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神の箱庭 〜氷水の魔女編〜  作者: 杯東響時
第二幕「パラダイス・ロスト」
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Case29「覚醒ーさいかいー」

 深い。深い湖にでも落ちていく感覚だ。身体の自由は効かない。胸に空いたはずの穴はない。であれば当然鮮血も流れない。しかし身体の自由はまだ効かない。意識がはっきりと覚醒してくれない。(まぶた)を少しだけ開く。これが今できる限界。


 ——光が、遠い……。


 気付けば随分と長い間落ちている。水上は遠く、また底も遠いらしい。音のない静寂。これだけ大きな湖に落ちているというのに生物の一つも見つけられない。呼吸はできる。当然。水属性を極めた魔法使いだ。特別何かをしなければ水の中で呼吸できないなんてことはない。地表で人間が呼吸するように。植物が光合成をするように。ごく自然に息は出来ている。


「————」


 先程の思考の中で一つ訂正しなければならないことがあるらしい。


 ——何か、音が……。


 これは声に近いような気がする。身体に力は入らないが意識を集中させることくらいはできるはずだ。


 ——下だ。


 声らしき音はどうやら湖の底から聞こえていた。身体が動かないため声の主に振り向くことはできないが、見ずともこの感覚には覚えがある。最後に経験したのは確かそう、五年前だったはずだ。


「《《ガブリエル》》。アナタ、今そこにいるのね」

「——コレハコレハ、オヒサシブリですね。マリンサン」


 姿は見えないものの確実にその声と会話する。会話相手は熾天使ガブリエル。天使の中でも最上位に位置する天使。かつて自分が契約していた天使でもある。


「——契約は切ったと思っていたけれど」

「それではツゴウがよくないでしょう。アナタはケイヤクをキッタつもりだったみたいだけど、ゴメンナサイね。ムリヤリツナイデおいたの」


 以前は上手く出力できていなかったのか、発する言葉にノイズが走っていたものの今はあまりそれらしいものは聞こえてこない。彼女なりに何か学習をしていたのか。だとすればかなり勤勉、真面目と言わざるを得ない。


 ——いいえ、アナタは前からそういう存在だったわね。


「それで、今回は何の用? 五年振りに顔を出したのだから何か大事な話でもあったのよね」

「…………? ダイジなハナシなんてナいですよ。ワタシはゴネンマエのアノヒからずっとヨビカケていましたから。コンカイはグウゼンタイミングヨクK……シツレイ。オハナシデキタのでしょう」

「呼びかけていた? ワタシには何も——」


 聞こえていなかった、と言おうとして言葉を振りほどく。もしかして、《《氷の腕や魔眼は彼女の呼びかけの影響で発現したもの》》だったのだろうか。


 その思考に気付いたのか声の主は嬉しそうに笑う。ようやく気付いてくれたとでも言わんばかりに、いたずらっぽく、かわいく、うつくしく。


「でも急に何で声が聞こえるようになったの……? 今までの呼びかけでも気付かなかったのに」

「ダレカがパスをツナイデくれたのでしょう」


 無意識に口に出ていた疑問に懇切丁寧に説明をしてくれるガブリエル。誰かが、なんて言ったら答えは一つしか思いつけないはずだ。


 リダウテン・ハウリッド。てっきり裏切られたのかと思ったが、まさかガブリエルとの契約(パス)を再び繋いでくれたとは。これは戻ったら感謝しなければならない。


 と思った直後、急激に息苦しさを覚える。これも昔体験している。現実の意識が覚醒する時間らしい。


「そろそろジカンみたいですね」

「そうみたい。少しの時間だけでも話せてよかった。ありがとう」

「イイエ、オレイなんてイイのですよ。そんなことより、アナタのツギにムカウべきバショですが」


 私の向かうべき場所? と頭で疑問を浮かべながらもガブリエルの会話に耳を傾ける。あまり猶予はない。今は彼女の言葉を聞くことに専念すべきだ。


「《《ショウコウキ》》にムカイなさい」

「————ショウコウキ……?」


 時間がないのはわかっている。それでも聞き返さざるを得なかった。何故ならその《《ショウコウキ》》なる場所に全くと言ってよいほど心当たりがなかったからである。


「ちょっと! ショウコウキってどこよ! もう少しわかりやすくヒントちょうだいな!!」

「それではジカンです。またアエルヒをタノシミにしていますから」

「ま、待て待て待て! 待っ——」


 意識は途切れた。湖の底に沈んでいった意識は打ち上げられ現実世界で目が覚める。時間はさほど経っていないらしく、まだ空は暗く星が綺麗なまま瞬いていた。


 否、そこは重要ではない。とても重要なことがある。そう、とても重要なことだ。


「《《ショウコウキ》》ってどこーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」


 叫びと共に魔力が爆発する。周囲を冷気が支配して、身体が羽毛で出来ているのかと錯覚するほどに軽い。刹那、身体は重さを取り戻したが、それでもあの感覚には覚えがあった。五年前に今は無き兄と特訓して手にした魔法使いの最上級である熾天使いの、人類が到達できる頂点の一つ。熾天使との契約を深め、自身の魔力濃度を天使と人間とを五分にすることで初めて成しえる偉業中の偉業。


人の身にて(セラフィム・)天上を歩む者(フェイカー)……?」


 およそ五年振りの光臨であった。


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