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02-01:親方、空から男の子が!


 ───そいつは、ボク達の前に唐突に現れた。


 この日の感想を一言で表すなら“急展開”。ボクらの心情はこれに尽くされていたと思う。

 何があったかは……まぁ、順を追って話そう。


「なんか最近、ボクら働きすぎじゃない?」


 ふとした拍子にそう思った。我が旧友への定期的な昼食供給をしてから四日経った朝の事だった。

 異能部の仕事は放課後だけではない。朝もある。


 今週の土日は普通に過ごせた。

 掃除屋の仕事はボクが出張らなくていいモノばかりだったから、蓮儀(れんぎ)斬音(きりね)たちに適当に采配して任せたので、これといって直接人は殺していない。

 いやはや、珍しく平和な休日だった。

 空想騒ぎも玲華先輩や弥勒先輩たちが運動と称して全部やってくれたので、すっごい暇だった。


 で、日葵に抱き着かれながら呟いたのがこれだ。


「あーね。最近はちょっと頻度高いね」

「最近の空想共、揃いも揃って殺意でいっぱいだから疲れる。あと、事故って迷い込んだケースが減少傾向にあるってのも不可思議に思えるんだよね」

「確かに、みんな凶暴だったね……なんかした?」

「ボクのせいにするのやめろ」


 誰が諸悪の根源だ。

 部室のソファ……最早、定位置となっているそこに座りながら、悪い事を言う日葵の唇を引っ張る。

 ハハッ、アヒルみたい。写真撮っていい?


「そこ、所構わずイチャつかないで」

「してませんけど???」

「そんな頑なに否定しないで?」


 ミニトマトの単価計算に集中していた雫ちゃんが謎に文句を言ってきたが、とても心外である。

 これは、にっくき勇者への戯れかつ攻撃である。

 決してイチャついていたわけではない。

 勘違いすんな。そこのメスも笑ってんじゃねぇ。


「んーまぁ、洞月さんと僕たちの見解の相違は置いといて」

「置くな。持ってこい」

「よーしよしよし。真宵ちゃんかわいいねー」

「………」

「照れてるじゃない」

「これは言い逃れできないね」

「うるさい…」


 頭撫でるのは反則だろうが。ボクで遊ぶな怒るぞ。


 ……こんな感じで、ボクたちは相変わらず馬鹿な事を言い合いながら時間を潰していた。

 廻先輩が異能で───【星盤図(アストロラーベ)】で視るまでは。


「っ! またかっ! すまんお前たち、また緊急だ!」


 星見廻の異能【星盤図(アストロラーベ)】は、あらゆる物事の未来を予知することができる。

 制御が難しいのと負担が凄まじい為、彼は異能の出力と精度を絞って《洞哭門(アビスゲート)》の発生と“異能部メンバーの命の危機”が迫った時だけに今は使えるようにしている、らしい。

 これにより空想の出現が事前にわかる……のだが。

 偶にこうやって緊急出動が入る。

 平時なら「この日のこの時間に現れる」っていうのがわかるんだけど、こういうのが偶にあるのだ。


 いや、意外と頻繁にあるわ。異能も完璧じゃない。


「ほいほーい。良かったよ深夜とかじゃなくて」

「明後日は20時って予知じゃなかった?」

「うわぁ……お金貰えるから別にいいけどさぁ」

「小鳥遊くんはそればっかね」

「「「キミ/雫ちゃん/君がそれ言う???」」」

「……行くわよ」


 何事も無かったかのように、先頭を行く雫ちゃんについて行って、ボクたちは現場に向かうこととなる。

 玲華先輩や弥勒先輩、もう一人の先輩はいない。

 何故なら三人は既に別の場所で出待ち戦闘を始めに出かけているから。今日、ボクたちは待機組だった。

 こんな朝早くから大変だよね。魔都を守るの面倒。

 しかしまぁ、こういうのはよくあることだ。


「時間は今から一時間後の0824、場所は10区の工場跡地だ! 座標は後から端末に送る!」

「わかったわ」

「真宵ちゃん聞いてた?」

「馬鹿にしてんの?」

「え、じゃあ先導できるの? 僕ついてくけど」

「任せたよ雫ちゃん」

「……えぇ。任されたわ」


 こんな集団を率いて迷子になったら流石に困る。

 影伝いの移動方法は異能部では使えること隠してるから使えないし。

 下手に使ったら疑問に思われるから嫌だもん。

 後、足替わりに使われるのも嫌だから隠す。


「あれ雫ちゃん端末は?」

「それならここに……ないわね」

「ユーターンしよう!!」

「ボクあるよ。はい」

「「「迷子になりそうだからイヤだ/よ」」」

「なんだこの信用のなさ」


 今ここで地図機能がボクを裏切った話するか???






◆◇◆◇◆






 で、目的地である工場跡地とやらまでバスを使い、時間が有り余った状態で到着。

 最近捨てられたばかりの廃工場内で───


「ぷはぁ……うん、美味い」


 ボクは煙草を吸っていた。美味い。学院内では流石に吸えないけど、外だから別にいいよね。

 異能部や特務局以外の人の目が無ければ尚良し。

 こんな寂れた場所に寄り付く奴はだいたい喫煙者な仲間だから、それもまた問題なし。

 暇を持て余した真宵ちゃんの喫煙タイムである。


 文句を言うとすれば……


「未成年喫煙ダメって言ってるじゃん」

「ごめん耳が遠くて何も……」

「都合の良い耳してるね。引っこ抜こうか?」

「この二人いつもバイオレンスだね」

「今更よ」

「確かに」


 横たわった頑丈な鉄パイプに座ったボクを指さして怒ってくる日葵と、呆れる姫叶と雫ちゃん。

 仕方ないよ。もうボクは煙草なしではいられない。

 こんな身体にしたのは全て『方舟』だ。ボクは悪くない。オススメなんて貼り紙で誘惑したのが悪い。

 しかも市販品。そこは闇市の煙草であれよと思う。

 そしたらこんな嵌らずに吸わなかっただろうけど。


 ……あ、そうだ。ここでこの疑問解消しとこ。


「雫ちゃんの異能って煙草の煙とか溶け込むの?」

「……知らないからわからないわ。でも、試してみる価値はありそうね」

「じゃあやってみよっか」

「「いや受動喫煙」」


 日葵と姫叶(ひなと)のツッコミを無視して、近付いてきた雫ちゃんに煙草の煙を向ける。

 瞬間、彼女の右腕が水色の粘液となり、溶ける。

 トロリと下に落ちた液体が、アスファルトの地面にポツポツと水溜まりを残す。それを構うことなく、雫ちゃんは煙を掴むように、溶けた右腕を突っ込んだ。


 それから数秒後……雫ちゃんの顔が歪む。


「……不味いわ」

「味わかるんだ……うん、嫌ならペッてしていいよ」

「良い経験には……なった…かしら?」

「まぁまぁ実験の御協力ありがとうございまーす」

「お金ください」

「ほんとブレないねキミ」


 すぐにペッと吐き出すように腕を振るい、液体を飛び散らしながら煙を霧散させた。

 うん、溶かせることはできなくもない、と。

 意外と応用性あるな、雫ちゃんの【液状変性(ジェリーボディ)】。


 肉体をスライムのような液体に変える異能。それが神室雫の異能【液状変性(ジェリーボディ)】である。

 身体本来の質量を超えた液量で敵を襲えたり、今みたいに液体が落ちても問題なかったり、色々と謎な異能である。内臓とか血液がどうなるのかも不明だ。

 悦がめちゃくちゃ解剖したがる異能だったりする。


「洞月さん、そーゆーのやめてくんない?」

「……わかったよ。だからそう睨まないでくれ」

「……あー、なるほどね?」

「? 何が成程なのかしら……」

「気にしなくてもいいと思うよ!」

「そうなの?」


 そういや姫叶って雫ちゃんが好きなんだった。

 確かに、好きな子に煙草をスライム越しとはいえ吸わせるのは嫌だよね。これは反省。ガチでごめん。

 火を消した煙草を灰皿に入れて影に落とす。

 そのままトプンと影に消えた灰皿を見ず、隣に立つ日葵と顔を合わせる。姫叶に良い感じに丸め込まれる雫ちゃんを横目に、日葵と互いに頷きあう。


 ───さっさとくっつけちゃう?

 ───面白そう。やるか。


 ここに、拙いお節介をする為、勇者と魔王が手を組んだのであった。

 まずは姫叶の周遊ルートに雫ちゃんを連れ込むか。

 まだ片想いの段階だから、ちゃんと見極めねば。


『んんっ───お前たち、無駄話はそこまでだ』


 守銭奴令嬢に恋するメスの初々しい光景を見ながら壁に徹していたボクたちの耳に、廻先輩の声が届く。

 瞬間、示し合わせたように全員が口を閉ざす。

 静かになった工場の中、《洞哭門(アビスゲート)》がいつ開いてもいいように神経を研ぎ澄ませ、待ち構える。


 こういうので一番厄介なのは、穴から出てきて開幕即攻撃を仕掛けてくる質の悪い相手である。

 昔、開幕同時に攻撃されて死んだ人がいたらしい。

 玲華先輩よりも前の代の人らしいが、実例があるのだからこうやって注意するに越したことはない。

 流石にコイツらな死なれるのも目覚めが悪いし。


『───来た。開くぞ!』


 合図の瞬間、廃工場内の空間が歪む。トタンの壁がぐにゃりと曲がって、真っ白な《洞哭門(アビスゲート)》が開く。


 現れたのは───ふむ、なるほどね?


「ゴブリンとオークの混成! 全員敵意あり!」

『了解! 無事に戻れよ!』

「「「了解!」」」


 日葵の報告と廻先輩の合図と共に、戦闘が始まる。

 小ぶりなゴブリンと双璧を成す空想の代表格、豚の頭を持つ大柄な男───オークが、ゴブリンたちと群れを成してこちら側の世界に侵入してきた。

 ざっと数えて35。もう一回数えると37。あれ?

 全員が敵対意志を持って、既にこちらに武器を向けて駆け寄って来ている。


 ……というか、続々と増えきてない? いつになったら《洞哭門(アビスゲート)》は閉じるんです?

 え、なに最近は増援キャンペーンとかやってんの?

 つーか複数かよ。《門》一個だけじゃないんかい。


「仕方ないな、よし───行けっ、日葵!!」

「君に任せた!」

「サポートは私たちに任せなさい!」

「いや揃いも揃って人任せすぎない!?」

「はよ行けや」

「扱いが酷い!」


 即座に唄を歌い、光の剣を生成していた日葵の尻を蹴りあげて、前線に上げる。

 そのままバッサバッサ斬り始めたから問題ない。

 ま、ふざけた事を言いながらボクらも加勢するから問題ないんですけどね。


 でも、今日はそんな動きたくない気分なんだよね。


「うーん、よし。んん、んん。あー、そういやゴブリンの睾丸が欲しいって悦ちゃんがボヤいてたな〜」

「えぇ……」

「何造る気なのかしら」

「さぁ? ……あっ、くれたら金出すって言ってたね」

「よっしゃ任せろ」

「ずるいわよ姫叶くん!」


 チョッロ。これだから金の亡者は困るんだよ。


『洞月……』

「やる気ある奴が頑張った方がよくないですか?」

『いやまぁ……うん、そうなんだがな?』


 廻先輩からのなんとも言えない様な雰囲気から目を逸らしながら、ボクは戦闘を眺める。

 日葵はいつも通り天使無双してるから別に見なくていいや。門から出てきた奴から順に斬ってるし。


「呑まれなさい」


 第二陣としてゴブリンの群れに特攻をしかけたのは、身体を液状に変えて素早く動く雫ちゃん。液体を触手の様に周囲に放ち、ゴブリンを集中的に狙う。

 青い粘液は空想たちを縛り、上に高く持ち上げる。

 空中には粘液の球体プールが浮かんでおり、その中にゴブリンたちがどんどん入れられていき……

 そして、そのまま───圧縮。


 血みどろぐっちゃあ……真っ赤な球体になった。


「グロくね?」

「慈悲はないわ……あっ、お金…」

「ワロタ」


 素材ごと潰したんでありませんね。バカなのかな?


 しょぼんと悲しそうな顔をする雫ちゃんは、血肉と粘液が混ざりあった球体をそこら辺にあったドラム缶の中に放り込んで視界から消した。ナイナイするな。

 そして、今度こそ金目になる素材を獲ろうと躍起になった、その時。


 彼女の背後に、棍棒を振り下ろすオークが一頭。


「あっ───」

「ブゴォォォ!! ───ぶごっ?」


 避ける暇もなく、雫ちゃんの頭は叩き潰される。頭は凹み、身体はぐらりと倒れ───青い液体となって崩れていく。

 水音を立てながらぐちゃりと溶けた雫ちゃんは、液体をどろりと流動させ、オークから少し離れたところで再び人型となって再生する。


「はぁ……やってくれたわね!」


 うん、物理斬撃無効はやっぱり強いね。


 これが【液状変性(ジェリーボディ)】の強みと言っても過言ではないだろう。肉体全てが消し飛ばない限り、雫ちゃんは何度でも再生できる。

 弱点は再生する度に体力を消耗するって所かな。

 ほんと、スライムって強いな。


「死になさい───<滴雨(アクアショット)>!」

「ぶごっ!?」


 指から打ち出された水滴の弾丸が、オークの脳天を貫き、絶命させる。超高濃度に圧縮された雫ちゃんの粘液を浴びて死ねるとか、ファンクラブの奴らが知ったら発狂しそうだな。

 いや死にたくはないだろうけどさ。


 さて、そんなファンクラブ筆頭の姫叶はどうしてんのかな?


「数の多さは、僕も負けてないよ! ほらっ!」


 パンパンパパパン。

 自分よりも遥か巨漢なオークたちに向けて、小さな手を数度叩く姫叶。それは挑発ではなく、異能を使う合図であり、動作である。

 叩いた音が工場内に響くと、姫叶の周りの空中に、ポンっと小さく煙が吹き出る。

 大小合わせて八つの煙。それは、姫叶の行動に疑問符を浮かべるオークの集団と一致する。


「幸せなら手を叩こっ、てね!」


 煙が晴れ、現れたのはバレーボール。体育館にある練習用なのか、使われた形跡がある二色の球。

 せいぜい叩いてぶつける程度の攻撃にしか転用できなさそうなボールを宙に浮かべ、従えながら姫叶は呑気に一つ一つ触れていく。


 案の定、ゆっくりな姫叶に痺れを切らしたオークが一体、足を一歩踏み出して。


「───<巨大化(ビッグサイズ)>! おらっ、くらえっ!!」

「ぷごっ……?!」


 瞬間、浮かせていた全てのバレーボールがオークの体躯を上回る大きさに巨大化。自分よりも遥かにデカい球体を従わせて、姫叶は不敵に笑う。

 追加召喚した鉄製バットを横に振って、巨大化したバレーボールを敵に向かって打ち出す。

 打たれた球は器用にも、襲いかかる豚頭に全的中。

 自分よりも遥かに大きな球に殴られ、オークたちは吹き飛ばされて壁と衝突した。大半のは気絶したが、中には潰れて死んだ者もいるようだ。


「ははっ! オークに用はない! ゴブリン来い!」

「「「ごぶ?」」」

「あっ……いやそんな大群でこられても、その……」


 これが小鳥遊姫叶の異能【玉手菓子(ビスケット)】。手で触れた物体を異空間に収納でき、手を叩けば異空間から取り出せる異能。加えて、異能部として活動して成長した結果、触れた物のサイズを変える事も可能になった。

 あと浮かせられる様になった。何故か。

 最初は物を出し入れするだけの弱異能だったのに、訓練とか戦闘とかで変貌したのだ。

 ほんと、異能の成長の振れ幅はのよくわからない。

 バレーボール如きで攻撃するのもよくわからない。

 もっと殺傷能力ある武器使いなよ。楽だぞ。


「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……あ、あっぶなかったぁ……」


 逃げ回りながらゴブリンをボールで殴り倒す戦法はどうかと思うな。うん。勝てばよかろうなのだけど。

 危うく青年誌いきだったぜ。


 ところでそのバレーボール、盗品ですよね?

 体育の喜屋武(きやぶ)先生が首を傾げてたぞ。なんか減ってんなって呟いてたの、ボクたち知ってるからな。

 ほら、ボクに見られてやべって顔してやがる。


「姫叶、そっちに行ったわ!」

「おっけー! あ、こっちよろしく!」

「えぇ!」


 姫叶は殺傷能力が低い使い方しかしないから牽制がほとんどだから、その討ち漏らしを雫ちゃんが冷徹に仕留めていく。あの子は躊躇わない性格だからな。

 うん、まぁ二人ともちゃんと戦えてるね。

 エーテル基準だと中の下位の戦闘力しかないけど。


 この世界、地球の並行世界の癖に戦闘ばっかりだから嫌でも鍛えられる。しかも魔都アルカナは世界有数の空想出現率を誇るから余計に強くなれる。

 諸外国の部署とかよりも日本の練度が凄いのは、異能部で若い時から戦闘を経験したお陰って言われるぐらいは強い。実際そうだもん。

 いやほんと、倫理どこいった。徴兵じゃないけど、戦える子供を登用するアルカナ皇国やべぇ。

 それで国力上昇してるから尚のことやべーよ。


 ほんと、世界によって特徴ってのがあるもんだね。


「真宵ちゃーん、今暇?」

「観察日記で忙しい」

「二人は朝顔じゃありません。ほら、手伝って!」

「……仕方ないなぁ」


 雫ちゃんと姫叶くんの異能戦闘力を書いていた手を止めて、いやいや日葵の元に近付く。途中途中で邪魔してくる豚や小鬼がいたが、全員滅多刺しにした。

 こっちこっちと手を振りながら、オークを鯰切りにする日葵は正直言って怖いと思う。

 どっかの斬音と会わせたらどんな反応するんだろ。


「狩った数が一番少ない奴、今度奢りとかどう?」

「私問題ないね、うん」

「それ僕がだいぶ不利だよね!?」

「……がんばりなさい」


 この後、姫叶の奢りが確定した。後から参戦したボクに負けるとか、討伐には本当に向かない異能だね。

 拘束とか足止めとか後方支援に集中した方が良いと思う。


 戦闘? あの後さっくり終わりました。強スギィ。


「真宵ちゃん、死体の山を作らないの」

「でも景色最高だよこれ」

「サイコパスめ」

「……これ、売ったらお金になるかしら」

「闇市行く?」

「えぇ。頼むわ」

「『堂々と取引するな』!!」

「二人ともさぁ……」


 公には言ってないけど、ボクが闇市とか裏社会に詳しいのは皆何となく理解している、らしい。何故か。

 なんで知ってんだ意味わかんねぇ。日葵のせいか?

 たまーに探って来るのは挑戦ってことで良いかな?

 ところで、魔都最大のブラックマーケットは旧秋葉だったっけかな? 直々場所変わるからわかんねぇや。




───と、楽しく皆で談笑していた、その時。




 工場跡地一帯に、再び空想の力が流れ出た。それは再び《洞哭門(アビスゲート)》が開く合図であった。

 全員が一斉に戦闘態勢に入り、廻先輩が慌てる中。

 ふと何気なく空を見た日葵だけがそれに気付けた。


「───上だ!」

「っ!」

『なんだと!?』


 ボクたちの遥か上空。誰かが泣き叫ぶような音を立てて空間が歪み、《洞哭門(アビスゲート)》が開く。その規模はとてつもなく、工場跡地が丸ごと収まる程度には巨大な穴が出現した。

 うん、過去最大級じゃないかな、これ。


 ……というか、この気配。どこかで……

 気の所為、かな?


 疑問を押し殺して、皆と共に空を見上げる。世界に穴が空いた反発で、紫電が辺りに飛び交っている。

 ここまでの規模は滅多にないぞ〜……


「でかい……!」

「いやいやいや、何出てくんの!? 怖い!!」

「廻、お姉様は!?」

『今通…をつ…ジジッ……いると…ろだ!』

「っ、聞こえないわよ!」


 電波障害? 《門》がデカすぎてヤバめな感じか。

 皆で慌てて、どんな空想が出てきても良いように武器を構えて敵を待つ。

 大きさからして、ドラゴンとか……?

 ちょっとワクワク。ボク、ドラゴンの肉好き。


「食欲勝りすぎじゃない?」

「だから人の心を読むな」

「想像してヨダレ垂れてたよ……」


 緊張感が漂う中、日葵がそう指摘してきた矢先に。


 声が、誰かの声が───《門》から響く。


「──────わあああああああああああああ!?」


 出てきたのは、人間。

 ……穴から、青年が一人………落ちてきた。うん。


「「「「は???」」」」


 なんで??? 人間の男の子なんで??? は???


 ……《洞哭門(アビスゲート)》の向こう側には、地球とはまた違う異世界(エーテル世界)が広がっている。そこから空想と呼ばれる様になった魔物たちがやってくるん、だけど……


 なんで人間? しかも学生服……どゆこと?


「さ、災難な奴……南無南無」

「やめてそういうの。とりあえず助けに行ってくる」

「え、えぇ」

「何がどうなってんの???」


 唄を歌い、天使の羽を背中に展開した日葵が、空を飛んで青年を回収しに行った。

 よく急降下してる奴を捕まえられるな。


 数秒後、日葵は一言二言青年と会話しながら降りてきた……青年をお姫様抱っこして降りてきた。は?

 あと背中の羽のせいで宗教画の凄さが垣間見えた。

 っと、魅入ってる暇はないな。その腕の中にいる高校生ぐらいの男が邪魔だ。というかマジで誰だ。


 青年は惚けた目で見るボクたちを、引いた目で……主にボクを見てくる。なんで?


 そして彼は、青ざめた顔のまま口を開いた。


「えっーと、その〜……虐殺狂人共の集まり、か?」

「「「「違う」」」」


 クソ度胸の塊かな?

 つーかなんだ、失礼だな。死体の山の上で足を組むボクが悪いのか??? そうみたいですね???


 そりゃ初手でこんなん見たらそう言うわな。許せ。




 ───穴は閉じ、現れたは困惑する一人の青年。

 望橋一絆(もちばしかずき)と名乗った“異世界転移者”は、本当に訳が分かっていない顔で、ボクらを見るのだった。


 ………さては貴様の仕業だな!? クソ邪神!!!


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