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01-09:ボク×僕×ぼく=???


 下駄箱まで全力疾走して、途中迷いながらも二階の教室までは普通に歩いていった。

 もう敵はいないからね。

 ……隣にも居たわ。処すか? 処すか?


「真宵ちゃん、宿題やった?」

「なんの」

「空想学」

「はぁ???」


 あるの? なんで教えてくれてないんですか???


「ごめん、教えたつもりになってた」


 しおらしく謝ってくる日葵。さては貴様、ボクが出稼ぎに行ってる間に一人黙々と終わらせたな!?

 裏切り者め……! ちょっと答え見せてよ。嘘冗談。


 親友からの裏切りに歯ぎしりしながら、痴呆女から教えられた教科書の問題の該当箇所を解く。

 内容は空想学……つまりファンタジーである。

 異世界に君臨した王として、魔族を率いる者だったボクに、答えられない問題はない。


 ……あれ。


「勇者の名前とか覚えてないんだけど」

「うっそでしょ泣くよ?」


 答えられない問題あったわ。勇者七人もいらんよ。


 というか拗ねないでよ。仕方ないでしょ、キミ以外の勇者に会ったことなんてないんだから。

 伝聞で知ってても、対面してなきゃ無理でしょ。

 実は会たことあるけど忘れてる、っていう可能性は無きにしも非ずだけど。

 ツンとそっぽを向いて解答を教えてくれない日葵をなんとか宥めて聞き出すことに専念する。

 別に、前のページ見れば解決なんだけどね?

 コイツの機嫌を治さないと、後がめんどくさい。


「……このままにすればセクハラされないのでは?」

「過激なのがお好み?」

「ワー! ひまちゃんゴメンネ〜ユルシテー」

「誠意は焼肉の形をしてるんだよ。知ってた?」

「奢れと?」


 そうやって四苦八苦していると、日葵の前の空いた椅子に誰かが座る。

 ピンク色という変な髪色の美少年がそこにいた。

 そして───


「あれれ。宿題やってないの?」

「……なんだメスか」

「ぶち転がすぞ万年不良幼児」

「幼児w」

「笑うな」


 いきなり煽ってきた挙句、事実を言うと拳を握ってブチ切れてプルプル震え始めた。なんだコイツ。

 てか誰が不良だ。ボク程品性方正な女はいないぞ?

 あと赤ちゃんでもない。笑うな日葵。殺すぞ。


「これだから口だけのメスは……」

「っ……っ……!!」

「わぁ、ほっぺやわらか……」

「ちょっ、触るなぁ!」

「は??? お、おまえなに日葵ちゃんに指ツンされてんの? 殺すよ? 殺すね? 死ねよ」

「しまった! こっちも過激派だった!」

「真宵ちゃんどうどう」


 暴力で訴えるとすぐ反撃されることを知っているためか、怒りを我慢してプルプルする桃色の美少年。

 低身長で女声、女装したら絶対間違われる同級生。

 小鳥遊姫叶(たかなしひなと)。名前からして女と間違ってくださいと言っているようなもの。

 ついでに言うとコイツも異能部の一員である。


 ところでなんでほっぺつつかれてるんです???


「……姫叶くんおはよう。おねーさんどうだった?」

「ぜぇ……はぁ、ふぅ……死ぬかと思った。あー、姉さんはまだベッドの上だよ。ずっとスヤスヤしてる」

「植物状態だっけ……まぁ、その……頑張れ」

「君に応援されるのってなんか変な気分だよね」

「喧嘩売ってんのか」


 殴ろうとしたら日葵に止められた。解せぬ。


 姫叶の姉は植物状態。いや、偶に意識が戻りそうになるらしいけど、結局そのままってのが多いらしい。

 確か、空想生物の出現で家が潰れて、その時に……

 うん、魔都というか新世界ではありふれた悲劇だ。それを少なくするのが異能部の仕事。廻先輩の異能で出待ちができる様になったから、人の犠牲は本当に少しずつ減っている。まぁ、全部ボクらの頑張り次第。

 コイツも大変だ。稼いだお金を全部治療費に充ててるからな。いや多少は趣味に使ってたか。

 ま、正義感で異能部やってない仲間の一人である。


「そうだ、昨日僕いなかったじゃん? なんか拾ったって聞いたんだけど……」

「あぁ、ウンディーネのこと?」

「ボクは殺そうって言ったよ」

「血も涙もない奴め」


 ひっでぇ言い様。ボク、別に姫叶の前で人を殺したこととかないんだけど、なんでこんな言われんの?

 勘か? 勘でボクの悪性を見抜いたのか? 怖くね?

 異能部ってこういう奴多いから厄介なんだよな。


 殺そうとは何故か思えないから、コイツら異能部はボクにとってその程度の存在なのだろう。

 不安要素は排除するに限るけど……都合の良い隠れ蓑として最適だから、潰すには惜しいってのもある。

 てか、周りの人間殺しまくったら無駄に孤立する。

 日葵が居るからある程度平気だけど…… 


「病んでいいってこと?」

「あー……いきなりどうしたの琴晴さんは」

「持病です。気にしなくていいよ」

「ふ、ふーん」

「自分で言うんだ……」


 怖いから近付かんとこってボソッと呟いたの聞こえてんだからな。怖い怖いじゃねぇよ。

 お前も巻き込んでやろうか。

 適当に気付かないフリして難を逃れようとするな。

 というか本当に怖い。なんでコイツ、ボクの心読めてんの? 意味不明理解不能なんどけど……

 そろそろ精神にも影張って読心妨害するか?


「ところで、今日は出るの?」

「まぁね。僕の異能が火を噴くよ」

「潮?」

「殺すぞ」

「姫叶くんの異能的に火は出ないんじゃ?」

「マジ論破やめて?」


 日葵の高火力が姫叶を襲う! メスは泣いた!

 日葵の変態度が1上がった。


「レベルじゃなくて!?」

「もうカンストしてるじゃん」

「確かに」






◆◇◆◇◆






 あの後、ぐずぐず泣き出したクソザコナメクジ姫を泣き止ましたり、宿題を何食わぬ顔で提出したり……

 特にこれといったイベントはなく昼になった。

 偶に異能部招集が入るから大変なんだよね。

 授業免除になるから別に困らないんだけど。


「じゃ、ボク用あるから」

「えぇ!? 一緒にご飯食べないの!?」

「先約がある」


 あーー!! と汚い慟哭を上げて床を這い、ボクの足を掴んで移動を阻害してきたバカの手を踏み潰して、何事も無かったように弁当を持って廊下を歩く。

 後ろからガチ目の悲鳴が聞こえたけど気の所為だ。


 昼食の時間故に、学院は生徒たちの賑やかな雰囲気に包まれる。その喧騒を全て無視して、ボクは歩く。

 人気の少ない場所、研究棟という所まで。


「……ここどこだ???」


 道を間違えた。上るんじゃない、下りるんだった。


 階段を下りて、見つけた外通路を渡って辿り着いたのは、『魔法研究部』と書かれたプレートが掛けられている、棟の四割を占領する大きな部室。

 今日会う約束をしていたボクの古い親友の居城。


「来たよ」


 トントンとノックをしてから、両扉を開ける。

 長年の経験上、返答なんて来ないことはわかっていたので、そのまま勝手に侵入する。

 ……ほらやっぱり。白衣着たまま寝てた。


「ぐぅ……んにゅ……」

「起きろ悦。ボクが来たよ」

「んぅ……」


 起きない。幾ら揺すっても起きない。

 さてはコイツも徹夜したな。いや、コイツの場合は学院に勝手に寝泊まりしてるからアレなんだけど。

 いやでも、昨日は帰ってたっぽいが……

 つーか、今日も授業とか全部サボってるなこれ。

 はぁ……これだから。これだから、魔女って奴は。


 手っ取り早く起こす方法……これだな。


「……起きろドミィ。私を待たせる気か?」

「ふゅっ! ……んあー? あぁ、闇ちゃん。はよ〜」

「おはよう」


 少しだけ殺気を込めて、前世の愛称を呼べば、頭をガバッと勢いよく起き上がる。

 寝ぼけ眼の赤い目が、ボクをぼーっと見つめる。

 白い髪に赤い瞳、白衣を纏うせいで全体的に白い、低身長のクソガキ同級生。


 名は仇白悦(あだしろえつ)。前世から付き合いのある悪名高き魔女にして、魔王になる前の“私”にできた最初の友達。

 あらゆる面でボクこと魔王カーラより非常識の塊で、天上の神々が定めた方程式を己の都合の良い形に書き換えて乗っ取った、不可能を可能にする女だ。

 加えて、王の側近という役得地位を手にした悪友。

 通称〈領域外の魔女〉───ドミナ・オープレスの転生体、それが仇白悦の正体である。

 前世も今世もロリっ子とか、界隈属性の塊かよ。


 今世の彼女は、この魔法研究部を根城にして、日夜摩訶不思議な魔導具の発明開発を行っている。

 ついでに言うと、コイツは正体を隠していない。

 だから、国も遠慮なく未成年の彼女に頼って色んな融通を効かせているらしい。時には、エーテル関係の質問や疑問を皇国上層部や特務局から受け付ける、御意見箱みたいなポジションも獲得しているのだとか。

 まったく、アルカナもダメだね。コイツに頼る必要がある国政とか、どうかしてると思う。

 異世界人に頼りっきりな場面があるとかマジ?


「お腹減ったよ闇ちゃ〜ん」

「真宵です」

「あー、そうだったそうだった」


 理科室にあるような机に弁当箱を広げて、欠伸をしながら対面に座る悦を横目にボクも椅子に座る。

 そして、悦に箸を渡して、日葵が作った弁当を二人で一緒に食べる。お互い少食だから量に問題はない。

 えっ、なんでこんな食べ合いをするのかって?

 こうやって定期的に食べ物を食わせないと、コイツが餓死しかねないからだ。つまり要介護必須なのだ。

 日葵とも一緒に食べて良いんだけど、こう、ね?

 偶にはこうやって旧友と二人で談議したいんだよ。


「悪いね〜今日も」

「昨日は珍しく帰ってたけど……結局寝たん?」

「……えへ?」

「馬鹿」


 箸を使って卵焼きを口に頬張る……うん、甘すぎ。


「それも美味しそう。ちょーだい」

「はい」

「……めっちゃ美味いじゃん」

「日葵の料理」

「勇者ちゃんか」


 コイツ味覚音痴か? ……いや、ただの甘党だった。研究の合間に生クリーム吸ってる変人だった。

 甘ったるすぎて胃が死ぬ事件が週に1回はあった。

 というか、知らんうちに過労寸前のドミナに近付くなっていう暗幕の了解が魔王軍内にできてた時は心の中で大爆笑してた。

 お陰で犠牲者は私だけだけになった。何がお陰だ。


 ……そんなに好きなら全部あげるよ。ほら食べろ。


「うまうま……」

「で、あのウンディーネ。どうだった?」

「あ〜ね。アレね」


 そして、早速とばかりに本題に入る。

 先日殺処分されず保護された水精霊ウンディーネ。何かしらの要因で汚染されて魔物化したモノ。

 大人の事情でこの魔法研究部に送られたけど……


「そこ」

「……けっこう大人しいんだね」

「ねっ」


 透明な液体で満タンな円状の筒の中に、青く濁ったウンディーネが浮かんでいる。

 特に暴れず、液体と混じる事無く……

 うん、意外と可愛いな。やっぱりスライムってさ、魔物の中ではカーバンクルの次に可愛いよね。

 カーバンクルが一番だ。異論は認める。


「一応、延命処置だけはしといたよ。救命はしないで良かったよね?」

「それでいい。そも、精霊は私たちの敵だからね」

「自然に嫌われてやんの」

「至極当然さ」


 世界征服なんてつまらない。ただ無差別に破壊を、エーテル世界を滅ぼす選択を選んだ魔王軍。

 故に、環境破壊を常套とする我々は、精霊の敵。

 唯一、闇系の精霊たちは味方してきたが……


 まぁ、過去のことは置いておこう。


「つーか、治せんの? これ」

「やればできるよ。やらないけど」

「流石、〈領域外の魔女〉の名は伊達じゃないね」

「褒めても何も出ないよ」

「言動が不一致」


 お互い性格がクソなのは把握しているし、ドミナがあらゆる不可能を可能とする天才なのも知っている。

 この程度の治療なんて朝飯前だろう。

 ただするつもりがないだけだ。わざわざ助けてやる意味も義理もないし。

 結構、酷なことを言ってるけど、そういうもんだ。

 助けたところで、ボクたちにメリットないし。


 懐から手渡されたのはチョコ。駄菓子屋でよく見たあの小さなサイズのチョコだ。美味しいよねこれ。

 ……溶けてない、だと? 体温あるんだよね? え?

 どうなってんだ悦の身体は……いやポケットがおかしいのか?


「話は変わるけど、魔王軍の面子、それなりに揃ってきてるんじゃない?」

「うん。幹部以外はだいたい『方舟』に集まってる」

「やっぱ、エフィちゃんが頑張ったのかな?」

「だろうね」


 現在確認できている魔王軍の残党、及び転生体は、この新世界にかなりいる。

 二つ名持ちの幹部だけを数えるなら少ないけど。

 というか、戦争で死んだ幹部がそんなに多くない。

 自分が情けねぇよ!! まぁ、魔王の死に続いて殉職だーって考える馬鹿がいなくて良かったと思う。

 ……いや一人いたな、そういう奴。大丈夫かな。


 うちの魔王軍幹部のその後がめっちゃ気になる。


「四天王、側近、死徒十架兵(しとじゅっかへい)、親衛隊、侍従隊、その他雑兵。こいつらの中で君が魔王だって気づいてるのって……今どれだけいるの?」

「今のところ、キミを含めて二人だけだね」

「へー。誰?」

「ユーミィ」

「……え、あの子も知ってんの?」

「彼女の1番はボクだから。ボクから名乗った」

「……修羅場来るな、これ。ぼく読めたわ」


 そう、洞月真宵=魔王カーラだって知っている幹部は意外と少ない。兵士たちも気付いていない。

 それだけボクの偽証が完璧だってわけ。

 近付いただけでボクが私だと感知した悦と日葵は別ベクトルで異常。


 というか修羅場って何の話。ボクが過激派なこと?


 まぁ、こんだけ自信満々に言ってる癖に、たまーにごく稀に真相に気付く奴が出てくるんだよね。

 雑兵とか無関係の人間なら即消してたんだけど……

 最近はちゃんと自陣に引き入れている。記憶を書き換えた後に、だけど。

 なんで気付くのかは未だわかっていない。

 抜け道でもあるのか……ボクの【スキル】にも穴が隠れているということなのか。


「───で、これからどうするの、ぼくらの王様」

「なにも? ただ、時流に従うのみさ」

「そっか。やっぱりあの子の動き次第、か〜……」


 いずれ、魔王軍が復活する時が来るかもしれない。


 その時まで、ボクは───


「今まで通り、程々に隠れて生きるさ」


 だから、誰もボクの居場所を探さないでください。


 ……にしても、やっぱり寝起きの悦はテンションが異常に低いな。見ててこっちがちょっと寂しくなる。

 普段は発狂しながら大発明してるのに……

 まぁ、静かな方がボクにとっては利だけど。


 と、思っていた時期があった。それは一瞬だった。


「───っしゃあ! お腹いっぱい元気満タン! これで今日も実験三昧だ! ありがと闇ちゃん!!!」

「切り替え早ッ……ウッソだろお前」

「また来てね!!! じゃ!!!」

「……うん。がんばって」


 いきなりのハイテンションは心臓に悪い。やめて。


メインキャラの「ぼく」使い三人衆───ダメかな?

異論は認める。受け入れ先はないけど。

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