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02-24:傷つきを未来の糧に


「───はい、ではこれより新学期第27回反省会を始めたいと思います」

「どんだけ反省してんだよアンタら」

「新入り、そこ煩い」


 はいどーも。悩みが多すぎて辛い思いをしている系女子の真宵ちゃんだぞ。みんな元気?

 ちなみにボクは元気じゃない。

 今絶賛鬱になっている。だって反省会だよ? 欠伸が出るほど面倒な時間じゃないか。加えてこの後ボクは組織的にもあのバカを叱りに行かなきゃいけない。

 帰還中に連絡したけど、ちゃんと出席すんのかな。

 これで来なかったら破壊光線撃とう。直線上にあるなにもかもが消し飛ぶけど、そんなもん些事だ些事。


「さて。では早速……今日一番の失敗についてだ」


 おっと。この部屋なんか空気悪くない?

 氷点下までガクンと温度が下がったような、そんな居心地の悪い空間になった。たった一言でこれだ。数秒前までは皆元気に和気藹々としていたのにね。

 はぁ〜やれやれ。

 やっぱり皆お子ちゃまだね。他人様の死にここまで悲しめるなんて。ボクには到底無理な話だ。身内なら兎も角だけど……

 つーか根本的にボクらのせいなんだよね今回の。


「今回、私たちのミスで一つの命を失ってしまった。まずは亡くなったオーケン氏に……黙祷」


 皆で目を瞑って合掌。死者を悼む。実際この行為にどれだけの意味があるのかボクはわからないけど……

 果たして、死者への祈りなんて意味があるのか。

 大分ひねくれている自覚はあるが、本気でそう思うボクはやはり異端なのだろう。ここにいる皆は真摯に死を悼み、心の底から嘆き悲しみ死なせた事を本気で後悔している。

 善人ならではの思考だ。やはりと言ったところか。


 そもそも異能部の皆が死を悼む程の相手では無いと思うんだ。

 だってそいつは最低一人は殺している人殺しだ。

 強盗犯罪とか誘拐とか、洗えば洗うほど黒いシミが出てくるような人間だ。死んだのはただの自業自得、巡り巡ってやって来た因果応報。

 いずれ来る結末でしかない。

 拘束して殺しやすい状況に置いてしまったなんて、彼らを責める理由にはならない。


 ……人殺しが何を言っても無意味だろうけどさ。


「……黙祷終わり」

「……こう言うのもなんだが、お前たちは大丈夫か? 特に望橋、お前は……」

「あー、まぁ。キツくないと言ったら嘘になります」

「……早く休めよ。それと気を重くしすぎるな」

「うっす」


 この中で一番死体に耐性がない人間は一絆くんだ。未だ時期的に新入生を迎えていない為、彼が最年少の部員だ。言い方的にはおかしいけどそういうもんだ。

 心配するのも仕方ない。

 我ながらびっくり。だってボクも心配してるから。まだボクにも人を想う心があったんやな……


 そうだな、一絆くんには後で労いのなんかあげよ。


「そういえば……」

「あぁ、オーケン氏の遺体は司法解剖に回される」

「司法解剖?」

「下手人である黒伏斬音……奴の異能についてなにかわかれば、とな。仲間だったジョム氏やユン氏からは許可を得ている。正面から戦った私たちですらあまり理解はできていないんだ……正直期待はできない」

「辛辣〜気持ちはわかるけど」


 姫叶の疑問に答えた廻先輩と、玲華部長の補足つき説明を聞いて感想を述べる。ぶっちゃけてしまおう、オーケンの司法解剖は無意味である。

 だってもううちのオルゲンがやったしそれ。

 指とか脹脛とか脇とかの薄皮だけを斬られただけで絶命している不可解さを、うちの結社が究明しないわけがない。調べても意味わからんくて頭傾げたけど。

 まぁ死を強制する異能って事だけは確かだ。

 なんか心臓止まって絶命してますってだけが彼らの取れる情報だ。


 ……ま、頑張って頭を捻らせてくださいな。


「今回のような死に直結する異能持ちが今後現れない可能性は低く、複数いないという保証はない。我々の仕事柄それらの可能性は拭えない。故に私たちは今まで以上に気を引き締め、被害を最小限に食い止める。そして早急に奴を捕らえる……それが私たち異能部ができる、犠牲者たちに手向ける最大の償いだ」

「はい!」

「気配探知の要訓練だな。あの脚力は危険だ」

「トレーニングメニューも見直せねばな……」


 ふむ……やっぱり異能部はしっかりしている。特に今代の彼らはメンタル的にも強い。わざわざテコ入れしなくても充分に精神が強く、前を向けている。

 当たり前かもだけど、意外と馬鹿にならない事だ。

 無辜の民を守る為にその異能を振るう彼らは、人の死というモノに敏感だ。想いが強く、それに引っ張られて戻って来れない事もある。

 そう考えるとオーケンの死は良いスパイスになったかもしれない。

 改めて人の命に向き合うという工程は大事だから。


 ……と、どうやら話が次に移るようだ。


「多世、手の傷はどうだ? 大事ないか?」

「ぅ〜はい、なんとか。こ、琴晴ちゃんの癒しの歌と仇白ちゃんの魔法で……一応完治は……」

「そうか。安静期間はどれくらいいるんだ?」

「長くて三日ですかねぇ〜。割とエグい傷でしたし」

「あー、確か治される側の体力も必要なんだっけ」

「うん、そう」


 今回の戦闘で一番ダメージを受けたのは多世先輩。たった一発の弾丸だったとは言え、軽く手が吹っ飛びかけたのだ。その恐怖はまぁ理解できなくもない。

 エーテル世界では日常茶飯事ですけどね。

 悲しいことに。なんて野蛮な世界なんだ。

 拳全体に包帯ぐるぐる巻き状態で項垂れている多世先輩にとっては地獄だろうが、暫くは右手を使わずにゲームを楽しんでほしい。あれだね、足とか身体とか使って激しい運動になるゲームやっててくれ。

 個人的に申し訳ないから少しはサポートするぞ。 

 二割弱くらいボクのせいで怪我させちゃったし……なんだか本当に申し訳ない。うちの部下がすんません。

 後でしっかり詫び入れます。


 ……でも異能で斬音の脳停止させようとした先輩も悪いところありますよね。

 なんだったら先輩を撃ったのって蓮儀……ん?

 あれこれもしやボク悪くないかなさては。取り越し苦労ってヤツじゃ……

 

 うん、きっと気の所為だ。先輩は心配しなきゃね!


「ん。つついていい?」

「や、やめてくださぃぃ……」

「えい」

「ぴぎゃ」


 というか今心配されるべき怪我人は弥勒先輩に手をツンツンされて悶えている。

 遊ばれてやがる……毎度の事ながら不憫だな。

 かわいそ。


 まーでも、犯罪者捜索系の任務は暫くないかな。

 他の部員も総じて結構な怪我してるし……いやでも待てよ? 無傷のボクとか日葵とかは戦えって言われる可能性が大……ワァ……いやぁ……

 今すぐ皆には立ち上がって戦場に行って欲しい。


 ……完全治癒とかキミできんだろ。やれよドミィ。


「すぴー……すぴー……」

「いいご身分だね、本当に」

「ふぐっ」

「やめろやめろ」


 ソファを一つ堂々と独占する親友の鼻をつまむ。


 そう、治療には今膝の上で寝ている悦も頑張った。

 一番重傷だったのは多世先輩だが、人工的な砂嵐で全身に傷をつけた玲華部長と弥勒先輩、鎌鼬を浴びて切り傷だらけになった一絆くん、そんで異能部の皆にフルボッコにされた外国人二人……めっちゃ多い。

 なんだったら姫叶と雫も小さなかすり傷があった。

 部室棟にある医務室に試作回復装置はあるにはあるのだが、なにぶん不完全で置いてあるだけの代物だ。有事とはいえ誰も使いたがらなかった。

 かといって日葵の異能精度だと、一人ずつしか治癒できないなど面倒な謎制約があり、歌を聴いても治癒対象者以外の第三者は癒せないなんていう仕様を持っている。非常に非効率で面倒臭い。なので研究室に居座って珍しく爆睡かましていた悦を叩き起し、魔王の権限を使って命令、治癒魔法を全体に使わせた。

 結局多世先輩は念入りに日葵が治癒したけどね。

 んー、やっぱり自分の異能、もといスキルじゃないからかね、あの使えなさは。後付けの天使語歌唱概念微干渉スキルなんてやっぱり日葵には要らないんだ。

 そんな能力捨てちまえ。口には出さないけど。


 ……日葵もだけど、人を助けられる力って凄いね。

 悦も手札の一つとして治癒とか再生とかの利便性の高い魔法を常備している。生憎とボクは持ってない。

 二人とも攻守揃って万能なんだよなぁ……

 対してボクは害悪系のスキルや魔法、呪いばかり。なにかを壊すことに特化している。そうゆう人助けの魔法とかは相性が悪いのか覚えられなかった。

 適性皆無だってさ。どいつもこいつも酷くない?


 ……ムカつく。取り敢えずコイツの鼻強くつまも。


「んぎゅ」

「……苦しんでる顔が一番かわいい……」

「おまえやっぱり病んでるよ。短い付き合いの俺でもわかる」

「ひっど傷ついた。慰謝料請求します」

「俺、無一文なんだ」

「借金賭博売春受け子強盗身売り実験体地下労働」

「やめろやめろ闇のラインナップやめろ」


 えっちゃんはデフォがドヤ顔だから……こう、ね?


 つか怯えんなって。安心しろって。今例示したのはボクがお誘いできる給料高めでちょーっとだけ生死が不安定になる危ないけど良いバイトを並べただけだ。

 地下労働なんて男手はいつになっても必要だし……

 もしくは無難に合法非合法のカフェとかバー。

 予定だと数日後にメイド喫茶とかの門戸を叩く計画だから、一絆くんも一緒に放り込んであげようかな。

 手を汚さないで稼いだお金も今後必要だし……

 ……そろそろ闇市の警備員募集もあるし、誘うか?


 にしても、予定とはいえ魔王がメイドの真似事…… うん、関係者に知られたらドヤされる。前世働いてた連中には絶対なんか言われる……と思う。

 魔王城にはボク直属のメイド部隊がいたんだけど、何故か暗殺部隊とかも兼任兼業してたから物騒な集団なんだよ。王の預かり知らないうちに死徒の“無貌”もちゃっかりそこに入隊してたし……なんで?

 あれ、やっぱりバイトしない方が良いか……?

 やだなぁ、王は働かない!とか普段ニートなのに!みたいな解釈違いとかで死にたくは無い。


 いや死にてぇよ。誰か早く殺して死なせてくれ。


「リスカしよ」

「よーしよしよし」

「んゅ……」

「情緒不安定すぎるよね」

「姫叶、やっぱり病んでるよなコイツ」

「なんだったら琴晴さんもだよ」

「見てて面白いわ」

「はいそこ静かに」


 外野が煩い。もう面倒臭い。まだ忙しいってのに。


「間があればすぐに無駄口を叩くよなお前たちは……まだ部活中なんだが?」

「これを部活と言い張る副部長に二百点」

「眼鏡のセンスが悪いからマイナスしましょ」

「星占いおにーさんに六億点」

「……なぁ、こいつら首にしていいよな。物理的に」

「短気は損気だぞ、廻」


 毎日恒例の副部長煽りも恙無く完了。最早日課だ。というか毎回思うけど雫ちゃんは廻先輩の眼鏡の何がイヤなんだろうか。極一般的な市販品だけど……

 もしや面白眼鏡を付けろっていう遠回しの要求?

 それとも大好きな姉に近付く不埒な男絶対許さないシスターってこと?

 ……あ、これ後者だわ。ボク頭いいからわかる。

 どうしよ。これツッコんだ方がいいの? ダメかな? ダメか。ダメなのね、はいはい。


 姫叶くんにダメってアイコンタクトされちゃった。


「ふぅー……さて、話を戻すぞ。特務局に引き渡した二人はこれから取り調べを行う予定だ。その結果次第で私たちの動きも変わる」

「奴らの組織を滅ぼしたのが誰か。それすらわかっていないからな……」

「ほぼ確実にこれからは特務局主導の任務が増えると思う。皆、心して準備するように」

「はーい」

「了解です」


 くだらない彼是を考えている間に話は進んでいく。戦闘以降あの二人を始末する部隊は派遣しなかったのは失策だったかな。いやそれだと足が着く。護送車に細工して事故を装い殺すぐらいすれば良かった。

 黒彼岸的には死んで欲しいヤツらだったからね。

 下手に裏社会の秘密とか噂を話されても困るし……

 マジでアイツらに生きてもらって困るのはマジ。

 異能結社の情報がちょこっと漏れる。誰が俺たちの組織を潰しましたーとか、どんな異能がこうバンバン飛び交ってこーなってましたーとか、色々。

 情報は宝だ。そこから身元を炙り出されたら組織的損害が酷い事になる。ボクの今後の為にも、ね。


 もうどうしよっかな。手っ取り早く影伝って獄中で心臓貫いて……今のボクの攻撃射程範囲だと……

 うん、近付かないと無理だ。

 全盛期みたいに都合よく超遠距離から暗殺する事はできない。哀しいかな、今では無理だ。人間の身では昔できた事の八割が難しい。本当に辛い。


「暫く一人行動はよした方がいいな。顔を覚えられて狙われる可能性がある」

「……ふむ、家に帰るのも危ないな」

「……俺や枢屋は兎も角、他は平気だろうが」

「わ、私は泊まりますここに。何がなんでもお家には帰りません! ごめんなさい!」

「ん。そんなに家の場所知られたくない?」

「ふぇ、いやあのその……えへへ?」


 あー、そうだ。本当は異能部の皆も始末対象としてコロコロしないといけないんだった。ボクらの活動の邪魔になるのは確実だし、組織的に物事を語るのなら今この場で暴れて一網打尽にしなきゃいけない。

 まぁ今それができたら苦労しないんですけど。


 あーあ。何考えてんだが、邪魔しかしないな本当。


「……なに。なんで押さえてんの」

「え〜? なんとなく。触りたいから触ってるんだよ」

「物は言いようだね」

「あはは、なんのこと〜?」

「何の話してんだおまえら」

「いや別に」

「なんでもないよ〜♪ ギュッてしてるだけ〜♪」

「ふーん?」


 会話からわかるとは思うが、なにやら不穏な気配を直感で勘づいた日葵に今抱き締められている。皆にはバレない位置で利き手も塞がれた。

 別に実行に移すつもりはなかったんだけど……

 勇者にやんわりと警戒されてる状況じゃあ、何にもできないね。大人しくするよ。だから離れて欲しい。顎を撫でるな胸を揉むな頬を擦り付けるな鬱陶しい。

 いい加減にしろよマジで。大声で泣き喚くぞ。


 つーか年甲斐もなくセクハラすんな。中身考えろ。


「……そーいや、協力者とかいなかったね?」

「此方でも調べてみたが、どうやら補助をしていると思われていた末端は一人もいなかったようだ。これは俺たちの調べ不足だな……いや、先入観の問題か」

「ん。復讐心は凄い」

「そうだな……お前が言うと洒落にならん話だ」

「ん……?」


 協力者もなにも全滅したみたいだからね、あそこ。いやぁ準幹部のまとめ役を自称してるアイツも面倒なことをしてくれたね、ホント。

 監督役として眺めてて幹部も見逃すなよ。

 いやわざとか。どうなるんだろーとかの興味本位で生きてんの見逃したんだろどうせ。知ってるぞボク。


 おまえに言ってるんだぞ人狼。聞こえるか人狼。


「確か名前は黒伏斬音……本名か?」

「朔間先輩曰く住民票に該当者はいない、と数分前に電話が来た。だからと言って偽名とは限らんがな」

「むぅ……戸籍が無い可能性もあるのか」

「て、手が直ったら私も調べてみますぅ……あ、でもデイリー消化しなきゃ……」

「もっと優先すべき事があるだろ……」

「ないですね」


 先輩ってゲーム云々が関わると一切吃りませんよねホント何故か。めっちゃハキハキ抵抗するじゃん。


「依存症治療の為に隠しません?」

「ぅぇッ、なななんでそんな酷いこと言うのぉ……」

「わぁ、ガチ泣きだぁ……」


 姫叶くんひどーい。ギャン泣きしちゃったじゃん。


 ……ん? そーいや斬音のヤツ堂々と本名名乗ってた気がす……マジで何してくれちゃってんの?

 処刑案件かなー、これは。

 本気と書いてマジと読む。そのレベルのヤバめ。

 所属先とか余計な事は言わないでくれて良かった。今はただそれだけが安堵。そこだけは褒めたろ。それ以外は全てダメだ。ダメダメのダメだ。


 なんであんな社会不適合者を部下にしてんだろうかボクは……

 嫌がらせかな? ……うん、そうに違いない。

 これは処刑案件ですね。事が済んだらボス気取りのエフィとかボクより上の地位にいる幹部五人は総じて叩き潰さねば。躾が捗りますよこれは。わくわく。

 と、邪念が多いな。考えるべき事が多すぎんだよ。


 いつもどーり頭の中で脱線事故を起こしていれば、長ったらしい反省会はポンポン進んでいた。

 これ聞いといた方が良いやつかな。

 ……耳だけはすませとこ。目はちょっと開けるのが難しい。日葵のなでなでが眠気を……ちょっと……


「望橋くん、少ない手札でよく戦ってくれた。本来はあそこまで任せるつもりはなかったが……改めて君の成長を実感したよ。ただ、自分の身をしっかり顧みることを忘れないように」

「うっ……はい」

「異能では手が負えない怪我になれば、最悪死ぬぞ」

「肝に銘じておきます……」

「よろしい……でも正直助かったよ。ありがとう」

「……ま、俺ですしね〜?」

「すぐ調子になるのは良くないな」

「そこはもっと上げて欲しい……」

「ははは」


 まー確かに、ぶっつけ本番で初心者を戦わせたのは良くなかったね。そこは部長たちの采配ミスだ。でもそれをカバーしたのは一絆くん自身。誇っていいよ。

 ……普通なあんなミス少ないけどね。

 今回はイレギュラーが多すぎた。相手が思ったより強力な異能を使えたのと、想定以上に疲弊していたこと、そんでもって数が減ってたのが色々と拗らせた。


 ……あと、部室棟に戻ってすぐトイレに駆け込んだ件については黙っておこう。

 時間が解決してくれる……筈だ。

 ボクにセラピストの真似事は無理だから、やるなら日葵に楽にしてもらってほしい。


「実戦投入が一番効果的とは言え、此方も君に申し訳ないことをした。傷が残らなくて良かった」

「私の異能のお陰ですね。もっと感謝してください」

「なら団体行動しっかりしてくれないか?」

「……だってさ真宵ちゃん」

「まぁ無理だよ日葵ちゃん」

「いつになっても悩みの種だな、お前たちは……」


 失礼な。これでも学院の優等生で通ってるんだぞ。


 ……自分たちの失態を嘆いている彼らには悪いが、ボクはそれを仕方ない事だと思う。

 なにせここにいる人達は皆まだ子供なのだから。

 まだまだこれから。これから学んでいけばいい。


 人生失敗した/しているボクが言うんだ。素晴らしい教訓だぞ。


「雫たちを工場内に入れたのはベストだったか否か。廻、お前はどう思う?」

「……恐らくベストだ。得体の知れんヤツらと情報が無いうちに交戦するよりはマシだろう」

「……本当に何者だったのかしらね」

「何かしらの組織ぐるみなのは確実だろうな。生憎と不明点が多すぎて断言できないが……」

「やっぱり方舟かな」

「最悪を想定するならそうだな」


 バレテーラ。まぁこの魔都アルカナで最も存在感を露わにしている組織は?って聞かれたら十人中八人がうちの異能結社の名を挙げるだろう。

 巷でも名前だけを知っている人はいるにはいるし。

 やっぱり秒で想定されたわ。

 ……これ黒彼岸に辿り着くのも早い気がする。対策張っとこ。ボク無関係ですアピールをする為にも。

 さっき言ってたバイト増やさな。数ありゃ平気。


「では最後に。洞月、琴晴……起立」

「んぇ?」

「ふぁ?」


 最後。最後に何すか。なんでか知らないけどボクは日葵と一緒に立つよう命じられた。

 強制的に断頭台に立たされた気分。経験はある。

 マジでどゆこと? ボクが何をしたって言うんだ!


「何故」

「え、私も? なんで?」

「前半戦」

「お前たち……何処で、何を、していた?」

「「修羅場ってた」」

「裁判! 裁判のお時間です!」

「解せぬ……」


 仲間をボコる時はいつも以上に結託するわ、なんかこぞって和気藹々とするわ……そういう所だぞ。

 本当に面白いね、キミたち。

 どうやら皆が強盗たちと戦っている時に日葵と夜の廃屋デートをしたのがお気に召さなかったらしい。

 いやぁ〜、だって面白味が無かったんだもん。

 流石に斬音がひょっこり顔出した時はビックリしたけど……


「被告人、言い訳をどうぞ」

「月が綺麗だったから……」

「遊撃必要ねーなって……」

「判決を言い渡す。死刑!」

「異議あり! 弁明の時間を要求する!」

「異議を却下する!」


 酷くね? 裁判長(部長)横暴すぎない? なんなん?


 無意味に吊るし上げられた。まぁ気持ちはわからなくもない。自分たちが傷を負っている間、ぬくぬくとお散歩してたら殴りたくなる。ボクもそうだ。

 でも仕方ないよね。

 強き者は頂上から傍観するものだ。強くなりすぎた弊害とも言える。ボクらからすらばまだまだ稚児如きの彼らに試練を課すのは当たり前なのだ。

 こう自分擁護してるから刺されるんだろね。はは。


「まったく……まぁいい。二人には後で飛鳥さんからお叱りがあるからな。ちゃんと反省するように」

「え?」

「ちょ……」


 鳥姉はなぁ。いざお説教始めたら長いからイヤだ。おじさんはボクらの中身を知ってるから話自体は割と早く終わらせてくれる。ただ鳥姉は何も知らない。

 知らないから普通にガミガミ言ってくる。

 日葵ちゃんはごめんなさい〜う〜とか言って可愛く叱咤を受け入れているが、ボクには到底無理である。

 ……ぶっちゃけ、叱られ慣れてないのもあるけど。

 魔王になる前もなった後も、なんなら前々世の通院生活でも叱る叱られるって事は無かった。あるとしても怒鳴ったりブチ切れたり半殺しにしたりだ。

 バイオレンスすぎない? あ、勿論前世の話しね?


 取り敢えず、どうやって説教回避しよっかな……


「む……そろそろ終わりにすべきか。よし皆、今日の活動はここまで! 課題がある者は速やかに終わらせ、怪我した者は早く寝て英気を養ってくれ。では解散! お疲れ様! また明日!」

「めっちゃ急展開……はい、お疲れ様でした!」

「お、お疲れ様でした〜」

「毎度の事ながら唐突。乙でーす」

「はよ帰ろ」

「待って真宵ちゃん」

「や」


 ま、どーにでもなるだろ。たかがサイコキネシス。


 またまた内心あれこれ考えている間に賑やかすぎた反省会は終わりを迎えた。足早に切り上げて帰るよう促す部長のスピードには関心を覚える。

 集団で帰るようにもしっかり促してくださいな。

 困惑する一絆くんには悪いがこれが平常なのだ。

 割とこの人唐突だから。聡明だけど定期的に何故か聡明じゃなくなるような人なんだ。なんでもスピード解決すればいいってもんじゃないんだよまったく。


 っと……腕引っ張んないでよ。危うく後ろに倒れるところだったぞ。


「そーだかーくん。初陣おめでとう! 今日は遅いから明日の夜にパーティしよっか!」

「お、おう。いやそこまでやらんくていいぞ?」

「僕も呼んでね」

「私も呼びなさいよ」

「めんど……」

「じゃあ二年生だけでやろっか♪」

「ナチュラルに先輩ハブるじゃん」


 そういうことになった。いやぁ〜、楽しみだね。


 ……これから斬音に反省を促す会議も裏でするから憂鬱なんだけどね。

 あー、やだやだ! 部下って大事だねほんと!


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