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03-19:安全で楽しい職場です


「───…ん? こっちか。危ないな」


 草木も沈黙を貫く夜の世界。三日月に見下ろされる夜闇に紛れて、一人の男がなにかを求め歩いている。

 腰に差した日本刀が、カチャリと音を鳴らす。

 三十路に差し掛かったその男は、だんだん重くなる身体など知らないと言わんばかりの素早さで、魔都のスラム街を散策していた。


 目印のない目的地を目指して、ただ一人。


「今夜はどれだけ相手できるか……暫くぶりの戦闘、鈍くなってないといいのだが」


 正義を胸に掲げて進軍する彼が、因縁深き彼岸花を見つけるまで、あと───…






◆◇◆◇◆






 某日深夜。どうも、最近カーラをカーラたらしめた四人のうちの一人と再会してちょっぴり嬉しくなった真宵ちゃんです。

 生まれたばかりのボクに情操教育をしたドミィや、魔界を旅する時に料理や野営設備、夜番を嫌がった皆の代わりに担当してくれたスレイス……

 あと歌って踊って旅を賑やかにしたアイドル志望の半端サキュバスと、見聞を広める傍ら国作りの野望を果たす為に修練する尊大な自称兄のハーレムエルフ。

 そこにボクを加えた五人の旅仲間。

 千年以上生きてしまったボクにとって、魔王になる以前のあの百年はとても心地のいいものだったと魂が記憶している。


 ……あぁ、今は懐かしんでいる暇はなかったな。


「りりりリーダー! これどーすんのぉ!? このまま隠れてても捕まっちゃうよぉ〜!!」

「やけに必死だね……キミもあっちも、さ」

「冷静なのはお前だけだ」


 廃墟の物陰に隠れながら、轟音を背景に嘆息する。


 ここは銃弾が飛び交う異常地帯。今夜は異能部より殺伐とした黒彼岸の二人と任務の遂行中である。

 そして現在、謎の武装集団の襲撃に会っています。

 事の経緯は方舟に多額の出費をしてくれる上客から方舟上層部にも内緒の密命を受けて、まぁそれぐらいなら良いかと暗躍を開始。順調に事は進んで無事機密情報の奪取は完了。最後に依頼主である上客様の元へブツを受け渡しに行ったってタイミングで……

 なーんかいきなり銃弾の雨霰に襲われたんだよね。

それも相手は徒党を組んだ武装集団。よく見れば全て米国仕様の防弾装備、対異能装備でガチガチに防御を固めた人間の群れである。


 ここ、廃墟とは言え市街地の近くなんだけどなぁ。


「……嵌められたね」

「だな」

「だねぇ……」


 これには斬音も甘ったるい声を出さずにうんざり。

 同様に蓮儀も疲れた様子で、ライフルの砲身を布で拭きながら今か今かと反撃の機会を窺っている。


 ボク? 最近こういうこと多すぎだなって黄昏てる。

 ぶっちゃけ裏切りなんてよくあることだ。これでも大勢の命を奪ってきた身だ。不特定多数からこの命を狙われることなんて在り来りな日常である。

 方舟の身内同士でも足の引っ張り合いばかりだ。

 外部のゴミ共の依頼なんて余計警戒しないと無理。身が持たない。黒彼岸がボクと蓮儀と斬音以外廃人で構成されてて逆に助かったわ。死なないよう気にして対処する味方が二人だけ、とんでもなく楽なのだ。


 はぁ〜、裏切るなら裏切るって前もって言えよな。


 こちとら都合のいい掃除屋扱いでさ、依頼主とかの事前調査もままならんのよ。お抱えのハッカーがいるわけでもないし。

 危機的状況だ。だけどこんなのも黒彼岸の日常だ。

 魔王は裏切りに寛容だけど、それは内部に限っての限定的な話だ。外部の連中の裏切りはただの敵対行動なので粛清しに行く。はよ殺しにいかなきゃ……


「めんどいから弾切れ狙おう。弾薬装填ができなくて戸惑ってるタイミングで薙ぎ払う……後は御自由に」

「おっけぇ♡♡♡ いっぱい血ぃ浴びちゃお♡♡♡」

「後始末が面倒なことになりそうだな……浴びすぎて酔うなよ」

「はーい♡♡♡」


 絶え間無く撃ち込まれる銃撃。発射方向からするに撃ってるヤツは16人。あと気配と息遣いから推測するに伏兵は3人いるみたい。

 弾倉は影の中にこっそりナイナイしてるからもう直空になる。ぶっちゃけここで影の中に引き摺りこんでも良いんだけど、入れたくないからイヤだ。刺すのも幻覚症状が怖いので遠慮したいところ。保身だね。

 それと弾切れは別に狙わなくても良いんだけど……

 撃ってる最中に薙ぎ払うと流れ弾が面倒なのでね。ヘマして怪我しましたは話にならないのだ。

 だからここは安牌を取って待つ。ちょうど遮蔽物が鉄筋コンクリートでできてるから安心できる。


 あとちょっと休憩。三人でコンビーフ食べようぜ。


「あれ対異能だろ。攻撃力落ちないか?」

「あの装甲は一定以上のダメージを受けるとそこらの防弾チョッキと同じんなる欠陥品だから」

「……おまえの威力ならなんとかなりそうだな」


 正確には異能から生じる魔力を受け流せる許容量の限界を超えると、だけど。

 魔力による攻撃を外界に発散して受け流す装備。

 そもそも異能とはエーテル世界由来のスキルなどを異能と纏めて呼称している力だ。そこには必ず魔力が生じる。その人の色に染められた魔力が振るわれると言っても過言ではない。

 彼らが着ている装備はそんな魔力攻撃を軽減できるエンチャントがされた、とちう米国産武装である。


 完全防御じゃないから、普通に限界来ると無意味な紙鎧に成り下がるんだよね。


 つーか突っ込んで来ないな。撃ちながら近付いても良いのに、そんなこともして来ない。

 ……廃人共を殺させてるけど、油断しないのか。

 黒彼岸の危険度を理解しているのか、それとも銃で勝てると思い込んだアホなのか、臆病者なのか。

 判別つかないなぁ。生きてるのは確かなんだけど。


「ねね、アレって私の目も届かない感じぃ?」

「いや、キミのは死を齎す異能だ。そこら辺の魔力を流し込んで内部に干渉するのとは全然違う。直接死を注ぎ込むのがキミの異能だからね」

「つまり?」

「───刺せば貫通する紙装甲。殺せるよ」

「やったぁ♡♡♡」


 斬音の異能は規則外だ。強制的な死をプレゼント、そんなルール破りな異能を持ってるのがこいつなのも問題だと思う。

 対異能が働かないとか……相手からしたらヤダな。

 流石の武装でも刀が貫通して薄皮一枚切られた瞬間死が確定するとか、強制的な致命を作る異能持ちには道理ってモノがないのかね。


 ……と、そろそろ銃弾の嵐も途絶えるかな。補給も何も無いから困るだろうなぁ。

 食べ終わったコンビーフ缶の中に火薬をつめつめ。

 これ投げたらより阿鼻叫喚するだろうから、追撃で影を使おう。えーっと火種火種……しまったライター置いてきちゃった。もう火打石でいいや。


───おい、弾が無ぇ! なんでだ!?

───は? 何言って……ほんとだ…おかしい、さっき見た時はまだ───!

───こっちも無い……どうなってる!?

───怖気付くな! 見ろ、敵の数も減ってる! もう後は残党処理だけだ! 臆するなお前たち!!

───でもなんで弾ねぇんだよ! おかしいだろ!?


 んん〜まだちょっと弱いな。悲鳴が。

 隊長格が士気を保とうと必死だけど、流石にこれは無理なんじゃないかな?

 人は未知に怯えるモノ。銃弾の消失なんて、自分の身を守る武器が無くなったも同然だ。恐慌するのは自明の理である。

 んふふ……もう優位性、保てないね。


 会話を聴いた限り彼らは烏合の衆。なんでボクらと戦えると思ったのか、不思議でならない。

 此方の被害は替えがきく肉盾もとい廃人が複数。

 ぶっちゃけ八碑人やボクと同格の準幹部が増やした廃人供給のお陰で、戦力なんて幾らでもある。

 正直言ってふざけんな倫理どこだって気分だけど、おまゆう案件なので口を紡ぐ。


 ビクビク怯えながら銃を構えて前進するバカ集団。

 さっきまでの威勢の良さは何処行ったんだか。銃弾無くなっただけでこれかよ。

 弾ぶっぱなすだけの楽な仕事だと思ってたのかな?


 まぁいいや。さっさと殺して、親玉も潰そっか。


「リーダー」

「うん。仕舞いの一発目、行こっか───えいっ」


 蓮儀に囃され、取り敢えずコンビーフ爆弾に着火。ドミナ製の火薬だからあんな製法でもちゃんと爆弾になってくれるから……

 早く投げよう。そーいっ、受け取れ〜!


 投擲され、緩やかな放物線を描く爆弾は、向こうで怯える誰かさんの足元に落ちて……


 起爆。


───い゛ッッッ、ああぁ!?

───ぐわっ!?

───な、なんだァ!? 爆弾、手榴弾か!?


 巻き上がる噴煙。絶望を奏でる悲鳴。爆風と衝撃で僅かに身体が揺れるが、ボクらにとってはそれすらも心地いい。

 反撃に対応できていない、否できない彼らに更なる追撃をプレゼント。彼らの足元の影を実体化、硬質な鞭のように変形させて薙ぎ払う。

 敵は吹き飛んだ。何人か足持ってっちゃった。


「後始末は任せた」

「え、リーダーサボるのぉ♡♡♡?」

「敵の首魁を射止めんのがボクの仕事さ。ほら、早く終わらせて」

「……それもそうだな。行くぞ、斬音」

「らじゃ〜♡♡♡」


 わざわざボクが手を下すまでもない。それに二人もここ数分の鬱憤は晴らしたいだろう。

 決してボクが楽したいわけじゃないから。


「はーい、お兄さんたちぃ〜♡♡♡ ───死んで?」


 先鋒は斬音。挨拶と同時に刀を一閃して、動揺する男達を立て続けに切り捨てていく。常時起動している異能【死閃視(デッドライン)】の特殊効果により対異能防御の装甲は意味を成さないゴミと化す。

 米国が頑張って作った装備がこの有様か……

 やっぱり異能を否定して無力化するのが無難だね。何回も斬りかけられたボクが無事な理由ってそれだもん。


 ……今は使えないから、ぶっちゃけピンチだけど。


 血飛沫と悲鳴を上げて倒れるゴミ共を眺めながら、転生特典の一つを手軽に封印した旧い親友のドヤ顔を思い浮かべる。イラッとした。

 早く封印解いてよ。お前の魔法がすんげー事は百も承知だから。絶賛命の危機なんだよ。ここで試し斬りなんてされたら死ぬが?


 変にサポートしなくてもコイツは充分強い。なにせ彼女の身体に改造手術を施したのは我らが死徒の一角である。当時を知る魔人、それも、数字にも人情にも理解を示す研究者が作ったのだ。

 弱いわけがないし、強くならないわけがない。

 成長するキラーマシン。それが黒伏斬音という女。どういう経緯でボクの傘下に入ったのかなんて記憶の片隅に追いやったから思い出すのに時間かかるけど、すんごいろくでもない理由だったのは確かだ。

 なんかよく睨まれて舌打ちされてた記憶がある。

 出会った当初は今みたいに頭パー☆な女なんかじゃなかった。

 いやいや人格変わり過ぎだろ。は? おかしくね?


「あっはぁ〜♡♡♡」


 いやホントに。どうしてこんなんになったんだ……


 取り敢えず殺人快楽に汚染された阿呆のことは今は忘れよう。観戦しても一方的すぎてつまらんし心配なんて必要ないし……

 どうせ気付いた時には屍の山を築いてあのハートが語尾についた高笑いをしているだろうから。


 てなわけで蓮儀くんの戦闘を観察する。一方的蹂躙なのはこっちも変わんないだろうけど。


「悪いが速攻で決めさせてもらう」

「っ、お前は、“ツァーラムの猟犬”……!」

「……その異称は勘弁してくれ。人生の汚点なんだ。というかよく知ってたな……はぁ」


 草。うちの結社に入る前の通り名じゃんか。それも彼が名乗り始めたわけじゃないのが余計面白さを引き立たせるやつ。

 鷹なのに犬……名前トリックとはこのことか。

 ツァーラムは確か、エーテル語で“平和への復讐”を意味する言葉だった筈。正確にはヴェメドラゴ帝国のだったか。名付けたヤツよく知ってたな。

 話を聞く限りポエマーな悪人から付けられたみたいだから、その人はエーテル言語辞典の愛用者だったのかもしれないね。


 平和への復讐を誓った猟犬、か。言い当て妙だね。


「まぁいいさ。俺も有名になったってことで諦める。わざわざ追求する意味もない。というかあんたに聞く必要もないからな。冥土の土産にしちゃ価値が低い」

「ッ……クソ…ガキが、舐めるなよ……!」

「舐めてないって───俺からの最大限の敬意だよ」

「ガッ───」


 蓮儀の人差し指から迸った閃光は、逸れることなく敵兵の脳天を射抜いた。近距離とはいえ素晴らしい精密さ。狙撃手じゃなくても惚れ惚れする腕前だ。

 普通にスナイパーライフルとかアサルトライフルも十全に扱えるからねコイツ。銃関係においてはマジのスペシャリストだと断言しよう。

 ……異能犯罪者の上澄みは褒めるところが多いな?


「纏めていくか───<魔法の弾丸(フライクーゲル)> <嵐舞(ダンス)>」


 次に放たれたのは両手の五指、計十指から連続して放たれる光の弾丸。十の指から絶え間なく、さながらマシンガンのように連射していく。

 つまりは機銃掃射。

 何処ぞの文学作品で撃たれた頭をスイカのようだと例えていたが、その比喩表現は真実だったらしい。

 ……ただ魔力の弾を指から撃つ攻撃は、魔力操作に長けていれば大抵の者ができる。そう考えると蓮儀の異能は代替可能なつまらないモノに思えるが、実際に考えてみるとそうではないことが容易にわかる。

 魔力伝道効率の精度や射程距離、更には魔力を弾に変換して射手する速度、構築する能力、それら全ての限界値。あらゆる部分を科学的魔法的に見ても汎用の魔力弾丸より優れている。

 普通なら一秒かかる弾丸構築はその半分に。

 弾丸の肉体貫通も、体内で停止させて内側から弾を破裂させ破壊する能力も、全てが彼の思うがまま。

 集中力や想像力など必要な工程が省かれ、ただ撃つことだけに力を入れられる。


 早撃ち勝負をすればまず蓮儀が勝つ。なにせそれに特化した能力だから。


 方舟もよく彼を勧誘できたモノだ。色んな意味で。


「終わったぞ」

「いぇーい♡♡♡ らっくしょ〜♡♡♡ あはっ♡♡♡ アハハハハハハハハハ!!!」


 敵兵は一人残らず死滅したようだ。蹂躙お疲れ様。

 ところでそこにいる阿呆はどうしようか。やっぱり血に酔って踊っている。屍の上でダンスするな。別に踊りを習ってるわけじゃないからクソヘタだし……

 あーもう、締まらないなぁ。


「蓮儀くん手刀」

「反撃されるのがオチだ」

「がんば」

「………はぁ」


 斬音の名誉制御係なんだから頑張ってくれ。キミの業務内容の一つだゾ。

 深夜徘徊する辻斬りを回収し続けたのが落ち度だ。

 やってることは悪どいの一言に尽きるけど、性根の優しさが捨て切れてないんだよ。


 ……やっぱり手馴れてるじゃん。慣れが早いね。


 異能ってのは本当に厄介だ。個々人の性格や思考に多大な影響を与えるのだ。それはいい意味でも悪い意味でも……斬音に至っては断然後者だ。よくない。

 どうしようもない殺人衝動。

 ぶっちゃけ脳みそ弄れば制御できなくもないけど、彼女は黒彼岸の特攻隊長なのでね。その殺意の波動が薄れるのはよくない。ボクの代わりに血を被ってくれる肉盾がいなくなるという意味でも非常によくない。

 背中は任せられないけど前は任せられる。お互いにそう思っていることは間違いない。


「落ち着いた?」

「ぅ〜ン、まだクラクラするゥ〜。ちょっぱやで誰か斬ってきていぃ?」

「廃人共見ながら言うな。コスト高いんだぞ」

「モノ扱いは流石に気の毒すぎるが……それと斬音。もう死語だと思うぞそれ。数百年単位で」

「死語じゃないもん!!!」


 知らんがな。現代語の古い新しいなんざ日常生活に関係ないだろうが。

 気にするのもバカバカしくなってきたよボクは。

 ……さて、そろそろ終幕と行くか。 いい感じに場も解れて気分も楽になっただろうし。

 さっさと依頼人ぶっ殺して、金貰って帰ろ。


「はい整列せいれーつ。やってくれたゴミ君をここで処刑するから、良い感じに集まっといて」

「はーい♡♡♡」

「ここに呼ぶのか……まぁ、その方が合理的か」

「廃人共は囲め。ボクたちを中心に円になるように。ちゃんと威圧感与えろよ。できるとは思わないけど」

「あはっ♡♡♡ リーダーもひどぉい♡♡♡」


 ついでに邪魔な死体を端に寄せさせて、ボクたちを騙してくれた依頼人をこの場所に呼ぶ。

 方法は至って簡単。

 二人が銃弾だけ無駄に持ってた連中を狩ってる間に影で補足、いつでも影に中に引きずり込めるようにしておいたのだ。

 ここから二十キロ離れた先のビルに依頼人はいる。

 襲撃が成功したのか否か、ちょっと心配になってる様子が影越しによく見える……うーん、この小太りのおっさん、なんでボクたちを殺しに来たのだろう。

 ホント、敵が多いのって困るね。


「さーて。一名様、ご案な〜いってね」

「───ぅ、わぁ!?」


 椅子ごと影に引きずり込んだせいでそのまま一緒に持ってきちゃったけど、まぁ無問題。いきなり暗闇に飲まれて、気付けば景色が変わってるとか、控えめに言っても恐怖だよね。気持ちはわかるよ。

 状況が理解できていない、否、ジッと見つめているボクたちの本能的な恐怖は感じれたらしい。


「こんばんは。予告無しに強制連行して申し訳ない。ほ〜んの少しの時間、ボクたち黒彼岸にくれないかな───ねぇ、鳶浦(とびうら)商事の汚職おじさん?」

「ぉ、な、なにが……ひっ!? な、なんで……!?」


 確か役職は専務だったかな。黙って犯罪組織にお金横領しちゃうとか、本当に悪い大人だ。うちの組織に関わった理由なんてボクは知らないし興味ないけど、きっとクソほどよくない出来事があったんだろう。

 そんな生活、今日で終わりだけどね。

 あーあ。そんなに顔青ざめちゃって。これからどうなるのかわかっちゃったのかな?


「単刀直入に聞くけど……なにか弁明はある? 内容によっては追求やめてあげるけど……ん?」

「ち、ちが、私は……!」

「はいビビんない。もっと明瞭に、効率よく話して」

「あはっ♡♡♡ リーダーきっびしぃ〜♡♡♡」

「おいこら。静かにしてろ」

「……で、どうなの? ボクってば気が短い方だから、早く言ってくれないと……残酷なことしちゃうよ?」


 外野がうるさいが無視。で、どうすんだこの野郎。


 まったく、金回りが良くてろくに運動もしていない身体だ。健康的なデブなら許すけど、不健康なデブは許さないタイプの魔王なんだよ、ボクは。

 あと喚き声もうるさい。早く詳細話してくんない?


「わ、わかった。話す、話すから……い、命だけは。命だけは助けてくれ……!」

「んー、いいよ。あ、嘘ついたら殺すから」

「あ、あぁ……!」


 で、専務のおじさんが言う曰く。

 ───顔に鴉の刺繍をした紫色の髪の男に無理矢理命令されて、傭兵たちを雇って差し向けたんだとか。


「ふーん」

「ほ、本当だ! 本当なんだ! か、神に、神に誓って嘘じゃないんだ……! 嘘じゃない、信じてくれッ! 頼むッ、殺さないでくれ……!」

「ほーん」


 必死の命乞いを適当に聞き流しながら、聞き覚えと見覚えがある鴉タトゥーの男を脳裏に思い浮かべる。

 多分アレだよねぇ。

 特に理由のない暴力ってよくないと思うんだけど。年下の同格を虐めて楽しいかよ。報復されるのも込で破滅を望んでるからよりタチ悪いんだよねぇ……

 ……誰かと言うと、ボクと同格の準幹部の一人だ。

 自分が気持ちよくなる為に他人を不幸と絶望という海に突き落とす変態である。


 つーかまたかよ。この前四肢欠損するまで報復して吊るし上げたのに……まだ懲りてなかったのか。

 あの男、もう飽きたんだけど。

 もうここまで来るとセンスだよね、こんなにボクの興味を削ぐとかさ。ぶっちゃけ記憶の片隅に残すのも躊躇うぐらい嫌悪感がある。取捨選択できるタイプの完全記憶異能じゃないのが悔やまれる……


 うん、聞きたい内容聞けたな。これぐらいで十分。

 どうせこの専務はアレに脅された挙句、命握られて拒否権も何もかも奪われて頷かざるを得ない状況まで追い込まれたのだろう。ぶっちゃけアレに隙を見せたコイツが悪い。自業自得の結末だ。

 ……わざわざ生かす意味も無いわな。適当に処して無かったことにしよう。


 うん、もういらないね。約束? なんのことかなー? 最初に裏切ったのはあっちなんだから……ねぇ。


 血の海と化している廃墟の中、必死な顔で命を乞う顔面に程よく力を抜いた蹴りを入れ、今にも崩れそうなアスファルトの壁に叩きつける。

 あ、壁壊れた……でも生きてるからヨシ!

 痛みと恐怖でわけがわからなくなっている男の髪を掴んで持ち上げ、しゃくり上げる声に笑いを返す。


「ィギッ、ガッ……なん、なんで! ぢゃんど喋っだ! ぜ、全部喋っだんだ、なのに、なんでッ!?」

「そりゃ、キミなんて生かす価値もないからだよ」

「な゛っ……」


 おいおい、なんで驚いてのさこの人。バカなの?


「だって、先に裏切ったのはそっちでしょ? ならさ、こっちも裏切ってあげるのが、せめてもの筋ってヤツでしょ。まったく……虫が良すぎるんじゃない?」

「ヒッ……い、嫌だ! 死に、死にだぐないッ!」


 あらゆる物事には釣り合いが存在する。裏社会ではそれが顕著に見られる。そう、裏切りには裏切りを。

 全てを無に返した者には、それ相応の報いがある。

 ……いつか、異能部関係でその報いが来るであろうボクが言えたことじゃないけどさ。


 それでも、筋を通そうとは思ってるんだよ?


 死を望まれたら死ぬさ。所詮、神の戯れで長らえたくだらない命なのだ。もうどうにもならない領域まで転がり落ちたボクの死体なら、好きに使えばいい。


 ボクの個人的な最終目的は転生する可能性を一つも残さず根絶やしにした上で死ぬことであって、死後のあれこれなんかはハッキリ言ってどうでもいいのだ。

 死体はもう好きに扱えってスタンス。

 適当に埋葬するもよし、解剖なり実験に使うなり、それこそ死体愛好家に愛でられてもいい。

 ……できれば、死ぬのは日葵の手で死にたいなって気持ちが大きいけれど。


「ん………」


 おっと、いらん自分語りが過ぎた。本題に入ろう。


 ───と、その前にマスク裏の変声機を起動。手で操作しなくても脳波で使えるから本当に重宝してる。


「どんな理由や経緯があろうとも、裏切ったのなら、ちゃーんと自分の命を賭けなきゃでしょ。無様に生き逃げようなんて、ボクには考えられない……」

「ッ? ……ギッ!? あがッ……だず、助けッ……!」

「受け入れなよ、自分の死を。大丈夫、すぐに痛みも苦しみも、なにもかもわからなくなってくから……」

「あ゛っ、あ゛あ゛ぁ……!」


 声が変わったことに疑問なんて持たないでよ。知る必要なんてないんだから。

 砕けた顔面に再度蹴りを入れ、それから肥えた腹に片足を乗っけて逃げ道を奪う。蓄積していく痛みほど怖いものはないだろう?

 涙と汗と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔……うーん全ッ然そそらない。イケメンになってやり直せ。


 ちなんどくと死ぬ寸前のなにもかもわかんなくなる喪失感は経験談ね。


「だ、頼む! なんでも、なんでもずるがら……!」

「……えー、何でもするの?」


 まだ死を拒むのか。仕方ない。そのノリに最後まで乗ってあげるとするか。

 こてり、と自分ができる可愛らしさを意識しながら首を傾ける。すると千切れんばかりに頷くので、一旦足を浮かしてやる。

 赤べこみたいで面白い。評価を十点プラス。

 そんなおじさんは冷や汗を垂らしながら安堵の色を表情に浮かばせている。


 ……ホントに学習しないな、この人。もういいや。


 なにせもう、コイツと遊ぶ程の時間的余裕が無い。


 影底から黒紫の自動小銃(アサルトライフル)───お気に入りの一丁を取り出して、虚をつかれた顔をする馬鹿のこめかみに銃口を押し当てる。


「そっかぁ。んふ、でもごめんね? ボクのなんでもはおじさん如きじゃ……叶えられないんだ」


 悲鳴を上げる隙さえ与えずに、赤い火花が散った。

 吹き飛んだ頭蓋と飛び散る鮮血。至近距離で撃ったせいで反動がそこそこあるが、無視できる範疇なので無痛を決め込む。

 ……影で膜張って正解だったな。お陰で血の一滴もボクの身体にはかかってない。

 殺人による幻覚は……水被ってないからまだ平気。

 ほんと、厄介な身体になったものだ。いや、これは精神の問題だからちょっと違うか。


「こいつらは……このままでいっか。同業者にはいい見せしめになる。例え世間に露呈したとしても、それがボクたちの指標に悪影響を与えることは……ない」

「やけに断定的だな……本当に大丈夫なのか?」

「無問題。情報操作は子飼いの連中にやらせるし……生憎と、今は隠滅する時間すら惜しい」

「なに?」


 死体をそのままにボクは次の行動に出る。

 本当はさっさと影に飲み込んで消すべきなのだが。割とマジめにその時間がない。事態を深く理解できていない蓮儀と斬音をボクの背後に回して、廃人たちを壁にするように前方に展開する。

 実を言うと、さっきの尋問はただの時間稼ぎにしか過ぎない。途中から趣旨が変わった。

 本当はダメだけど、今ばかりは許して欲しいのだ。


 なにせ───…


「───動くな。そこで何をしている……黒彼岸」


 かれこれ二ヶ月ぶりに、異能特務局最強の武人様と相対するのだから。


「こんばんは、特務局の無能力者───草薙道流(くさなぎみちる)殿」


 打ち捨てられた廃墟の陰、月明かりの向こう側から静かな足音を立てて現れたのは、ド深夜にも関わらず灰色のスーツをぴっちり着こなした一人の男。

 日本人特有の黒い髪が枝毛だらけなのは相変わらず気になるが、刃のような冷たさを感じる黒い瞳の色はいつになっても変わらない。

 腰に携えた時代錯誤の日本刀がよく目につく彼は、ボクたち黒彼岸───正確にはボクたち三人の両手に手錠をかけんと長年追いかけてくる特務局の“主任”。


 特務局唯一の異能を持たぬ剣士、草薙道流である。


「うっわぁ……」

「……リーダー、気付いてたなら教えてくれ。心臓に悪い」


 苦情は無視。察知能力をもっと鍛えたまえ。

 まぁコイツはボクだけが気付けることを前提として気配を隠してたから、二人が気付けないのは無理ないかもしれないが。でも尋問中に来んなよな。


 なんの躊躇いもなく革靴を血の海に浸らせ、愛刀に手をかけることなく無手で相対するこの男、かなりの頻度でボクたち黒彼岸の仕事を邪魔しに来るのだ。

 最近は例年以上に忙しくてロクに前線に出れてないことは把握してたけど……今日から自由なのか。

 うちの二人も面倒そうな顔しちゃって。逃げる準備ちゃんとしといてね。


 この人、どんな攻撃だろうと刀一本身体一つで全部避けるか防ぐかしちゃうんだもん。


「積もる話はあるが……これはなんだ? 今日の標的は随分と多いようだが」

「残念ながら予定外の犠牲さ。裏切りは世の付き物。それに同僚のクズと無能な依頼主が組んでいたモノのでね、心を鬼にして手をかけさせてもらったよ」

「……うちに来るか?」

「中途半端に優しさを見せないで欲しいなぁ。見て、鳥肌がすごい」

「なんにも見えないよリーダー」


 そりゃあ今の服装は黒彼岸で使う武装軍服だもん。見えるわけないだろジョークだジョーク。

 ───今更だがここでボクの仕事着を紹介する。

 まず、絶対夜闇に溶け込んでやるという強い意志を込めて作られた黒い軍服の上下には、トゲやら鎖やらベルトやらゴッテゴテの装飾がこれでもかと施され、着るのも脱ぐのも億劫な代物と化している。

 厚底ブーツと二の腕まで覆う手袋型の手甲も同様。

 ちなみに下はスカートだけど素肌は黒タイツで絶対見えないようにしている。

 顔も軍帽と金属製の黒マスクで目元以外は秘匿。

 そして髪色と瞳の色はドミナ謹製の魔法薬で若干、本当にちょっとだけズラして変色させている。黒髪は目立つ白メッシュを消すだけでそのままに、紫色の瞳は色だけでなく虹彩も変えて赤色にしてある。

 彼岸花だからね。紫より赤の方が映えるでしょう?


 厨二心溢れるミリタリーセットだけど、実を言うとお気に入りだったりする。

 割と好きなんだこういうの。

 密かに触れたモノ全て傷つけるコートって言われたことはない。言い当て妙で笑ったこともないったらない。


 あ、人目がある時の武器は剣とか影じゃなくて銃を使って誤魔化している。どこまで誤魔化せているかはボクも知らない。

 アサルトライフルである理由? かっこいいじゃん?


「ふむ……声変わりか」

「変声機って知ってます? 余計な情報を取られない様作られた素晴らしい音声機器なんだけど」

「そうか、地声じゃなかったのか」

「うっそだろお前。これ以上周りに天然を増やすな」


 お前なんかにボクの愛くるしい美声を聞かせるわけないだろ。その精錬とした気配に気付いた瞬間特注の金属製マスクに付属させた変声機起動させたわ。

 お陰でおじさんが無駄に困惑してたじゃん。すぐに殺したけど、死ぬ前にいらん疑問与えたのはあんたのせいだ。


 義姉である飛鳥の上司なんだ。彼女伝いにバレたら不味い。


 ボクは彼を知ってるけれど、彼はボクたちのことを何も知らない。黒彼岸という厄介な掃除屋チームで、異能結社の傘下にあることしか知らない。

 蓮儀という傭兵と、斬音という辻斬り。名前以外の要素は恐らく把握されているだろう。

 対してボクはノーデータ。彼の前で異能力を使ったことなんて一度もない。素顔も声も、表社会で立場を持つが故に秘匿しているから、なにもバレていない。


 情報の優位性。これを崩すわけにはいかないのだ。


「さて───悪いが斬るぞ。今夜は実に二ヶ月ぶりの外回りでな。とても気分が高揚してるんだ」

「……イヤだな、ここにも辻斬りがいた」

「あはっ♡♡♡ 清く正しい大人が、そ〜んなことしていいんだぁ♡♡♡?」

「どうせ斬っても生やすじゃないか、お前たちは」

「そんな斬っても大丈夫みたいに言われてもなぁ……ったく、なんの躊躇いもなく斬ってくんのはアンタとコイツぐらいだぞ」


 捕まえるじゃなくて斬るを宣言するあたりこの人もだいぶおかしいよ。


 そう、この草薙という男、犯罪者に対してマージで容赦がない。日本刀で手足を切り落としても生えれば問題ないと本気で思っているサイコパスだ。

 特にボクは斬られたことないけど、他二人は普通に手足斬られたことあるからね。うちには幹部の中でも優秀な八碑人いるから治してもらえるけど……

 毎回血痕とか肉とか証拠取られないように回収する身にもなって欲しい。


 ……うーん、やっぱ会ったのは悪手だったかもね。

 せっかく来たのに誰も居なかったら可哀想の精神で出迎えてあげたけど、正直いらん心配だよね。

 異能を持たない一般人がどれだけ強いのかってのを再確認させてくれる強者だから、戦って全盛期の勘を取り戻したいって気持ちがデカいんだけどさ。

 隣の二人がちょっと可哀想だったかも。反省反省。


 ただただその強さを見込まれて特務局にスカウト、そして最高戦力となった異例中の異例なのだ。

 異能を主上とするモノにとっては最悪の存在だ。

 というか異能部とか無くても治安維持はできるって見方もされかねないから危ういヤツなのだ。できれば今すぐ人工的にでも異能を発現してもらいたい。


 ……あー、本当は戦いたいけど無理。幻覚来そう。


「どうせここに辿り着いたのも直感なんだろうけど、こっちも暇じゃなくてさ」

「! ……俺が逃がすとでも?」

「無意味な戦いを回避するんだ。そっちも忙しい身、今日は早く帰って心身を休めるといい」

「お前たちを捕まえればもっと休まる」

「それは聞けないお願いだね」

「そうか───じゃあ、行くぞ」


 その言葉を最後に、草薙は日本刀を抜刀。そのまま斬りかかって来た。


「はぁ、もう……ドール共、行け」


 肉壁としてボクたちを囲んでいる廃人たちに追加の命令して、最後の役目を迎えさせる。彼もアイツらが救いのない廃人であることを知っている。

 心には来てるみたいだが、それはそれで斬る精神がボクは怖い。


 刀一本身体一つ。最早肉体そのものが純粋な武具。そう形容する以外にない無能力者───特務局主任の名に恥じない、否、恥じる必要すらない武力をもって草薙道流はボクの私兵を斬り捨てていく。

 あの銃撃でかなり減ったのに、これじゃあ手持ちがゼロになってしまう。

 ……総戦力が減ってしまうのは心苦しいが、相手が相手だ。ここは諦めて撤退を選ぶ。異能の使用が制限されている今、下手にぶつかって計画がパーになるのだけは防ぎたい。

 チキンだって? 好きなだけ言え。

 石橋を叩いて渡る、気にしすぎ、用意周到。以上の言葉は全てボクの為にあると言っても過言じゃない。


 つーか殺されんの早。あんなんでも異能者を囲んで殺せるぐらいの殺傷能力を持ち合わせてんのに……

 どんどん減っていく数合わせとはいえ。大損害だ。

 自意識を失った廃人じゃあこれが限界か。

 それとも、少なくとも二十はいた肉壁共を容赦なく

斬り捨てていくこの男が異常なのか……

 多分両方だな、こりゃ。新しいのはもっと有用なのにしよう。


「逃げるよ」

「おう」

「はーい♡♡♡ うん、あのおにーさんは嫌いだけど、リーダーはいっぱいちゅき♡♡♡」

「突然の告白」


 お前の好き嫌いは斬られてくれるか否かだろうが。


「ッ、待て」

「待たないよ───どうせ見てるんでしょ、さっさとゲート開けて、“疫蠍(やっかつ)”」


 今世ではかなり高頻度でお世話になっている幹部を呼ぶ。


 彼の前では影を使わない。なにせ洞月真宵の異能と繋がるから。武器も剣ではなく銃。あらゆる要因から身を隠すために試行錯誤を繰り返した結果の変装。

 だから影による移動ではなく、第三者による空間の転移を使うことにする。


 さっきから視線がウザイんだよ。早く撤退させろ。


『───《(ゲート)》《開通(オープン)》』


 ほらね。虚空から届いた蠍の詠唱が、二つの異なる地点を結ぶ穴を作り出す。《洞哭門(アビスゲート)》とはまた違う、異質なオーラ全開の転移門がボクたちの背後に生成された。


「じゃあね、草薙道流。短い再会だったけど、今度は楽しく遊べることを祈るよ」

「黒彼岸───!」

「あ、代わりに死体処理、よろしくね〜」


 後ろに下がって門を潜りながら、本音でよろしくと些事を任せる。あっちから見ると紫色の空間に身体がめり込んでるようにしか見えないんだろうなぁ。

 斬音は苦手な敵相手だからか我先にと逃げていき、蓮儀は指を切り落とされる可能性を考慮してか汎用のライフル片手に門を潜り抜けた。

 そして最後にボクも──────あっぶねぇ!


 あいつ、廃人の頭乗り越えて刀振ってきやがった!

 危うく首飛ぶところだったんだけど!? あの距離を魔力強化無しで突っ込んでくんじゃねぇ!!!

 異能が使えない=魔力が使えないの等式、ちゃんと機能してんのか!?


 でもまぁ避けれた。心做しか悔しそうな顔で満足。


「次は必ず捕まえる」

「無理無理───…役不足だよ」


 容赦のない殺意に笑みを返して、ボクらは別れる。

 襲撃続きの戦いの夜は、ボクら黒彼岸の大きすぎる犠牲をもって終わりを迎えた。


 かれこれ三年の攻防は、まだまだ続きそうである。


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