03-03:親睦会という殴り合い、後半戦
第三試合───琴晴日葵VS茉夏火恋
「琴晴先輩、手合わせヨロしゃす!」
「んふふ。うん、よろしくね。楽しくやろっか」
「あっ、そうだ。一絆先輩一絆先輩! すんませんほぼ確でフィールド燃やすんで水の準備ヨロしゃす!」
「そうかそうか戦う場所屋外に変えようぜ今すぐに」
「……諦めなよ。きっとなんとかなるよ」
「ならねぇから言ってんだろ。ウンディーネ様々だわマジで……すまん、またよろしく」
『〜♪』
堂々と放火宣言した赤い後輩と、唐突に鎮火作業を強制された同級生を尻目に、ニコニコと微笑む日葵の姿を真正面から眺める。
戦闘前なのにリラックスしている様は、流石歴戦の勇士と言うべきか、強者の余裕とでも言うべきか。
……あの顔はどれだけ怪我させないか考えてんな。
燃える前提の戦いほど迷惑な話はないよな。
異能の関係上仕方ないとは言え、戦う際のリスクが地味に高いんよね。まぁそんなヤワなこと言っても関係なく戦場に駆り出されるんだろうけどね。
いやぁ、アルカナが妬かれるのも時間の問題かな。
……取り敢えず戦い見てから考えよ。火恋ちゃんの火力によってはお遊びの内容が増えるかんね。
「ふぅ〜……では第三試合、行くぞ───始め!」
───ピィィィィ!!!
ペットボトルで水分補給を終えた廻先輩の合図で、遂に開戦のゴングが鳴らされた。
「っし行くぜェ───【赫灼纏】!!」
「ふふっ……【天使言語】───歌唱短縮、光よ集え───<裁きの光剣>」
ゴウっと燃え上がる茉夏火恋。燃え盛る紅蓮を背に羽織った彼女は、炎に腕を通して身に纏い……
まるで暴走族やヤンキーといった輩が着る特攻服。
うん、まんま特攻服だわ。どんな意味が知らんけど背中に“勝常鮮火”って謎造語書いてあるし。燃えてるタイプの特攻服なんて前世含めて初めて見たわ。
えっと、衣服系の異能、の範疇で良いのかな……?
とにかく、炎の特攻服を纏った火恋ちゃんは、胸の前で両拳をぶつけて、戦意の高さを日葵ちゃんに見せつけた。
すっごい好戦的。丁嵐くんとはまた違う、めっちゃ獰猛な笑みを浮かべておられる。
……熱気もすごいな。こっちまで熱くなってきた。
そんな威勢のいい、もとい可愛らしい対戦者を見た日葵は、いつも使っている聖剣代わりの光剣を右手に顕現させ、横に一閃。
立ち昇る熱気を空気ごと切り裂き、お試しで真空を作り出した日葵は、ニコニコ微笑んで一歩前に出る。
「炎を纏う異能……服の形状は心象から来るのかな。ふふっ、この熱気もすごいなぁ……行くよ?」
「いーやッオレから行くぜ! 喰らえ、<爆炎拳>!」
「おっ」
腕に纏わりつく炎が拳にまで伝染し、火恋ちゃんの両拳が赤く燃え上がる。炎の塊を宿した彼女の拳撃は殴ったモノ皆等しく焼くという意思の表れか。
異能の性質上彼女自身は燃えることも焼けることもほとんど無いはずだ。自分自身を焼き尽くす可能性がある技など、そう易々と使っていいものでは無い。
そのリスクを承知の上で、彼女は力を行使しているのだろうか。
……なんか、異能を過信し過ぎてる気もするなぁ。
「ほらほらほら、このままだと被弾ゼロ。なーんにもできずに終わっちゃうよ?」
「ッ、オラァ!」
「ふふっ……えいっ☆」
「チッ、ガァァーーー!!! あーもうなんなんだその光ってる剣! すっげぇウゼェ!」
「あはは」
煽りよる。火恋ちゃんの肌を掠めるように炎は展開されているのだが、そのギリギリを狙って日葵は光剣を振るっている。で、その光剣に切り裂かれた炎はただちに霧散して鎮火? 消滅? している。
高位天使の主武装は相変わらず謎である。
それを使って平然としている日葵も謎だが。なんで精神汚染されてないんだ。
……実はもうされてるってオチ?
ちまちまと炎だけを掻き消され、いや斬り消される火恋ちゃんは御立腹。めちゃくちゃイラついてる。
見た目通り短気だなこの子。やっぱ火属性だから?
あの爆炎拳とやら、多分殴られたら延焼して相手を火に包む技とかなんでしょ。それも一番多用していた自慢の技だったのだろう。軽々と避けられるわ謎に鎮火させられるわでイラつく気持ちはよくわかる。
ボクお手製の闇を使った罠をどんどん切り裂かれて発狂しかけたのはいい思い出だ。いや良くないや……
肌ギリギリを狙うわ炎だけ斬るわ、変に器用だよなコイツ。それで剣一辺倒じゃないのもムカつく話だ。
そうやって怒りに共感している内に、戦況は大きく動こうしていた。
「クッソ、ならこれならどうだ! <炎熱破>!!」
「おっおっおっ? 火の玉も飛ばせ……うーん、握り拳みたいな火球なんて初めて見た……」
「避けんな! 当たれ! パフォーマンスしろ!!」
「プロレスじゃないんだから……でも良いね、異能の練度もしっかりしてる」
一年生の実力を図るのがこの試合の目的だからね。二年のボクたちはキミたちをおちょくって技を出させるのがお目当てだからね。
即負けした男の娘はホントにどんまいだけど。
いやぁそれにしても、炎を纏うだけじゃなく飛ばすこともできるのね。やっぱり異能ってのは幅広いね。
拳を前に打ち込むと、その拳と同じ形をした火球が飛んでくるとか絶妙に面白いな……
って待って、その火球連打しないで。こっちにまで被害飛んでくるから燃えちゃうから一絆くん今すぐ光の盾張ってぇ!!
……よし、なんとかなった。訓練所焼失事件は無事未遂に終わった。
うーん、周りの被害も考えられるようになろうね!
「オッ、ラァァ!!」
「ほーら、早く当てないと〜そろそろ私も飛び道具、使っちゃうぞ〜」
「やってみろやァ全部乗り越えてやらァ!!」
「あはっ、威勢良すぎ……じゃあ、行くよ?」
床に叩きつけられる拳と火の粉。どんどんと増えるクレーターの数々には目を逸らして、日葵は仕舞いの一撃を、いや、雨を降らせんと天使の言霊を紡ぐ。
高位天使が広範囲を破壊する為に使う、剣の雨を。
「さぁ、空を仰いで───<天凱・裁きの光剣>」
唄が紡がれた瞬間、訓練所の天井全体を覆うように光が広がる。目を焼く光が晴れた先には、数えるのも億劫になるレベルの夥しい数の光剣が浮かんでいた。
一般人が見れば絶望モノである。
広範囲殲滅技を見た火恋ちゃんも、流石にびっくり顔。ついでに一絆くんはドン引き顔をしている。
そうだよね、お遊戯でやることじゃないよね……
「……そんなん、ありかよ」
「降参する?」
「───し、しねェ! オレは炎族一派の番長、こんなつよつよ技なんかには負けねェ!!」
「かわい……んんっ、じゃあ串刺しになろっか」
「物騒!!」
そこで負けを認めない蛮勇さ、誇っていいよもう。
てか炎族一派ってアレか、火属性異能者や放火魔が集まるめちゃくちゃ有名なヤンキー集団じゃんか。
キミ、それ率いてたの? すごいね。
……そういえば最近静かだったなアイツら。もしや団員殴って燃やして矯正してました?
「えいっ!」
「あっ─────…あの世にいるお母さんお父さん、今そっち行きます……」
「終了! 琴晴の勝利! 死を覚悟させるな!!!」
「楽しくて、つい……」
「キミも意外と残虐だよねぇ」
「真宵ちゃん程じゃないかな」
いやでも最低気絶はさせるつもりだっただろうに。眉間ギリギリに剣が迫ってるとか、常人じゃなくてもビビるわ。
ヤンキー相手だから手始めに上下関係決め込もうと思ったんだろうけど、極論すぎるからね?
勇者式ゆうこと聞かせる法は地球じゃ御法度よ?
ほら火恋ちゃん意外と打たれ弱くて泣いてるじゃん可哀想だと思わないの?
「ぅ、ぐすっ……怖がった……」
「よーしよしよしよし。よく頑張ったですねぇ〜」
「わー……」
「いいなぁ……」
串刺し死体にされそうになって完全に戦意喪失した火恋ちゃんは、一年生の癒し枠であるくるみちゃんにヨシヨシされて慰められている。
なんだ、母と娘か? もう良好な関係を……
丁嵐くんと鶫ちゃんもなんかソワソワしてません? もしや既にくるみママのお子さんに……?
………完全に母親の笑みを浮かべておられる………
「既に陥落してるじゃん」
「攻略済みってことか……ギャルゲーかな?」
「嫌だわそんな異能部」
「宝条家令嬢が行く! 異能部ママ活ハーレム……ってところかな?」
「姫叶くんも冷静に分析しないで」
マジで一年生がくるみちゃんにバブみを見出してるみたいになっちゃうだろうが。
冗談でも言わないでくれ。寒気がする。
戦闘の余波で一部が燃えている訓練所の消火活動に励む一絆くんの真横で、そんなたわいもない話に花を咲かせた。
咲かすなだって? 無理だよ。高校生だもん。
「かーれんちゃん♪ あーゆう時はお空に向かって拳を撃ち込むんだよ。アッパーとか普段しないの?」
「……する。うわー、わー……ぁ〜……」
「ふふっ、自分ができる事、ちゃーんと見直そうね」
「うっす……」
するんだ……やっぱりヤンキーって怖いもんだね。
「さてさてさーて! 次は拙者でござる♪ うーろつっきせーんぱい、御覚悟!!」
「元気だなぁ、ほんと……いいよ、楽しくやろう」
最後はボクと忍者っ娘の一騎打ちだ。一年生の中で多分だけど一番強い疑惑がある子だ。舐めてかからないようにしなきゃね。
ここで負けたら……うーん、負ける要素あるか?
ま、程々に頑張るかぁ〜……そう、程々に、ね。
◆◇◆◇◆
第四試合───洞月真宵VS影浦鶫
「先輩ッ、お命頂戴!」
「やーだ♪」
「まーよっいちゃ〜んがんばえ〜」
「つぐちゃんファイトなのです〜」
「外野うるさ。廻先輩、はよ始めて」
「ひねくれてるな、お前……」
声援とかは魔王にとって一番良くないモノだから、なんかこうイライラするんだよね。こう光属性どもにキラキラを見せつけられる時のイラつきに似ている。
……ほんと、なんでこんなにひねくれてんだろ。
原因追求の為、ボクは単身エーテル世界の奥地へと潜るのだった……ってしたい。切実に。
「よし……では第四試合、行くぞ───始め!」
───ピィィィィ!!!
アラームが鳴った瞬間、間髪を入れずに鶫ちゃんが先手を打つ。常人では目で追えない速度で繰り出されたのは、幾つもの十字形手裏剣。
巧みなスナップで投げられたソレは、的確にボクの急所を狙っている。
予想通りの暗器使い。それもやっぱり忍者仕様。
初めて忍者を見た外野の歓声に思考を裂きながら、床から伸ばした影の膜で防御する。貫通は……流石にないか。純粋な暗器だ。手裏剣自体の回転が速すぎてよく見えなかった。人間の視力だとこれが限界か……
あと当たれば被毒……は、しないか。流石に。
忍者の攻撃が止んだのを見計らってから影を解き、膜に刺さった手裏剣を払い落とす。瞬間、その隙間を縫うように苦無が目元に飛んできた。
危なっ。油断も隙もない。必要最小限の動作で顔を逸らして攻撃を避ける。それに加えてバックアップでほんの少しだけ距離を置く。
「成程、それが先輩の影の使い方! それに身体能力も拙者の想定以上でござる! やっぱり本場の異能使いは違うでござるなぁ!」
「そいつはどうも。お返しだよ───<黒荊棘>」
「にゅやっ!?」
今度はボクの番。何故か興奮する鶫ちゃんに向けて無数の影を突き刺さんと振るい伸ばす。単調な一本の槍のような棘は、四方八方からくノ一を追い立てる。
……全部避けられたが。結構余裕があるね。
本気の荊棘なら今頃串刺しだが、まぁ良いだろう。これは試合。それにまだ彼女の異能が見れてない。
隠密特化と言うが……果たして、その影は如何に。
「ほら、あと四分三十秒。早くキミの異能見せてよ、鶫ちゃん」
「ん〜ッ、しっかたないでござるねぇ〜!」
忍者の戦い方も良いが、異能を交えた戦法を今日は見たいんだから。
そうやって催促すれば、鶫ちゃんは素直に頷いた。
「ふぅ…………行くでござる」
───空気が入れ替わる。
そう錯覚したのは、鶫ちゃんが纏う気配が変わったから。愉快気に丸められていた目は鋭く、笑っていた口元は横に閉じられ、真剣な表情へ変わる。
それはほんの数瞬の変化で。元から薄かった気配も更に希薄になっていた。
これが忍びの切り替えの速さ……流石暗殺者だ。
なんて光景をボーッと静観していれば、鶫ちゃんは遂に異能を発動する。
「【影潜行】───忍法<影潜り>」
静かに告げられた言葉を吟味した瞬間、鶫ちゃんの身体はとぷんっ……と水音を立てて消えた。
いや、影の中に沈んでいったのか。
天井に吊るされたライトと交差する鉄骨の遮蔽物によってできた、薄らと床に滲む影の中。注視しなければわからないレベルの影に潜った、ということか。
本当にわかりづらい。境い目はどこだ?
影を濃くするわけでもなく、ただ影に潜り干渉する異能、といったところか。ボクの異能とは元より根本的に違うが、下位互換と言い切れる程、互換性のあるモノとも違う……なかなか判別が面倒な異能だ。
ぜーんぜん気配掴めないし、今近付かれてんのかもわかんないし……厄介だ、な……………ぁ?
……………は?
「気配が、掴めない?」
ない。影浦鶫の気配が何処にもない。目の前で影に沈まれたからそこに居るはずなのに、何処にいるのか感知できない。
このボクが。このボクが!! 気配に気付けない!?
魔王としての肉体を失ったとは言え、感知能力まで衰えたわけではないのに。なんだこの異能は。
これでは気配遮断などとはまた違う、別の……
───とぷんっ。
「ッ!」
「おっとぉ……流石に躱されるでごさるか。っと!」
「ちっ、また消えた……!」
実際は聴こえていないが、そうとしか形容できない音を聞いて即座に防御。コンマ数秒で張った影の膜に三本の苦無が刺さる。それも、背後の首目掛けて。
視線をやれば影から跳ね飛び全身を出した影浦鶫が居り、睨みつければ再び影の中に潜られた。
やはり気配はない。完全に、何もわからない。
……あぁ認めよう。キミはボクにとって、まさしく想定外の影使いだ。
たった数秒でわからされた……気に食わない。
あーもう……ふふっ、テンション上がってきた!!
「小癪な……だが、気配は消せども存在は消せない。そう、影ごと貫けば居場所など暴ける! さぁ足掻いてみせろ影浦鶫! ボクなりの賛美だ受け取るがいい!」
「ッ、真宵ちゃん待って!!」
「待たんわ! 踊り狂え、<黒荊棘・百本刺枝>!」
ある意味気分が高揚してきたボクは、危機を感じた日葵から飛んできた静止の声を無視してさっきの技の発展型を高速展開。
仕切られたフィールド内を無差別に蹂躙する。
鞭を打つように影を振るい、影浦鶫が潜んでいるであろう空間に勢いよく、百本にも及ぶ漆黒の棘を突き刺していく。
無論殺害なんてしないさ。避ける前提の刺突だ。
「………あはっ、ミツケタ♪」
グサグサと影の中に刺していけば、自ずと居場所はわかる。
そう、今みたいに───影の中を泳ぐ動きとかも。
「死ぬ!! 死んじゃうでござる!!!」
ほら、焦って浮上してきた。傷は……ないね完璧。
まるで水のような感触の影空間を泳いでいた忍びは冷や汗ダラダラで叫んでいる。牽制と制止の為に暗器を大量に投げてくるが、全部影の鞭で薙ぎ払う。
オラオラオラ、さっさと当たって吹っ飛べやガキ。
「ちょちょちょちょ! キャラ変にしてもおかしすぎでござる死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!! そんなに怒でござるのか拙者何か地雷踏んじゃったでござる!?」
「いや、普通に癇癪だと思う……ごめんね、ほんと」
「外野はだァってろ! 今すごい虫の居所が悪いんだよわかるかわかれよ完ッッッ全に気配消されんの超特大地雷なんだよあー無いはずの心臓が疼く! キライ!」
「なんかごめんでござる!!!」
えぇはい血管が浮き上がるくらいブチ切れてます。何故かって? アレだよ、前世の死因的に地雷なんだよマジで気配とかが皆無のヤツって無理なんだよ。
斬音も気配薄くてキライだけど慣れとかである程度わかるんだよ。だから平気。
でもちょっとキミは無理だわ、今のところ。
その影の中に潜ってる時はマジで無理。普段は平気だけど異能行使中はダメだわ。気配無いの地雷。
あの肉感がない分マシだけど……マジで死にそう。
精神的にもデバフかかってくる。的確に死を与えて来るわこの子。
天敵認定します。しました。
マジで持ってかれた心臓が悲鳴を上げている。あぁ成程これがトラウマを掘り返されるってヤツか……
取り敢えずこの戦い、絶対に勝利せねば……殺す。
「あー、そういうことね。確かにこれ、真宵ちゃんの激ヤバ黒歴史とトラウマ滅多刺しだなぁ……あんなに殺意が溢れるのも頷けるね、うん」
「……なんかあったのか? てか心臓が無いって……」
「言葉の綾だよ〜。まぁ真宵ちゃんのブチ切れ発狂はレアだから皆拝んどこうね。そして鶫ちゃんに黙祷」
「つ、つぐちゃー!?」
「止めた方がいいんじゃないかしら……」
「あんなにキレてる洞月さん初めて見たよ僕……」
「うーん、流石に把握してなかったな、これは」
「ん。ヤバめ」
「ふぇぇぇ………無理、気絶しそぅ……うっ」
「なんでお前が倒れるんだおいしっかりしろ阿呆!」
「これがカオスってヤツか……」
「ッスね……」
……全てを知っている日葵には後でお礼しようか。失言を上手く誘導してくれた。流石のボクも冷静さを欠きすぎたな。
別に鶫ちゃんはアイツじゃないのに……はぁ……
終わったら謝罪とお詫びするかぁ。忍者っ娘だからイナゴの佃煮とかでいいかな?
用意すんのヤダな。あ、ちょ逃げんな刺されろ。
「逃げんな……んんっ、逃げないでよ〜、いーっぱい串刺しにされて? ボクが慣れるまで」
「怖い! この先輩思ったより怖いでござる!!!」
「ほらほらあと一分だよ〜降参したら? したら忍びの自覚なしとして殺す。夢を壊すな」
「過激派! 理不尽! 先輩ほんとごめんでござる!」
「いや別に。問題は勝手にキレて怒り狂ってるボクにあるから詫びいれんのはどっちかって言うとボク」
「冷静に、分析しないで、ほしいで、ござる!!!」
「ほーらそんなことより百本刺し百本刺しも一つ追加で百本刺し〜ってごめん今計何本刺した? てかなんで全部避けれてんの? なぜに? 計算だともう死っ」
「拙者くノ一なので〜!! あーおしるこ食べたい!!切に!! 早く終わってぇぇぇ!!!」
この後全回避されてタイムアップ、試合終了した。
◆◇◆◇◆
「洞月くん、なにか言うことはあるか」
「怒りに身を任せました流石に申し訳ないと思ってはいます詫びは水子の小指でよろしいでしょうか」
「やめてくれ。暗に調達可能だと匂わせないでくれ」
「えへへ……」
「だーれも褒めてないぞ、うん」
はい、現在お叱りを受けています。流石に訓練所を半壊させたのはダメだったらしい。影だけ刺すつもりが床貫通させて危うく倒壊させる所だったのだとか。
んで、一応補強はしたんだけど後で建築業者頼んで改修してもらう事になった。マジで申し訳ない。
今回ばかりは給料天引きで改修費出しますね……
「あー、なんかごめんね鶫ちゃん……ホントにごめんこれ詫び品ですはい……」
「拙者こそなんだか地雷踏んでごめんでござる……」
「実はこれフグ毒入りなんだけど、多分キミ耐毒とか持ってるだろうから美味しく頂けるクッキーだよ」
「実は拙者のこと恨んでるでござる?」
「いや不良在庫処分……うん、押し付け、かな」
「先輩ってオモロいでござるな。これからは積極的に目の前で影に潜むことにするでござる」
「キミもキミでいい度胸だな気に入ったわ」
意気投合……って言って良いのかなこれ。ある意味性格良いわこの子。
なんならその場で袋開けてクッキー食べてやがる。
異能は気に食わないけどそれ以外は好印象です以降キミの命を狙う方針は無かったことにします。
……異能使ってる時は頑張って殺意抑えとくね。
ま、表向き同じ影の異能同士仲良くしよう。
憶測になるけど、多分彼女の【影潜行】は影を一つの空間に見立てているんだと思う。刺した時に感じた水のような感触は多分そういうことだ。
影の中を水中にいる時のように泳ぐとは……
視界不良且つ鉛のように重い影、水とは違い影故に濡れないところ。彼女自身の実力と努力の賜物で成り立つ戦法、と言った感じか。
……気配が完全に消えるのは予想外もいい所だ。
流石のボクも影の中に潜んだだけで気配自動遮断は無理だ。異能の特性上それは仕方のないことだ。
ぶっちゃけ影の中って何も見えないからな。なんでこの子は普通に動けるんだろうって疑問視してる。
「仲直りできた?」
「うん。見て見て詫びのフグ毒クッキー。ひまちゃも食べる?」
「んー、死ねと???」
「意外と美味しいでござるよ〜」
「平然と毒物食べないの」
胡座をかきながら二人で仲良く食べていると怒った日葵に頭を激しく揺すられた。
なんだよ、嫉妬か? 混ざりたいなら言ってよね。
めちゃくちゃ挙動不審な日葵の口にフグクッキーを入れんと攻防していれば、見兼ねた部長に頭をはたかれて止められた。
流石におふざけが過ぎたかな? うん、ごめんね?
……と、なんか話始まりそうだな。聞こ聴こ。
「さて、後半ハプニングがあったがこれで模擬試合は終わりとする…… と、言って締めたいとこなんだが、まだ私たち三年の異能は見せてないだろう? 故にこれからエキシビションマッチを見せようと思ってな」
「ひまちゃフライドポテト準備」
「あるよ。ケチャップとマヨネーズもあるよ」
「皆〜観戦タイムだよ〜近付いたら死ねる可能性あるからさっきよりも離れて観戦しようか」
「そういうことだ。あと五分、是非楽しんでくれ」
と、いうことになった。廻先輩と多世先輩はあまり乗り気じゃないようだけど……あ、やっぱり予定通り二人は見せるだけなのね。
ガチの殴り合いをするのは玲華先輩と弥勒先輩たちだけか。
「よしやるぞ弥勒。久々に、な」
「ん。いっぱい叩きのめす」
「ははは、こらもう鎌を振ってくるなルール違反だぞやめろと言ってるだろおいこら弥勒!!」
「ん。玲華もあんなになる。必見」
「はぁ……私で遊ばないでくれ……」
同級生同士の戯れじゃん。先輩の意外な一面、ってところかな? 仲良くて良いね。
「パイセ〜ン! これオレらも食べていい感じか?」
「いいよ、好きなだけ食べて。多分こっちは私たちがほとんど爆食いしちゃうと思うから、こっちのポテトをお食べ」
「わーい、貰ってきたぞ〜」
「最初の一本、もーらいッス!」
「あ、ずるいのです!」
「拙者にも少しは残しておいて欲しいでござる〜」
「いや束で取んなそれオレのぉ!!!」
食べ物一つで騒ぎ出した一年生たち。なんだかんだいって緊張も解れたのか、もう年相応のはしゃぎ方を見せてくれる。
これには思わず精神年長者のボクもにっこり。
良いね、ちみっこいのがわちゃわちゃしてるのって癒される……失礼だけどそんな感じだ、この四人は。
出会って一時間も経ってないけど、もうそんな印象しか抱けないわ。
「……ふふっ、今年も仲良くできそうだね」
「その為には慣れが必要」
「今回ばかりはお前の怒りの沸点わからんかったぞ。マジでヒヤヒヤしたんだからなこっちは」
「ごめんて……気配ないの地雷なんだもん……」
「こうでござるか?」
「殺す」
「ぎゃッ」
「つ、つぐちゃー!?」
面白半分は死に至る。はっきりわかんだね。
さっきの戦闘で懐にナイナイしていた苦無を曲者の眉間に投げ刺した。
しかし当たるスレスレの所で避けられてしまった。
いや避けたって言うか……ドロンっと煙に巻かれて消えたって言うか、手裏剣が刺さった小ぶりの丸太と入れ替わったと言うか……いつの間にか火恋ちゃんの背後に逃げてたって言うか……
……変わり身の術って、あるんだなぁ。
「なに、死にたいの?」
「ごめんでござる……」
「はーい落ち着こうねぇほーらいいこいいこ」
「つぐちゃん、メッなのです!」
「あはは……いやぁ、反応が面白くて、遂……」
「絶対後悔させてやるからなクソガキ」
この愉快犯いつか泣かす。絶対に泣かしてやる。
憤怒を秘めた誓いを胸に、一年との交流は緩やかに進んでいくのだった。
三年の戦闘? あー、訓練所は壊れたと言っておく。




