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神の箱庭 〜氷水の魔女編〜  作者: 杯東響時
第二幕「パラダイス・ロスト」
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Case26「今明かされる衝撃の真実」

 時間にして数秒だったかもしれないが、沈黙の時間は重く数時間経ったかのようにも感じた。誰かの喉が鳴る音がして、翼を握りしめていた少女がゆっくりと立ち上がる。ハウリッドを真っ直ぐに見つめる瞳に敵意や怯えというものは見えない。つまり、だ。


「おめぇの気持ちはわかった。信じる。信じてやるよ」

「————よっっっっっっっっかったぁぁぁぁぁぁ……」


 その男にとても似合っている安堵の声を漏らすと空気の緊張が、握りこぶしと共に解かれる。モルドレッドの眼は彼を『信じるに値する男』であると認めたらしい。ということはここで一つの疑問が浮かび上がる。何故彼は栄養があるだけ、の食事を摂らせていたのかということ。誰もが幼少期を経験して、食べなければ生きてはいけないことくらいわかっているはずなのに。


「一つ聞いていいかしら?」

「なんなりと。どうやら今の僕には色々と説明する責任があるようです」

「何で栄養だけの食事を選択したの? あれだけ完璧に栄養を満たすことができる食事を提供できるなら量についてもなんとかできたでしょうに」

「そこは……僕の配慮不足が原因ですね。モルドレッドはもう《《視た》》かもしれませんが、僕にはおよそ親と呼べる存在との記憶はありません」

「なっ……!?」


 静かに頷くモルドレッド。なるほど、それは真実で間違いなさそうだ。


「そしてそもそも昔から僕は食事をあまり必要としていませんでした」

「食事をあまり必要としてなかった?」

「神への祈り。これだけにほぼ毎日時間を費やし、それだけで生きてきたんですよ」


 それだけで、ってそんなことが現実に可能なのか? だとすれば筋金入りの信奉者だってことだ。神を信じる力だけで今まで生きてきたというのならその力はまさに本物。いや、神の加護というやつかもしれない。


「だから食事の必要性をあまり感じていなかったのかもしれません。これは明確に僕の失態です。モルドレッド、すみませんでした」

「——ゆるしてやる気はねぇけどりかいもできた。今度からは気を——」

「こら、モルドレッド。貴女(アナタ)も謝りなさい」


 ハウリッドは首を傾げ、モルドレッドは苦虫を噛んだような表情を浮かべている。おそらく彼は責任は全て自分にあると本気で思っているだろうが、だからと言って間違っていることをしたままにしておくことはできない。こういうのは今のうちに清算しておかなければ後で大変なことになるのは目に見えている。


「たとえ相手が間違っていたとしても、自分が間違ったことをしていい理由にはならないわ。間違えたなら謝る。社会に出たら当然必須の常識よ。覚えておきなさい」


 と言えばじーっと見つめてくる変な視線が二つ。何か間違ったことでも言ったのかしら。大人としてすごく常識的なことを言ったつもりだったのだけれど。もしかしてしばらく王都を離れている間にそういう常識は消え失せていたのだろうか!? だとすればマズイ。今すぐにアップデートしなければ。いや、だとすれば治安が終わってるな?


「——氷水(ヒスイ)の魔女」


 ぼそっとモルドレッドが呟く。数秒遅れて「あっ」と情けないほどに情けない声が出てくる。その名は半分勲章、半分蔑称である自分の通り名。この五年で知れ渡った功績と悪行の二つ名。相手が悪逆の働くものなら容赦せず、時に半殺し、時に氷漬け等々……。善良な一般市民からは感謝され、少しでも悪行に覚えがある者には恐れられ、(ドラゴン)も跨いで通る——


「そこまで言われてないからっ!」

「えっ?」

「そこまで言われてないからっ!」

「え、えぇ……。なんのことかはわかりませんが、それはわかりました」

「……………………こほん」


 気を取り直して。


「……そんな(ワタシ)だから言うのよ。そうやって失敗して後悔している(ワタシ)のようになってほしくないと思っているからこう言うの」

「じーーーー」

「な、なによ。その何か言いたげな視線は……」

「うそはわかるよ」

「——後悔はしてないわ。(ワタシ)を怒らせる奴が悪い。それはそれとして、って話よ。こんなロクでもない人間になりたくないのであれば誤りは正す。ここで謝っておくと後が楽よ」

「…………」


 この言葉に嘘はない。それは彼女自身がその眼でもってわかっているはずだ。だが何を言い淀む必要があるのだろうか。素直になれないとか謝るのが恥ずかしいとか、そういう子供特有の羞恥心が邪魔をしているのか。


 ——いいえ、違うわね。いさぎのいい彼女のことだからそんなことではないことは確か。なら何に引っかかってるのかしら?


 そんなこちらの心配を余所に頭をひとしきり掻くと、


「——ごめん」


 と一言。


「僕こそすまなかったね。これからはより良く君達の道を照らせたら良いと思っているよ」


 感動的なシーン。普通ならここで熱い抱擁か握手が見られるはずだが、今回はそんなことはなかった。


 ——そんなことしなくても、(カレ)らは充分に理解し合えたことを実感しているはずよ。


 ということは、だ。


「——これにて一件落着!!」

「まさか依頼が片付いた後いつもそれをしているのですか……?」

「アタシ、そこだけは尊敬できないかも……」

「そ、そんなーーーー!?」


 何はともあれこれにて一件落着!


 ——えっ? サブタイの今明かされる衝撃の真実が何かって? これは文量が思ったより多くなっちゃって二つに分けなきゃ入らないと思った結果! 前後編にわかれてしまったわけね。その名残みたいなものよ! ということで次回! 「真・今明かされる衝撃の真実」!


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