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01-04:賭け金はキミの命


 前回のあらすじ。地球の並行世界の社畜、異能部の下っ端であるボクこと洞月真宵は、変態の琴晴日葵と先輩の八十谷弥勒を連れて、森林公園に訪れていた。

 副部長である星見廻の異能により、出待ち作戦を決行したボクたちは、難なくゴブリンの群れを一掃。

 早く終わって一安心。緩い空気が流れた、その時。


「───グオオオオオオオ!!!」

「ギュルルル……!!」

「ぐちょっ……じゅるる……ぐちゃっ……」


 閉じた筈の《洞哭門(アビスゲート)》が開いて、空想が現れた!!

 はい、前回のあらすじ終わり。なんでまた空間が裂けてるんですかね。ホント、どうなってんだ新世界。

 《洞哭門(アビスゲート)》の数は三つ。現れた空想の数も三つ。

 そのどれもが大型で、先程のゴブリン共とは比べ物にもならない程の大物たちであった。

 人間基準で、だけど。


『追加なんて聞いてないぞっ! ……レッドオーガに、デスワーム…なんだ? あのスライムは……』

「すっごい澱んでる……」

「汚染されたウンディーネじゃん。めずらし」

「ん。なにそれ」

『説明を求める』

「言ったまんまですけど」

「なんで知ってんのさ」


 赤色の肌を持つレッドオーガと、砂漠の地下を掘り進むデスワーム。……の、バカでかい異常個体。

 そんで、粘液の塊に変わり果てたウンディーネ。

 三体揃って異常だよ。レッドオーガとデスワーム、二体揃って二階建ての民家ぐらいのサイズしてるし。ウンディーネは平均男性ぐらいのサイズだけど、十分異常だね。

 なんで今来るんだよ。ボクがいない時に現れろや。


 ウンディーネとは水を司る精霊で、清く澄んだ湖を住処としている、のだけど。あれ多分、身体が住処のどっちかに呪いとかぶち込まれて魔物に堕ちたな。

 パターン的には身体に直接かな?

 可哀想に、あれではもう……


「さ〜て、ちゃっちゃと殺して帰ろう」

「真宵ちゃん真宵ちゃん。その前にあのウンディーネについて教えて欲しいなぁ……」

「……それなら、あのデカブツ共を先に消すべきじゃないかな?」

「それもそうだね」

「ん。突撃」

『あっ、おい待て! まだ俺が指示してな……』

「「そんなの関係ねぇ!」」

「ん。無視」

『おい……』


 廻先輩は不憫枠。

 ボクに迫る日葵と真顔無言で教えてと寄ってくる弥勒先輩は置いておこう。話して欲しければデカブツとミミズを倒してからにするんだなぁ!

 てか、言ってる傍からアイツら攻撃してきたよ!


「真宵ちゃん、あれ拘束しといて!」

「はぁ?」


 なんで拘束? ウンディーネを? 殺すんじゃなく?


 純粋に疑問符を飛ばしている間に、アイツら二人はレッドオーガとデスワームに突撃しに行った。

 えぇ……待たなきゃなの……? めんどい……


「ガアアアアアアアアア!!」

「《───♪》───ほいっ、せい!」

「ッッ!? ガアアアアアアアアアアアアアア!!」


 レッドオーガが振り下ろした柱並に大きい棘付き鉄棍棒を、日葵は新しく唄い作った光の剣が受け止め、そのまま持ち前の怪力で打ち返す。異能使えや。

 つーかなんで打ち勝つんだよ。すごいな身体能力。


「ギュルルルルルル!!」

「ん。輪切りにする」

「ギュルルル!」

「ん……硬……面倒……」


 弥勒先輩は足元から突撃穴掘してきたデスワームを軽々と避けて、再構築した鎌を振り下ろすが、硬い表皮に拒まれて無駄に終わる。

 いやよく動けるな。穴掘りの震動凄かったよ?

 後ろに跳躍した後にすぐ近付いて斬りかかるとか、並の人間には出来ない芸当だ。流石だね。


「ぎゅぷ…ちゃぷっ……ぎゅるるん!」

「……なんか知らないけど、キミは黙ってな」

「!? ーー!! ーー!!」


 触手状の液体を飛ばしてきたウンディーネ(堕)を、ボクの影で捕らえて、ブロック肉みたいに縛り付けて拘束する。隙間から水鉄砲を撃ってきたが、影と影の隙間に作った黒い障壁に阻まれ、無駄打ちに終わる。

 こら、暴れないの。間違って圧殺しちゃうでしょ。

 怒られるのボクなんだからね。


 そうやってボクが完封している間に、二人の戦況は早くも佳境に入りかけていた。

 いや早いな。流石、我が部が誇る戦闘民族……


「ん。なら……こうする」


 弥勒先輩の異能【死之狩鎌(デスサイズ)】は、かなり融通が効く異能である。再構築し直すという手間がかかるが、刃の強度や鋭さを自由自在に変える事ができる。

 限界はあるが、このデスワーム程度なら……


「ん。<分解> <切断強化>───<再構築>」


 死神の鎌はバラバラとなり、散らばった紫の粒子は再び弥勒先輩の左手に集まった。

 そして、再構築。死神の新たな鎌が顕現する。

 先程まで振るっていたものよりも遥かに大きなサイズを誇る大鎌を、弥勒先輩は───


「ん。重い……無理」


 持ち上げられてすらいないじゃないか。


「ギュルロォォォォオオ!!」

「ん。…ん」

「ギュボっ!?」


 それを嘲笑うかのように、刃がない側面の方角から突っ込んできたデスワームを……

 新しく追加錬成した大鎌で横から叩いた。

 いやまぁ確かに。斬撃は効きずらくとも、衝撃なら通用するよね。現にミミズはのたうち回ってるし。でも震動がうぜぇ。ふざけんな気絶してろや害虫めが。


「ん。おしまい」

「ギュオッ、ギュルオ……オ、オギォォォ……」


 ボクの殺意が通じたのか、弥勒先輩は構築し直した鋭利すぎる鎌をもって、デスワームを縦に両断した。

 いや呆気ないな。さっきまでのグダグダはどこへ。


 ん、さて。日葵とレッドオーガはどんな感じかな?


「ふっ……せいっ!」

「ガァアアア……グオォッ!!?」

「遅いよ」


 光剣を振るって棘付き棍棒を破壊した日葵は、そのままの流れでレッドオーガの右腕を切り落とした。

 更に片足の腱も切って、行動を阻害する。


 ……いつも手ぇ抜いてんな。正体を積極的に隠しているボクが言うのも何だかおかしいけど、日葵の動きはどことなく消極的である。

 元勇者とか関係なくキミなら一撃で真っ二つに出来るでしょうが。やりなさいよ。


 異能部で日葵が本気で戦う姿を見たことは無い。

 日葵が本気を出して力を行使する時が来るとしたら、この新世界が本当に危機的状況に陥った時か、出さざるを得ない時ぐらいだろう。

 でもさ、手を抜いてでも良いからさ。早く終わりにしてほしいんだなボクは。

 ウンディーネを椅子にするのも飽きてきた所だ。


「ひまちゃーん、早く終わらせて〜」

「! うん、わかった!!」

『なんて単純な生き物なんだ……』


 滅多に使わない略式愛称で要請すると、日葵の動きは見るからに早くなった。なんでや。

 なんで興奮してんだよ。興奮してんじゃねぇよ。

 廻先輩も珍生物を見たような声をするな。同意するけども。


 ……秒で首切ったぞコイツ。断末魔を上げる隙すら与えずに討伐しやがった……

 やっぱ勇者怖いわ。近付かんとこ。

 おいこら察知するな。寄るな寄るな寄るな! せめて返り血を拭ってからにしてくれ! 弥勒先輩もな!


 影から取り出したタオルを二人に投げつけて、汚い血を拭わせる。

 頭から被ってなくて良かったよ本当。

 どうせ着替えとか持ってきてないんだろ。知ってるんだからな。バスの中に入れとけや。特に弥勒先輩。


「ん〜よしっ……で、真宵ちゃん。説明求む」

「ん。教えて真宵」

『それは俺も詳しく聞きたいな』


 そして尋問タイムである。めんどくせぇ。


「知ってることは知ってるだけだよ」

「いやそーゆーの良いから。これって本当にあのウンディーネなの? 水の精霊なの?」

「どーせ呪いとかでやられたんでしょ」

『これが、精霊……?』

「ん。初めて見た」


 ふむ? あぁ、成程。勇者だった日葵でも、知らないことはあるのか。いや当たり前か。

 ……知りすぎてるボクがおかしいのか。


 三人の疑問に答えるように、ボクは言葉を紡ぐ。

 尻の下に椅子の代わりとして拘束したウンディーネの成れの果てを足で蹴り叩きながら。コイツ蹴られてんのに全然動かねぇな。ここに来る時点で疲労困憊だったのかな? 可哀想に。早く楽にしてあげなきゃ。


「ウンディーネというか、水の精霊ってのは精霊の中でもデリケートな種類なんだ。毒とか呪いを浴びるとすぐに影響を受けて、こ〜んな感じに魔物に転化して堕ちちゃうんだってさ。極稀な話らしいけどさ。

 ……って、先生の本に書いてあったから知ってた」

「ふーん……治し方は?」

「ないけど」

「えっ」


 何故か絶句された。肩を持たれて激しく振られた。いやそんなことされても無いものは無いよ。

 ボク、ウソツカナイ。いや本当に無理だから。


「精霊術師───彼ら彼女らと交信する者じゃないと治せないだから無理だよ。文献だと戦争が始まる前に後継者がいなくなって絶滅してたらしいけど」

「絶滅っていうのやめよ?」

「ん。どうするの」

『むぅ……はぁ……楽にしてやるしかないだろ……』


 廻先輩の悔やむような声。まぁ、仕方ない。だって救う手段がないんだもの。

 非道な手段としてはボクの【スキル】があるけど。

 可哀想なウンディーネ。精霊を視ることができる人間はいなくなり、エルフも戦争により減り、救ってくれる人間も今はいない。

 それに、こっちの世界に迷い込んだ時点で……ね。

 殺される以外の救いがない。かつての私のように。


 だが、日葵だけは納得しなかった。ウンディーネの終わりを良しとしなかった。

 ……いや、三人全員が納得していない、か。


「ねぇ真宵ちゃん。もしかしたら、今はあるかもよ」

「……なにが?」

「ここは異能共生社会。私たちの知らないスキルが、それこそ精霊を癒せるような異能持ちがいても不思議じゃない。だから、その……

 ……見つかるまで、保護って出来ないのかな」


 確かに、日葵の意見は一理ある。前世に住んでいた世界と激突して半融合した今の地球になら、精霊に特効する異能が存在していてもおかしない。

 でも、見つかるかどうかなんて分からない。

 廻先輩の異能でも、そんなことは占えない。方法が見つかるまで拘束なんて、無意味に等しい愚策だ。


 否定する案も、論破する言葉も幾らでも浮かぶ。


「………」


 だが……そんな目で見られたら。あぁ、もう。


「……はぁ。決定権は最初からボクにはない。部長や特務局の連中に通すべき案件だからね」

「! じゃあ!」

「せいぜい他所様に奪われないようにするんだね」

「ありがと! 真宵ちゃん!」

「ん。さすが真宵」

「褒められる理由がわからないんだけど」

『よし、わかった。俺が上に報告しておく。これ以上の危険がないか警戒後、平気なら学院に帰ってこい』

「了解です!」


 そも、ボクに了承とる必要ないよね? なんなの?


 はぁ。つくづくボクも甘い。昔から、身内判定した者には甘いと言われてきたが……

 こんな形で、改めて納得したくなかった。

 堕ちた精霊ウンディーネ。もし、彼女を“死”以外の方法で救えるとしたら、最早それは奇跡だろう。

 これは一種のギャンブルだ。影で縛ったからボクはわかるけど、このままだとコイツはすぐに死ぬ。

 短いタイムリミットの中、救いの手は現れるのか。


 救う為に死を先延ばす、苦しみを増やすキミたちの純情な想いと行い。

 この結末が、どんな展開を生んでくれるのか。


 今はただ、それだけが楽しみである。


前世でウンディーネにお世話になった事があったから助けたい日葵 + 見殺しにしたくない異能部

   VS どーでもいいから殺す事を推奨する真宵。


ファイ! 真宵の負け! カンカンカン!

要約するとこんな感じ。

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