02-26:明けない夜のパーリィ
あの連戦から一夜明けた次の日……の、放課後。
「これでいい? もういいよね?」
「だーめ。こっちの方が絶対美味しいって」
「えー……そうなん?」
「……もういいから早くしよーぜ」
ボクら都祁原一家の居候組は、家に帰る途中にある最寄りの大型スーパーに寄って買い物をしていた。
今日の部活動はお休みだ。
空想こと魔物がやってくる《洞哭門》の開通予知も今のところなく、無事与えられた休みを享受できそうである。
これからパーティするから、休むも何もないけど。
「ひまー、これは?」
「おっ、メニュー的に丁度よさそう……買お買お」
「こんなに買って平気なのかよ」
「いけるいける大丈夫。なにせ雫ちゃんと姫叶くんの二人ってタダ飯だとすごい勢いで食べ始めるからね」
「現金なヤツらだな〜」
「キミも人のこと言えないでしょ」
「まぁな?」
特に今日は一絆くんが主役みたいなもんなんだからたくさん食べるといいよ。
ボクはちまちま欲しいのだけ先取りして食べるし。
日葵も暴食する側に回ると思うから、四人で無駄に争いあって楽しみな。ボクはそれを肴に楽しむから。
一絆くんの初陣おめでとうパーティ、楽しみだね。
開催場所は都祁原邸。参加者はボクと日葵を筆頭に残りの二年生全員。つまり計五人での祝賀会だ。
時間は六時過ぎ。多分二人共時間通りには来ない。
今は四時だから……まぁまだゆっくり買い物できるね。
「シャンパン買お」
「ダメです。こどもビールで我慢しなさい」
「えぇ……一絆くぅん」
「そんな目で見ても許すわけないだろ」
「ケチんぼめ」
「当たり前なんだよなぁ……」
お酒コーナーに駆け寄ろうとしたけど襟を掴まれて拒絶されてしまった。悲しい……こどもビールなんてただの炭酸じゃんか……パーティするならシャンパンが定石だろ普通。飲ませて楽しませてよもぅ……
いっそこの場で駄々こねたろかな。
前々世に見たCMでお店の床板を壊す勢いで叩いてオネダリする少年がいたのはよく印象に残っている。
「だーめ。ほら、レモネードとか炭酸混ぜて割るとかそーゆーので我慢して」
「むぅ……仕方ないなぁ」
「我慢しろよ、ちゃんと」
「ふぁいふぁい……」
欠伸と共に答えてやれば、甲斐性なしそうな表情で首をすくめられた。いささか不満である。
安心しろよ。無礼講とは言え節度は守るさ。
それに今日はお酒に耽けなくとも面白くなりそうな予感がするし。
「こんなもんでどうかな?」
「いいんじゃねぇか? カゴもいっぱいだし」
「ならはよレジ並ぼ。混み始めてきた」
「お、ホントだ。れつご〜」
この後万単位でお金が飛んだ。結論、買いすぎだ。
◆◇◆◇◆
ちょっとだけ並んだが、無事食材の購入を完了したボクたちは家に帰ってパーティの準備を始めていた。
正確には日葵と一絆くんが、だけど。
ボク? アニマルのセラピーを求めてアニマルビデオ眺めてますがなにか。うさぎかわいい猫かわいい……
でもやっぱりカーバンクルが一番だなぁ。
あの桃色の毛皮、ずんぐりむっくり丸々とした兎の身体、額に燦々と輝く紅い宝石……思い浮かべるだけで不思議と和める。
会いたいなぁ〜会ったら会ったで制裁サンドバックキメなきゃだけど。
現時点では叶わぬ未来を思いながら感傷に浸る。
「かーくん、それちょっと焼き過ぎかな」
「えっ、ぅお!? あぶねっ……サンキュー助かった」
「焼けた合図はこの音が目安ね」
「おう、覚えとくわ……うーん、あ、こうか?」
「そうそう! 上出来だね!」
台所で和気藹々としている二人の談笑を聴きながら日葵手製のツマミを食む。生憎とお酒の嗜みは許されなかったので、レモンの炭酸割りで我慢だ。
砂肝を七味マヨで、ヤゲン軟骨をレモンで食べる。
レパートリーがおっさん臭いけど、中身いい歳したボクとしてはなんら問題はない。量も控えめに用意したからお腹がいっぱいになる事もない。
うーん、お酒が欲しくなる味だ。美味しい。
……なんかお腹が痒い。捲りやすい服で良かった。
「真宵ちゃんはしたないよ」
「ん〜……ねぇ、塗り薬どこだっけ」
「そこの戸棚。三段目」
「……なんでボクよりキミの方が詳しいん……?」
「最近整理整頓したからな。俺が」
青い蓋の円形の塗り薬を手に取り、中の白い薬液を指の腹に乗せ、下腹部の上辺りに薄く塗る。
下手に搔いて傷つけるよりこっちの方が断然いい。
まぁ“肉体の異常を拒む”能力を使えば万事解決なんだけど、それじゃあ色々面倒だからなぁ。つい昨晩に悦っちゃんからドクターストップかかっちゃったし。
下手に転生特典全開放したら死ぬんだろうなぁ。
死ぬのは本望だけど、ああやって望まない死と断言されてはなにもできない。
友の諌言を無碍にする事は流石のボクでもしない。
……まぁ自分の希死念慮はともかく、今問題なのはボクよりも一絆くんの方が家の彼是を知っていそうな事である。
どうしよ困った。先住民としての意地が……
「かーくん鶏がらの素取って」
「はい、これでいいか?」
「うん、ありがと。あ、その菜箸使っていいよ」
「おけまる水産」
……やっぱり思うんだけどさ、なんか二人の輪からボクだけハブられてない?
混ざってないのは自分の意思とはいえさぁ。
な〜んか寂しくなるんだよねぇ。元魔王と言えども辛いモノは辛いんだぞ。
うさぎが孤独で死ぬのもわからなくはないね。
今まではなんとも思わなかったけど……ああやって二人仲良く作業するのを見せつけられると、こう心にくるものがある。
かといって混ざるのも……プライドが邪魔がする。
ケッ! 勇者と異邦人、仲良く料理でもしてろやこんちくしょう。ボクは後でいっぱい構っげふんげふん。
やめようこの話。無意味な欲望が溢れてくるから。
あ゛ぁ〜、現実逃避で煙草吸いたくなってきた。
「はぁ……んっ、……来たか」
そのタイミングでボクの家に近付く二人分の気配に気付いた。そろそろ調理も終わりそうなのを見るに、図ったかのようなベストタイミングだ。
……なんか談笑しながら来てないか二人。
示し合わせたようにイチャイチャしやがってよぉ。姫叶くんが平安貴族よろしく好き好きアピールしてるんだろうけど、そんな婉曲なのに雫ちゃんが気付くか否かは明白だろうに……パパッと行けばいいものを。
「おっ……真宵ちゃーん、玄関の鍵開けといて〜」
「んー……ほいっと」
日葵も遅れて気配に気付いたようだ。流石というか勇者としての感覚はまだ鈍ってないようだ。
手が空かない日葵の願いを聞き入れて鍵を開ける。
わざわざ玄関まで行くのは億劫なので、玄関にある影を支配して伸ばして、遠隔で鍵を開けた。
その数秒後、インターホンが押されて音が鳴る。
「ばんわー、お邪魔しま〜す」
「お邪魔します。にによんでケーキ買ってきたわよ」
「きゃ〜、雫ちゃんってばわかってるぅ」
「めっちゃテンション高くなったなアイツ」
「好きなんだよ、そこのお店が」
慣れと経験で玄関が開いてる事を知っている二人は躊躇いなく家の中に入り、手土産片手にリビングまでやって来た。
雫ちゃんがほいっと手渡してきたケーキ入りの箱を真っ先に受け取りに行ったのはボク。贔屓にしているお店のだからね仕方ないね。興奮するのも仕方なし。
中身は……お、ショートケーキセットじゃん。
パーティ感覚でちまちま食べられるから良き。いい選択すぎて跳ねそう。ホント雫ちゃんってば優秀。
「よし、できた。そっちどう?」
「完の璧。味見もしたぜ」
「おっけー、じゃあ運ぼっか……姫叶くーん、机拭いといてくれない?」
「いいよ〜」
「私も手伝うわ」
ニコニコしながらケーキを冷蔵庫に入れている間に料理はできたようだ。
手洗いうがいを終えた二人も手伝いに入る。
う〜ん、豪勢。盛り付けも上手だよねキミたち……なんでもできるって凄いなぁ。天は二物を与えずって言うけど、日葵と一絆くんって三物以上与えられてると思うんだよね。
僻みですよ嫉妬ですよなにか問題ですか?
「タンドリーチキンあるじゃん。やふ〜、思ったより派手になりそうだね」
「足一つ使ってるからね。ほら、運んだ運んだ」
「ほーい……あ、洞月さんごめんそこ持って……」
「非力め……」
お肉を前に目をキラキラさせたり思ったより重くてコケそうになったり、ホント忙しないなキミ。
仕方ないので手伝ってやる。
見た目も女の子なのに力も女の子なのか。いやでも握る力とか投げる力は強いんだよな確か……あれ?
普通にバランス悪いだけか。どっちにしろ非力だ。
どんどん机の上に並べられていくパーティ料理。
前日から準備してたのもあるだろうが、随分手早く用意したものだ。
「張り切ってワイングラス冷やしちゃった☆」
「ならシャンパン出そうよ。またはワイン」
「あれお父さんの秘蔵じゃん。なんでか真宵ちゃんの名前とか年数とか書いてあったけど」
「じゃあボクのじゃん! 飲んでもいいじゃん!」
「……それって、その……ねぇ」
「うん、僕もそう思う。二人共、そのお酒は見てないことにしようね」
「「え?」」
「知識の振り幅極端だよなおまえらって……」
意味がわからないよ。ボクと日葵ちゃんはイマイチ理解できてないけどキミたち三人はわかるんだ……
なんで? ボクの名前入りでしょ? 別に良くない?
せがんでも教えてくれない。シャツを引っ張っても教えてくれる気配は無い。
なんで三人揃って無言の構えなの? 謎なんだけど。
「はい兎に角! 早く初めて楽しもうな」
「話の逸らし方が雑」
「国語力磨いたら?」
「姫叶、雫さん、コイツら殴っていいか?」
「パーティ終わった後でならいいよ」
「特に我関しないわ」
「薄情なヤツらだな」
好き勝手に言ったり言われたりしながらパーティの準備を終わらせる。机の上には色とりどりの手料理が並べられ、グラスには炭酸ジュースが注がれている。
豪勢で豪華なパーティメニュー。
一絆くんが異能部に無事入った事、無事に戦いから帰って来れた事を祝うパーティが、今始まる。
「じゃ、グラスもって〜……はい、じゃあ話す時間も勿体ないからいくよ〜、色々おめでと! 乾杯!」
「「「「乾杯!」」」」
日葵の略式すぎる挨拶を合図に、グラスを鳴らせて乾杯する。喉を通り過ぎる炭酸に内臓を焼かれながらジュースの味を楽しみ、グラスを置いてほっと一息。
なんか炭酸強すぎじゃない???
みんな心做しか噎せてるんだけど……おいそこ目を逸らすなメス。口にあっついソーセージ突っ込むぞ。
まぁ不味くはないから別にいいけど。これはこれで良き。
「刺身あるやん。誰か醤油取って」
「濃口と甘口があるわよ……なんであるの? ここってお店じゃないわよね……?」
「濃いので。ある理由は日葵ちゃんの趣味」
「趣味扱いなの? これって。普通に食べ比べたかっただけなんだけど……あ、姫叶くんワサビちょうだい」
「はいど〜ぞ。うん、サーモンが一番美味しい」
「わかりみが深い」
海鮮系だとサーモンが一番好き。焼き鮭にする前の生の状態だと尚良。炙ったりアボカドとか玉ねぎとか乗っけてたりするともっと美味い。
寿司屋行ったら先ず頼むよね。定番中の定番だ。
あ、ワサビ効いた。鼻がツーンとする。つらうま。
「そーいや一絆くん、精霊たちは?」
「ん? あーそうだな喚ぶか。功労者だし……えーっと杖杖杖っと」
『───…〜?』
『───…〜♪』
「よっ、お前らも食べるか?」
『『〜♪♪』』
思い出したかのように……実際は最初から呼ぶよう決めていた一絆くんに喚ばれた光と水の精霊二体は、彼女たちが食べやすいサイズに切られたお刺身を手で掴んで食べ始めた。
もきゅもきゅと動く頬、咀嚼して嚥下する。
で、献上品の美味しさの喜びを全身で表現するよう跳ねたり飛んだり楽しそうに動き回る。
うーん、一瞬羽虫に見えたボクは大悪か否か。
「やっぱり不思議だね、精霊って」
「な。俺もわかんねぇことだらけだわ」
「そういう種だからね。謎が多いからこそその存在を維持できる……なんて捉え方もあるぐらいだ」
「へぇ〜、真宵ちゃん博識」
「精霊に関してはアナタに聞いた方が早いんじゃないかしらね」
「……まぁ、否定はしないよ」
魔王の根源的部分は精霊に近しい存在だからねぇ。知ろうとしなくても詳しくなるよ。
……やっぱりボクって精霊に分類されるのかね?
そこら辺は叡智の塊たるドミィもよくわかってないみたいなんだけど。
あっ、前世のボク=精霊の近縁種っていうの初めて言った気がする。
「光の精霊ちゃんはまだ盾しか使えないの?」
「んー、多分そろそろだな。コイツも生まれたばかりらしいぞ?」
『〜♪』
「あっ、そうなの?」
「衝撃の新事実……」
道理で。その精霊が生まれたばかりかどうかなのかまではわからなかったわ。
色のいい人参のグラッセを齧りながら考える。
水の精霊は初対面の時に汚染されてたから、結構なお歳だと思うんだよね。
長生きなヤツほど自然と同化、近くなるからね。
呪いとか毒とかに汚染されやすくなる。若すぎてもダメな時はダメだけどね。
「……名前決めれえあげれば? その子たちの」
「えっ……そういや考えた事もなかったな……」
「精霊には基本名前ないよ。過去に名付けされてれば話は変わるけど……悦が何にも言ってこないって事は名無しだろうねぇ」
「……お前ら、名前とか……いる?」
『『!? 〜!!!』』
「あ〜、わかった。これから頑張って考えるよ」
『『♪』』
光の精霊とか水の精霊とか、キミが契約しているの以外にも山ほどいるからね。姿形で見分けはつくだろうけど、呼びやすい方が良いでしょ。
善意でそう言えば、わかりやすく彼は悩んだ。
うん、いっぱい悩むといい。名付けはいわば大事な儀式だからね。適当に決めると後で後悔するし、その子の今後の運命を左右する事もあるからねぇ……
まぁ可愛らしいのを付けてあげるんだね。
「精霊もだけど、俺には異能ってのもよくわかんねぇことだらけだなぁ」
「それは私達もよ。異能は科学的にも謎が多いわ」
「何処と無く魔法っぽいよね」
「……魔法、あんのか?」
「うん。異能はないけど魔法が使えるって人もいるにはいるよ。ま、皆が絶対使えるわけじゃないけどね」
「ほーん……」
姫叶の言うことは間違っていない。エーテル世界と融合しつつある地球には、魔力や魔法という非科学的な概念も持ち込まれた。
と言っても、大体が火や水などの属性魔法ばかり。
回復魔法や錬金術、黒魔術などの禁術などは使えるのは極端に少ない。年代によってはいない時もある。
……まぁ、魔法が使えるヤツ=エーテル世界で生きた前世がある転生者説が濃厚なんだけど。
歴史書に出てくる魔法使いたちは多分そうだ。
魔王軍で文官を務めていた者、楽園軍───勇者を筆頭とする対魔界連合───で戦っていた戦士やら、あの戦争の百年間で活躍した者が多い傾向がある。
ま、一つの目安だと思ってほしい。絶対ではない。前世関係なく適性を得た人もいるからね。
そもそも魔法を教えるって事自体、この新世界ではあまりやってないし。精々が対空想戦に使う魔導具の使い方や戦い方ぐらいしか教えない。
魔法は独学とか先人から学んだりとかが殆どだ。
ボクが把握してる限りだと、ドミィが超絶暇な時に魔法教室してるぐらいだね。元々先生をしてた過去があるから意外と頭に入ってきてわかりやすいよ。
「俺も魔法使えるかな……」
「僕は昔挑戦したけどてんでダメだったよ。適性値と魔力量が少ないから無理、だってさ」
「私は水魔法に適性があるらしいわ」
「そういう風に言うって事は、使ってないんだな」
「えぇ。私の異能、思い出してみなさい」
「……確かに要らなさそうだな」
雫ちゃんの【液状変性】は肉体をスライムに変える異能だけど、言い換えれば存在を構成する全ての物質を水に置き換えてるようなもんだからね。
言っちゃえば高位魔法を難なく使ってる感じ。
……悪く言えば魔法は異能、つまりスキルを模した模造品とも言えてしまう。根源と派生が違うからどちらも別の代物なんだけども。
人と猿みたいな共通を持ってるわけじゃないんだ。
「二人はどうなんだ?」
「私? 使えるよ。飛行魔法。魔法はそれしか使えないけどね」
「ボクは……まぁ闇とか光とかかな」
「ほーん……」
日葵に関しては【勇往旭心】の身体強化でなんとかなるからね。後付けの【天使言語】で回復魔法とかはどうにでもなるし……ホント、スキル様々だね。
昔は飛行魔法で飛んでたのに、今は殆ど天使の羽で代用しちゃってんのよね。天使の唄便利すぎない?
……ま、必要が不必要かは人によるってことだ。
「一絆くんには精霊魔法とほぼ同じ能力があるから、魔法適性もそっちに持ってかれてると思うよ」
「……確かに。魔法みたいなもんか、これも」
「そーそ。ぶっちゃけかーくんには必要ないかな」
「そうか〜」
ま、どんな魔法があるかを知って、その知識を元に異能を昇華させるのも良いだろう。一概に要らないと切り捨てる事はできない。
水魔法を元に液体の弾丸を作った雫ちゃんなんかが当て嵌る。自分の肉体を切り離すという先入観を排除して中距離攻撃の手段を確立させたのは心底すごいと思うよ。
おっ、この唐揚げ美味いじゃん。も一個も〜らい。
「最初は唐揚げすげぇ量だなって思ったけど、やっぱ減るもんだな……」
「姫叶くんの大好物だからね」
「いや、僕が一番好きなのは鯵のなめろうだから」
「渋っ」
いやキミの好みちょくちょく変わるじゃん……ここ三ヶ月は唐揚げだったじゃんか……
なに、今のマイブームはなめろうなの?
それ二週間ぐらいで飽きて別の新しい好物に取って代わられてるでしょ絶対。
「あ、そだ。これとこれ合わせると美味しいんだよ」
「嘘でしょ? ……え、ホントに美味しい……」
「すげぇ、よく知ってんなホント。こんな組み合わせ考えた事もなかったぞ俺」
「一時期家にある材料合わせて食べてたからね」
……え、待って何の話。人が手羽先しゃぶってる時にためになりそうな話するなよ。
ふーん……美味そうじゃん。それの名前何?
いやいいや。んなゲテモノ言葉にすんのも嫌だし。
なんだか真面目な話が展開されていったが、今宵は無礼講……好きなように楽しむと良いさ。
あ〜、圧力鍋でヤったトロトロ手羽先うますぎ。
「真宵、あんたそれ好きね……私のもあげるわ」
「ん〜♪」
「歯を使わないから楽で良い、だってさ」
「ババアかよ」
「ん、ちゅぱ……ぶっ殺すぞメス」
「うるせぇ〜!」
雫ちゃんは優しいし日葵はひとかすりもしていない翻訳するわ姫叶は侮辱してくるわ……なんなん?
骨を吐いた瞬間思わず罵倒しちまったわ。姫叶を。
逆ギレしてるけど悪いのキミだかんね。例えキミは知らなくともね、事実を言われたら女は怒るんだよ。
そこの勇者も苦笑いしてんじゃねぇ。キミも怒れ。
両手万歳してメス呼ばわりされた事に怒る姫叶くんだったが、ボクが投擲した手羽先の骨が喉奥に入って噎せ死んでしまった。
ナイスショット。そしてざまぁみやがれ。ははっ。
「おぇ、ぅ、死ぬ死ぬ死ぬ……」
「反抗するからよ、バカね……」
「だってぇ……そろそろ勝てると思うじゃん!?」
「無理よ」
「無理だね」
「無理だろ」
「馬鹿め」
「ぐすん……」
そのまんま雫ちゃんに慰められてろ。可愛いから。
全員から心無い一言を浴びてグスグス泣いちゃう系男子は横に置いといて、と。とりま手羽先追加しよ。
うみゃ〜……ひまちゃ、これ好き。毎日作って?
「すっげぇハマってるじゃん……」
「圧力鍋様々だね。電化製品店の新春セールで試しに応募した甲斐があったよ……うん、また作るね。はいこれあげる。食べな食べな」
「あいあと……ん、これお礼」
「お礼って言うかそれ私が作ったんだよなぁ……」
めちゃやわ手羽先のお礼にチーズマシマシ超美味いミニハンバーグをあげたら渋い顔された。
解せぬ。美味しいモノ交換したようなもんじゃん。
まぁ確かにここはボクが手作りのご飯をあげるべきなんだろうけどさ? ボク料理スキルZEROなので?
ここは諦めてキミのモノを献上するしかないのだ。
そんな事より手羽先美味しい。トロトロ好き。
「ん……ないなった」
「はいはい、また今度作ってあげるから。取り敢えず脂まみれの手とか拭こうね」
「ん〜……美味しかった。おなかいっぱい」
「え、もうか?」
「もう、おつまみ摘んでるから……」
鶏肉の脂でギトギトの両手をおしぼりで拭きながらご馳走様宣言をする。
流石に食べ過ぎた。でも一通り食べたよ?
ちゃ〜んと美味しかった。うちの宮廷料理人と同じレベルで美味だったよ。アイツはアイツで料理の味に癖があるからまた別なんだけど。
……確か、異能結社に居たよなアイツ……会うか?
「うーん。前から思ってたんだけどさ、洞月さんって意外と小食だよね」
「……皆より胃が細いんだよ。多分」
「ストレスじゃないかしら。同居人のせいの」
「それどっちだ?」
「茶髪の方よ」
「私のことか〜……え、そうなの?」
「否定はしないよ」
「してよ! 得意でしょ!」
「過剰な期待です」
敢えて理由を語るなら、前々世の通院生活の影響が濃いんだと思う。体質的にと病的にあんまりたくさん食べれなかったからなぁ……いつまで引きずってんだって話だけど。
あんまり食べようと思えない理由はそれだね。
食べようと思えば食べられるんだけど……なんかこう、もういっかなぁってなる。
まぁ雫ちゃんの言う通り、ストレスが原因の一つに数えられても不思議じゃないけどね。
日葵が原因かどうかは……諸説あるかな。
魔王時代の色々などえらいやらかしとか自業自得とか、そーゆーのが巡り巡って今せまって来てるのかもしれないし。
いやぁ、前世思い出すのがもっと早ければなぁ。
「ごちそーさま。あ、今更だけどクラッカーする?」
「ホントに今更だね。いいよ耳元でやろう」
「おいちょっと待て。それ俺の耳元で……なんて言わねぇよな? な?」
「「よくわかってんじゃん」」
「すまん助けてくれ! 俺まだ鼓膜くんと一緒に生きたいんだ!」
慈悲の乞い方おもしろすぎでしょ。誰よ鼓膜くん。
影から取り出したクラッカーを四人分、皆に配ってお祝いの準備をする。本当は食べる前にやるべきだったんだけど、揃いも揃って皆お腹減ってたから仕方ないね。はい動かないで〜、影で四肢拘束しま〜す。
椅子お腕を縛って固定完了! もう逃げれないね♪
はい、日葵も雫ちゃんもクラッカーどうぞ。
「おい待てなにそのクラッカー。デカくない? 人様に向けるサイズじゃないよな? な? やめよ? な?」
「やめない」
「やめろよ!!!!」
「でっか……」
「玉砕覚悟ね」
何を隠そうコレはドミナ謹製の特大クラッカーだ。影の中を漁っていたら見つけた。
懐かしすぎて涙がちょちょ切れそうだったよ。
……あれ、これの威力どんなんだっけかな。なんか記憶が……能力的に有り得ないなのに。どゆこと?
「あっそうだ。 《───♪》 はい、料理の上とかに結界張っといたよ〜♪ これで衛生面もバッチリ♪」
「嫌に乗り気だなァおい!」
「ほら諦めなさい。私たちは一蓮托生、楽しいことは全力でやる主義なのよ」
「だよね知ってた! なんで俺の周りの奴らはどいつもこいつもやべーのしかいねぇんだよ!」
「類は友を呼ぶから」
「成程?」
折角の料理が煙と紙吹雪で台無しにならないように日葵が【天使言語】してくれた。うん、気が回るね。
雫ちゃんも乗り気だ。流石は異能部二年生。
皆で共謀して一人を虐めるのって楽しいね。ボクは兎も角他三人は光属性だけど、やる時はやるからね。
この大きさだとボクらの耳も死ぬけど……
まぁ、そんときはそん時だ! 皆同じ覚悟で同級生をお祝いする気持ちで結託しているのだ。
……よくよく考えるとイヤな結託の仕方だな。
「死ねば諸共」
「楽しみは共有しなきゃなのよ」
「かーくん、諦めて死の?」
「遺産は僕がもらうよ」
「揃いも揃ってこんにゃろう……!」
んんっ、さて。そろそろ一絆くんも腹括ったかな?
「鳴らす準備できたよ〜」
「こっちもできたわ。はい、行くわよ」
「クラッカー構えー!」
「待て待て待て! やめろ耳元に構えるな!」
「せーの」
「時成さん早く家に帰ってきてこの暴走機関車共早く叱って更生させてくださあああああああ!?」
泣き喚く一絆くんには目もくれず、ボクたちは自爆覚悟で特大クラッカーの糸を───引いた!
ズドォォォォォォォォォォォン!!!!!!!!×4
ミ゜ッ……
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ───…!!?」
「ごふぁっ」
あまりの威力にボクたちは全員後ろに吹き飛んだ。
惨状? んな推して知るまでもない───大惨事だ。
結界を張られたパーティ料理は無事だが、机以外の椅子などの家具は吹き飛び、天井のライトは電球ごと粉砕され、窓ガラスにはヒビが入っている。
勇者と魔王以外の人間は軒並み伸びて死んでいる。
パーティは、確実に、崩壊した。
……まぁ、想定通りだわな。こうなると思ってた。
「……で、どうするのこれ。皆気絶しちゃったけど」
「どうするも何も……料理には保温かけとこう」
「お得意のアレでやっといてよ。百割は真宵ちゃんの責任でしょ」
「わーってるってばよ……【否定虚法】───“温度の在り方を否定する”、と」
「後で謝ろうねぇ」
取り敢えず皆が起きるまで一時間はかかったことをここに記す。
……三人の拳は粛々と受け止めましたよ、えぇ。




