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02-16:仲間はずれと拾い物


「……ねぇ」

「えーっと」

「仲間外れ……ってこと?」

「うん。ごめんね?」


 うわーん、ボク真宵! 気持ちよく寝ていたら、同じ屋根の下に住んでるバカとアホが、マジで知らん内に師弟関係を結んでいたぞ! ボクは! ハブですか!?

 本当にわけがわからないよ。なんでどうして……


 しかも思い付きで始めるとか。計画性はないの?


「言ってよ」

「ごめんね……普通に熱中してて忘れてた」

「混ぜてよ」

「……! 私と真宵ちゃん愛の共同作業……!?」

「ごめんやっぱいいや」

「嘘嘘嘘嘘! じょーだんだから!」

「は?」


 庭が騒がしい(当社比)と思って上から見てみれば、日葵が一絆くんの背中に乗って腕立て伏せさせてたりとか、なんかボディタッチが多いトレーニングをしてたりとか……危うく脳が破壊されるところだったぜ。

 魔王のハートは脆いんだぞ。大事にしろ。


 驚きのあまりベランダから飛び降りちゃったよ。


 え? その後? 日葵に咄嗟に抱き抱えられて怒られたけど……まーそこは別に良い。

 でも良い子は真似しちゃダメだぞ。


 兎に角、ボクは御立腹なのだ。怒り心頭なのだ。


「はぁ〜……で、実際どうなの?」

「モーマンタイだよ。私を誰だと思ってるの?」

「異常者」

「あのね、シンプルな言葉って意外と傷つくんだよ。知ってた?」

「へ〜! 初めて知ったよ。参考にするね」

「しないで」


 言い争いはソファの上で。くだらない会話を延々と続けて、シャワーを浴びている一絆くんがリビングに戻ってくるのを待つ。

 朝ごはんを並べるのは彼が来てからだ。

 本当は住人全員で食べるのが我が家のルールなんだけど……生憎家主のおじさんは今日も早出。

 鳥姉こと燕祇飛鳥は独り立ちしちゃったから不在。

 つまり三人でのご飯だ。最近は一絆くんが加わったけど、前は二人だけでずーっと食べていた。おじさん帰ってくる頻度少なくない? もっと一緒にいようよ。


 ……お腹減ったんだけど。まだかな一絆くん。


「先食べていい?」

「早速とばかりに破るのやめな?」

「お家芸……」

「そんな芸嫌だよ」


 正味な話、従わなくても良いのにね。日葵は律儀に守ってるけど……付き合わなくても良くね? ってボクは毎回思っちゃう。これもダメな人の思考なのかな?

 まあ、仕方なくボーッと待ち続ける。

 どうせ十分もかからない。湯船に浸かるわけでもなく、ただシャワーを浴びるだけなのだ。平気平気。


 ……それから三分程経って、少し。洗面所の方からドライヤーで髪を乾かす音が聞こえてきた。


「やっとかぁ」

「お皿に盛ってくるね」

「拭くのは……やらせるか」

「やりなさい」

「オカンか貴様は」


 渋々テーブルクロスを手に取って、各々行動開始。丁度一絆くんがリビングに来たタイミングで机の上に朝食が並び終わった。

 黒い学生服───学院指定のズボンとワイシャツを身につけた一絆くんが、乾かした髪の毛を指で荒く乱しながら椅子に座る。

 場所は俗に言う誕生日席。ボクの斜め右だ。


「シャワー助かったわ」

「ど〜いたしまして。ほら、ご飯できてるよ」

「早く座れ。食べれないだろボクが」

「おまえホント自分本位だな……嫌いじゃないぜそういうの」

「キミに好かれて何か得でも?」

「特にねぇな」

「「───“とく”だけに」」

「ごはん抜きでいい?」

「ごめんて」

「ゆるして」


 家庭内の最上位者は日葵だ。悲しいかな、基本的に何もしないボクは最下位の自負がある。

 下手に逆らって怒られると三食消えるからね。


 机の上に並べられるのはマーガリンを焼いたパンとベーコンエッグ。ミルクやポタージュスープも追加で置かれた。今日のメニューは洋食のようだ。

 三人でいただきますを言って、早速口に頬張る。

 ……うん、安定の味だ。美味しい。


「ん」

「うおっ……やっぱ慣れねぇなそれ」

「我慢して」


 ふとテレビが見たくなったので、コップから伸びる影を操ってリモコンを弄り、ボタンを操作。

 その奇怪光景を見てビクッと震える一絆くんには悪いが、この家では当たり前の事なので諦めて順応してほしい。


『───、──、──────』


 液晶に映る内容を次々と変えていくが、どれも面白味がないものばかり。

 時間帯の問題でニュースばっかなのは仕方ないか。

 天気予報ばっかだ……


「午後は雨……めんど」

「外、あんなに晴れてんのにか?」

「傘もってかなきゃだね」


 雑談を交えながら朝食を平らげる。日葵が三人分の皿を重ねて片付けている横で、ボクは卵液で濡れた指を舐める。うーん、思ったより半熟だった。うま。

 真顔で同居人二人が凝視してくるけど、無視無視。

 ……そんな見ないでもらえます?


「エッチだぁ」

「あぁ」

「正直者はすぐ殺せって格言知ってる?」

「悪ぃ。口が勝手に……」

「酷いよ真宵ちゃん……」

「ボク被害者。逆だぞ逆」


 同調すれば許されるかもと思って世迷い言を言った馬鹿二人の頭にたんこぶの山を築く。

 まったく。せめて隠せ。隠す努力をしろ馬鹿共。

 溜息を吐きながらキッチンで汚れを洗い落として、グ〜ッ……と腕を伸ばす。ついでに肩をボキボキ。

 すげぇ鳴る。酷いな、ストレスかな。チラッ。


「……まるで私が原因みたいな……」

「7割強」

「嘘でしょ?」


 実際の主原因は黒彼岸案件だと思うけどね。


プルプルプル……


 ……おや? 珍しい。滅多に連絡が来ないスマホが、机の上で音を鳴らしながら振動している。

 うるさいな。朝から何の用……

 スマホを手に取り相手を確認してみれば、そこにはある人物を現す名称が。


 『魔弾の射手』


 ……まさかの黒彼岸案件。イヤだなぁ、出るの。


「ごめん電話だ。ちょっと外す」

「あーい」

「おう。いってらー」


 扉を開けて廊下に出る。聞かれては不味い。未だに鳴り続ける画面をフリックして、彼との通話を繋ぐ。


「……何の用かな、蓮儀くん」

『悪ぃな。急用だ───斬音が変なの連れて来た』

「はぁ?」


 通話相手は夜鷹蓮儀。そして件名は斬音の拾い物。あの斬殺キルキルハッピー人間が? 生物を斬り殺して喜ぶあの変態が? 拾い物……? なんで?

 まぁ確かに、急用だって連絡するのもわかる。

 斬殺衝動が出たってわけではなさそう……うーん、何考えてんだアイツ。


「……わかった。場所は」

『いつもの拠点だ』

「りょ。今すぐ行く……拾い物ってナマモノ?」

『女の子』

「嘘でしょ?」


 マジで何を拾いやがった……! 早く確認せねば。


「ごめんひまちゃ! 学校遅刻するって言っといて!」

「えっ!? う、うんわかった!」

「……なんかあったのか?」

「バイト先で問題発生って言われてさ。空いてるのが丁度ボクしかいなかったんだよ」

「えっ、バイト……?」


 蓮儀との通話を切り、リビングの扉を開けてすぐに伝達を頼む。ほぼ確実に遅刻だからねこれは。今日は休むって選択肢もあるけど、それはそれで後が面倒。

 疑問符を浮かべている一絆くんには悪いが……まぁ適当に法螺を吹かせてもらう。実際はバイトではなく本職だけど、混乱の元なので黙っておく。

 ……マジでカモフラージュのバイト作ろう。

 言い訳の証拠大事。


「ボク、バイトリーダーなんだよ」

「異能部やってんのに……?」

「金があって困ること、ある?」

「ねぇけど……まぁなんだ。がんばれ」

「うん」


 釈然としない一絆くんから労いの言葉を受け取り、ボクは玄関を飛び出したのだった。


 はい、そんで影移動! ちゃっちゃと行くぞ〜。






◆◇◆◇◆






 異能結社メーヴィスの方舟直下裏部隊『黒彼岸』。


 魔都アルカナの沿岸部に立ち並ぶ、三百年も前の廃ビル群の一つを拠点とする後暗い影の掃除屋。

 その中でも最も傾いている斜塔ビルの一室にて。

 影の中から這い出たボクは、やけに静かな休憩室の扉を開ける。


「来たよ」


 声を出せば、ボクを呼び出した蓮儀が振り向いた。


 特徴的な跳ね方をした灰色の髪と、鷹のように鋭く細められた赤目が際立つ彼は、中東部で勃発していた紛争に参加した経歴を持つ元傭兵である。

 まだ18歳なのにね。闇が深すぎるんよ……

 そのお陰でこんなつよつよスナイパーになれたって考えると、人生って酷いもんだよね。


「早かったな」

「まぁね。で? 斬音ちゃ、ん…は……えぇ……」

「……まぁそうなるよな」


 視線を向けた先には、なにやら黒い塊を抱き締めて体育座りする斬音の姿を見つけた。

 なにやら御満悦の表情で、黒い……羽毛かあれ。

 丸っこい黒烏の羽に包まれてるみたいな見た目だ。よく確認すれば鳥脚が見える。

 子供サイズの羽毛玉……いや違う女の子なのか。


 女の子? つまり人間ってこと……え、マジか。


 凝視してみれば頭を羽毛の中に埋めていて、両腕が烏のような羽になっているようだ。

 ふむ。腕が鳥羽、足が鳥脚の……女児か………


 取り敢えず聞いて言おう。誘拐犯やめろください。


「斬音ちゃん。それ何」

「ん? あ〜♡♡♡ リーダー♡♡♡ 見て見てぇ♡♡♡ この子ね、拾ったのぉ♡♡♡」

「元いた場所に返してきなさい」

「やだ!!!」


 拒否する時だけ媚び声やめるのやめろ?

 疑問は尽きないが、寝息を立てる羽毛玉に抱きつく斬音に、その子供を拾った経緯を聞く。

 人斬り万歳女が気に入るとか、何があったんだ。


「んーっとねぇ、あれはねぇ……」


 義務教育を受けていない斬音は、拙い語彙で拾った経緯を一から説明する。声のせいで聞き辛いけど。

 事の発端は三時間ほど前。

 今日も今日とてお仕事を頑張っていた斬音は、殺害標的を綺麗にキリキリし終わった後、ふらふらと裏路地を散策していたらしい。なんでも斬り殺し足りないなどの理由で、辻斬りを画策していたとか。

 心底やめて欲しい。これ以上治安を悪化させるな。


 兎に角、斬音は刀片手に魔都を彷徨い続けて……


「いきなり抱き着かれたんだぁ♡♡♡」


 空から降ってきた鴉の娘を切り捨てずに、なんでか咄嗟に受け止めてしまった……らしい。

 ……なんで??? おまえが? 斬らないで……?

 わからん。急襲されたわけではないっぽいけど……


「で、なんか懐かれちゃった♡♡♡」

「なんで?」

「すまん。俺でもわからん」


 なんでそうなる。どうしてその子は殺人姫と仲良くなっちゃうわけ。抱き合って寝てるわけ。

 どこに懐く要素あったんだよ……


 疑問が尽きない。何が何やらさっぱりである。あと説明が箇条書きすぎて……内容が上手く掴めない。

 これは……拾われた女の子本人に聞くしかないな。

 そう、聞きたいんだけ、ど………


「すぴー……すぴー……」


 度胸あんなこの子。何時になったら起きるんだろ。


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