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神の箱庭 〜氷水の魔女編〜  作者: 杯東響時
第二幕「パラダイス・ロスト」
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Case31「マキナ・クォーノス」

 今度こそ。今度こそ空気が凍り付く。今度は自分が何かしたというわけではない。無論比喩表現での氷結だ。ハウリッドが微かに怒気を混ぜていたのにも驚いたが、それ以上に今まで積もっていた疑問が確信に変わった衝撃の方が上だった。


 マキナ・クォーノス。前厄災戦の英雄であり、恋人であるガイナの父親でもある。彼を見た者は少なく、自分も直接会ったことがあるわけではない。厄災戦後に姿を現したらしいが、ある攻撃が原因で自分は気を失っていたため直接姿を見ていなかった。


 ——エイカムはガイナを殺したヤツと一緒に行動していたと言っていたけれど……。


 事の真相を問いただそうと一度ガイナと初めて出会った山まで向かったが、一向に彼が過ごしていたと言っていた洞窟が見えてこなかった。以前貰った依頼書を持ち込んでみたが、縁が切れていたのか無駄足に終わっている。どうやら招かれざる客だったらしいとその時は機会を改めることにしたのだったが……。


「まさかアソコがそんなに重要なトコだったなんて、ね」

「えぇ、ですからガブリエル様がそこに行けと進言されたのでしたら昇降機に行った方がよろしいかと」

「そうしたいのは山々なのだけれど……」


 今の自分には当然マキナと繋がる縁はない。あちらから接触してこない限り、もう一度山へと入っても目的地にたどり着くことはないだろう。しかしハウリッドはそうは思っていないらしく、むしろ「都合が良かった」とくすりと微笑んでいた。


「ガブリエル様との契約が感じられるのでしたら、それを頼りに向かってみてはいかがかと。昇降機とは天界への道を舗装したもの。ただの天使から神秘を借りているだけの一般魔法使いならともかく、マリンさんは《《熾天使い》》です。熾天使と直接契約していればそこに強い縁が絶対あります」


 ……なるほど。確かに一理ある。今も全盛期ほどではないものの、ガブリエルと繋がっているらしき線……彼の言い方を使うならば縁を感じていた。それを頼りに進むことくらいはできるかもしれない。


 ——なんにせよ行ってみるしかなさそうね。


「いいわ、乗った。……一応行先をエイカムにだけ伝えて、朝から出るか」

「……やはり元の調子に戻ってくれたようでなによりです」

「何よ急に。キモいわね」

「キモッ……!? ——こほん。いいえ、少し前のマリンさんであれば今すぐにでも出発していたな、と思ってですね」

「——ふふん。ワタシは一分一秒成長しているのよ」


 豊かな胸を自信満々に張り上げるとおおー、と何を喜んでいるのかわからないが感嘆の声をあげながら拍手をしていた。悪い気分ではないな。


「とはいえ、エイカムは昨日今日と王城へは戻っていないらしいですよ」

「えっ、珍しいわね」


 ハウリッドから放たれた意外な一言に少しだけ目を丸くする。


 それはそうだ。エイカムは毎日事務仕事に追われており、王都にあるはずの自宅にすら月一帰っているかわからないほどに王城籠りをしているはず。一日空けるならともかく、二日王城に姿を現さないなんて聞いたことがなかった。


 ——何か嫌な予感がする……。けれど——


 気にしているような時間はない。ガブリエルとの契約がいつまで感じられるかわからない状況であることは感じられる。数日は持つだろうが、彼を探している余裕なんて正直なかった。こう感じるのもやはりハウリッドが言う《《無理矢理繋いだ》》影響なのだろう。そう長くは続かない、そんな感じがする……。


 ——となるとショウコウキを目指すのはガブリエルとの再契約のため、と考えるのが自然かしら……。


「——いくらここで考えても行ってみなければ始まらないわね。エイカムの情報ありがとう。一応頭に入れておく」

「はい、お役に立てていたのならなによりです」

「……アナタ、自分の同僚が行方知れずなのに随分と余裕ね」

「勿論。彼を信頼していますから」

「——そう。変なこと聞いて悪かったわ。随分と世話になった。ありがとう」

「いえ、どういたしまして」

「…………」

「どうされました?」

「…………いえ。アナタがワタシ達の敵ではないことを祈っとく」

「————」


 驚いたように目を見開くハウリッド。しかしまたいつものように穏やかな笑みを浮かべる。言葉はない。何を思っているのかはわからないが……。


 ——ワタシの目に曇りがないことを、信じるわよ。


 ハウリッドに背を向け、ゆっくりと歩き出す。彼が敵であったのならばこの行為は愚の骨頂だ。それでもやはり信じたい。人の善性を。裏切者なんていない。きっと色々と勘違いして間違った方に進んでしまっていただけだ。


 ——きっとそうだ。
















「いやぁ、恐ろしいな。探偵を名乗る女が推理することを止めてしまっているぞ。誰もが幸せであれと願って。ははっ、いいや結構結構。信じる、願う、大いに結構。オレはそういう美談好きだぜ。信じる者は救われる、ってな?」


「けどよ。探偵は疑うことが仕事だ。それを放棄したのなら——」


「——ははッ! なんにせよ良い結末を迎えることはできねぇ、なぁ? クソドマジメなニンゲン様よォ」


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