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03-26:人を殺せる力


 新世界最古にして最大、最も多くの異能者を抱える異能結社───メーヴィスの方舟。

 かの組織は設立当時から、ある野望を掲げている。


 『楽園の創造』───現状あらゆる政府機関がその計画の全貌を探っているが、依然として詳細は不明。なにもかもがシークレットに包まれた方舟の計画……所属する構成員たちは、その未来に夢を見ている。

 世界の王になりたい者、自分だけの楽園を作り生を謳歌したい者、なんでも叶う世界を夢見る者……

 己の欲望のまま、理想のまま、幾つもの際限のない夢に釣られて人々は集まっていく。


 無論全ての構成員が崇高な使命をもって入団した訳ではないが……時代や環境、地域によって排斥された異能者たちが方舟に夢を見て乗り込んだ。

 正体不明で文字化けに埋め尽くされた謎の組織……そんな不確かなモノに多くの人間が、誘蛾灯に近付く虫のように集っていった。

 膨大すぎる時間と数多くの尊い犠牲を積み重ねて、メーヴィスという方舟は世界一の犯罪組織へと拡大し成長したのである。

 全ては、自分の夢を、野望を、理想を叶える為に。


 楽園を求める者たちの、彼らの為だけの新世界を。


「───Me達には異能がある! 万人にはない個性、あらゆる奇跡を体現するカミサマの贈り物! 魔法とは違って理論も体系もない、そんな力にMe達は恵まれているんだ……なのに、法はMeを縛る! 制御せんと力を振り翳す……! まだ何もしていないのに!!」


 天に唾吐く慟哭が、迸る電撃と共に空気を揺らす。


「世界がなんだ! Me達は生きている! この力と共にこの生を謳歌する! 誰にも縛られない理想郷を、あの日夢見た幻想の世界を……この目にするまでは!!」


 戦闘の高揚感が、不満に満ちたその口を滑らせる。


 異能構成員雷堂傳治(らいどうでんじ)は孤児である。あらゆる機械を破壊する異能を恐れた生みの親の手により命を落としかけ、孤児院に拾われた過去を持つ……

 そこでの生活も、彼にとっては苦でしかなかった。

 無理にでも異能を制御させられる。抑圧され、目を塞がれ、手を掴まれ、無意味に弾圧される日々。

 電気を操る異能は、孤児院の人々に恐怖を与えた。

 そこでの不理解が、青年となった今でも雷堂傳治の心を蝕んでいる。


 異能を持つ者と持たざる者との軋轢は、今でも依然解決できていない重要な問題点。

 王来山学院の卒業生や在学生の中にいる異能者は、運が良かった生徒だと言っても過言では無い。未だに異能者の存在を認めていない者は過半数にも及ぶ。

 ここ百年は異能部や異能特務局、国際防衛軍などの国が有する正義によって世論はだいぶ良い方向に持ち上がってはいるものの、減ることのない異能犯罪者の数の多さが、夜明けの見えない現状を物語っている。


 今回異能部を襲撃した異能構成員───雷堂傳治も堤白堊(つづみはくあ)も、混芭獣兵衛(こんばじゅうべえ)も、魚飼耶央(うおかいやお)重枷足穂(おもかせたるほ)も……かつて排斥された側の人間たち。

 混迷する時代の生き証人。社会の裏に逃げてやっと息を吸えるようになった世界の溢れ者。

 異能部で息を吸う子供たちの対極に位置する者共。

 己の主張をぶつけて、叶わぬ夢を叶えんと抗議する男と対峙して───異能部もまた吠える。


「そいつァー辛いな! 同情するよ! でもよ、それで犯罪者になったら意味ねーだろうが!!」

「ハハッ、吠えるじゃんか若僧が……殴るよ☆」

「ッ……おいおい、さっきより余裕無くなって来てんじゃねぇの? どうしたエンターテイナー!?」


 相対するは望橋一絆。

 並行世界からやってきた一絆にはこの世界が抱える問題などわからない。なにせ異能なんぞ此方の世界で初めて見たのだ。来てからも日が浅い。学業と訓練の傍らで歴史書を開いてはいるものの、まだ無知であることに変わりは無い。

 それでも彼は思うのだ。

 犯罪者になった時点でその願いの声は届かない……届くわけが無いと。


 綺麗事云々を抜きにして、一絆は現実を見ている。


 不理解を正す為に世界を敵にするなど、神様転移を経験した一絆には無理な話だ。

 何処まで行っても自分は凡人。普通の男子高校生。

 ありふれた毎日を生きていて、ありふれた非日常を与えられただけの一般人。

 不条理に抗うなんて、一絆にはできっこない。


 そもそもの話、未だ一絆はそこまで追い詰められていない。


 世界の変革も、現状の維持も、考えてすらいない。


 自分ができることに精一杯な彼にとって、それらは全て遠い出来事でしかない。


 ……もう、そんなヤワな事を言える段階では無いのかもしれないが。


「……ま、その行動力は認めるよ。人様に迷惑かけて困らせんのは頂けねぇーけど」


 認められるモノは認めよう。認められないモノには徹底的に抗おう。

 この世界で得た同居人でもある師の教えの一つ。

 何事にも柔軟に受け入れて、無理なら無理で自分の想いを口にしろ。

 自分に正直に生きて、自分にだけ迷惑をかけろ。

 幾らか矛盾した教えを、なにも全て守ることなく、なんとなくで受け入れて一絆は戦っている。


 そも、師である日葵は率先して破っていそうだが。


 信憑性のない計画を頼りに理想郷を創るだなんて、素直に捉えればすごいと思えるが……それで犯罪者になってしまっては話にならない。

 表社会にいても手を汚すことはあるだろう。なにも常に清廉潔白でいろとは言えない。

 だが、犯罪者の立場になって叶えるのは無理だと。

 決めつけではなく、異能部というその野望を止める立場にいる正義側の者として、一絆は真っ向から反抗する。


「夢を掴みたきゃ、正しい方法で……自分で掴め!」


 異能結社に入って追い求める夢など、絶対にロクなものではないのだから。


「言ってくれるネェ〜……その青さ、実に憎々しい! サングラスが無かったら目も開けられない! ……ま、道理を正したきゃ正せばいいSa☆。こっちはこっち、そっちはそっちだ。わかりやすいだろう?」

「ハハッ、確かに……なっ!」

「っと、ホントやになっちゃうよネェ〜!!」


 交戦の傍ら互いの主張を押し付け合う異能者二人。

 雷堂が空間全体に放った電撃球は、空間を直角的に且つ縦横無尽に動き回る。当たれば感電必至の電撃が隙間を縫うように一絆に襲いかかる。

 対して一絆は契約精霊たちを駆使して、光の結界で身を守り、土塊のゴーレムたちを稼働させ、水鉄砲が電撃を撃ち抜いていく。

 ラプチャーとノシュコスとエナリアスの精霊三体は一絆の指示に従い、時に自ら思考して攻撃を続ける。


 光の盾で作った結界に守られている一絆であるが、決して油断できない状況にいる。稀に結界に浸透して痺れさせる電撃球が飛んで来たり、異常な身体能力による瞬発力で肉薄する雷堂の拳で結界そのものにヒビが入ったりと……防御も完全ではなくなっていた。

 それは全て雷堂が持つ異能【電気操作エレクトリィ・ドミネーター】の力。従来の電気とは違った……異能的・魔法的とも言える電気を操る力。電気特性を変質させて結界そのものに浸透する攻撃を放ったり、肉体に負荷をかけないよう設計された電気を全身に流して肉体強化を図ったり、電気を操るという異能を最大限に使った戦法で一絆を追い詰めていく。

 一絆は精霊たちに電撃そのものを撃ち落とさせて、自分に有利なフィールドを築いていく。


「ノシュ!」

『〜、〜〜!!』

「nnn〜〜☆ そのちびっこ達、すっごい厄介だネ☆ 攻撃も当たんないし……ホント、世界って不思議☆」


 雷堂の視界を遮るよう地面から土壁が迫り上がる。精霊の力で造られた土壁は、土塊程度なら容易く破壊する電撃球の直撃を放電させるだけで消滅させる。

 勿論雷堂だけでなく一絆の視界も塞がれているが、一絆は裏技を使って対処している。


「視覚共有……っし成功! 流石俺、土壇場でもやればできる男……!」


 それは精霊との視覚の共有。【架け橋の杖(アルクロッド)】による精霊との繋がりでどーにかできるか考え……その結果視界共有に成功した。

 ゲーム脳による柔軟な思考と、やればできるという思い込み、想像力が成した離れ技である。


 三体の精霊たちと己の視界を繋げ、雷堂を囲うよう展開させた土壁で移動を阻害。少々セコいが確実に敵を倒せるようなハメ技を一絆は実行した。

 土壁で囲い、空から精霊たちの力を浴びせる戦法。

 実体のない精霊の特性を利用して電撃を回避させ、視界共有によって雷堂の動向に注視する。

 更に距離をとる事で不意の攻撃を警戒。壁を越えて飛んでくる電撃球にも目を光らせる。

 一絆なりに考えて編み出した攻撃は、雷堂に少しの焦りと確かなダメージを与え、徐々に追い込むことに成功している。


「うそーん。どしよ。これって八方塞がりってやーつだよネェ……もしかして、Meってば絶体絶命?」


 流石の雷堂もこれには危機感を抱いて、頭の上から降り注ぐ石礫や水弾を限られた空間の中で避けながら現状の打開を模索する。


 まず電撃球はもう通じない。放電による広範囲感電誘発は土壁によって不可能。見るからに分厚い土壁を破壊できるほどの身体強化も流石に無理。

 ならばどうするか。


───安心安定のゴリ押しである。


「あって良かった電波塔! ───<パリパリパーリィブラックナイト>!!」


 背後に聳え立つ放棄された電波塔。微量ながら未だ電気の流れるその鉄塔は、かつて異能を強化する為に盗電した思い入れのある場所。

 つまり、このフィールドは雷堂にとって戦い慣れた場所であるとも言える。

 空気伝いに電気を操作して電波塔を操ることなど、朝飯前なのだ。


「いやなにそのネーミングセンス……って、やば!」


 体内自己発電で発光した雷堂は、指を天へと向けて攻撃性のない、指向性のみ持たせた電撃を放つ。

 その電撃はあまりにも眩しく、実体のないある意味無敵な精霊たちが悲鳴を上げて目を塞ぐほど。

 その隙を縫って電撃は天に登り……電波塔目掛けて飛んでいく。


 慌てて電撃を妨害しようとするも、そこまで届かす攻撃は持っておらず……


 雷堂の電撃が、電波塔に接触───接続される。


 元より微量ながら流れていた電気が活性化して……

 電波塔そのものが、目に見えてわかるぐらい電撃を迸らせて青白く発光しだした。


 絶対感電死装置……電波塔そのものが武器と化す。


「くっそ、見誤った! そうだよな、異能だもんな……ありえないことなんてないよな!」


 揺れる影を尻目に悪態をつく。異能との戦いは常に命懸け……そんな不条理に一絆は悲鳴を上げる。


 咄嗟に後方へ駆けた一絆の逃げは正解だった。

 雷堂と共鳴するかのように発電した電波塔が周囲に波打つ電撃波を放ち、廃墟の破壊を始めたのだから。瓦解する廃墟群から距離を取るのは正解であった。


 だが、それ故に土壁の破壊を防ぐことも叶わず。


 激しく放電する旧電波塔を背景に、崩壊した土塊を足蹴にして……雷堂傳治は不敵に笑う。


「攻撃Yoに天井開けてたのはダメだったネェYou☆ 次があったら気をつけなァYo☆!」


 世界の覇権などには殊更興味は無いが、“楽園”には興味がある……本当にその理想郷があるのかその目に写したいエンターテイナーは止まらない。

 精霊たちとの攻防も、一絆の策も、全部踏み越えて進軍する。


 止まらない、誰にも止められない命の輝き。それが雷堂傳治のエンターテイメントなのだ。


「この電波塔はMeの手足! 半径6kmはMeの攻撃が飛んでくるんだ───浴びてみないかい、You!!」

「却下だ馬鹿野郎!」


 悲鳴は虚しく、受け止められることはなく。

 劇場で踊る役者の如く、大きな身振り手振りで唄う雷堂は……これまでのお礼と言わんばかりに、一絆に殺意の篭った電撃を送る。


 瞬間、帯電する電波塔が大きく脈動して……全てを破壊する一筋の電撃が、一絆に向かって降り注ぐ。


「───あ゛っ」


 雷の如き一撃は、一絆の視界を真っ白に染めた。






◆◇◆◇◆






「………」

「……ふぅ、なんとかなったネ。スリリングすぎだよおにーさん疲れちゃう……ま、Youも頑張ったんじゃない? ここで死んじゃうのが勿体ないぐらいだYo」


 地面に斃れた望橋一絆。身動ぎ一つない、呼吸する胸の上下すらない……完全に停止した姿。

 黒焦げた身体からは白煙が立ち上っている。そう、感電どころの話ではなく……望橋一絆は焼け死んでいた。


 精霊の姿も雷堂の目には映らず、最高威力の電撃が確実に一絆を斃したことを物語っていた。


「んよーし。このまま白堊ちゃんのカバーに入って、ちゃっちゃとずらかっちゃおっか〜〜」


 目の前の障害を取り除いた雷堂は、そのまま仲間を援護する為に電波塔の電気出力を上げる。

 辺り一帯の有象無象を焼き払おうと。

 電撃耐性のある……否付けさせた白堊ならこの程度耐えられると信じて、雷堂は再び電波塔から電撃を放たんと───…



「───いや拙者のこと忘れ過ぎではござらんか?」



 何処かで聴いた少女の声が、雷堂の後頭部を鈍器で殴りつけた。


「がっ───ュ、Youは……!」

「見習いくノ一異能部員、影浦鶫でござる! ちょっと姿を消しただけで忘れちゃうとか……さっきの二の舞ではござらんか?」


 衝撃によろけながらも咄嗟に右に逃げて、なんとか追撃を回避した雷堂の背後に……いつの間にか、思考から外れていた少女……影浦鶫の姿があった。

 今まで影も形も無かった忍が、雷堂の頭を絶縁体を巻いた鎖分銅で殴っていた。

 目を見開く雷堂は、なにも鶫の存在を考慮していなかったわけではない。勿論警戒はしていた。影の中に潜ることで完全に気配を、存在を隠蔽する鶫の異能の効果が想定以上に絶大であっただけの話だ。

 隠匿に優れた異能であるが故に、影中に潜った鶫を止める術はないのだ。


 先程自身を気絶させた敵───鶫を前にして雷堂は顔を顰めるが、すぐにニヤリと笑って問う。


「出てくるの遅くなーい? Youのお仲間、一人Meに殺されちゃったけど?」


 黒焦げた一絆の死体を指差して、雷堂は嗤う。

 見るからに手遅れな仲間の亡骸は見るに堪えない、涙無しには見れないモノになるだろう。

 多少は動揺して油断してくれないかと雷堂は意識を鶫に向けるが……返ってきた反応に戸惑って、思わず口を半開きにしてしまう。


「あはは! そーでござるなぁ……誠に残念なことに。先輩死んじゃった……無念でござる。その様はまるで庖丁に失敗した肉のよう!」

「Wow……」


 仲間の死を悼むどころか大声で笑う鶫。彼女の目に映る光景は雷堂と同じ筈なのに、何処か噛み合わない気持ち悪さ……なにかがおかしいと、答えのない疑問を抱く。

 抱いたところで、その答えに辿り着けるとは限らないのだが。


「おろろ? お主もしかして……拙者のこと気狂いだと思ってはござらんか?」

「んまー、バッチリと☆」

「心外でござる!!」


 お互い立ち止まったまま、雷堂は警戒するように、鶫は踊るように声を弾ませて───…


「だってこれ───身代わりの術による偽物が故」


 一絆の死体の傍に立ち、あっさりネタをばらす。


「───は?」

「忍法<倒変木(とうへんぼく)>───実はこれ、死体に見せかけた丸太でござる。ほら」


 そう言って指をパチンと鳴らせば、黒焦げた死体は白煙に包まれ、一瞬にして何の変哲もない───少し黒焦げた丸太と入れ替わった。

 それが意味するのは、雷堂の電撃の不発。

 困惑する雷堂は動揺する思考の中、生きてる一絆が何処にいるのか瞬時に割だそうとして───…


「足元がお留守だぞ」

「ガッ───ィギッ、ァッ!!?」


 雷堂の影から飛び出た一絆の上段蹴りが、無防備な股間に大打撃を与えた。


「やっぱ強敵には金的が一番効くな。古来より伝わる最強の一撃だ」


 自分でやっておきながら若干ブルついている一絆に致命傷は見られない。精霊たちを背後に従えて、忍に命を拾われた青年は笑う。


「本当にギリギリだったぜ……ありがとな鶫。お陰で死なずにすんだ」

「お礼は喫茶スイーツで手を打つでござるよ!」

「現金なヤツだな……」


 電波塔からの電撃から逃げる際、一絆の近くで息を潜めていた鶫は直撃する直前に一絆を影の中に引き摺り込み、忍術で一絆を模した丸太を代わりに置いた。

 影の中という“息ができない”空間を忍者でよくある竹で息継ぎする方法───これは幼少期のやってみる精神で遊んだ経験が生きた───息継ぎ用の竹は鶫から貰った───で潜んでいた一絆。なに一つ見えない暗闇の中だったが、表に出た鶫の補助で敵の足元まで辿り着けた……そういう背景もあって、一絆は雷堂の急所目掛けて攻撃を与えることに成功したのだ。

 敵を騙して勝利を得る。

 精霊の猛攻で鶫の存在を意識の外に逸らして、敵の大規模攻撃の際も、そしてトドメを刺す瞬間も……鶫の助力あっての勝利。


 鶫を信じて動いた一絆は、格上の異能犯罪者を一人倒すことができたのだ。


「なんか、今日……Meに良いとこナッシング……☆ ぐえっ!!」

「ほい、もっかい眠るでござるよ〜」

「えげつな」

「どっちもどっちでござる」


 蓄積されたダメージに股間への殴打がトドメとなり身動きが取れない程焦燥した雷堂の首に、鶫は両腕を後ろに回して……力強く、一気に絞めあげた。

 二度も意識を落とされた雷堂は哀れにも口から泡を吹いている。更には睡眠薬(くノ一お手製)を塗布したタオルで口元を塞がれ、鎖文頭で念入りに拘束。

 完全な再起不能をもって、雷堂を沈黙させた。


「はぁ〜……疲れた。やっぱ直接人間を殺せる技って強いな……勘弁してくれ……」

「異能犯罪者ってのは皆殺意が高いでござるからな」

「もっと平和的思考を持って欲しいぐらいだ」


 呆れたように嘆く一絆は、制服についた土埃を軽く叩いて落とす。ほんの少しだけ焼き焦げているがまだ着れる範疇にある。修繕すれば問題ないだろう。

 思考の片隅で服の損傷を片付け、廻への報告も無事済ませた二人は地面に腰を落ち着けながら会話を続ける。

 万が一新手の異能構成員に襲撃されて折角捕まえた雷堂を奪われないよう、雷堂と周囲を見張りながら。


「とんだ災難でござったなぁ」

「……あっちでも襲撃あったってよ。異能のバーゲンセールってか?」

「うまい!」

「やめろ恥ずかしい」


 地面に座る二人は会話しながら未だ遠くで途絶えぬ戦闘音に耳を傾ける。本当は一人で戦っている日葵の手助けに行きたいところだが……

 丁度先程日葵と白堊が戦う場所にA班が現着して、玲華と火恋が加わったとのことで、二人は一先ず敵の警戒と逮捕した雷堂の見張りを務めているのだ。


 白堊の操る包帯で日葵と分断され、我先にと逃げる雷堂を追わざるを得なかったのは本当に痛手だった上苦渋の選択となった。

 ……そっちは頼んだと叫ばれた声が、今でも簡単に思い出せる。


「でも、なんとかなりそうだな」

「うむ……くるみんは大丈夫でござろうか。ちょっと心配でござる」

「平気だろ。多分ギャン泣きしてそうだけど」

「あの子痛いの苦手でござるものな……」


 尚、実はAチームも襲撃を受けていたとのことだが玲華と火恋が速攻で倒して引き渡したらしい。相手は異能構成員ではなく銃を持った犯罪者だった為、対処自体は容易かったのだとか。

 ……同班のくるみは怪我をした為、止むを得ず先に帰還させたとのこと。執事である綾辻にさくっと回収されたらしい。

 というか既に異能部部室棟にいるのだとか。早い。


 ……つまり、二人が心配すべきは新手の出現のみ。日葵たちの勝利は揺るがないだろうなと確信も含めた信頼をしている一絆は、少し脱力した状態で空を見上げる。


 連戦を強いられた戦いの疲労は、完全に取れきっていない。


「先輩」

「ん?」

「いきなりでござるけど……先輩はコイツら……人を簡単に殺せる者達をどう思うでござる? 先輩の見解を聞きたいなと思って」

「あー……そうだなぁ」


 突然振られた会話に少し悩み、一絆は鶫を見る。


「危ねーなって感じだな」

「……え、思ったより軽いでござるな? もっと嫌悪を見せるようなものだと……」

「そうか?」


 本当に軽い雰囲気で殺人への感想を応えた一絆は、驚いた表情の鶫に逆に驚く。


「異能部に入ってからさ、人の死ってのが軽く見えて来たんだよ。異能ってのがどれだけ怖くて、どれだけ恐ろしいのか……身に染みてわかったのもある」

「……成程」


 この世界で簡単に人を殺せる力───つまり異能を手に入れた今の一絆ならば、その殺意を実行するのは容易い話。


「でもあっち側になりたいとは思わない」


 異能を上手く使えば証拠も残さない完全犯罪を軽く実現できる……それを実行するかしないかも、全ては持ち主の意思次第。

 どんな異能だろうと魔法だろうと、威力の高さ低さ関係なく人を殺められる。

 その現実に改めて思い至って、一絆は溜息を吐く。


「あとコイツらみたいな自分を正当化する奴にも……なりたくねーな」

「……」


 吊るし上げた雷堂に厳しい視線を向け、自分は人を殺さないという確固たる意志を見せる。

 世界を変える為と言って殺めるなど自分には無理。

 そう発言する一絆の傍で、何処と無く暗い無表情を鶫は見せていた。


 ふとした瞬間に見せた後輩の闇に気付かず、一絆はそのまま自論を述べる。


「それに……ラプたちに人殺しさせたくねーし」

「……いい先輩でござるなぁ。うんうん……やっぱり異能部は良いとこでござる!」

「どしたいきなり」

「感動したんでござるよー♪」

「何処にだよ」


 ふと感じた鶫への違和感に一絆は首を傾げながら、自分たちの周りを回遊する精霊たちに指タッチで応えながら……一絆はその違和感に見て見ぬふりをする。

 踏み込まない方がいいなと内心察して。

 真宵といい日葵といい、内心なにかしら抱えている部員が多いなと一絆は呆れた。気楽そうに見えて実は苦心してるヤツらばかりであると。


「……必殺技でも考えるか」

「三位一体精霊砲とかどーでこざる?」

「神がいねーな」


 今度は軽い内容で駄弁りながら、二人は仲間たちの勝利を祈るのだった。


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