03-41:雨 ※リメイク宣言
リメイクします。したいので。
昏喰の死徒ザボー。遥か昔、魔界統一戦線にて後の四天王『“崩界”のヴィーニャ』にその特異性を買われ配下となった異端の狂戦士。
ゴブリン種という魔界低下層の生まれであるものの最強という名を欲しいがままにした魔王軍の問題児。血汗握る戦いを好み、暴れたいからという戦闘気質な理由で戦場に飛び込む───それも無断で無許可。
直属の上司であるボクと忠誠を誓ったヴィーにしか従わない小鬼(詐欺)ではあるが……まぁ悪いヤツでは無かった。
いや悪いヤツか。闘争心を抑えきれないやべーやつだったわ。
で、そのやべーのと戦わないといけない羽目に。
「ケヒヒッ、いーないーなァ! 苛烈になってきた……こういうのがやりてェんだよ俺はァ!!」
「独りでやってろ」
「わぁ、真宵ちゃんってば辛辣ぅ」
「怒り買うなよ? やめろよ? ただでさえやべーのにやる気倍増させること言うな???」
「焦りすぎでしょ」
「頑張ろうねぇ……」
「ねー」
「んね」
激突するは日葵と一絆。んでボクとこーねちゃん。薄らどころか確実にボクと日葵の正体に気付いている様子のザボーには悪いけど、ここで死んでもらおう。
……いや無理か。はー、口封じで喉ぐらい潰すか。
怪我しても死ななきゃヴィト爺が生かすだろうし、コイツの生命力ならそうそう死なないだろうし。
遠慮はしないよ。だって今は敵だもんね?
あとヴィーの戦力を削ぎたい。万が一復活した時に参戦されたら困る。魔王の座には興味無いが、素直に渡しても納得しない面倒くささLv.100みたいな女だ。定期的に襲撃仕掛けてボクの安寧を奪い、あまつさえ地球崩壊エンドを片手間に持ってくる未来が見える。
うん、ザボー倒そ。異能部部員として出せる最大の火力でぶつかろう。
ひゃっはー! ここがお前の墓場だぁー! 死ねッ!
影から顕現させた黒色十字の剣、“孤独の黒十字”で斬撃を食らわせ、切り結びながらボクは殺意を込めてザボーを睨む。
おらおら、大人しく斬られろよ。三百年も生き延びやがって。
あ、ちなみにこーねちゃんを背負ったままザボーと戦っている。危ないし重石だし枷でしかないけど……いいハンデだと思ってもらえれば。
というか、傍にいないと落ち着かない。万が一の時助けれないしね。
本人……本烏? も楽しいそうだからいーんだよ。
「随分とやる気じゃねぇーか! エェ??」
「最近さ、健全な決闘ってのができてないからさ……キミなら耐えられるだろう? あと個人的にウザったい嬲りたいぶっ殺したいっていう苛立ちが、ぜーんぜん抑えきれなくてさ……取り敢えず死んでくれない?」
「ちねー!」
「カカッ、キヒヒッ……いいぜェ? だが、俺もお前も大人しく殺られ合うたまじゃねぇーだろうが」
「そりゃね───じゃ、健全な殺し合いと行こうか」
「おうとも───後悔のない血闘と行こうじゃあねぇか」
魔戦斧と十字剣の鍔迫り合いの最中の会話はボクら元魔王軍陣営だけが知る秘密の話。個人的にも黒彼岸活動の荒んだ暗殺よりも、こういう後先何も考えない殺し合いの方が楽しい。
魔王バレ回避とか難しいことは後で考える。明日のボクがなんとかしてくれる───というか早々バレる未来は無い。
ザボーがボクをボクだと理解できたのは、エーテル界域にいたからだろうし。
───権能【否定虚法】は万能だ。世界に干渉する万物の書き換え、若しくは塗り替えの力。この権能で魔王カーラ=洞月真宵だと結ばれないようにしたのは幼年期の時の話。
それも効果適用範囲は地球に限定していた。
異世界エーテルにまでは、今のボクでは届かない。全盛期なら世界を跨いでも通用させたが、心臓という前世では必要のなかった外付けの制御装置を失って、器も権能に耐えられない脆弱なヒトの身体に堕ちた今それは不可能。
言い訳だ。そして弱体化した己への僻みでもある。
地球にいる魔王軍残党なら兎も角、エーテルにいた関係者にまで権能は届かなかった。
それがこの身バレを引き起こした原因ってわけだ。
まったく……イヤな人生だ。順風満帆に生きるには過去を引き摺るわけには行かないのに。
死ぬことを前提に動いているのもよくないのかな。
……今度エーテル界域にこっそり潜って、もう一回権能使おう。ほぼ確でドミィに察知されるだろうけど背に腹はかえられない。
我慢だ我慢。ボクが……あと日葵が、前世なんかに縛られない未来を笑って過ごすには……
満足する死を迎えるまでは、抗っていきたいのだ。
「だから殺す」
「脈絡ねぇな」
うるせぇ害鬼早く斬られろ。ヴィトもそうだが何年生きるつもりだゴブリンの分際で。もう四千年ぐらい生きてんじゃねぇーの???
そろそろ次世代に最強の座譲ろうぜ? 隠居しようよいつまでも現役張らなくていいからさ。
ボクと日葵と……あと一絆の三人で殺してやんよ。
ってなわけで。
「ひまちゃ早く傷治して」
「歌ってる隙に斬られる」
「頑張って耐えろ化け物」
「私一応人間なんだよね」
胴をわざと袈裟斬りさせたおバカな元勇者には早く回復してもらって。
前線で戦うボクと後方でサポートする一絆の陣形。
日葵も光剣を飛ばして牽制してはいるのだが、まだ切り傷を癒していない。理由は単純にザボーが妨害を重ねているからなのだが……斬撃飛ばして治癒行為の邪魔すんのやめない?
ボクを無視すんなよ。対処すんの面倒いんだけど。個人的に自傷ざけんな死ねって気持ちがあるのは事実だからちょくちょくわざと放置して斬撃素通りさせて加担しているのは内緒だ。
とはいえ気を抜いて戦えるわけでもない。コイツは魔法と種族特性と転生特典が無い状態のボクや四天王たちといい勝負できる程度には強い。
制約付きまくり? ごめんな、無いと無法すぎる。
まぁーつまりだ。ザボーはファンタジー要素のない素のポテンシャルで魔王級に両足が埋まってるのだ。ゴブリン詐欺もいいところ。フィジカルでボクたちに追いつくんじゃねぇーよ。
種族特性抜いてない状態でも食いついてくるところ普通に怖い。なんで“存在するだけで環境を燃焼させるドラゴンの四天王”と生身で殺り合えるんだよ。近付くだけで身体燃える不利な状況で笑うんじゃねぇよ。
ホント魔王軍ってヤダ。やべー突然変異個体が複数いるんだもん。
「<暗寧の一刺し>」
「ッ、カハッ……ケヒッ、ケヒヒッ。安心したぜェ、アンタの“闇”は健在だッ!!」
掌から伸ばした影の棘がザボーの腹部を貫いたが、あまり良いダメージにはならなかった様子。そのまま枝を伸ばすように串刺しにしてやっても良かったが、察知されて引き抜かれてしまった。残念。
……ホントに面倒だな。リーチが短い斧で十字剣と競え合えてるのもおかしい。なんで掻い潜れないんだ日葵が斬り殺し切れないわけだわ。
ザボーは身体の硬さも注目すべきだが、なによりも注視すべきは身体の動かし方、使い方である。大振りすぎる武器である筈の斧で短剣の高速ラッシュを全部凌げるのがこの男である。
厄介極まりない。武器がなくても徒手空拳で簡単に制圧してくるのも面倒この上ない。
それと、貫通ダメージもあんま効かないんだよね。出血すればするほど元気になって戦いに挑むタイプの変態さんだから。
「嘘だろ傷つけやがった……ハハッ、やっぱ真宵ってすげぇーんだな」
「今更? 私の真宵ちゃんだよ?」
「傍から見たらキモイかんなそれ。お前の独占欲って結構ドン引きされるタイプだからな? 執着とかも別に構いやしねぇーが、俺を間に挟むな拗れバカ共」
「拗れてないよ!?」
おう、もっと褒め讃えろ。そして日葵を抑えるんだやってみせろ頼むから!
……少なくとも日葵のモノになったつもりはない。
閑話休題。戯言はもう無視だ。日葵もなんとか戦線復帰できたから、後は流れで切り結んでいけばいい。ここに一絆の精霊サポートもあれば尚良。
あってもなくてもボクは構わない程度の実力だが、他の子にとってはあった方がいいぐらいには彼の力も育っている。
日葵の教えがいいのか、異能部という無理矢理戦闘能力を鍛える場所が悪いのか……
うん、楽になってきた。ここでこーねちゃんの破壊光線をプラスする。
「ぴかー!」
「真宵ちゃん飲まさない! 感染症とかありそーだもんやめとこっ!?」
「正論効かねぇぜ多分」
「つまんねぇ懸念だな」
「黙らっしゃい男子共」
「ワロタ」
でも右肩を掠めて傷つけられてるから、戦力として申し分ないんじゃないかな?
……個人的には吹っ飛んで欲しいところだけれど。
「ハイイロオーガモドキめ……」
「学名???」
なにを食ったらそんなデカくなるんだか。不思議。
「ひま、回避捨てよか」
「……成程、全部切り返せってこと?」
「できるでしょ?」
「当たり前じゃん」
ザボー相手にヒットアンドアウェイは悪手だ。すぐ近付かれて斬られる。退避中の一瞬に物言わぬ肉袋が量産されるだけ。なら、ずーっと近くに居続ければ?
「ケヒヒッ、成程、進めねェ……!」
ボク達の斬撃に対処する為、その場に固定できる。
ザボーの攻撃もある程度阻害できる。その分ボクも日葵も行動制限されるけど───そこは彼に任せればいいだろう。
「エナ!」
『───!!』
「グッ、ククッ……よく考えてるなァ、ッと! 甘いぜ小僧ゥ!!」
「死角対応やめてくんね?」
多方向から多段的に放たれた水精霊の水弾も、全てザボーに斬り捨てられるけど……その隙を着いて此方も連刃を放つ。
至近距離の二振りと、遠距離からの多属性攻撃。
戦場慣れしたザボーにとっては軽い小手調べにしかならないだろうけど……どういうわけか、本気を出す素振りは見られないから、このまま行こうと思う。
つーか、一絆くん。そこまで僻まんでいいんだぜ?
ザボーに攻撃が当たってること自体、いや撃ててる時点ですごいことなんだから。
ホント……よく回避できるよね。我武者羅っての?
───その後も斬り合いは続く。日葵とボクの攻撃重視で回避を捨てた戦法は怒涛の剣戟となり、一絆は精霊を撹乱に用いてザボーの攻撃や防御に何度も何度も邪魔を入れた。
連続怒涛の斬撃の結果はお互い掠り傷のみ。
シシメツでこんな浅く斬れるだけとか、ボクたちも回避上手いな。我がことながら絶賛するしかない。
ボクたちの勝利条件はザボーを満足させるか、強制タイムアップの二つ。
現状訳あって本気を出せない───正体を隠す云々ではない別の要因───ボクたちが取れるのは、この二つ以外にない。
生憎と満足させられる気はしないが……これ以上、ザボーを地球に居させるわけにはいかない。
だから───早くやってくんない? オプス種族長?
「───ザボーの旦那ァ!! 《門》が閉じちまう! このままだと干渉できなくなる!!」
「ッ、この声は……」
「あのゴブリンかな」
「チッ……これだから、団体行動は嫌いだ」
「見逃してあげようか?」
「ケヒヒッ、さぁ、ほかのヤツらの目にはどう見えるだろうなァ……」
時間だ。
声の方向に視線をやれば、道路のど真ん中に空間の裂け目が存在していた。その前には、ザボーとの攻防から我先にと逃げたゴブリンの種族長と、未だ健在の生きた教本。いや爺、弥勒先輩は? なに、途中で切り上げてきたわけ? ウンウン頷くなさてはお前もボクのことわかってるな? 怖やば。ゴブリン舐めてたわ。
……認識阻害魔法で《洞哭門》を隠してたのか。
というか、さっきも思ったけど……オプスの空間に干渉するスキル、なんかレベル上がってね?
どう見ても《洞哭門》に魔法の牙が突き立てられてこじ開けてるようにしか見えないんだけど。
「アァ、残念だ。悔しいなァ、足りねェなァ……だが行き帰りの駄賃を頼んだのは俺だしなァ……ケヒッ、興は乗らねぇが仕方ねェ───帰る」
「お騒がせしましたって謝れ」
「侵略しに来た分際でよく言えるよね。そこの貴方に言ってるんだよスカート捲り重犯罪ゴブリンくん」
「当たり強くねェかなァ!?」
なんでそんなに殺意高いの? ややこしくなるじゃん早く帰ってもらって?
今いい感じにお開きの空気になってるんだからさ。不完全燃焼なのは認めるけども、このまま続けてたらこいつら地球に住み着いちゃうんだよ?
拘束とか多分無理だから、監視の仕事増えるんだよこれ以上イヤだよボク。
だから早く帰って。帰れや。なにもせずに!!
そして二度と地球に来るな。これ以上異界外来種を持ち込まないでください。
なんて、ボクの願望が届くわけもなく。
「だが、まァ───なにもせずに、帰るわけにはいかねぇよなァ???」
「ッ───皆、回避ッ!!」
「ふざけんなよ」
「ヤバっ」
最後、ザボーがシシメツを地面に叩き落として……魔都全体で震度4が検出されるという珍事を起こして、長い一日は終わるのだった。
地震で元同胞に生存アピやめろ。疲れるだろうが。
◆◇◆◇◆
「幸い死人は出なかったが……丁嵐と茉夏は重傷だが既に回復済み、雫は目覚めたものの怪我の度合いからまだ安静にすべきとの通達だ。どちらにせよ、三人は暫く入院だな」
「わぁーお」
「……宝条と影浦は、輪王さんのお陰で手早い治療が叶ったから特に問題なし。弥勒は幻影魔法と思われる魔法に囚われていたが、発見時に自力で脱出。外傷もそんなになかったとのことだが……魔族の魔法だから油断はできない。本人が拒否ったが、本当なら病院にぶち込まれるべきだ」
「……ぶちょーは?」
「……目は覚ました」
戦後処理は恙無く終わった……重軽傷者は即病院に叩き込まれ、そんなに怪我してない者は被害を被った博物館の瓦礫の撤去にかられた。
特務局から派遣された3人……魔王軍の将軍を斃した鳥姉と京平さん、あと輪王紅車って人も頑張って事後処理に励んでいた。
ボク? 副部長と一緒にお話中。困った事になった。
いやぁ、ゴブリンの死体撤去とか埋葬とか、本当に学生にやらせることじゃない。
……取り敢えず、部長が無事目覚めて良かったよ。
「それにしても、魔王軍の残党か……」
「館長さんには?」
「……概要は伝えてある。特務局から箝口令を敷くと言われてな。あの斧は持ち主の手に渡ったとだけ」
「納得してもらえたの?」
「さぁな」
いやな事件だ。負けた部長には今まで以上に精進を重ねてもらいたいところ。
……ボクにできることは無いな。強いて言うなら、元部下がごめんなさいってだけ。もう部下じゃないから責任とか追わなくてもいいかもだけどね?
部長も強いんだけどねぇ。仕方ないね。上には上、格上がいるもんだ。
廻先輩に一つ断りを入れて離れる。これ以上ここにいてもやることないし……うん、年長者として言えるのは頑張れとだけ。
我ながら酷いやつだなぁ。これが魔王か。
「真宵ちゃーん!」
「ん?」
なんて自嘲していたら、日葵が手をブンブン振って飛び込んできた。なに、何の用。その脇に抱えた廃材置けよ。
思いは伝わったのか、日葵は勢いよく廃材を地面に放り捨てて抱きついてきた。うん、抱きついて良いとも言ってないんだよなぁ……
気にするだけ無駄か。諦めた。
「危なかったね〜、ほんと」
「……まぁ、そうだね。死人が出てないのが奇跡だ。完全に見逃されたよ」
「やっぱり?」
「舐めやがって……」
「怒るとこ違うと思う」
「そー?」
絶対アイツ手加減してたろ。死人0が証拠だ。
「───あ、雨だ」
む……今日の天気予報は晴れだったのに。変わらず信用ならないな、この世界の空は。徐々に強まる雨に濡らされてはたまらない。
……このまま濡れて風邪ひいて死ぬのも……悪くはないのか?
「いくよー、真宵ちゃん」
「……うん」
手を引かれてしまったからには、行かなきゃね。
前書きでも書きましたがリメイクします。
全編の改修、設定再構築などの末、書き直したい欲が無限に湧き出た為リメイクさせていただきます。
タイトルも変わると思います。
出来次第URLを載せさせていただきますので、お待ちいただけると幸いです。
一応、次話に改訂前の過去編を載せます。




