01-02:異能部の死にたいガール
洞月真宵は自ら公言する通り、ふとした時に自死を選んだり、死ねそうな場所があれば突撃したりする、頭のおかしい重度の死にたがりである。
そして、試みの全てが失敗している阿呆でもある。
異能犯罪者たちの小競り合いが始まればボクも仲間に入れてと嗤いながら突撃するし、人を食い殺す空想が現れれば意気揚々と会いに行くし、毒飲み放題な無料キャンペーンが開催されれば笑顔で現場入りして、報奨付きのロシアンルーレットが実施されれば用意された拳銃を両手に二丁もって躊躇いなく引き金を引く。
自ら死ねそうな場所に特攻する狂人なのだが、その全てが今のところ失敗に終わっている。
そもそも素の力と異能と身体能力が強すぎて眼前の異能犯罪者たちは簡単に吹き飛んで沈黙してしまう。
強い空想は魔王的覇気に怯えて脱兎の如く逃げる。
毒は飲めば飲むだけ苦しむが、気付けば身体が毒に慣れて耐性が付き、死ぬに死ねない超人になった。
ゲームは悪運が強すぎて成立せず、ただ報酬を手に迷子になりながら家に帰っただけで終わってしまう。
なにかと死ねない。元魔王故の色々が邪魔をした。
果てには打ち捨てられた東京タワーを登って華麗に投身自殺を決めたり、丁寧に研いだナイフで頸動脈や手首を切ったり刺したりしようとしたり……
その全てが宿敵の日葵に阻止されてしまっている。
なんなら八割は元勇者の全力妨害で失敗している。
「邪魔をするなァァァァ!!!」
「無理でぇす!!!」
「あああああああああやだあああああああ!!!」
異能犯罪者としての活動でも、人体実験でも、未だ死ねやしない。
積極的な自死活動は、全て失敗に終わっている。
ヤケクソ気味に自殺を試みる真宵だったが、色々と上手く行かずに最近は諦めている節がある。
それはそれで良い事なのだが……本題に入ろう。
たった一つだけ、頑なに避けている死に方がある。
それは────…
「過労死だけは恥ずかしくてイヤだ」
「なにそのポリシー」
「……えっ、これってポリシーの枠組みなの?」
「さぁ?」
「えぇ……」
感性はよくわからないが、取り敢えず世の社会人や転生先駆者たちに真宵は殴られるべきであろう。
絶賛募集中である。
◆◇◆◇◆
過労死大国、日本。それは今も変わらない。
異能部の活動内容は多岐に渡るが、はっきり言って荒事ばっかで危険なものしかない。
空想生物の討伐もしくは撃退、アルカナ政府からの依頼があれば犯罪者の捜索や逮捕にも駆り出される。
時には諸外国と連携した遠征なんかもある。
つまり多忙なのだ。休日に緊急出動なんてざらだ。
過労死で人生終えたくはない。それは流石にイヤ。
市民たちの平和な日常保証する為とはいえ……嫌なモノは嫌と言える女にボクはなりたい。
えっ、所属することになった経緯? 学院長からの推薦を断れなかったからです。
お世話になってるから余計に断れなかった……
「失礼しまーす! 百合コンビ来ましたー!」
「マジで頭狂ってんなこのカス」
「思っても言っちゃいけないと思います、はい……」
まあそんなわけで。
ボクは日葵を連れて、死と隣り合わせの危ない労働を強いてくる異能部の部室に到着した。異能部は政府公認の特殊な部活であることから、専用の部室棟が本校舎の離れに建てられているほど優遇されている。
異能者は対空想との最高戦力だから、政府も下手に死なれたら国力低下に繋がるから必死らしい。
昔はもっと死人が出てたらしい。ボクも混ぜて!
部室に入ったボク達は、ロッカーに鞄を投げ入れて3人がけのソファに座ってくつろぎ始める。
……なんで日葵はナチュラルに真隣に座んの? 寝転がれないんですけど? 自分の膝をポンポン叩いて出迎えないでくれませんかね。絶対にしないからな?
抗議の視線を向けてもニッコリ微笑まれていなされてしまった。コイツの頭の中どうなってるんだろ。
後で解剖に出そうかな……
「なんか危ないこと考えたでしょ!? 寒気がこう、ぞぞぞ〜って来たんだけど!!」
「別に。溶鉱炉に沈むシーンやって欲しいだけだよ」
「死ねと!?」
くっつく必要ないだろうが。離れろ発情期。
「───はは、おはよう二人とも。今日もアツアツで私は安心しているよ」
「どこに安心する要素が???」
「れーか先輩、もう昼過ぎてます。おはようの時間帯はとうの昔に過ぎてます!」
「む。確かに」
自然に会話をぶった切って現れたのは、大和撫子という美辞麗句が似合いそうな青色の髪をもつ三年生。学院の制服に、普通ならばミスマッチになるであろう長身の刀を腰に差した、背の高い気品溢れる美女。
名を神室玲華。我らが異能部の部長である。
「……はっ! 部長直々にアツアツって言われた!? つまりは部長公認ってこと!? やったぁ認可下りたよ真宵ちゃん!」
「訴訟も辞さない」
「躊躇いもなく私を巻き込まないでくれ」
うちの親友が通常運転すぎる。喜びの奇声を上げながらボクの右腕をブンブン振らないでほしい。
それと部長、我関せずみたいに目を逸らすな。
「ぶちょー、この変態をどうにかしてください」
「私には無理な相談だな」
「諦めて全てを受け入れなよ真宵ちゃん」
何様目線だ貴様。 ボクの肩をポンと叩いてくる日葵に向かって、殺気を込めずに睨んで牽制。
その眉間にボクの“影”を撃ち込んでやろうか?
ちょっと冷汗垂らしてんじゃねぇよ。部長もやれやれって感じで手を挙げるな。ブチギレるぞ。
「ん、んん。そう言えば他の二年生は? 一緒に来ていないみたいだが」
「チッ、露骨な話題変換め……」
「ははは。で、どうなんだ?」
「雫ちゃんは委員長の仕事で遅れるそうです」
「あのメスは男の気配に怯えて早退しました」
「……琴晴くん」
「入院中のおねーさんのお見舞いらしいです」
「なるほど。だが、部長である私に一切の連絡がないのはなんでなんだろうな?」
「「部長だからでは?」」
「おっと?」
二年生の部員はボクを含めて四人。
影を操って躊躇いなく殺傷するボクこと洞月真宵。歌と光を操る万能型の琴晴日葵。英雄してる姉に近付きたい妹ちゃん、あとメスみたいな見た目のチビ助。
名前紹介は後で。本人が来た時にしよう。
一年の肉壁……げふんげふん、部員はまだいない。募集はこれからだ。
「はて、私に何か不備でもあるのか……まぁ、いい。廻が来るまで暇だろう。好きに過ごしていなさい」
「はーい! よし、真宵ちゃん!」
「それ以上近付いたら泣くよ」
「舐めっ……拭いてあげるから安心して!」
心の底から気持ち悪さが滲み出てる。
日葵の口から一瞬だけ飛び出た舌を、ボクは一生忘れないだろう。今更ハンカチを取り出すな。遅い。
勇者をこんな危険物に変えたのは何処のドイツだ? 見つけたらとっちめてやる。
……あの六十年が原因なわけが無い。気の所為だ。
部長は冷蔵庫からお茶を取り出して、ボクたち二人のコップに注いでから、部長机に戻って行った。
うん、ありがとうございます。でも部長がやることじゃないですよね? 無言で給仕しないで?
あっ、冷たくて美味しい……どこの茶葉だろ……
「スーハースーハー……!!」
「……ホントにキモイよ、日葵ちゃん」
「……自重するね」
「うん。頑張れ?」
まぁ、キミの自制心壊れてるからなぁ。ボクの予想だと、三十分ももたない気がする。
……いや五分ももってないじゃん。困るんだけど。
もっと耐えろや。
それでも、長い付き合いの変態の扱いには慣れたもので、それなりにあるボクの胸に顔を埋める日葵の頭を撫でて思考停止させる。
これで暫く静かになる。ボクの安寧の為にも、この阿呆には黙っててもらおう。
……あれ、日葵ってばいつボクの胸に……?
「──────!」
「─。───」
「─────!!!」
いつ、どのタイミングで上半身を拘束されたのか、記憶の中を整理していたら、部室の外に繋がる扉の向こう側から言い争う声が聞こえてきた。
いや、これ片方が片方を怒ってる雰囲気だな?
ってことは……
取り敢えずボクは、答え合わせをするように、怒りの気配が漏れ出るドアの方に目を向けた。
ドアを勢いよく開けて入って来たのは───
「───カラス狩りは別にいい。だが、中庭の木ごと斬り落とすのはやめろ、迷惑だ! わかったな!?」
「ん。だから善処すると言っている」
「善処できてないから怒ってるんだろうが!!」
「ん。うるさい。メガネ触る」
「触らせるかァ!! ちょ、指紋をつけるな!!」
ほらやっぱり。中庭でカラス狩りしてた先輩と、それを遠目で監視していた副部長だ。
また木を斬り落としたのか……相変わらずだな。
「こんにちは先輩方。またですか?」
「む、洞月か。あぁその通りだ。この阿呆はまた無心でカラスごと針葉樹を斬ってだな……」
「ご愁傷様です、はい」
「ん。おはよう真宵」
「……おはようです弥勒先輩」
怒り心頭なのが副部長の星見廻。部長と同じように朝の挨拶をしてきた不思議系の先輩が八十谷弥勒だ。
部長である玲華先輩を支える三年生たちだ。本当はもう一人いるけど、脂汗をかきながらお父様の葬儀に行ってくると言っていた。わかりきった嘘である。
二ヶ月程前も聞いたから。五回も父を殺すな。
まぁ来たら来たで混沌とするから来ないでほしい。
ついでに言うと三年生は一人を除いて身長が高い。来てない先輩は愛と敬意を込めて陰キャ喪女と呼ばれているとかいないとか。もしくはコミュ障オタク。
オタクに厳しい? いやアレは本人が悪いから……
あと弥勒先輩。今は“こんにちは”です。アナタの適当な挨拶の影響で、部長までおはようって言っちゃう病気にかかっちゃってるんですけど。
午前午後とかの時間概念って知ってますか?
知らないんだろうなぁ……煽りとか関係なく日時に興味無さそうっていうか把握してないんだこの人。
今はもう四月なんだよ。六月じゃないんよ。
「ん。真宵もカラス狩り、しよ?」
「しません」
あと定期的にカラス狩りのお誘いをしてくるのも、弥勒先輩の悪いとこだと思う。
はぁ〜、なんでか懐かれてるんだよね。マジで謎。
この不思議ちゃんは好感度高い人にしかカラス狩り誘わないからね。知った時は嘘だろって思った。
玲華部長もよく誘われている。
廻先輩はストッパー要員として自主的に見学しては怒っている。そろそろ憤死するかもしれない。
……前から思ってたけど、そのカラスへの殺意はなんなんですかね?
カラスに親でも殺されたのか? ……まさかね。
傍に寄って来た弥勒先輩のシルバーアッシュの綺麗な長髪を指で掴み弄りながら、ふと気になってボクは部長と副部長の会話に耳を傾けて盗み聞きする。
つーか弥勒先輩も近寄りすぎ。離れろ。
あっ、おっぱいがおっぱいしてる……羨ま死。
「玲華、おまえの妹から予定以上に事が進まないから先に初めてて、との言伝だ」
「あぁ、わかっ……なぜ私に連絡が来ない?」
「……おまえら姉妹の問題だ。俺は知らん」
「いや、お前も介入しろ。はっきり言って私には何が問題なのか検討もつかんのだ」
どっちかというと雫ちゃんの問題だから、気にしなくても良いと思います。
だからって廻先輩に連絡するのも変だけどね。
あれ、そういえば今日の部活は確か……緊急出現がない限り、特にはない感じな日だったかな?
普通にトレーニングとかで体作りになるのか。
別に必要ないな。ボクと日葵に限っては。帰るか?
「……仕方あるまい。後で雫と話し合うとしよう」
「会話できるかどうかだがな」
「なんだと……?」
「そんなことより、枢屋はどうした。どこにいった」
「新作の発売日らしくてな。朝から見かけていない」
「……ゴミめ」
「ん。真宵、日葵はなんで寝てる?」
「変態の思考回路はわかんないです」
「むにゃむにゃ……」
あぁほら、わちゃわちゃしてきた。早く本題入ろ。
ボクの思いが伝わったのか、家族問題に困惑していた玲華部長は立ち直り、もう一人の三年生のオタ活にブチ切れかけた廻先輩も頭を振り、居住まいを正して真面目な顔をする。ボクは寝ている日葵を起こした。
うん、おはよう。ほら、始まるよ。
「───さて、無駄話もそこそこに。今日の異能部の活動も、元気にやっていこうか!」




