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02-03:魔女は全てを知っている


 地球の並行世界───それも、恐らく前々世の我が故郷と同じような環境の地球から来た異邦人。

 望橋一絆くんの処遇決めは、現在難航中である。

 異能特務局のお偉いさん達は、異邦人襲来の報告を聞かされた時に「冗談でしょ? 冗談って言って?」と半ば懇願する様に疲弊したお言葉をくれたけど……

 まぁなんとかなる筈だ。きっと大丈夫。

 ……あの人達いつも疲れてんな。頑張れ大人たち。


「望橋くん、これからの君は我々異能部に保護される形となり、この王来山に通ってもらう。未だ特務局や政府上層部は君の出現にてんやわんやだが……

 まぁ、なんとかなる筈だ。気楽に待っていてくれ」

「うっす……いやホントすいません。助かります」


 王来山学院、異能部部室棟。まるでリビングの様に家具が置かれた部室にて、長机を挟んでソファに座り向かい合って話す玲華部長と一絆くん。

 家も戸籍も何も無い───否、転移時に持っていた学生鞄や財布、世界を超えた影響なのか初期化されたスマホは持っている───つまり、着の身着のままで世界を超えた一絆くんのことを、上層部はどのように扱えば良いのか和気藹々と議論しているようだ。

 最近人が減ってポストが空いた円卓会も、彼という奇々怪々な存在のお陰で賑やかになってくれてボクは嬉しく思う。これがマッチポンプってヤツか……

 ま、政治家たちのあれこれはどうでもいいや。


 そんな一絆くんは、準備が整ってからこの学院に生徒として通って貰うことになった。そして、監視対象として異能部の保護下に置かれることにもなった。

 取り敢えずそういうことになった。


 異能が開花すれば戦力として加算されるかもとか。

 いやはや、平和と退屈しか知らない並行世界の一般男児に戦いを強いようとするとは……クソだね!


 本人もそれは分かっているのだろう、神妙な面待ちで応対している。

 多分、心の中では色々覚悟を決めているのだろう。

 思いっきりが凄くて決断が早いのは彼の美徳だ。


「……あっ、あっ、あの……と、特務局が飛鳥(あすか)さんを派遣してくると……あの、い、言ってますぅ……」

「わかった。ありがとう多世」

「ふ、ふへへ……///」


 へぇ、特務局から人を派遣される、と。なになに?

 住民票やら戸籍やら、一絆くんがこれから魔都を生きる為に必要なお役所書類を渡しに来る……成程。

 ……つーか鳥姉来んの? めっちゃ忙しそうだけど。

 人選ミスな気がするが……今日は暇だったのかな?


「あっそうだ。ありがとう一絆くん!」

「なにが???」

「君のお陰で授業が公欠になった」

「……マジで?」

「マジで!」


 うん。一絆くん問題によりボクたち異能部の授業は現在中止されているよ。公欠扱いありがたや。

 こんな状況で授業出席は流石に無理があるからね。

 姫叶が言う通り、感謝感謝なのだ。


 ボクもうんうん頷いて同意していると、その様子を眺めていた日葵がボクの耳に小声で話しかけてきた。

 くすぐったいんだけど。


「で、どう思うの真宵ちゃん」

「安心の邪神クオリティだと思う。彼は無害だよ」

「やっぱり?」


 こっそり聞いてきた日葵に適当な事を言う。まぁ、基本的に無害なのは確実だと思う。日葵も勇者的直感で彼が悪いヤツじゃないことは確信してたのだろう。

 変に怪しむだけ無駄だ。疲れるだけ。

 アレだ、性格残念な奴が残念な神に嵌められたってだけだろう。つまり悪いのはあの幼女だ。


 つーか、本当に面倒な事が立て続けに起こってる。


「ていうかヤケに詳しいね?」

「……あった事があるんだよ。魔王になる前に」

「そうなの?」

「……表情筋」

「! あー、そういうことね」


 今更だけど日葵はボクの人生が三度目なことは知らない。というか前々世の記憶なんて教えてない。

 ボクたちの関係にそれはいらないって思ったから。

 まぁ、思い出したくもないから別に良いよね。


 さて、そんなことより、一絆くんのことを知った諸先輩方の反応を見てみようか。

 性格が出てて面白いよ。ホント多様だなコイツら。


「ぐ、並行世界だと……なんだそれは!?」

「ん。よろしく、一絆」

「はわわ……あの、その……見ないでくださいぃぃ」


 パラレルワールドの存在に頭を悩ませ、魔物などの存在を思い出して“有り得る”ことに更に悩む廻先輩。

 呑気に挨拶して一絆くんの手を握る弥勒先輩。

 そして人見知りを発症して柱の陰に隠れて、更には涙目で震えて縮こまる、黒髪で目も隠している少女。

 

 枢屋多世(くるるやたよ)。手元にパソコンかスマホなどのゲームができる電子端末が無いと発狂するタイプのオタクだ。

 この人も例に漏れずおっぱいが大きい。爆。

 三年生みんな乳でかくね? おかしいよね本当。

 さっき特務局と通信してたのはこの人だ。なんでか知らんが玲華部長に頼まれていたのだ。

 コミュ障には難易度の高い采配だったと思う。


「うっ、あぅ……かひゅ………きゅぅ……」

「おい枢屋、死ぬな。おい!」

「ひぐぅ……」


 緊張で死にそうな多世先輩だが、まぁいつも通りの様子なので大丈夫だろう。幽体離脱しかけてるけど、廻先輩がああやって止めているから大丈夫だ。多分。

 遊ぶと楽しいから良い玩具なんだよね、多世先輩。

 辛かったり虐めたりすると反応が良いんだ。これがいじめっ子の思考なのだろうか。

 共感しちゃう〜。


 ま、多世先輩の事は横に置いといて。今はどうでもいいからね。

 今は一絆くんだ。あー、同胞の匂いがする〜。

 いつか邪神被害者同盟結ぼうねぇ。


「もうこの時点で好感度が高い……!?」


 なんか恐れ慄いた目で一絆くんとボクを交互に見る阿呆がいるけれど、気にしない方針で。

 つか好感度って何の話? おい目を逸らすな。おい。


「はぁ……」


 辛そうに溜息を吐き、参った様子で頭を搔く一絆くんを見てると、本当にあの邪神は良くない奴だ。

 ふむ……どうせ時間はあるんだ。試しにやるか。

 邪神仕込みの転移者が、ただの青年として新世界に送り込まれる確率はゼロに等しい。

 恐らく、何かしら仕込まれている筈だ。

 それを確認しよう。


 一絆くんの為だ。やらないよりやった方がマシ。


「さーて」

「いってぇ!?」

「うわうるさ」


 ボクは一絆くんが座る椅子に背後から近付き、彼の肩を勢いよく叩く。

 ボキッて言ったか? まぁ気の所為だろう。

 軽くキレながら振り向いて来た異邦人に向かって、ボクは好奇心で場所を移そうと伝える。


「ちょーっと気になることがあってさ。研究部、一緒に行こうよ」

「……な、なんなんだそれって」

「キミの身体を調べる」

「えっ真宵ちゃん人体実験はちょっと……」

「流石に私も心配だぞ?」


 外野がうるさい。部長と一緒になって抗議するな。


「……俺の身体、なんかやべーの?」

「邪神とかゆーのが、キミに何もせず送ると思う?」

「……思わねぇな」

「ま、そういうことだよ」

「成程。確かにな……」


 この説明で渋々と納得する面々。なに、そんなに信用ないの? ボクと悦ちゃんは健全な転生者だぞ。

 流石の悦ちゃんでもモルモットには……には……


「ありえるな」

「やべぇ、一気に心配になってきた。助けてくれ」

「ファイト!」

「武勇を祈る」

「がんばれー」

「薄情な奴しかいねぇ!」


 初対面だからそういうもんだと思うよ。まぁ、多分そんな事にはならないだろう。相手は魔王軍というかエーテル世界随一の魔女だった悦ちゃんだけど。

 生きたまま解剖はされるかもしれない。

 あの子なら仮死状態を維持させるなんて可能だし。


「じゃ、私が案内するね」

「え? 洞月がするんじゃないのか?」

「ボクがするんだよ???」

「すぐ迷子になるのに? 行き方ちゃんとわかるの?」

「……さ、行こうか一絆くん!!!」

「迷子なのか、お前……」


 そんな残念なモノを見る目でボクを見るな!






◆◇◆◇◆






 さて、場面変わって魔法研究部。我が友、仇白悦の根城にやってきております。


「へぇ!!! 邪神の……ふーん! 調べさせて!!」

「琴晴さん、このロリっ子……マジで同い年なの?」

「そうだよ?」

「……すげぇな並行世界。レベルがちげぇ」


 病院にあるような椅子に座らされた一絆くんの周りをちょこちょこ歩き回って、腕の肉を摘んだり、腹を啄いたりして身体を確かめる悦。

 興味深そうに、爛々と光る狂った瞳は少し怖い。

 もうあの子の目には、一絆くんは貴重な検体としか見えてないな……南無阿弥陀仏…


「見た感じは〜普通だねぇ。もぉっと異形なのを想像してたんだけど……ちょっと残念」

「なってたまるか」


 …………。

 そういや、悦ちゃんことドミナは魔王軍で唯一邪神について知ってたな。

 純粋無垢な頃のボクから聞いて興味持ってたし。

 いやー、懐かしい。


「じゃ、これから君の内部を隅々まで調べま〜す!! だからそこに寝てて〜。刺すから」

「わかっ……これ、本当に大丈夫なんだよな?」

「男だろ。シャキッと決めろや」

「んな無茶いうなよ……はぁ……よしっ」


 小声で怯える一絆くんに喝を入れると、諦めたのか彼は大人しく用意されていたベッドに寝る。

 うん、従順なのは良いことだ。思いっきりも強い。

 でも刺すってのは冗談だと思うよ。


「悦ちゃんよろしくー」

「任せて闇ちゃん」

「真宵です」

「そういやそうだった」


 前世の渾名やめろください。知ってる人は知ってるんだから気付かれちゃうでしょうが。

 ボクの安寧を邪魔する気か貴様は。シバくぞ。


「心の準備はできた? おしっこしてきた? 遺言書はきちんと書いてきたかい?」

「怖ぇよ!!!」

「アハハ。じゃ、いきまーす───【魔法工房(アトリエ)】」

「うおっ……」


 悦ちゃんを中心に空間が塗り変わる。理科室の様な研究室の一角が、煉瓦の個室へと変貌する。

 幾万通りの魔法陣の術式が明滅している異空間。

 壁には色とりどりの液体が入ったフラスコの棚、地球にはいない生物の剥製、モデル、素材etc……

 洋装の室内には似つかわしい、用途不明の機械すらも置いてある、ドミナの異能空間。


 【魔法工房(アトリエ)】とは、ドミナ一門が使うスキルだ。


 彼女が開発し、魔法・魔術界隈では最高位とされる空間創造能力である。

 無論、形状に決まった形はない。

 今日は室内だから煉瓦造りの、あの思い出の部屋を再現したに過ぎないだろう。


「この空間では全てがぼくの思うがまま。ちょっ〜とチクってするかもだけど、頑張って我慢してねー」

「えっ痛いのはちょっと……ぅおっ!?」


 宙に浮く医療器具などを見て、一絆くんは冷や汗をかく。残念ながら、嫌な予感は的中したようだ。

 悦の言葉通り、一絆くんの身体に無数の光が照射されたり、かざされたり、注射器で血を抜かれたり……

 その全行程に、悦は手を使っていない。

 眼球に魔力を通して、一絆の身体を注視するだけ。

 空間が悦の意思を汲み取って、勝手に動いて解析を開始しているのだ。


「いやちょ、ちょまっ待って待って待っ───」

「えーい」

「いったい腰がァ!?」


 異能空間内に響く一絆くんの大絶叫。世界の壁を越えた初日、休む暇もなく……何気ない瞬間も無意識に気を張り続けていた彼は、悦ちゃんの非道によって可哀想な目に遭っている。その姿を見ながら、ボクと日葵は哀れみの目線を向け、続け様に欠伸をした。

 それはそれとして退屈だから。

 こんな非人道的な行為実験なんて日常茶飯事だし。

 ドミナもオルゲンも、多方面に恨みを買うレベルの実験を幾つか並行してやってたからなぁ……

 あ、オルゲンってのは幹部の一人。研究者だ。


「暇だね……」

「ん……ひまちゃん、指でつっつきあうゲームしよ」

「乳首あて?」

「違う。五指揃ったら下げるヤツ」

「あぁ……いいよ、やろっ」


 正式名称は忘れた。互いに両手をから指を一本ずつ伸ばして、順番に指と指をぶつけ合う。

 二本、三本、一本、三本、四本、一本……

 退屈な今、ボクたちは無言で遊ぶ。本当ならここは全部悦に任せて、ボクたち二人は外で待機で良かったんだけど、なんでか一緒に異能空間に巻き込まれた。

 お陰様と言うか、一絆くんの悲鳴で耳が痛い。

 ドミナも初被験者だから張り切ってるな……普段はあんな分解しようなんて……いやしてるか。

 まぁ、本格的にモルモットになりそうな時に止めれば良いから、今は別にいいか……頑張れ一絆くん。

 ボクたちは指で遊びあって待ってるから。

 っておい、指を絡めるな。微笑むな咥えるな!!


 あっ、ちょ……んぅ……(拒めない困り顔)。


「恥ずかしい?」

「ころす……」

「声に覇気がないぞ〜♪」

「るっさい……」


 ほんとこの勇者きらい。縁切ろっかな……


 そんな風に日葵に一喜一憂している間に、あっちは色々と進んだようだ。

 最早、一絆くんの悲鳴は聞こえない。

 ……あれ。なんか、悟りを開いった様な凪いだ目をしておられるんだけど……

 目を逸らしている間に何があった???


「ふーん? なるほどなるほど? なんほどね?」


 喜悦に染まっている狂人は、傷つけた一絆くんの身体を再生治療しながら何かに納得している。

 アレは新しい玩具を見つけた顔だ。怖い。

 気色悪い笑いをしながら器具を片付け始めたので、検査は終わったのだろう。

 解体とかされなくて良かったね……


「良いよ。わかったから……ふふっ」

「不安しかねぇ」

「終わったね一絆くん」

「それはどっちの意味だ!?」


 そりゃ検査終了って意味だよ。


 異能空間が解除され、消えていく魔法工房。その中で悦っちゃんは一絆くんとボクたち二人……あと気になってやって来ていた神室姉妹と姫叶にも聞こえるように説明を始める。

 うん、大所帯だね。広さが充分にあって良かった。


 濡れた指をハンカチで拭いながら、話を聞く体勢に入る。そこの変態は名残惜しそうな目をするな。

 起き上がった一絆くんは日葵を哀れみの目で……


 いやなんでボクを責める目で見るんですかねぇ!


「はぁ……で、どうだったの」

「まずモルモットくんの身体だけど、不思議なことにこれといって異常はないよ。ひっじょーに残念だけど人間の身体構造も普通。空想が化けてる可能性も限りなくというか確実に無い。つまらないね。

 文字通りただの人間なわけだ……つまらいね!!」

「こいつ二回も俺の事つまらないって言ったぞ!」

「事実じゃん」

「人の心とか無いのか?」

「うん!!!」

「断言しやがったぞこいつ!!」


 悦ちゃんは研究対象とか興味関心が湧いたモノにはハイテンションで近付いてくるけど、それ以外のあれこれには適当に相手して話を逸らす子だ。

 だから、言葉とは裏腹に、新しい玩具を見た幼児の如く目をキラキラさせているということは……


 一絆くん、ドミナのモルモットに永久就職かな。


 というかまずはモルモット呼びを窘めなよ。キレるポイント他にもあったでしょうに。

 やっぱり一絆くんも大概おかしいな?


 微笑ましい思いで二人のやり取り、また言い合いを眺めていたボクと日葵。

 そこに玲華部長から爆弾が放り込まれた。

 バカという名の核爆弾を。


「……あぁ、そうか空想の可能性もあったのか……」

「「部長?」」

「いやすまん」


 魔物もとい空想生物が人間に擬態している可能性を考えていなかったのかこの人……

 ドッペルゲンガーっていう真似っ子を知らない?

 いやまさか……もしかして、新世界にそういう系の魔物って来てない? 絶滅してたりしてる?

 ……確かに今世で会ってないな。

 いやでも可能性は考えようぜ? 部長でしょう???


 ほら、雫ちゃんも憧れが壊れた呆れた目で……


「???」


 あ、ダメだオーバーヒートしてるわ。困惑と動揺で溶けかかってる。キミも想定してなかったんかい。

 姉妹揃いも揃ってアホなの? 頭いいのにアホなの?

 廻先輩がダメ姉妹って罵倒する理由がよくわかる。


 ……おや、どうやらまだ悦ちゃんの説明は終わってなかったようだ。

 なになに? ボクにも聞かせて?


「あ、でも体内魔力量は規定値よりも高いね〜!」

「つまり?」

「異能、使えるんじゃなかな! 多分!」

「ふ、ふーん……そうか異能か。成程成程。とうとう俺にも時代が来たのか。待った甲斐があったぜ」

「すっごい嬉しそう」

「いや時代が俺に追いついたのか……」

「愉快な奴だな」

「俺はァ!透明人間に! なりたい、です!!!」

「欲望にも忠実だぁ」

「その宣言いる?」


 魔力量が多い=異能者っていう訳じゃあないけど、その比率が高いのは本当だ。魔力が少ない異能者もいるっちゃいるけど。

 ま、邪神仕込みなんだ。何も持たずに誘拐される可能性は最初からゼロだった。

 逆に異能を持ってなかったら怪しく思ってたよ。


 手をグーパーしたり、肩を回したり、目に力を入れたりしてるけど、特に何も起きない。

 どんな手法で異能が発動するかはその人次第だ。

 大抵の人は意思次第でどうにかなるが、人によっては行動や動作で発動するタイプもある。指を振るとか声を出すとか……異能ってのは本当に千差万別だ。


「なんも起きねー!!!」

「気長に待とうよ。そう発動しやしないさ」

「闇ちゃんのゆーとーり! まだ身体が慣れきってないのもあるけど、まだ意思が足りないね!」

「意思?」

「異能を使う想い! もう君の魂に根付いた異能の形は決まっているけど、それが目覚めるには足りない! まだまだ色んな覚悟が足りない! 多分!!!」

「確証を持って言えぇ!!!」

「痛い! 暴力反対!」


 悦ちゃんは一絆くんに頭を鷲掴みされ、あまりの痛さに本気の絶叫を上げている。

 男女平等だね一絆くんって。いつか怒られそう。


「なんだろうね、一絆くんの異能」

「どーせ厄介なヤツでしょ。邪神のなんだし」

「イヤな信頼だね……」


 苦笑する日葵を横に一絆くんの異能がどんなものか考えてみる。透明人間は多分ない。面白くないから。

 攻撃系、肉体系、補助系、生物系……

 もしくは斬音や蓮儀のような人殺しにしか使えないタイプの異能か。

 もしくはもしくはもしくは───…


 何かな何かなと面白半分で思考に没頭していると、同じく異能に思いを馳せていた一絆くんが、研究部の壁際に置かれたある物を視界に入れた。

 それに疑問を浮かべ、彼は興味半分で聞いてきた。


「……あのスライムなに?」

「魔物になっちゃったウンディーネ」

「…………はぁ?」


 試験管の中に浮いているのは、発見した時よりも衰弱した様子のウンディーネ。

 かれこれ四日経ったわけだが、そろそろ限界かな。

 神室姉妹や姫叶の辛そうな視線を向けられた水精霊の成れの果ては、ただプカプカと浮いているだけ。


 ……だったのだが。


『────! !? !!!! ───!!!』


 一絆が目を向けた瞬間、何かに触発されたのか突然ウンディーネが暴れだした。

 えぇ……なんでいきなり……なんで?

 これには一同首を傾げる。この四日間何もせず静かだった精霊がプールの中で大暴れ。謎だ。何故だ。

 悦ちゃん自身もおかしいと思ったのか、首を肩下にまで下げている。ちょっと待ておかしいぞその角度。


 ウンディーネと一緒に興奮してるんじゃねぇよ。


「……原因は……一絆、君?」

「俺なの……? というかアレどういう状況なんだ?」

「呪いであーなった。先日捕獲した」

「保護って言って」

「はいはい」

「……そ、そうか……つーかさ、何かあの子俺の方に突っ込んで来てね?」

「……ん?」


 本当に触りだけを一絆くんに教える。なぜ興奮状態なのかはボクたちにも分からない。

 最期の大暴れってヤツかな?

 不謹慎にもボクがそう思っていた時、ふと何かに気付いた一絆くんが声を上げる。


 ……確かに。なんか意識の方向が一絆くんだ。


 何を思ったのか、彼は試しに左右に移動し始めた。


「……」

『! ! !』

「………」

『──! ──!────ッ!』

「めっちゃ俺の方に来るじゃん……えぇ……」

「………」

「………」

「……なんかした?」

「してるわけないだろ!?」

「ホント?」

「本当!」


 右方向に行けば、ウンディーネも右の方に向かって驀進しようとして激突。

 左の方にズレれば、彼女も左に向かって猛進。

 近づいてみれば喜んで跳ね始める。

 離れたら悲しそうに萎む……


 いや絶対なんかしてるやろキミ。なんなの???


「うーん……これは、もしかして……んふふ!!!」

「えっ怖っ」

「悦ちゃんはあーゆー子だよ」

「マジか」


 突然、笑い袋が弾けるように悦ちゃんが笑い出す。

 なんだったら床を転げ回って、全身を使って笑いを表現している。普通に怖い。友人にこんな恐怖を抱きたくはなかった。

 どいつもこいつも、なんなんだよもう………


「ふっ、ふふふふふふ!!! なるほどね?」

「うわぁ急に冷静になるな」

「怖ぇ……怖ぇよ並行世界……」

「並行世界は理由にならないんじゃないかな……?」

「なるんだよ! なってんだろ今!?」

「逆ギレは酷くないかな!?」


 濃厚な半日を進行形で過ごしている一絆は、姫叶に対してブチ切れた。

 実力行使はせずに圧で姫叶を押している。

 確かにボクが彼と同じ立場になったらキレる自信があるね。

 一絆くんは被害者だ、丁重に扱ってあげて欲しい。


「で、どうしたの悦ちゃん」

「ひみつ〜♪ 頑張って異能開花させてね〜♪」

「いつになく上機嫌だ……」

「わかったんなら教えろよ!!」

「やだ〜♪」


 結局、悦ちゃんは最後まで黙秘を貫いた。


 何かを訴えていたウンディーネを見て、愉しそうにニコニコと笑いながら、その真実をひた隠した。






「あはっ、あはは。いいねいいねぇ、最高だ」


 特務局の人が来たと連絡が来て走っていく異能部を横目に、小さな体躯の魔女は笑う。

 領域外の魔女───〈狂儀(きょうぎ)〉のドミナは嗤う。


「いやぁ、手遅れにならないといーねぇ?」


 魔王の側近は、静かになった研究室でそう呟いた。


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