分厚い本が置かれていた。
物忘れが多いカナリアは、毎日日記をつけているという。
それを見れば何かわかるかもしれない。
「すまない、勝手に秘密を覗くようなことをして」
ケイジは日記のページに手をかけ、開いた。
☆ ☆ ☆
『今日は婚約者と初めて会ったの。名前はケイジ、皇都から来た軍人さん。とってもイケメンよ。水切りも上手で、すぐに好きになっちゃった。だけどわたしと結婚するかは二週間くらい滞在してから決めるんだって。がんばれ、明日のわたし! プロヴィデンスのいいところをいっぱい案内してあげて、彼にこの地方を好きになってもらうのよ!』
『ケイジと街に行った。商店街のみんながわたしに優しくしてくれて、魚とか果物とかいっぱいくれたの。ケイジも「いい街だな」って言ってくれて、とっても嬉しかった。わたしの好きな街を好きって言ってくれるケイジのことが、わたしも好きになった。明日のわたしへ、きっとあなたも彼のことが好きになっちゃうよ!』
『昨日のわたしへ。今日もケイジといっぱい遊んだよ。昨日のわたしが言った通り、彼ってとっても素敵な人! 優しくて頼りがいがあって……。明日のわたしもきっとケイジに恋しちゃうと思うな。明日は果樹園見学だからね、ちゃんとエスコートしてあげてね!』
『今日は果樹園見学に行った。エスコートしてもらうつもりが結局――
☆ ☆ ☆
「なんだ、これは……」
彼女の日記。なんの変哲もない、その日起こった出来事を書き留めておくような内容。
のハズだった。
だが、おかしな部分がある。しきりに「昨日の自分」と「明日の自分」に語りかけるような部分があるのだ。
まるで――。
「まるで――毎日別人が書いているみたい。でしょう?」
「っ――!?」
振り向くと、そこに立っていたのは使用人のヒバリだった。
ケイジは思わず怒鳴ってしまう。
「なんなんだこれは! いったいどういうことだ!」
「どうって……そのままですよ。カナリィは物覚えが悪い。だからこうして毎日日記をつけているのです」
「それは知っている! だがこれでは一日ごとに意識が連続していないじゃないか!」
「よく理解されているじゃないですか。そうです、カナリィの記憶は一日の間しか持たないのです。寝て起きたら、昨日の記憶は消え去っている。それだけのことです」
「それだけのこと……?」
「はい」
「何もしなかったのか? 医者には見せなかったのか?」
「診せましたとも。しかし脳には異常がないと。治療法はないから、起こったことを記録するしか対処法がないと言われました」
「いつからなんだ……いつからカナリィはこうなって」
ヒバリは冷静に、全く無表情のまま答える。
「ご両親が亡くなってからです。知っての通り、辺境伯夫妻は外交官でした。ただ、そのときはまだ紛争の最中ではなかった。たんなる外交交渉の一環で訪れた小国”サクラガルド”。カナリィをつれてパーティに出席した帰りに……夫妻は賊に襲われて帰らぬ人となった。カナリィは――眼の前で両親を殺されたのです」
「なん……だと……」
「その事件は幼いカナリィにとって、大きすぎる心の傷を残した。壊れそうな心から彼女自身を救うためにとれた防衛手段は……記憶を消す。それだけだったのでしょう」
「つまりカナリィは……両親の死を認識しないように毎日自分の記憶を消しているのか?」
「そうです。そして時々思い出しそうになると、こうして強制的に意識を遮断してしまうのです。次に目を覚ませば、きっとまた元気なカナリィに戻るでしょう。全てを忘れて、両親は外交任務に出かけてしばらく帰ってこない。そんな幸せな夢の中に……」
「そんな……そんなことが……」
「しかし彼女は年月が経っていることも、ずっと両親が帰ってこないことも理解しつつある。いつまでも隠し通すことはできないでしょう。そんな時に――あなたが来た」
ヒバリは鋭い眼光をケイジに向けて言った。
「あなたはカナリィを結婚という次のステージにつれていこうとする。純粋無垢な子どものまま生きるカナリィを大人にしようとしている。そうなれば、カナリィは自分のおかれた環境にさまざまな矛盾があることに気づくでしょう。心はもう……耐えられないかもしれない。それでもあなたは、この現状を壊してでも、カナリィを幸せにできると言えますか?」
「幸せ……」
あの時。商店街に二人で行った時を思い出す。
魚屋の初老の男性がケイジに問うた。
「カナリィを幸せにしてくれるのか?」と。
その時の自分には答えることができなかった。
今また、同じ問いが繰り返されている。
「俺は……」
わからない。頭の中がぐちゃぐちゃに渦巻いて、何度も同じところに帰ってくる。
何か答えを探そうと、手探りに日記のページをめくった。
そこにはこう書かれていた。
『ケイジのことが好き。大好き。きっと昨日のわたしよりも好き。出会うたびに、毎日が初恋なんだと思う。だけど……好きになるたびに、ちょっと悲しくなってくる。だってこの気持も明日になったら消えちゃうんでしょ? わたしは大好きなケイジのことすら覚えられなくて、明日には忘れてるんだよ? なのに心からケイジが好きだって言えるの?』
『忘れたくない。忘れたくない。忘れたくない。忘れたくない。忘れたくない。忘れたくない。忘れたくない』
『ケイジと出会うたびに、一目見るたびに。気持ちが溢れ出して、この人が好きなんだって……。ずっと一緒にいたいと思うけど、今日のわたしは明日にはいない。この気持ちは明日まで続かない。いつまで彼を好きなわたしでいられるのかな。明日もわたしもきっとケイジのことが好きになる?』
『昨日のわたしへ。今日のわたしもケイジを好きになったよ。きっと昨日よりも、明日よりも大好きだよ。だけど、そうだよね。やっぱり嫌だよね。忘れたくない』
『こんなに好きになったのに、どうせ忘れるなら。出会わなければ良かったのにって思うことがあるの。ダメだよね、こんなわたし。嫌い』
手が震えた。それ以上ページをめくれなかった。
いつも明るかったカナリアがこんな気持ちでいただなんて。
無邪気に愛しあえると思っていた。錯覚していた。
「俺は……こんな俺でも……カナリィは受け止めてくれると思っていた。他人を傷つけることしかできなかった俺でも、カナリィと二人なら、って……。だが、違ったんだな。結局俺には、彼女を傷つけることしかできなかった。幸せになんてできなかった」
自分のことが嫌いとまで思わせてしまうなんて。
「何もわかっていなかった。カナリィのことを。俺自身のことも。ただ、彼女の優しさに甘えていただけだった。こんなに大きくて深い心の傷に苦しんでいるだなんて……想像もつかなかった。彼女と一緒なら、変われると思った。だけど俺はまだ……死を待っていることも知らず、無邪気に鳥の世話をしていた時の……何も知らない鉱山の子どものまま……何も変わっていなかった」
うつむいて、ケイジは吐き捨てた。
「籠の金糸雀は翔ばない。たとえ扉を開けて自由になったとしても……傷つき、翼を失った鳥はもう二度と……翔べないんだ」
「それがあなたの答えですか」
「……ああ。俺はここを去る。明日、婚約を破棄してな」
「カナリィが悲しみますよ」
「いいや、そうはならない。幸い今、カナリィは今日の記録をしないまま気を失っている。そして日記は俺の手の中だ。だったら――こうすればいい」
ケイジは、彼自身が訪れてから昨日までの日記のページを全て綺麗に切り取った。
「こうすれば記録は引き継がれない。彼女が俺と出会って……恋をした過去は、明日には消えてなくなる。俺が彼女を苦しめていた、その事実も……無くなるんだ。もう二度と、俺がカナリィを苦しめることはない。傷つけることは、ない」
「それがあなたの選択なら」
ヒバリは肯定も否定もしなかった。
「……」
そのまま何も言わず、ヒバリはカナリアの勉強机にそっと”比翼の鳥”の折り紙を入れたのだった。
☆ ☆ ☆
そして次の日に至る。
ケイジは計画通り婚約破棄を告げて、屋敷を去った。
二週間の記憶を全て失ったカナリアは、切り取られた日記を眺めながら物思いにふけっていた。
「あのケイジって人、なんだろう……懐かしい感じがする」
彼に会った時、初対面のはずなのに何かを感じた。
その気持の名前はまだ知らない。知らないはずなのに。
なんだろう――。
「わたしきっと、あの人のことが好きなんだ」
そう感じた。
なにより、机の引き出しに隠されていた”比翼の鳥”。
これは母親から教わった「理想の夫婦」の姿なのだ。
片翼しかない鳥が二羽、つがいとなって空を翔ぶ。
「あーもう! こんなことで悩むなんてわたしらしくない! そうだよ、初対面だったとしても、そうじゃなかったとしても関係ないじゃん! 今、わたしはあの人を好きになった。これって”初恋”ってことでしょ!」
そして、彼女の目つきが変わった。
「だったら――進むしかないわね。『なにごとも挑戦だ』ってお父様が教えてくれたんだから」
「やはり、そうなりましたか」
「ヒバリ!?」
いつの間にか彼女の寝室にヒバリが現れた。
彼女はどこか満足そうにカナリアに微笑みかけ、荷物の入ったバッグを差し出してくる。
「カナリィのために、旅の準備をしていました。どうぞ使ってください」
「うわっ、気が利くわねー。さすが、わたしの最高の使用人で……親友ね!」
「ふふっ、だっていつも言っていたじゃありませんか。新婚旅行は皇都に決めてるって」
「そんなコトいったかしら? まあいいわ、わたし行くわね! 留守番、頼むわ!」
「はい、カナリィのことをいつまでもお待ちしております」
カナリアはヒバリから荷物を受け取ると、二人はハイタッチを交わした。
「行ってきます!」
残されたヒバリは走り去る主人の背中を見送っていた。
そして一人、つぶやいた。
「籠の金糸雀は翔ばない……ですか」
窓から空を見上げる。昨日から降り続いた雨はとっくに止んでいた。
「カナリィにはそんなこと関係なかったようです。彼女とあなた、比翼の鳥ならば……変えられるのかも知れませんね。ケイジ、あなたの運命も。カナリィ自身の運命も。そしてこの世界に遺された”魔女の呪い”までも――」
その手には二人の残した”比翼の鳥”の折り紙が乗っていた。
☆ ☆ ☆
プロヴィデンス駅に到着した。
ケイジは乗車券を片手に、魔動機関車に乗り込んだ。
なんだろう。名残惜しいのだろうか。最後尾の列車に立って、プロヴィデンスの街を振り返れる位置にいる。
「ったく、女々しいこった。戦争の英雄ともあろうものが」
そうして自嘲気味に笑った。
もうすぐ列車が動き出す。そうすれば二度とこの街を訪れることはないだろう。
「カナリィ……どうか幸せに」
「ちょっと待ったー!!」
感傷に浸ろうとしたそのときだった。
この二週間あきれるほど聞き慣れた元気な大声が駅に響き渡った。
「その列車待った! わたしも乗るわー!」
ドタドタと大荷物を抱えて走る少女が遠目に見えた。
「か、カナリィ!?」
驚愕するケイジ。
だが無慈悲に発車の時間が来てしまう。
列車は動き出す。
「ダメだ、もう列車は出るんだ! 危ないだろ!」
「なんのー! プロヴィデンスじゅうを走り回って鍛えた辺境伯令嬢の足腰を舐めるなー!」
「令嬢と足腰は関係ないだろうが!」
「関係あろうがなかろうが絶対追いつくから、受け止めてよね!」
ゆっくりと走り出す列車の最後列に、必死で駆けるカナリアがついに追いついて――。
「――翔んだ!?」
そう、翔んだのだ。
ケイジはとっさに列車から乗り出して手を伸ばし、カナリアを受け止めた。
鍛えられた腕力で彼女を荷物ごと引き上げる。
列車はスピードに乗り、高速で皇都を目指し始めた。
カナリアは間に合ったのだ。
「なんて無茶を! 俺が受け止めてなければ大怪我していたんだぞ!」
「ご、ごめんなさーい!」
素直に謝るカナリア。つい反射的に怒鳴ってしまったことに気づいたケイジは口を閉じる。
カナリアはバツが悪そうに弁解した。
「でも……ケイジは受け止めてくれたでしょう? わたしが手を伸ばして、ケイジがこの手をとってくれたから。二人で手を繋なげば大丈夫だと思ったから――わたし、翔べたの!」
「翔べた……」
ケイジはハッとする。
”比翼の鳥”、カナリアが教えてくれたじゃないか。
「カナリィは……翔べたんだな」
「ケイジ、わたしね! 明日にはあなたのことを忘れちゃうと思う!」
「え……?」
「やっと一歩踏み出せたと思うけど、たぶん人ってそんな簡単には変われないから。わたしは今日のことを忘れて明日が来ちゃう。そしたらケイジを好きだって気持ちも、他にも大切な思い出をいっぱいいっぱい無くしちゃうカモだけど……でも、わたしたちなら大丈夫! 根拠はないけど、きっと大丈夫! だって、だって……きっと明日も明後日も、わたしはあなたに初恋をするから! 何度だって恋をするんだから!」
「……ああ。ありがとう、カナリィ」
それ以上ケイジは何も言わず。
愛おしい少女の身体をそっと抱きしめた。
きっと強く力を込めたら、壊れてしまうだろう。
近くにいれば、やがて傷つけてしまうかもしれない。
それをわかっていながらも、男は少女を抱きしめ続けた。
二人を乗せた列車は去ってゆく。
故郷プロヴィデンスを後にして、皇都を目指す。
この後、”記憶の謎”と”魔女の呪い”を巡る冒険が二人を待ち受けているのだが……。
それはまた、別のお話。
籠の金糸雀は翔ばない ”Canary in the Cage” END.
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