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8、花束の意味


 疲れた。色々ありすぎた。

 どうしてこんなにも一周目と違うのだろう。


 家に帰ってきて、今日は早々ベッドにダイブする。


 一周目と大きく変えたのは、婚約を破棄した事だけだ。

 それだけでこんなにも流れが変わって来るなんて、あの男(キース)は疫病神だったのか。


 とにかく。婚約は破棄して正解だった。


 ヒロインが現れるまで、あと少し。

 その前にまずは王宮でのパーティーだ。


 このパーティーは王家が主催と言う事で、喪中の我が家にも参加義務がある。


 用意していた紫色のドレスは着れなくなってしまったので慌てて黒のドレスを用意したが、胸元に銀の刺繍を入れるだけのそう華美なものでは無いので、なんとか間に合うだろう。


 一周目では友人と少し話をしたが、社交界での私はあまり良い立場にない。陰であれこれ言われているのが煩わしく、挨拶だけを済ませて早々に帰ってきた。


 喪中なので、顔を出すだけで大丈夫なのだ。逆に最後までいると、喪中なのに楽しんでいると思われ悪い印象を与えてしまう。


 隣国の皇太子と姫が参加すると言っていたけれど、一周目では居たのかどうか。隣国ジルコンの王族のカラーは赤系だ。印象に残りやすい色だろうに、記憶を辿ってもイマイチ思い出せなかった。


 大々的に紹介されていれば流石に覚えて居るだろうから、参加はしていても告知していなかったのかもしれない。


 今回は皇子に踊って欲しいと頼まれたので、エヴァンから声をかけられ、一曲踊ってから帰るという流れになるだろう。


 エヴァンからの申し出は嬉しく思うけど、喜びよりも困惑の方が大きくて、正直本当に意味がわからない。


 婚約の申し込みって何。

 何度か会った事はあっても、好感度上げてないし。


 そもそもヒロインじゃないし。モブだし。


 攻略対象だ〜と思いながらウットリ眺めていたけど、その彼の好意の先がヒロインではなく自分になるとは欠片も思っていなかった。


 乙女ゲームは、ヒロイン=私ではなく、ヒロインと攻略対象との恋愛を見守って楽しむタイプだったから。

 あくまでも私は第三者だった。


 ……とりあえずそれは保留。

 断ったのに返事はいらないとか言われたので、横に置いても良いだろう。 


 それよりもパーティーだ。


 パーティーの日、一周目では何かが起こったとは聞いていなかった。なので流石に大きな動きはないはず。


 あったとしても、大事にならず内々で処理できるレベルの出来事だと思う。だから気楽に参加して、エヴァンとのダンスを楽しもう。


 ……楽しめるだろうか。


 近距離であの顔を眺めるなんて。

 攻略対象はほんとに顔が良い。人気アイドルがすぐ隣に居る気分だ。緊張でステップが踏める気がしない。


 ルークはまだ幼い頃から一緒だったから、少し慣れた所があるけれど、エヴァンやクリスは『攻略対象じゃん! ゲームのまんまじゃん!』みたいな気持ちがパァァァっと込み上がってきて、会うだけで舞い上がる。


「絶対足踏むわ……」


 まずは平常心を保つ練習からかもしれない。

 






 翌日、エヴァンから白薔薇の小さな花束が届いた。

 九本の薔薇の花が白のレースで飾られた、可愛らしい花束だ。

 メッセージカードには『コーネリア嬢がいつも笑顔でありますよう』と書いてあった。


「綺麗なお花ですね」


 ララの声は明るく、ウキウキとした雰囲気で花瓶を持ってくる。


「いつの間に親交を深めていらっしゃったのですか?」


 グレースに聞かれたが、曖昧な返事をした。

 それはこちらが聞きたい。


 翌日は、白と黄色の花束だった。その翌日は、白と水色の花束。翌日は白と淡い紫色。そしてその翌日も、翌日も。花束と一言添えられたメッセージカードが届く。


「赤やピンクはないのですね」


「そうね」


 ララに同意する。


 愛の告白と言えば赤い薔薇というイメージだけど、贈られて来たのは全て赤系以外の色と白い花だった。


 不思議に思う私とララに、グレースが口を開く。


「喪中と言う事を考慮してくださっているのでしょうね」


「そういうもの?」


「えぇ。赤い色を見たくないと思う遺族は案外多いのですよ。アンドラダイト卿は葬儀の時にも白百合を持ってきて下さいましたし、気遣いの出来る方なのでしょう」


 騎士団長は義父と親交が深かったから、用意してきてくれたのだろう。手ぶらで来たキースとは大違いだ。


「アンドラダイト卿のような方でしたら、安心してお嬢様をお任せできますね。誰かさんとは大違いです」


 グレースはさらっと毒づく。

 ここにもキースとの婚約に反対の人がいた。


「花だらけだな」


 任せないわよ、と反論しようとしたと同時に、ルークがぼそりと呟きながら部屋に入ってきた。

 今日はダンスのレッスンに付き合ってもらうのだ。


「家の中が明るくなって良いんじゃない?」


「白薔薇ばかりですね。そのうち百本超えるんじゃないですか」


「そうね。百本てすごい数よねぇ」


「姉上……」


「…………え、なに? 百本超えるとなんかあるの?」


 キョトンとすればルークだけではなく、ララもグレースも呆れ顔だった。


「な、なによ」


「お嬢様はもう少し年頃の令嬢らしい事も覚えるべきかと」


 グレースの言葉に、ララが思いっきり頷いてみせる。


「姉上。百一本の薔薇の意味をご存知ですか?」


「……知りません」


 何故だろう。答えが分からず家庭教師に呆れられた時の事を思い出した。


 ルークは私の正面に来ると、まっすぐに私を見つめる。


「これ以上ないほど、愛しています」

「…………っ!」


 思わず息を飲んだ。

 イケボがイケボすぎて破壊力ハンパなくて死ぬっ。


 ルークはイタズラが成功した子供のように、ふっと笑った。


「ちなみに百八本は、プロポーズの際に贈ることが多いそうですよ。受ける気がないのなら、安易に受け取らないでください」


「く、詳しいのね」


「紳士のたしなみです」


 紳士って、未成年のくせに。

 花言葉に詳しいとか、女子か!


「姉上が知らなすぎるのですよ。少しは勉強なさった方がよろしいのでは?」


「……くっ」


 なぜ花言葉を知らないだけで、こうもお小言を言われなければならないのだろうか。


「日常生活に必要ないじゃない」


「貴族社会には必要です」


「家族からの花束に意味とか考えないわよっ」


 そう言えば、ルークに残念な目で見られた。


 誕生日の時に、養父母やルークから花束を貰った。けれど花言葉がどうとか、普通に考えないし。


 花を贈る時には、送る相手との関係性を伝えれば、相応なものを用意してくれるので、指定するのは色とかぐらいだ。


 お姉ちゃんなのに。義弟が冷たくて悲しい……。


「もう少し、お姉様を敬ってくれてもいいのよ」


「はいはい。ほら、踊りますよ、お姉様」


 ルークはどうでも良くなったのか軽くあしらうと、私に手を差し出した。


 その手を取れば、ララがバイオリンの音を鳴らす。それに合わせてゆっくりとステップを踏んだ。

 

 踊ってみたら、案外体は覚えていた。

 けれどエヴァンを相手に踊るならと、何度かダンスを繰り返した。


 当たり前だがルークはあの頃より上達している。リードが上手くて踊りやすく、良い息抜きにもなる。


「上手いのね」


「お姉様よりは、勉強しているので」


「……くっ」


 私だって勉強しているはずなのに。


「なら、パーティーまで、もう少しダンスのお勉強に付き合ってください」


「ええ、喜んで」


 ルークは柔らかい表情で返事をしてくれた。




ーーーーーーーーーーー

ーーーーーーー




 そうしてパーティーを翌日に控えた今日。


 エヴァンの名でアンドラダイト伯爵家から装飾品が届けられた。


 開けてみれば、中にはとても高価そうなネックレスが入っている。

 連なる赤い宝石の中央に、雫型の緑色の宝石。この緑色はエヴァンの瞳と同じ色だ。


 同じデザインのイヤリングも一緒に入っている。


 エヴァンの家紋の宝石はガーネットなので、これらはガーネットだろう。

 ガーネットと言えば赤いイメージがあるが、実は赤紫や茶系、緑等と種類が多く、中でも緑は希少価値が高く鮮やかな発色が美しい。


 添えられていた手紙には『ドレスに合うかわかりませんが、明日のパーティーで身につけて頂ければ幸いです。次回は是非ドレスも贈らせてください』と書いてあった。


「あからさまですね」


 それを見たルークが独りごちる。


「流石にこれはねぇ……」


 これをつけてエヴァンの隣に立ったら、エヴァンとは恋人関係ですよと公言しているようなものだ。


「あ、でもこちらは紫です」


 ララがもう一つの箱から取り出したのは、ガラス細工で出来た薔薇を模した髪飾りだった。

 黒と紫色のレースの所々に青紫の宝石が散りばめられている。


「わぁ、すごい! 綺麗! これならドレスにも合いそうね」


 急遽用意した黒のドレスに、義母の形見であるタンザナイトのネックレスとイヤリングをする予定でいた。形見の装飾品を使うのは、ルークの許可も得ている。


 髪飾りは無難にリボンでと思っていたが、これなら家紋の色だし、ドレスにも合うだろう。


 最初からガーネットの方は身に付けられる想定で贈っていないのだろう。ネックレスの方は本気ですよという意思表示であり、ドレス用の贈り物は髪飾りだ。


「では明日はこれに合う髪型に致しますね。お嬢様が嬉しそうで何よりです」

「えっ、嬉しそうだったかしら!?」


 プレゼントは普通に嬉しい。

 毎日花束が届くのも、実は結構嬉しかった。


 あの時の言葉は、からかいや冗談ではなかったのだと態度で示してくれているからだ。


 アンドラダイト伯爵家の馬車が毎日やってくるお陰で、嫌な噂もかき消されていっている。


 今巷では『婚約破棄を知ったアンドラダイト伯爵家の嫡男がタンザナイト女侯爵を口説いている』という話で騒いでいる。とは、街に出たメイド情報だ。


「浮かれすぎて、足を踏まないでくださいよ」


 ルークの声は少々不機嫌そうだ。


「やだ、ルーク。お姉ちゃんが取られそうで心配なの?」


 からかうように腕に抱きつけば、ルークが深くため息を着く。


「冗談言わないでください」


 冷たくあしらわれたけれど、ルークは腕を振り払う事はなく。

 それがとても嬉しかった。


作中の9本の薔薇の意味は

『いつも貴女を想っている』



続き気になる、面白くなってきた

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