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5、騎士団長はやっぱりイケメン

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ありがとうございます(*^^*)


今月は毎日更新を予定しています


 コーネリアが女で良かった、と強く思ったのは、中継ぎで当主をする事に決まった時だった。


 ゲームシナリオでこの辺りの事はサラッとしか説明されていなかったので、いざ自分が直面してみて初めてわかった事がいっぱいある。


 ゲームシナリオでわかっていたことは、


『コーネリアはルークの代わりに家を取り仕切る』


『ルークが十八歳を迎え成人となった後に当主の座を譲る』


『ルークが当主になった後、コーネリアは結婚し、家を出ていく』


 と、それ位の事だった。


 当主の代理と、ルークが当主になる間とはいえ当主として取り仕切るのとでは、わけが違う。


 例えばルークが否と言っても、コーネリアが是といえば是となるのだ。

 それは期間限定とはいえ、コーネリアが当主だから。それだけの権利がある。


 コーネリアは私生児とはいえ、タンザナイトの色を受け継いでいる。

 それは紛れもないタンザナイト侯爵家の人間だという証明となり、血の繋がりがあると見てわかる。


 これでもし、コーネリアが男だった場合。


 中継ぎなど必要なのか、このままコーネリアが後継者でいいのでは無いか、いや正統な後継者はルークだ、と。後継者争いに発展しかねない。


 もしルークが後継者になったとしても、爵位もない私生児のコーネリアが貴族社会で生きて行くことは難しい。他家の次男以下がそうであるように、コーネリアも身を立てなければならないが、それには私生児というレッテルが邪魔をする。


 コーネリアが女だったからこそ、嫁ぐという選択肢が生まれるのだ。

 この場合は男であるより、女であったほうが幾分か生きやすい。


 そもそも女には基本的に継承権がなく、今回のように中継ぎなどの限定的な条件でのみ、一時的な継承を許されている。


 女爵はほとんど存在しないにもかかわらず、稀有な女侯爵となってしまったコーネリアは、今や時の人だった。


 それでなくとも、父親不明、未婚の母から産まれた侯爵令嬢と、昔から噂がついてまわったというのに。

 これ以上目立ちたくない、というのが本音だ。


 他にも嫌な噂が急速に流れているようなのだが、しかしそんな事も言ってられず、喪服を身にまとって王城へとやって来ている。


 一周目でもこうして王城へとやってきた。

 あの時は一人だったが、今回はルークも一緒だ。


 一周目では一緒に行くと言ったルークに、家のことを任せたいからと一人で行く事にしたのだが、今回はこちらからルークを誘った。


 理由は簡単。

 なるべく一周目とは違う事をしたいから。


 同じ過ち(殺される未来)は繰り返さない。

 けれどどうしたらいいかわからないから、とりあえず違う行動をしてみよう、という安易な理由だ。



 馬車を降り、王城の一角にある騎士団の詰所へと向かう道は少し長い。


 ルークと話をしたあの後、結局仕事をすること無く早めに休んだ。

 先触れを出してしまったからという理由で昨日来る予定でいたのに、何故だが一日先送りになっていて、結局訪問したのは今日の午後。話をした翌々日に変更にされていた。


 なので昨日は少しだけ書類の確認をしたが、それも病み上がりだからと早めに切り上げる事となり、実質寝ていただけみたいなものだ。


 本日ここに来た理由は、当主が変わってもタンザナイト侯爵家が騎士団へと出資を続ける、という意思表示の為。


 ようやく当主らしいことが出来る。


「ルークは来たことあるのよね?」


 迷いなく歩いていくルークの、半歩後ろを遅れて着いて行く。


 一周目では案内をしてくれる人がいたが、今回はルークが勝手知ったるということで案内役の人はいなかった。

 一周目で一度来ているとはいえ、詳しい道は覚えていない。周りを見ながらも、ルークから離れないように気をつけながら歩いていく。


「父について来ていたので」


「そうよね。お父様も、お強かったし。ルークも、騎士にならないかと声をかけられた、と、お父様が言っていたっけ……」


 優しかったお義父様。

 もう成人したというのに、いつも頭を撫でてくれていたっけ。


 そんなお義父様に、もう立派なレディなんだからとたしなめつつも、お義母様は私の額にキスを落とした。


 実の娘じゃないのに、大切にしてくれる、可愛がってくれる育ての親が、大好きだった。


 巻き戻るのなら、二人が生きている時まで戻りたかった。

 そうしたら馬車の事故だって回避出来たかもしれないのに。


 転生したと気づき、両親が死なないように努力してみたが、何が原因で亡くなったのかや、詳しい時期も明らかになっていなかったので、阻止すると言う事が難しかった。


 ……けれど、もし、どう足掻いても回避出来ないのなら。


 あの葬儀をもう一度繰り返すのは辛いから、これで良かったのかもしれない。


「……姉上」

「ごめんね、しんみりしちゃって」


 私は二回目だし、二人が亡くなってから二年近く経ってから、この時間へと戻ってきた。


 けれどルークは違う。

 ルークは数日前に実の両親を亡くしたのだ。


 私以上に辛いはずなのに、そんな姿を見せない。


 ちゃんと泣けたのだろうか。

 私が倒れてしまったから、忙しさを押し付けてしまって、泣けていないのだろうか。


 そう思って、ルークにそこまで気を回すことができなかった事に気づく。


 ルークは私の事を気遣ってくれているというのに。


「……ごめんね」


 なんて不甲斐ない義姉だ。


「構いませんよ。ただ、泣くのは家でにしてください」


「わかってるわ。さすがに、アンドラダイト卿の前で泣いたりしないから」


 どんな想像をしたのか、ルークが少しだけ不機嫌な顔になって、それがなんだかおかしくて笑ってしまった。


 そんな話をしていると、金属が打ち合う音が聞こえ始めた。


 王族を守る王室騎士団とは別に存在する、王城や街の警備を担う騎士団は、王城の端の方に居を構えている。


 基本的に寮暮らしで、役職を持った上司のみ通いを許され、城下へと続く門の通行証を発行してもらえる。

 この門は町民が騎士へ連絡する際にも使われるが、騎士団員しか通行する事が出来ない。


 なので私達は登城手続きを取った後、正門からこの騎士寮の隣にある練習場へとやって来ていた。


 本日のこの時間に訪問するということはきちんと伝わっていたようで、こちらに気づいたアンドラダイト卿は恭しく一礼する。


(変わらずのイケメン!)


 騎士団長であるエヴァン・アンドラダイトは、言わずもがな攻略対象の一人で、担当カラーは緑。

 薄い茶色の髪に緑色の瞳をした、包容力のある面倒見の良いお兄ちゃんタイプ。

 誕生日は一月三日。


 エヴァンのシナリオでは、ヒロインは騎士寮で働くメイドの一人として潜入する事になる。

 というのも、アンドラダイト伯爵家は三代公爵家の一つ、デマントイド公爵家の分家であり、エヴァンの年の離れた姉が国王の側妃だからだ。

 その関係で王家に関する情報収集をして行く最中、ヒロインはエヴァンに惹かれていく。


 途中ヒロインがスパイ疑惑にかけられ、エヴァンが彼女を庇い身の潔白を証明しようとするシーンが見所の一つだ。


 好感度が足りなければバットエンド一直線だし、選択肢を間違えば容疑は晴れずと、なかなかにスリル満点のルートとなっていた。


 エヴァンは攻略対象の中では最年長であるが、婚約者どころか恋人もいない。

 ゲームの中なら当たり前ともいえるが、実際問題エヴァンは簡単に恋人を作れる立場になかった。


 その一番の理由は、エヴァンの姉である伯爵家の令嬢が、国王と恋愛結婚をしたから。


 既に正妃が皇太子を産んだ後にそんな事態となった事により、国民の反応は様々だった。


 ある一団は美化した話を世紀のラブロマンスだと劇にし、ある者は魔性の女だと側妃の話を酒の肴に語らった。

 その後側妃も王子を産むと、それはよりいっそう強まる事になる。


 幸いにも正妃との関係は良好のようで、次期国王は正妃の子だと公言している。しかし後継者争いに発展しかねない現状に多くの者が注視しているのだ。


 正妃の子である皇太子のルートでは、その王位継承についてのイザコザがシナリオの本筋となるのだが、それはそれとして。


 そんな側妃の実家であるエヴァンに、お近付きになりたい人は多く、また距離を置きたい者も多かった。


 アンドラダイト家としても、騎士団長の立場としても、騒乱の種とはなりたくないエヴァンがお相手選びに慎重になるのは仕方が無い。


 タンザナイト家は騎士団に出資している関係上、側妃の派閥だと思われがちだが、実際どちらにもついていない。


 今回も騎士団へ訪問する旨を送る際に、皇太子にも伝言を頼んでいる。

 後暗いことは何も無いですよ、タンザナイト家は変わらず中立でありますよ、というアピールだ。


 貴族社会とはなんとも面倒臭い。


「ごきげんよう、アンドラダイト卿」


 出迎えてくれたエヴァンに淑女の礼で挨拶すれば、エヴァンは騎士の礼をとってくれた。


「お忙しい中、御足労いただき恐縮です。コーネリア嬢。……いえ、当主殿とお呼びするべきでしょうか。幾分か顔色が戻られたようで、安心致しました」


「今まで通りで構いませんわ。そんなに顔色が悪かったかしら?」


「葬儀の際お話させて頂いた時にも申し上げたのですが、覚えていませんか?」


 なんせ二年近くも前の事だから、葬儀中の事はイマイチ記憶にない。


「お忙しかったでしょうから、覚えてなくとも無理はありません。手紙を頂けただけで十分でしたのに、ありがとうございます」


「いいえ。これはタンザナイト侯爵の務めですもの。わたくしが疎かにするわけにはいきませんわ」


 もう何代も前の事、騎士団長は代々タンザナイト侯爵家の人間が拝命していた時期がある。


 その頃は長男が家を継ぎ、次男が騎士団に入るのが通例だった。


 しかし男児が二人以上産まれなかったり、剣術が得意でなかった等があり、実力主義の騎士団長の座を守り続ける事が難しくなっていった。


 そこでとある代のタンザナイト侯爵は、子供達に騎士への道を強制する事を辞めた。


 しかし騎士団との関わりを直ぐに断つというわけにはいかず、金銭的に支援する事にしたのだ。


 その思い切った決断は、権力にしがみつかず実力主義を尊重したと好意的に受け取られた。金銭的援助は民を守る事に繋がるからと、その後も長く続けられる事となり、今に至る。


「こちらへ伺ったのは初めてですが、とても活気がありますのね」


「実力主義ですから、皆真剣に取り組んでおります」


 王室騎士団とは違い、騎士団は実力があれば平民も登用される。日々の糧を得るために、平民は特に必死になって訓練に励むだろう。


 しかしそれは自らの力で身を立てる必要のある次男以下の貴族も一緒だ。平民に負けないと必死になっており、良い相乗効果が生まれている。


「よろしければ、ルーク殿も体を動かして行かれては?」

「せっかくだし、そうしたら?」


 ルークは義父について何度も騎士団へと来ている。

 その度に手合わせをしていたみたいだ。


 ルークは家督を継ぐ長男なので騎士団に入る事はなかったが、入れるだけの実力は十分にあると聞いている。


 義父が、長男でさえなければ騎士団長にもなれただろうにと、ボヤいていたくらいだ。

 家でも毎日素振りをしているようだし、せっかくだから手合わせをして行けば良い。


 ルークはチラリと私を見やった。


 私の事など気にする必要などない。どうせここに来たのは形式的なもので、ぶっちゃけ来た事により既に用は終わっている。


「目の届くところに居てください」

「嫌だわ、子供じゃないんだから」


 ルークは私を何歳だと思っているのか。


「私が傍におりますので、ご安心ください」


 エヴァンの言葉にルークは少し沈黙するが、やがて軽く頭を下げる。


「よろしくお願いします」


 そう言って、訓練の輪に加わりに行った。


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