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03-08:ほうれん草はなくても困らない

サ○ゼのくたくたって美味いよね


 緊迫感のない帰り道、新たに土の精霊を引き連れて帰路に着く。

 光と水の精霊はもう外に出て、元気に飛んでいる。

 あ、あと鶫ちゃんも。実は最初から影の中に入って隠れてましたってオチだったけど、行きは認知してなかったのでカウントしない。

 精霊喰い? あー強敵でしたね。いっぱい研究しよ。


「まったく、いるのなら私にだけでも一言言ってくれないか……万が一を警戒する気持ちもわかるが……」

「ま、まぁー結果オーライじゃないでござるか!」

「冷や汗ダラダラじゃん。でも、確かに助かったよ。ありがとうね、つぐちゃん」

「当たり前のことをしたまででござる!」


 完璧なタイミングで人助けを成功させた鶫ちゃんの頭を撫でながら、お褒めと労いの時間に入る。部長がほんの少しだけ困ったようにしている気持ちもわからなくはない。

 玲華部長は人を率いる立場の人間だ。予定にない行動はあまり許容できない、いやしづらいのだ。

 ……余裕で単独行動しまくる部員が多すぎるから、言うだけ無駄になってるんだけども。


 それがわかっているからこそ部長は困り顔なのだ。


「にしても、ホントに紙一重だったね……」

「今回の探索においては道中の危険が比較的、比較的少なかったからよかったが……普通はこの界域全体が封印指定レベルの危険地帯だからな……全員無傷での生還自体が奇跡だ。早く帰って一息つきたい気分だ」

「大事だから二回も言いましたってか」

「油断しないとこが流石ですよねぇ、ぶちょー」

「ま、俺らがすげーってことだわな」

「拙者のおかげでは?」

「胸を張るな自尊するな。意外とあるじゃん」

「どこ見て言ってるんでござる? 突然の猥褻は心臓に悪いんですが」

「気を抜けとは一言も言ってないんだが……?」


 すぐに頬を染めるな。あと意外と初なのねキミ。


 部長が手放しに褒めたくなる程、世間一般でもこのエーテル界域は嫌な意味で有名であり、命の安全が全くもって保証されない場所だ。

 一絆くん危機一髪があったのは、まぁ置いといて。

 ホント、欠員がでなくて良かったね。鶫ちゃん乱入事件はちょっと危なかったけど。そのまま出番なくて気付かれずに閉じ込められたらどうするつもりだったんだろ。

 多分隔たれたら日葵でも助けに行けないけど……


 というか玲華部長? ボクの第二の故郷をそこら辺の封印指定エリアと同列に語らないでもらえますかね?

 この封印指定エリアっていうのは、地球各地にある入っちゃダメだよって国が、世界が定めた超危険地域のことを指す。

 例えばエジプトにある異界“ギザ・ネクロポリス”。

 かつて三人の王が眠っていた砂の古代墓群は、かの魔法震災による魔力異常によって異界化。天地上下が逆さまになった天空ピラミッド群へと変貌したのだ。

 無論、異界内部は危険なモンスターでいっぱい。

 個人的には入ってみたいんだけど、正規ルートでは世界連合からの許可が必要、違法ルートではそもそも封印している結界を破壊しなきゃいけないっていう、喧嘩売ってんのかってレベルで面倒いから今は無理。

 ……三百年前に世界遺産に登録されていたところは八割方封印指定されるレベルの異界になってる、って思ってくれて構わないよ。実際そうだし。

 日本は……あの立派な富士が異界になっちゃった。


 ホントにこの世界って危ういよね。エーテル世界の頃よりも死が隣にあるんじゃないだろうか。


「そーいえば、かーくん。無謀突撃の時、なんか声が聞こえてたって言ってたよね」

「確かに。アレ結局なんだったの?」

「ん? あー実はさ、あの白い空間に入ってから洞窟でこいつに出会うまで、助けて助けてって声が定期的に聞こえてきててだな?」

「そういうのは言え。言うんだ望橋くん」

「敵の精神攻撃じゃなくて良かったね。異能の関係上同調しちゃったんだろうけど……報告はしてね?」

「師も師なら弟子も弟子、か……」

「悪かったって」


 異能【架け橋の杖(アルクロッド)】が精霊においては最強、などと推測されている能力なのはある程度把握してるけど、こういう時は厄介極まりないな……杖顕現時のみ声が聞こえるのか、顕現させてなすても聞こえるのか……

 後でドミナと一緒に要検証、だね。

  

 ……にしても、一絆くんってば思ってたより遥かに強くなってたね……まさか日葵に抱えられたまま武器を振り回して完封するとは思わなかった。

 隙を突いた無謀突撃もそうだ。びっくりした。

 ……これ、ボクも訓練に参加してみたらどうなるんだろう。

 教えられるのはユーミィ式悪漢撃滅術及び討伐後の証拠隠滅方法しかないけど……


「あっ、そだそだ。思い出した。きのこちゃん、あのデカいのと遭遇した経緯とか、ゴーレムを作った経緯とか、私たちに話せる?」

『? ぁぅ……〜〜〜────』


 おっ、確かに気になるね。なんで土の精霊、それも大精霊レベルのこの子が簡単に精霊喰いに食べられかけていたのか。

 他の子と比べて声帯が発達してはいるが、耳に入る音はどう聞いても呻き声。しょんぼりしながらなにか言っているが、全然伝わらない。

 やっぱ人間に近付かないと会話は無理なんだな……


「じゃあ俺通訳するわ。わかるから」

「よろしく」


 そういうことになった。まあ妥当だ。実際この子が伝えたいことはこっちに伝わらないわけだし。

 言語が違うって、ホントにめんどくさいよね……


 何処と無く陰気な精霊からの証言は、以下の通り。


 あの洞窟は二百年前から住処にしていた、心地いい巣だったらしい。洞窟がある浮遊島は外敵も少なく、他の島と比べて安全だった為、今まで大した問題なく緩やかに過ごせていたんだとか。

 だが、そんな安寧は一夜にして急変する。

 他の島から飛び移ってきたあの精霊喰いが、彼女の匂いを嗅ぎつけて居場所を見つけてしまったのだ。

 勿論精霊大好きな蟲は、躊躇なく彼女の美味そうなきのこ頭に齧りついた。


 そこからは、食うか食われるかの大攻防。


 うたた寝していた土の精霊は、突撃の夜襲に仰天、驚きのあまり無意識にゴーレムを大量生産、後先考えずに進軍、からの反撃による痛みで更に大量生産……

 という悪循環と、脳みそに近い部位にあるきのこを齧られたせいで能力制御が上手くいかず、果てには無抵抗にただ進軍するだけの石塊軍団が出来上がってしまったんだとか。

 そこに加えて、《洞哭門(アビスゲート)》が偶然開き───…


「私たち異能部と激突したってわけ、なのね?」

「らしいぞ」

「もう一絆くん精霊専門の通訳生業にしなよ。これで充分稼いでいけるよ」


 随分とミラクルなタイミングで開通したんだな……

 なんだか作為を感じるが、あの穴を誰かが操作しているという証拠も確証もないので、多分、おそらく、きっと……うん、偶然なのだ。

 ま、偶然でも作為的でも土の精霊を救出できた事に変わりはない。

 今回ばかりは喜んで手を挙げよう。


「……あ、虫以外にも痛い事とかあったりした? 途中いきなりゴーレムの動きが変わったんだけど……」

『ぅ……ぅ〜〜……』

「んー? やっぱりわかんない。かーくん通訳」

「はいはい」


 あ、あー日葵さん困りますわかった上で聞きに行かないでください困ります勇者様!

 十中八九お前だろって目で見ないでください!

 子供心の暴走でしょ? 大目に見ろってハメ外し過ぎたって良いだろボク魔王だぞ!? 元だけど!!

 だ! か! ら! 横目で凝視とか器用なことすんな!


 はぁ、はぁ……はぁ……はぁ〜〜〜はい腹式呼吸。危うく不定の狂気に入るところだった。まぁならないんですけど。

 取り敢えずバレないからって見るのやめてね。

 ……はっ、結局言葉通じないから一絆くんに頼ってやんの。


 なんで殴るん? 向けられてる奇異の目わからん?


「あー、覚えてんのは紫色の光、だってさ。そういや俺もあっちで見たぞ。同じ色の粒子みてーなやつ」

「なーにそれ」

「ふむ、私は見えてないな」

「拙者も知らんでござる」

「えっ、もしかして……見えてたの、俺だけ……?」

「幻覚じゃないの? キミそういうとこあるじゃん」

「ねーよ。捏造すんな」


 取り敢えず全否定しとく。キミの意見は全封殺だ。


「ま、とにかく。その紫色のが原因ってことね」

「……ふむ。望橋くん、それは何処で見たのか覚えているか?」

「え、なんて言ったら良いのかな……うん、地球」

「ではあちら側にまた別の元凶がいる、ということになるな……」

「確かに!」

「ナイス推理でござる」

「ふーん?」


 ヤバいよーヤバいよー。着実に真実に近付いちゃってるよぉ……

 気にするなっていう暗示かけた方がいいかなぁ?

 でもなんか一絆くん効いてない疑惑あるから無理な可能性高いんだよなぁ……


 くそ、下手に人前で使えなくなったじゃないか。


 てか、なんで一絆くんは【否定虚法(ネガ・オーダー)】を知覚できてるんだ?

 ……能力の元が邪神だから、とか?

 だとしたら詰みでは? え、わんちゃん他四つの力も通用しない可能性あったりする?


 ……これも要検証。万が一を備えて対策せねば……


 取り敢えず【悪性因子(キッスキッズ)】案件は頭から忘れてくれないかな、みんな。


「あっ、見えた見えた。やっと帰れるぅ〜」

「遠足は無事帰宅するまでだぞ。まだ終わってないんだから、気を抜くんじゃない」

「遠征を遠足っていう時点でアレでは……?」

「指摘したら負けでござるよ」


 俯いていた顔を上げれば、安心して息を吐く日葵の笑顔と虚空に浮かぶ亀裂が目に入る。

 どうやら魔女の秘儀はしっかり働いていたようだ。

 本来閉じる筈の《洞哭門(アビスゲート)》もドミィの手にかかればこのとおり。彼女の意思一つ、指先一つで制御できる通り道へと生まれ変わる。

 ま、流石に永続性はないけど。


「……ばいばい」


 穴に足をかけ、身体が重そうな土の精霊を引っ張りあげて連れ込みながら、久々のエーテル世界に別れを告げる。

 どうせまた、近いうちに行くんだけどさ。

 それはそれ、これはこれ、だ。一時間限りの日帰り異世界遠征旅行は、まぁまぁ楽しめたと思う。


 でも精霊案件は勘弁な! 今後十年はいらん!!!


 自然豊かな絶景を背に、白一面の虚数世界へと足を進める。忌まわしきこの世界も、この空間も、全ては過ぎ去った過去の思い出。

 最早懐かしいだけで、ボクの居場所はそこにない。

 やっぱり、前世に関係ある場所に行くとどうしても感傷的になってしまう。


「走って帰ります? 気まぐれ悦ちゃんが“門”の維持し続けるの面倒いって理由で制御手放されたら私たちの人生一巻の終わりですし」

「有り得る前提で話すなよ。あ、誰か背負ってくれ」

「プライドは何処行ったんでござるか……」


 なんか面白い話してんねぇ……確かに、旅ってのは波乱が付き物だもんね!

 ひまちゃのお望み通り閉門させてもらお。

 流石にボクまでガチのマジの命の危機に瀕するのはイヤだから、自重はしてもらうとして……と。


 あ、もしもしー? 悪戯のお時間です。よろしく。


「ってことで、悦ちゃーん。ゆっくり閉めていいよ」

『ほいほーい』

「……えっ、はっ!? 通信繋がってんの!? つか何を企んでやめろやめろやめろ!!」

「いつからでござる?!」

「最初っから」

「部長! 部長! 敵が身内にいます!」

「あれホントに閉まってない?」

「おい!!!」

『『『〜〜〜!?』』』

「やばやば〜ではござらんか!?」

「帰ったら処す! 徹底的に処す! 魔女も纏めて超厳罰生徒指導室にボッシュートだからな!!!」

「だってさ」

『今のうちに逃げるかぁ』


 前門の閉じ始めた亀裂と、後門からダッシュで迫る部員たちとブチ切れぶちょー。取り敢えず脱出したら全力で逃げるとしよう。

 でもほら、旅は道連れ世は地獄って言うでしょ?

 最後まで波乱があった方が、死にかける何かしらがあった方が楽しいって言うじゃないか。


 通信機の向こう側で夜逃げの準備を始めるドミィをBGMに、皆よりも一歩前を走る。いざとなったら皆蹴落としてここに放置してやる。

 ……うん、それ良くね? 皆に味あわせるか。


「真宵ちゃん最後尾ね」

「えっ」


 襟首を引っ張られ、後ろにポーンっと投げられた。土の精霊を背負った日葵に。片手で。


「………………ぅ、裏切り者ーーー!!!!」

「「お前が言うな!!」」

「自業自得。ていうか間に合うでしょ。真宵ちゃんの時速って自動車と同じだから」

「誰がターボババアだ?」

「ババアっていう自覚はあるんだ……」

「……ボクまだ若いもん」

「見た目はね」

「ぶっ殺すぞ」


 あと今のボクそこまで速くないから。訂正させろ。






◆◇◆◇◆






「おかえりお前たち。無事でなりよりだ」


 人為的な波乱と殴り合いの後、なんとか脱出できたボクたちはゴーレムの残骸が集まる現地に残っていた部員たちと合流。

 肩パンやらハイタッチやらでお互いの健闘を称え、忙しいお迎えに苦笑いしていた……その時。


 部室にいる筈の副部長、星見廻が現場に来ていた。


「え、廻?」

「なんでいるんですか……命知らずの精神ですか?」

「命狙われてるって知らないの?」

「え、副部長狙われてんの?」

「異能の関係上仕方ない事でござるな」

「うるさいぞ」


 青筋を浮かべている副部長は、帰還したボクたちを労いながら近付いてくる。賛辞は嬉しいんだけども、なんで怒ってるんですかねこの人。

 部長と日葵と一絆くんも原因がわからず、首を傾げ悩むばかり。


 ……あれ? 鶫ちゃんだけなんか汗ダラダラじゃね?


「さて、影浦」

「はい」

「俺たちになにか言う事はないか?」

「ははははははは最善択でござる星見殿に対して特に謝るような動きはしてないでござる!!」

「確信がある言い方だなぁ、おい」


 めちゃくちゃ動揺してんじゃんキミ笑っていいか?


 なにがなんだかわからないが、取り敢えず鶫ちゃん説明求む。副部長でもいいよ。


「……もしかしてだけど、誰の許可も得ずに来ちゃったりしてる?」

「………………………」

「つぐちゃん?」

「そ、そーんなわけないでござろう! 拙者、報連相ができるタイプのにんにんなので!!」


 日葵の何気ない問への答えは、盛大な慌てよう。


 もうこれが答えじゃん。この子確実に現場の人達に何も言ってないじゃん……


「決して! 無断で! 好奇心で! ついて行ったとかじゃないでござる!」

「自白してるじゃん」

「わかりやす」


 この子意外と嘘つけない感じだったりする?

 忍者なのに。忍者なのに虚言使えないとかいう致命持ちだったりするの……?


「で、実際はどうなんだ? 廻」

「……こいつ、俺たちに何一つ言わないでお前たちについていったんだよ。影の中に入られたせいで発覚に遅れた。こっちはてんやわんやだったんだぞ……?」

「言ってないんじゃないか」

「てへっ☆」


 取り敢えず一発ぶん殴っといた。顔面にグー!だ。


「ひでぇよな、オレ達も行きたかったのに!!」

「そうッスよぉ! これなら俺たちも黙って先輩たちにくっついてったのに……!」

「ズルいのです!」

「ごめんて……許して……しばがないで……」

「部長、今年の一年生がきかん坊すぎます……」

「抑えるの大変だったのよ……」


 現地組がギャーギャーうるさいが、今回の遠征では結果的に少ない方が良かった。人数が多いせいで的が増えて、精霊喰いの対処が面倒になっていた可能性があるので。

 雫ちゃんと姫叶くんはお疲れ様。後で労おう。


「ん……早く、かえろ」


 大鎌を肩に担いだまま喋る弥勒先輩は、そういって部長の背を叩いてバスに足を向けた。

 ……相変わらずの自由人だな。ボクと一緒だ。


「……そうだな。積もる話はあるが、今日は帰ろう。話の続きは車の中で、だな」

「さんせーい。ほら皆、乗るよ〜」

「遠足のお母さんか……?」

「解釈違いです」


 やっぱ、この賑やかさが異能部らしさを表しているよな〜って思う。

 影の中に沈んでいく周りのゴーレム共の残骸とか、一絆くんと手を繋いでバスに乗る土の精霊とか、普通とはかけ離れた景色を除けば、いい感じの一風景だ。

 カメラとかあったら、異能部の思い出として残せる一枚になるかもね。


 ……あ、あるじゃん。撮っとこ。


 何気ない写真でも、過去を振り返れるモノになるのだから。


コ○スのバターソテーもまた美味

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