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02-25:偽り重ねた空の色


 地下に埋まった秋葉原、その深奥に聳える魔導塔。


「最期に言い残す言葉はある?」

「ないよ〜♡♡♡ あ、でも……斬りたりない、とかは遺言に入るかなぁ♡♡♡?」

「クソガキ……」

「まぁまぁ落ち着けって」


 勝手に幹部の隠れ家に乗り込み部屋一室を占領した黒彼岸ことボクは、人様の目の前でやらかしやがった馬鹿を亀甲縛りにして吊し上げ影でつついていた。

 鋭利な刃のように伸びた影に斬音は一切怯えない。

 憤怒爆発寸前のイライラするボクを宥める蓮儀には悪いけど、こいつは1回刺さなきゃだと思うんだ。


 オラ、おめーのせいでボクの仕事が増えたんだぞ。


 淡い翠色に発光する魔石───エーテル産の魔力を帯びた拳大の石を埋め込んだ魔導機械、電気ではなく魔力を原動力とする装置を使って斬音を治療した。

 装置の形は……なんだろ、ポット型? うん。それ。

 回復の異能持ちは悪の結社にいないから仕方ない。

 肉体を治癒する効果を持つ回復液。それを生成する魔石のおかげで斬音の傷は癒せた。折れた肋骨も全て元に戻り。浸すだけで癒えるとか流石ファンタジー。

 異能が混ざった医療の神髄を見せられた気分だ。


 ……いや、これを造ったオルゲンがすごいのか。


「はぁ……(やつかれ)の仕事場で喧嘩するのはよしてくれないか」


 そう、この塔の主である八碑人もこの部屋にいる。前述の魔導機械をたった一人で作り、実は表社会でもその医術を奮っているお医者さんでもある。

 頭ゆるゆる辻斬り娘を治療するにはもってこいだ。

 幹部と準幹部の垣根などには目を瞑る。

 実を言うと、魔導機械を使う前に検診させろと彼に怒鳴られた。機械にぶち込む前に何処がおかしいのかハッキリさせて貰わないと困るらしい。

 いや話はわかるけど、怒らなくても良くない?

 まぁ終わった話だから別に構わないけど。


「悪いね八碑人。でも安全面はダントツでここが良いでしょ? 悲鳴もここなら外に漏れないし」

「あぁ……その通りではあるね」

「待って? 私死ぬの? え? もう? 早くな〜い?」

「天誅でござる」

「死ぬことに疑問を持てよ」


 自分の死にすら無頓着なある意味同類の馬鹿を影でハエたたきのように叩けば、吊るされた斬音は面白いぐらい激しく揺れる。

 きゃー♡♡♡なんて悲鳴は癪だが。怖がれよ。

 そろそろ縄が千切れそうな音がするけど、気にせず折檻を続ける。

 ……心做しか嗜虐心が掻き立てられるなこれ。


「まよねぇ〜!」


 と、だんだん鉄鞭とか針剣とか持ってきてコイツを虐めようか本気で悩み始めたその時。年端も行かない舌っ足らずな幼女の声に名を呼ばれた。

 数秒の硬直の後、仕方なく振り向いてみれば……


「……走ったら危ないよ」

「うゅ!」


 可愛らしい鴉の実験体、562番ことこーねちゃんが自動扉の向こう側からやって来ていた。

 今日も特徴的な黒羽と鳥脚は健在のようだ。

 ……教育上に悪いからこの子の前で斬音を折檻するのはよそう。目に毒すぎる。こんな幼女が嗜虐趣味に芽生えてしまってはたまらない。個人的にイヤだ。

 斬音は吊るしたまま影をしまって、とことこ鳥脚で駆け寄って来るこーねちゃんを迎え入れる。


「こんばんは、こーねちゃん」

「ばんわ! まよねぇ、らっこ! らっこして!」

「は? ……あー、はいはい。抱っこね」

「きゃー♪」


 ド深夜なのにこのテンション。精神年齢が異常値なお婆ちゃんには無理だな……これが子供パワー?

 というか催促激しいなおい。何故に抱っこ……

 あれか? そこに突っ立ってる男共よりも触り心地が良いってことを幼いながら察しているのか……?

 なんてね。単純に温もりが欲しいだけだろう。

 斬音の手が塞がっていなければ、きっとそっち側に行っていた筈だ。

 ……そっちを選ぶのかってムカつくかもだけど。


「まだ起きてたのか、こーね」

「こーねちゃんだぁ♡♡♡ 私もギュッする〜♡♡♡ 混ぜて混ぜてぇ〜♡♡♡」

「うわ、抜け出しやがった……」


 待って何その動き。視界の端で芋虫みたいに揺れた斬音が縄斬って抜け出しやがったんだけど。

 身体検査した筈では? どっから出したその短剣。

 刀は壁に立て掛けてかあるから油断してた。斬音に武器を持たせると普通に死ねるから危ないんだよね。

 風を切るように突撃してきたせいでこーねちゃんが潰れかけるは身体が仰け反りかけるはしたが、難なく二人分の体重をボクは受け止める。

 背中から抱き着かれたこーねちゃんは嬉しそうだ。

 こっちもよく手入れされた鴉羽のお陰で幸せな気分である。


「ギュ〜ッ♡♡♡」

「きゃっ〜♪ ぎゅ! ぎゅー!」

「暴れんといて……」


 滅茶苦茶キャッキャしてるところ悪いけど、激しく暴れ動くキミたちを支えんのボクなんだわ……

 こーねちゃんは兎も角、斬音は落ち着きを覚えろ。

 おまえもう時期15だろ。いつまでもガキの気分で生きていけると思うなよ。


「随分とまぁ……懐かれたものだね」

「父親なら助けて欲しい」

「恐れ多いなそれは。是非辞退させてもらおう」

「何言ってんの?」


 いやおまえ保護者。八碑人くん? 責任もって育てた実験体をボクから引き取ってくれないかな?

 何を謙遜してのか畏怖してんのか知らんけどさぁ。

 取り敢えずこーねちゃん引き剥がせ。そんで斬音に引き渡して満足させろ。低知能を二人も世話するのは若輩者のボクには無理なようだ。

 あとは任せた。骨と尾は拾っておく。


 かつての部下現上司にガキ共の押し付けに成功したボクは、鳥脚に力強く締め付けられて痛む腰を叩いて楽にしながら首も回す。

 めっちゃボキボキ鳴る……年かな。

 八碑人から哀れなモノを見る目で見られたので後でぶち殺す事にした。

 魔王軍の中では若輩だろうけどさ、キミも爺だろ。


「あらぬ風評被害を受けた気がするよ」

「あぷー♪」

「……ん〜、砂臭ぁい」

「おや、お気に召さないかい?」

「別に〜?」


 胸板に顔を擦りつけて嬉声を上げるこーねちゃんと白衣についた匂いに顔を顰める斬音を眺めながら、机に置かれたジュースを呷る。

 ん、ぶどうか。悪くない味だ……純度高いなこれ。

 そのままグラスを片手に椅子に腰掛け、足を組んで幼女との戯れに飽き始めた斬音を睨みつける。


 お説教タイム、再開である。


「斬音。ヤツらの前でわざわざ本名を名乗った理由を明確にどうぞ」

「……………えーっと、出来心で……てへ♡♡♡」

「蓮儀、心臓撃っていいよ」

「遠慮しておく。弾が勿体ない」

「酷くなぁい???」


 反省する気ゼロに見えるが、一応その気はあるのか自発的に正座している。それで帳消しになるわけではないが。まぁ何もしないよりはマシだろう。

 取り敢えず膝の上にこーねちゃんの頭乗っけとけ。


「ぷゆぅ」

「えっ……そこで寝られると困……えっ!?」

「秒殺じゃないか」

「最初っからお眠だったんでしよ」

「あの〜こーねちゃんどけてくれると嬉しいな〜って思うんだけどぉ……ね?」

「続行します」

「はい」

「え〜っ!?」


 そのまま長時間正座で足痺れさせてろ。


「まったく。蓮儀が居なかったら大変だったね。最悪どうするつもりだったんだよ」

「え〜っと、全力疾走? かなぁ……」

「無理に決まってんだろ」

「はぁ……おまえを回収しに出かけてて良かったよ」


 最近、辻斬りの趣味に没頭する斬音を回収するのが蓮儀の仕事になりつつある。最早日課だ。彼女が満足するまで決して近付かず、落ち着いてから傍に寄る。

 毎夜人の死を見逃すのは優しい蓮儀にとってすれば心苦しいモノだろう。その悲痛を我慢してまで斬音に付き合う蓮儀は優しすぎると思う。

 復讐に燃える傭兵の、僅かに残った優しさだ。

 異能部とは別ベクトルの……己の心を殺して明日を望んだ、彼なりの優しさ。


 それを授かる斬音の心情はどういったモノなのか。


 ……彼女のことだ。案外何も思ってないのかもね。


「ホントは見捨てても良かったんだけど、誰かさんの視線と良心の呵責で助けたあげたんだ。以降は危機感を持って行動するように」

「はぁ〜い……後で二人にお礼するね……」

「的と称して死体を寄越すのはやめろよ」

「そんなバカな事するわけ……え、まさか実話?」

「「…………」」

「成程、これが恐怖か」


 その誰かさんとはいつも隣にいる茶髪少女である。まぁアレの中身は少女なんて歳ではないが。あんまり言いすぎるとブーメランが返ってくるから口を紡ぐ。

 ……斬音のやらかし話にも目を逸らそう。

 精神衛生上、気にしないという行為も大切なのだ。どこかで聞き覚えのある死体土産なんてボクは聞かなかった。いいね?

 褒めて褒めて〜と言わんばかりのキラキラした目でワイバーンの首を口に食んで現れたペット枠の部下を思い出す。あの純粋さはすぐに無くなってしまった。

 あぁ懐かしや。再開したらサンドバッグしなきゃ。


 要らぬ決意を新たに一つ、ボクは心に刻みつけた。


「んあーっ、とにかく。次から気をつけてね」

「はぁ〜い」

「返事を伸ばすな」

「僕としても注意して欲しいものだ。君たち裏部隊の奇行で我々の所在がバレたら……ねぇ?」

「善処しま〜す♡♡♡」

「うん、反省って言葉を覚えようか」


 心配半分脅迫半分、いや脅し成分をいっぱい含んだ八碑人のお小言も斬音には通じないのか、キュピっと愛くるしい擬音が付きそうな顔で応じやがった。

 これには割と温厚な八碑人もにっこり。

 見て見て、眉間にシワがよってるよ。怒ってる証拠だね。


「そういえばだが……リーダーの表向きの立場、今日初めて知ったな」

「確かにぃ〜♡♡♡ もう昨日の話だけどね♡♡♡」

「揚げ足取るな」

「……不本意だけどね」


 ……猜疑心は含まれてない、か。

 完璧だね。まー、聞かれないと答えなし、言うわけないよね。伝える必要性も感じないし。

 キミたちに言ったとして、そこに危険は無いし。


「あっ……これ、組織的に大丈夫なの?」

「ははは、良くはないね。ただ、責める馬鹿共を潰す算段なら充分できてるよ……味わってみる?」

「えぇ〜、やっ♡♡♡」

「遠慮しておく」


 ……んー、ちょ〜っとだけ“綻び”はあるみたいね。


 異能部と黒彼岸の二足草鞋は正直言って褒められたモノじゃないし、なんだったら面倒な事でしかない。

 表の立場で積み重ねる善行。

 裏の立場で塗りたくる悪行。

 両立し得ない善悪を均衡させていられるのは、偏にボクが優秀だから……では無い。

 日葵と一緒にボクを保護したおじさんのお陰だ。

 癪だけど、イヤだけど、彼は見て見ぬふりでボクを支えてくれている。裏で何をしているのか、何をやらされているのか察しながら、そこまで深く詮索しないでいてくれている。それが助けになっている。

 まぁ……なにかしら企んではいるみたいだけど……

 恥ずかしながら、それが現状だ。バレたら飛ぶのは自分の首なのにね。


 ……不確かな支えに依るのも、悪くないなと思う。


 えっ? 日葵は助けにならないのかって? うーん……ならないけど。なるわけないけど。そもそも異能部に入った原因アイツだからね。ふざけやがって。

 拒否権も反対意見も承諾も無しに加入させられた。

 何度思い出しても腹が立つ。黒彼岸としての存在が不明瞭なままなのが唯一の救いである。裏からちょいちょいと探りを入れてくる特務局もまだボクの正体には気付いていない。


 二重三重の真実に、彼らは決して辿り着けない。


「疫蠍、アンタは知ってたのか?」

「ん〜? 勿論だとも。スパイとして情報をそれなりに送ってきてもらっているからね。お陰で異能部に補足される痕跡が例年より少なくなってきているよ」

「……ちゃんと貢献してたんだな」

「そこ疑うところ?」


 ……どうやら、改変(・・)は上手くいっているようだ。


 おかしな話だ。裏社会で生きていく彼らにとって、表社会、それも正義に属するチームに入るボクは非常に危険視すべき存在であり、排他すべき存在である。

 なのに彼らは受け入れている。

 やってもいない(・・・・・・・)スパイ活動をやっている(・・・・・)と誤認して勝手に頭の中で補完している。


 ボクが寝返る可能性も、二重スパイになる可能性も何一つ、欠片の一つも考えていない。

 そんな異常を方舟の彼らは当たり前だと認知する。


「ふふっ」


 三人がボクを視界から外している隙にほくそ笑む。傍から見れば好ましいモノを見て微笑む顔にも見えるだろう。もしくは愛くるしいモノを見た笑みだろう。

 そうなるように、そう見えるように書き換える。

 白は黒に、黒はより黒く、自分の都合のいいままに彼らの理を塗り替えているから。


 ───ボクの三人分の人生において、二度目の生で邪神から授かった転生特典の数々。

 【黒哭蝕絵(ドールアート)】を筆頭とする不穏な文字の羅列たち。

 魔界統一戦争から二百年後、恐慌した神々が全てを犠牲にしてまで封印する未来を選んだ、魔王の権能。

 それは世界そのものに干渉する万物改変能力。

 転生した 今やあそこまでの絶対性は失われたが……過去今までにボクが関わってきた人間を支配するなど容易い、容易すぎる話である。

 そんな物騒な力で今、彼らは支配されている。


 世界規模の改変能力───その名は【否定虚法(ネガ・オーダー)】。


 この世を維持する理を、事象を、概念を、あらゆる基軸と基盤を覆す。誰かの記憶だって、誰かに向けた想いだって、仲間意識、当たり前の常識、不変な筈の生死すらもボクの思うがまま。

 あらゆる全てを否定して、塗り替えてしまう力。

 必要なのは口上と右手のみ。たったそれだけで色を変えてしまう。

 恐れも憂いも何もかも、自由自在に書き換える。

 異常性の極み、そんな力をボクは持っている。


 一つ注意点として、あまりに頻繁に多用すると理の整合性が合わなくなって世界がぐちゃぐちゃになる。だから使用頻度は程々に留めている。

 尚、経験談。あの時はそれなりに焦った。

……ドミィとヴィに怒鳴られてやっと動いたから、そんなに焦ってなかったわ。無問題ってナチュラルに思ってたんだったわボク。成程これがサイコパス。


 ま、領域外の魔女と四天王最強の二人がビビる能力だと思ってくれれば。


「はぁ〜……さぁて。そろそろ解散といこうか」

「おや、説教は終わりかい?」

「あんまりやりすぎても逆効果でしょ。ねー?」

「さっすがリーダー、わかってるぅ〜♡♡♡」

「反省してないだろコイツ」

「それは言わないお約束♡♡♡」

「やっぱり絞めた方が良いかな」


 やっぱり従順な人形に塗り替えた方がいいかな?


「すぴー……すぴー……」

「おやすみ、こーねちゃん。他諸君は面倒事起こしてくたばらないようにね」

「要らん心配だな……じゃあな」

「ばいばーい♡♡♡」

「……やっと騒がしくなくなるねぇ」


 八碑人の胸板に頭を乗せて熟睡するこーねちゃんの頭を撫でてから、転移装置に向かって歩く。

 あの時に使い方は見て覚えたから自力でやれる。

 影を伸ばしてボタンポチッだ。斬音と蓮儀は塔内の休憩室に泊まるんだとか。

 お家ないからね仕方ないね。その日暮らし共め。


 二人とは通路で別れて、機械の重低音が静かに響く道を歩く。


 予定外の彼是が多かったが、まぁ収穫はあった。

 一応【否定虚法(ネガ・オーダー)】が上手く作用してるのか無事確認できただけでも結果オーライ。因果律に干渉できる者には通じにくい、なんていう欠点はあるが……

 そんな物騒なヤツ滅多に現れないから大丈夫。

 ……フラグかな? これ。


 今現在、恒常的に権能を発動させているのは三つ。


───【洞月真宵と魔王カーラを同一の存在であると結びつけ思考すること】、【洞月真宵が異能部として活動することへの違和感や疑問を抱くこと】……

 そして、【琴晴日葵と勇者リエラの正体を同一だと気付き確定させる行動、思考すること】。この三つを常に否定するよう世界全体にかけられている。

 決してボクたちの正体に気付けない、気付かせないように。

 思考や言動すら無意識に阻害するように。


 だから彼らは気付けない。

 魔王カーラがどんなスキルを使っていたのか知っていても、それをボクの異能と結びつける事は叶わず。

 勇者リエラを知っていても、同一だとは思えない。

 この世に生まれて自我を持った時、イヤな予感から慌てて塗り続けた二つと、日葵と再会した時に急いで塗り替えた一つ。

 この改変が無ければ、正体なんぞバレていた筈だ。


 ……これだけやっても、何処かしらに綻びができて違和感を抱くやべーのがいるんだろうけど。

 経験上確かなそれは、流石にボクでも探れない。

 思考を書き換えられるだけで、思考を読めるわけではないのだから。 


「……あぁ、そうだ。保険をかけておこう」


 ふと思い当たったボクは、今この場で新しいモノを否定して塗り替える事に決めた。

 正確には塗り直し、もしくは塗り重ねになるが……

 即決即断、やらない損よりやっての損。

 ゆるりと歩きながら魔力を高めるボクは、自動扉の境を超えて転移装置の部屋に入ってから立ち止まり。


 徐に、ダランと伸ばした右の掌を空へと向けて…… 左から右へと横に、右手をスライドさせた。

 瞬間、空間が波打つように不可思議な脈動をする。

 振動が伝わる。ボク以外には感知できない、世界に干渉する否定の魔力が虚ろな世界に満ちていく。


 そして、歪み捻れた世界に向けて……言葉を紡ぐ。


「【否定虚法(ネガ・オーダー)】───“その繋がりを否定する”」


 空間に溶ける言葉は、前述した三つの偽りを強固なモノへ。誰にも認識されない内に、また世界は新たな改変を受け入れる。

 そう、全ては魔王の思うがまま。


 下ろした右手を額に当て、指の隙間から空を覗く。


 未だ朝日の昇らぬ深い夜、薄く広がる灰雲から姿を現す美しき月光の空。

 今日も明日も明後日も。世界は静かに回っていく。

 例え理を書き換えられようと、例え概念を塗り替えられようと、世界は今日も生きている。


 視界とリンクした影から見た景色は、変わらない。


「───“其は世界を閉ざす者”……ってね」


 最後に漏れた呟きも、虚空に溶けて消えていった。























「僕、使うなって言ったよね?」

「待ってなんでここに……え、気付……えっ」

「今の闇ちゃん魂ボロボロなんだから世界改変しちゃダメってこの前言ったよね? 下手したら君の魂砕けて望まない死に方しちゃうって言ったよね……ねぇ?」

「えと……その……だって……」

「神サマの代わりに封印してあげよっか? それ」

「ごめんなさい」


 転移先に悦がいて叱られた件。解せぬ……何故……


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