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03-02:親睦会という殴り合い、前半戦


 第一試合───丁嵐涼偉(あたらしりょうい)VS神室雫(かむろしずく)


「雫先輩、っしゃース!」

「えぇ、よろしく」

「対戦時間は五分。このタイマーで測るぞ。アラート鳴らすから、鳴ったら開始な」

「了解っス副部長!」


 親睦会という異能の見せ合い。その初戦を飾るのはワンコ系男子の丁嵐くんと、我らが守銭奴雫ちゃん。

 中央で向かい合う二人の表情はまさに対極。

 The好青年の丁嵐くんは獣特有の獲物を狙うような目で相手を見据え、雫ちゃんは相変わらずの冷たさを感じる表情で精神統一をしている。

 うーん、ホントに対極。丁嵐くん元気過ぎか?


 はてさて、一体どんな戦法を使ってくるのかねぇ。


「では、行くぞ───始め!」


───ピィィィィ!!!


 二つの合図が鳴り、試合が始まる。アラートの音と同時に飛び出したのは丁嵐涼偉。

 見た目通り身体能力も高いのか、出だしは好調だ。


「行くっスよ先輩! 駆けろッ【風迅奔狼(ラオフェン・ウルフ)】!」


 唱えられた異能の名は、確かに風纏う銀狼のモノ。彼は両手足に薄らと見える風を纏って、雫ちゃんへと肉薄する。

 持ち前の身体能力と風の後押しにより、目を瞬く暇なく一瞬で距離を詰めた丁嵐くんは、格闘技を使って怒涛の攻めを開始。風を纏った拳や蹴りが雫ちゃんの四肢と胴体を的確に狙っていく。

 が、ここは流石異能部歴一年の雫ちゃん。こちらは培った身体能力で連撃を避け続け、危なげなく回避。


「やるわね……」

「正直避けられると思ってなかったっス! ちーっとは自信あったんスけど……」

「卑下になるのが早いわよ───【液状変性(ジェリーボディ)】」

「ぬわっ!?」


 ここで雫ちゃん形態変化。両腕をスライムに変えて流動させ、丁嵐くんを捕まえるように広げて伸ばす。その勢いは緩慢とは言えず、従来のスライムとは言えないスピードで敵を捕らえんと蠢いている。

 不規則な液体の動きにビビった丁嵐くんだったが、すぐに冷静さを取り戻して身体を捻り、前進と後退を繰り返して避ける避ける。流石は暫定オオカミくん。動体視力も素晴らしい事この上ない。

 雫ちゃんも攻めの手を止めずに感心の表情を見せ、彼の動きを観察している。


「……綺麗な風ね。魔力で色付けしてるのかしら」


 感嘆とした彼女の言う通り、丁嵐くんの風は薄らと鮮やかな緑色で彩られているという、なんとも不思議な風をしている。

 ここで注目すべきなのは、風が可視化できる事。

 竜巻や台風など、塵などを巻き上げた渦が見えるのではなく、空気のみで渦を巻いているのがわかる。


「クシシッ、自慢の風っスよ! 親父殿にも褒められた銀狼の風っス!」

「そう……ところで、もう終わりかしら?」

「! いいや、まだっス! ちゃーんと魅せるっスよ!」

「ならいいわ。来なさい!」

「っス!」


 誇らしげな表情は変わらず、されども気は抜かず。

 丁嵐くんは途絶えることなく追ってくるスライムの触腕を避け続け、時に風を纏った拳で吹き飛ばして、一瞬の空白地帯を作り出す。

 それを好機と見て、彼はそこに飛び込み……


「行くっスよォ〜……<風守りの狩人(ジ・ストームビースト)>!!」

「っ……これは」


 手足を地につけ、姿勢を低く。警戒する獣のような体勢になった丁嵐くんは、唸り声を上げながら天井を見上げて……

 咆哮と共に、暴風を纏って姿を変える。


『───ワォォォォォォォォォーーーーン!!!』


 遠吠えにより空間全体が振動する。痛む耳を押さえ脳が揺れる感覚に身を悶えさせながら、観戦者たちは鳴き声の主を探す。

 そうしてそれは、風の渦、嵐の中から現れた。


 翡翠色に瞬く嵐の中から現れたのは、銀色の美しい体毛を持つ獣。それは彼の本来の身長をゆうに超え、可愛らしい顔立ちは厳つく獰猛な、狩りを熟す巨獣のモノへと変貌していた。

 人間の時と同様、強靭な四肢には風を纏っている。

 緑の旋風を纏うその獣は、異能部で一番身長が高い弥勒先輩さえも見上げる巨体であった。

 見る者に恐ろしさではなく美を感じさせる持ち主。

 神々しささえ感じる銀の毛並みを持つその獣───巨大な狼へと、丁嵐くんは変身していた。


 ……マジで“ラオフェン”になりやがったぞコイツ。


 それは銀の毛並みを持つ風の神獣。エーテル世界にある“(みどり)風原(ふうげん)”という地で生まれ、死ぬまでその地を守り続ける守護者。

 人狼種の崇拝対象でもある、浄化の力を宿す銀狼。

 自然リポップで生まれるヤツだから、魔王時代でも滅多に見られないし出会えなかった神獣が、どういう訳か目の前にいる。

 贋物……ではないな。なりかけ、いや幼体か。

 それはそれとしてすごいな。風を操る狼になるって言われた時点でイヤな予感はしていたが……

 神獣に変身する異能なんて初めて見たわ。


「これはまた……」

「うっ、トラウマが……」

「初めての相手だね」

「そういう事言うのやめてくれない?」

「ごめんて」


 何故か狼恐怖症を抱いた一絆くんや、ボクを含めた彼を茶化す外野を余所に、雫ちゃんは姿を変えた敵を前に面白そうに笑った。それはもう楽しそうに。

 加虐趣味でも目覚めたのかってぐらいの笑みだ。


「良いわね、狩り甲斐があるわ───来なさい! 時間いっぱい遊んであげるわ!」

『アォォォォーーーーーン!!!』

「人の言葉も忘れたか……」

「ちゃちゃ入れないの」


 目の前で咆哮を浴びていると言うのに、雫ちゃんは意も介さずに笑い、剥き出しにした戦意で肉体を変形させる。

 うーんヤケに好戦的。さてはモフりたい衝動を死に物狂いで抑えてんな?


 がんばえ〜、雫ちゃん! 上級生としてのちっぽけな威厳を見せるんだ!!


「<潤雫(うるしずく)竜三叉(りゅうさんさ)>───演舞は如何?」


 腕から伸ばした液体を棒状に切り離し、右手で握り武器へと変える。三叉戟をモチーフとしたその槍を、くるりと一回転させ矛を構えた。

 槍術を鍛えている雫ちゃんの主要武器である。

 スライム製とは言え、槍の見た目は銀細工がされた真っ当な武器にしか見えない。

 色を付けるのと液体の一部硬質化は今や雫ちゃんの得意分野の一つである。


「せいっ」

『ガゥッ!! ───バウッ!!!』

「すばしっこいわね」


 踊るように槍で刺す雫ちゃんの連撃を、丁嵐くんは紙一重で避けていく。あの巨体でよく俊敏に動けるもんだ。まだ甘いところがあるとはいえ、よくここまで鍛えたものだ。

 独学では無いな。誰かしら師がいたと推測する。


 風を乱回転させた前足蹴り、的確に獣特有の急所を狙っていく竜の三叉戟、吹き荒ぶ風の咆哮……

 たった五分の攻防で相殺され続ける猛攻の数々。

 もう時期タイマーが鳴る。体内時計でそれを察した雫ちゃんは、三叉戟の隠された機構を解放する。

 戦を終わらせる仕舞いの一撃として。


 勢いよく、まっすぐ伸びる銀の槍。胴を狙ったその攻撃を、丁嵐くんは今までの攻防から学んで最小限の動きで避けた。

 そして鋭い牙が生え揃った口を大きく開き、幾度目かの、且つトドメの咆哮を打たんとして……


 その一手は不意の攻撃によって止められた。


『ガッ───…!』

「ふっ─────捕まえた」

『ギャウッ!?』


 三つに別れた矛先が流動して、大きく広がり銀狼の巨体にスライムが絡みついた。そう、あの槍は戦闘用と言うより捕縛用と言った方が正しいのだ。

 ぬるりと動く粘液は強靭な四肢に巻き付き、あっという間に完全拘束。遂には空中に浮かばせられた。


 ───同時に、試合終了のアラートが鳴り響いた。


「終了だ。神室雫の勝利」

「ふっ、当然よ」

『グルル……キュウン………』


 丁嵐くんの失策はただ一つ、わざと続けられた槍の間合いや攻撃距離に気を取られて元はスライムだったということを忘れていたことだ。

 離れていたとはいえ元は雫ちゃんの身体の一部だ。

 それをしかと頭に入れておかないから、ああやって簡単に捕えられる。


 初見とは言え、そこは見抜かないとダメだよ。


『キュゥ……』


 情けない鳴き声は降参の合図。悲しそうに項垂れるその様は、まるで飼い犬。マジで野生を忘れた顔をしてるんだが。

 かわいいなあおい。ギャップってヤツか?


 拘束を解いた雫ちゃんは、ヨシヨシと狼形態のまま嘆く丁嵐くんの頭を撫でて慰めている。

 それを恨まがしそうに睨む姫叶くんがいるが……

 ま、美女と野獣ってことで我慢してやれ。心を広く持つのも男に必要なスキルだぞ。


『ガゥッ………………あー、負けたッス。完膚なきまでに負けたッス。あんなに避けられるなんて……」

「ま、年季の差よ。貴方の身体能力であれば、直ぐに追いつかれるでしょうけどね。いや、抜かされるかしら」

「そんなん凄いッスかね? 自信ないんスけど」

「ヤワね。それを何とかするのも、成し得るのも貴方次第よ。頑張りなさい」

「……ッス!」


 変身を解いた丁嵐くんは意気消沈、自信を失い己に落胆していたが、雫ちゃんの励ましでなんとか持ち直したようだ。

 心做しか腰に巻いたファーこと尻尾も…… めっちゃブンブン振ってるんだけど。やっぱりアレ尻尾だよ。最早ファーの形を成してないもん。

 それに気付いてあたふたすんなよ。なんなんアレ。


「ぐぬぬ……」

「……異能部のマスコットが嫉妬しておる」

「誰が小動物だぶっ殺すぞ」

「言葉を慎めよハムスター」

「はいそこ、怨嗟を渦まかせないで」


 姫叶くんを揶揄っていれば、毎度の如く暇な日葵が仲裁として間に入ってくる。普段暴走してんのに、なんでこういう時だけ常識人ぶるんだコイツは。

 おまえ普段混沌を振り撒く側の人間だろうに。


 ……ブーメラン? なんの事やらわかりませんね。 


「ほら、次姫叶くんの番だよ。頑張ってね」

「……うん」

「ここで良いとこ見せたら……」

「でも相手宝条家の一人娘だよ。下手にケガさせたら僕が絞められる気しかしないんだけど」

「……当たって砕けろ☆」

「命張るかぁ〜……負けないように頑張ろ」


 そんでもって、次の試合だ。戦うのは見ての通り、女装すれば十人中十二人を思わず振り向かせる我らが姫叶くんと、何故か入部した箱庭のお姫様である。

 マジで何を考えてるんだ大富豪……下手しなくても異能部って死ぬ可能性あるところなんですけど。


 はてさて、姫叶くんは無事先輩としての威厳を保てるのか。

 というかあのお姫様、どうやって戦うんだろ……?






◆◇◆◇◆






 第二試合───小鳥遊姫叶(たかなしひなと)VS宝条(ほうじょう)くるみ


「よろしくお願いします!」

「こちらこそ。えーっと、宝条さん、よろしくね」

「くるみって呼んでください! 苗字より言いやすいと思うのです!」

「あ、うん。よろしくねくるみさん」

「はいっ!」


 元気な宝条ちゃん、確かに言いづらい。面倒いからくるみちゃんと呼んであげよう。とにかく、この子のキラキラパワーによって姫叶くんは既に負けていた。

 情けないがアレは仕方ない。勝てないキラキラだ。

 勇者や英雄みたいな自信の現れから来る光とは違うキラキラだ。目の毒。


 宝石を身体から出す異能だっけ。どっかの創作病を彷彿とさせるね……


「では二試合目、行くぞ───始め!」


───ピィィィィ!!!


 再び鳴らされた甲高い開戦のゴング。ここで最初に動いたのは、やはり先達である姫叶くん。ポケットに手を入れた彼は、瞬時に懐から瓶を取り出した。

 瓶の中にあるのは、半透明の濁った氷のような塊。

 何故か持っていたその結晶は、時に空腹に、時には氷の代わりに、時には武器になるモノ。

 姫叶くんはその結晶を幾つか取って、勢いを付けてくるみちゃんに向かって放り投げた。


 放物線を描いて投げられたソレは、ぽけ〜っとその挙動を眺めるくるみちゃんの頭上にまで届くと……


「まずは小手調べ……<巨大化(ビッグサイズ)>!」

「わぁ……わきゃ!?」

「キラキラが好きみたいだけど……注意散漫すぎじゃないかな?」


 そうして降り注ぐ、異能の力に晒されて巨大化した結晶こと、氷砂糖の雨霰。いや、巨大な雹か。

 当たれば一溜りもないぞアレ。超危険技じゃん……

 初手に出す技じゃない。容赦なく降り注ぐ氷砂糖は最早凶器である。食べ物を粗末にするな。

 調整はしているのか、氷砂糖の数はたったの五つ。

 それも投げ方が上手いのか、くるみちゃんに当たる場所を落ちているのはたったの三つ。落下するまでの時間を稼ぐ為に高さも用意したのか、そして異能力で僅かに浮遊させているのか、まだまだ落ちるには時間がかかりそうだ。

 まったく、そこで器用さを見せるんじゃないよ。

 結局のところ、当たりどころが悪くなくても即死の危険があるんだけど……

 はてさて、くるみちゃんはどうするのかな?


 与えられた数秒の猶予。ちょーっと言うか、かなり抜けているくるみちゃんは、最初は慌てていたがすぐに平静を取り戻して、此方もポッケに手を入れた。

 そうして、ジャラジャラと音を立ててポケットから取り出したのは……キラキラと輝く宝石。

 それも全てダイヤモンド。うわぁーお。本物だ……

 ほら、観戦席に戻った雫ちゃんが前のめりになって目を輝かせておる……


 そうして手掴みにされたダイヤモンドは、勢いよく無造作に、天井へと向かって放り投げられた。

 観戦者から悲鳴が上がった。流石にボクも上げた。


「すぅ〜はぁ〜……えいっ! <金剛石・盾印ダイヤモンド・シールド>!」


 天に捧げられたダイヤモンド。そのうち選別された五つの宝石が空中に固定され、不自然さを保ったまま星型に張り巡らされる。

 そして光が走り線が引かれ、五芒星が作られる。

 …… 魔法陣、か。それも守りの。文字通り、宝石で描かれた守護の魔法陣は空から降り注いだ氷砂糖を見事に防いでみせた。


 宝石を使った魔法陣。成程、勉強になるな。


「すごいな。金持ちの戦い方だ……庶民の僕には真似出来ないもんだね」

「えっ、そうなのです……?」

「そうなんです!」


 やっぱり金銭感覚狂ってるわ。金持ちって怖い。


 そのままくるみちゃんは氷砂糖を乗せた魔法陣の下から離れて防壁を解除。人よりも重く大きい氷砂糖を軽々と持ち上げた金剛の魔法陣は、あっと霧散する。

 ゴロゴロと転がり落ちる甘い氷塊を避けた彼女は、不敵な笑みを姫叶くんに向けて浮かべている。


 どうやら、次はくるみちゃんの攻撃らし……はっ?


「えいっ、なのです」

「ちょ!? ……なっ、ぇっ!!?」

「……成程ねぇ。それが本質か」


 なんと、彼女は太腿のレッグホルスターに隠された短刀を取り出して、自分の左腕に軽く一閃。つまり自らの手で切り傷を作りやがった。

 まさかの自傷癖? ボクと同じ死にたがり……?

 なんて期待した瞬間、飛び散った鮮血の変貌を見て表情が固まった。

 ……どうやら、身体から宝石を生成するというのはそのままの意味だったようだ。


 そう、鮮血は全て美しい柘榴石に成っていたのだ。


「行くですよ、先輩! <柘榴石・爆粒ガーネット・エクスプロージョン>!」


 自信満々に宣言したくるみちゃんは、作った小粒の柘榴石を手の平の中でジャラジャラ鳴らして、詠唱と共に姫叶くんに向かって放り投げる。

 奇しくもそれは先程の展開の真逆。

 意表返しとも言える一手は、宝石で何をするのかと疑問視していた面々に衝撃を与える。爆という文字にイヤな予感を抱いていた熟練者たちも、また同様に。


 ───投げられた柘榴石は、魔力の光を帯びて……盛大に爆発した。


「はっ!? そんなのあり、ッギャァァァァ!?」


 ピカっと赤い閃光が走った瞬間、姫叶くんは爆発に巻き込まれて吹っ飛んだ。

 それはもう綺麗に、どっかーーーん!!! と。

 爆炎と煙が上がり、畳の床が燃え上がる。


 ……土俵の外に放り出された姫叶は、全身ズダボロ瀕死の状態で倒れてしまった。無様なカエルみたいにピクピク震えている。いや、瀕死は誇張表現だね。

 爆発の威力は抑え目だったらしく、命に別状はないようだ。かすり傷と多少の火傷はあるけど……日葵の異能でなんとかなるレベルだ。問題はないだろう。


 屋内で爆弾を使うな……っていう問題はあるけど。


「ぐはっ……ぅぅ……」

「これが私の異能───【宝晶華(フェアリードロップ)】、なのです!」

「わぁすご〜い……副部長。終わったよ」

「ぁ、あぁ。勝者、宝条くるみ!」

「わっ! やった! やったーなのです!」


 勝者はくるみちゃん。跳ね飛びて喜んでいるさまはまさに幼女。低い身長や髪など彼女を構成する全てがかわいらしさを強調している。

 なんだろ、見てるだけで庇護欲が湧いてくる……

 物騒な異能の持ち主なのに。保健室ではなく日葵の元に緊急搬送される姫叶くんを横目に、玲華部長に頭を撫でられて喜んでいるくるみちゃんを眺める。


 【宝晶華(フェアリードロップ)】───己の身体から生み出した宝石に、なんらかの力を付与する異能、といったところか。

 金剛石はシールドに、柘榴石は爆発する礫に。

 前者がどうやって生まれたのかは知らないが、この能力は使い用によってはどんな事でもできるだろう。

 武器の持ち込みもいらない。

 だっけその場で自傷したりすれば、好きなだけ必要素材が手に入るのだから。


「予想外の攻撃はとても良い手だった。だが、屋内で爆発は最善手ではなかったな。ま、おめでとう」

「ぅ〜……はい、気をつけます」

「あと、自傷行為もあまりしないこと。身体は資本と言うからな。もし傷つけたのなら言うんだぞ」

「はいっ!」

「ねぇねぇくるみちゃん。あの爆発の威力ってさぁ、キミの任意?」

「多分……多分そうなのです!」


 いやそこは断言して欲しかったな。ボクらの安全の為にも。

 ……ワンチャン今回の試合不味かったんじゃない?


「なるほど未制御。ホントに運良かったね姫叶くん」

「ホントにそう思う……はぁ〜……負けたぁ〜……」

「お疲れ様……秒殺だったとは言え、試験官っぽい立ち回りはできてたじゃない。上出来よ上出来」

「そうかなぁ〜……」


 先輩の面目躍如ならず、治癒の唄で回復した少年は悔しそうな顔で畳で倒れている。

 なんだったら全身で悔しさを表現している。

 まぁ、背の低い自分よりも殊更に低くいとう年下の女の子に負けたらそうなるわな。見苦しいけど。でも結果的に雫ちゃんに慰められたから良かったでしょ。

 対戦相手への動揺もあっただろうし。


「あっ、姫叶先輩……その、ごめんなさいなのです。顔に泥を塗る、ようなことしちゃって……」

「え〜、別にいいよ。油断したこっちも悪いし」

「ぅ〜でも、柘榴石投げちゃいました……怪我……」

「あーもう。ほら、お互い様ってとこで……ね?」

「……わかったのです。えとえと、これからよろしくお願いします、なのです」

「うん。まずは人に爆発物を投げちゃっいけないってとこから学び直そっか。部長の言う通り危ないし」

「はぁーい。頑張りますです……」


 うーん、わざわざ謝りにいくなんて。やる事なす事物騒だけど、心根はしっかりしてるみたいだね。

 ちゃっかり倫理教育もされそうになってるけど。


 姫叶くんは一つの物事に対してあまり引き摺らない性格の持ち主だ。今もあんなに惨敗して悔しそうだっのに、もう気持ちを入れ替えて接している。

 そうだね、切り替えが得意ってのが正しいか。


 そんでもって、くるみちゃんは気が昂ったり気分が良くなると周りが見えなくなるタイプ、かな。

 戦闘中はハイになってたけど、今は意気消沈。

 自分がどれだけ危ない事をしでかしたのかを遅れて理解している。結構取り扱い注意な子だ。結構な頻度でクールダウンを挟んだ方が彼女の為かもしれない。


 ……っていうか、 部長はそれを知った上であの子を入部させたのだろうか。矯正も視野に入れて、とか?


「ふーん……ま、なんとかなるか」


 あ、炎上の鎮火は一絆くんの精霊がやってくれた。いつもお疲れ様です。で、何時になったらその子らをちゃんと命名するんですかね。

 ボク、気になります! 早く付けてあげなよ。


「よーっし、次は私の番だね」


 っと、天使の歌声で姫叶くんの軽めの火傷を治してやった日葵が、両腕を上に伸ばしながら立ち上がる。

 三試合目は日葵の担当だ。

 ボクの相手は影浦鶫ちゃん。なら、コイツの相手は誰なのか。


「くぅ〜! 先輩との手合わせ! すっげぇ楽しみ!」


 そう、スケバン系女子こと茉夏火恋ちゃんである。


 ……うーん、後半戦の二人にどれだけ花を持たせられるのか。それがボクたちの課題であることを、他の皆は知らない。


 最終的には勝てばいーんだぜって話なんだけどね。


「真宵ちゃん、応援のキッス♡」

「申し訳ありません、既に完売致しております」

「誰に売ったの。言え。言いなさい!」

「おっとぉ。フレーズを間違えたようだね」

「こうなったら直接奪うしか……うん、奪っちゃお。真宵ちゃチューしよチュー」

「やめろやめろ対戦相手に構えこのバカ!」


 周りからの生暖かい視線に下級生が加わったとか、ただの地獄でしかないんですけど!?


 ……あ、もう地獄でしたわ。最悪だ死にてぇ………


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