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神の箱庭 〜氷水の魔女編〜  作者: 杯東響時
第二幕「パラダイス・ロスト」
53/59

Case25「眼」

「そーだよ。アタシが……やった」

「——モルドレッド君……」

「ンだよ、その目……。アンタがはじめたことだろぉが!」

「——僕にはわかりません。本当にわからない。何か僕が間違っていたのでしょうか? 君達の……子供達の将来を憂いてやったことが間違いだったと?」

「……っ!? それを! 本気で言ってるってのが《《わかる》》からイヤなんだよ!!」

「——それよ」


 モルドレッドはここでマリンに口を挟まれると思っていなかったらしく、驚いた様子で歯を噛み締めている。その小さな身体にどれほどの感情を隠しているのかはこの魔眼では《《ぐちゃぐちゃな色》》にしか見えないので理解することはできない。しかし、今の自分はあくまで探偵。頭を働かせ、彼女の過去の言動から近いものは引っ張りあげることができるはずだ。


「今、《《わかる》》って言ったわね? 貴女(アナタ)の《《わかる》》は《《理解できる》》って意味よね。何かを察したとか、何かを聞いてしまった、とかそういう半端な《《納得》》とは違うものを感じる。説得力と言ってもいい。貴女(アナタ)の言葉にはそういう説得力(スゴみ)を感じるのよ」

「なにが、言いてぇ……」

「つまり《《何か嘘を言っているのかどうかわかる目を持っている》》。違う?」

「ちがう」

「——————————————あ、そう」


 どうしてくれるんだこの空気は。本当に違うみたいな雰囲気で否定するのやめて。あっ、いやハウリッドがすごい冷めた目で見てる。あんな目をした彼は初めて見るわねッ!!


「もっとちゃんと言うなら《《見えないモノが見える》》」


 ……いかん。抽象的すぎて漠然としかわからん。


「…………例えば《《魔力》》とか《《感情》》とか?」


 少女は小さく頷く。とりあえず正解だったようでなによりだ(主に体裁を保てたという理由で)。そこに立っている信徒は未だに頭にハテナを浮かべているようで、口を自分から開こうとはしない。いや、それ以上にモルドレッドが食糧庫荒らしの犯人だったことにショックを受けているのかもしれない。


 しかし未だにハテナなのも無理はない。魔法使いの中でも魔力を直接視認できる人は少ないからだ。自分だってうっすらと集中すれば見えるかもしれないが、そんなことをする前に魔法使いとして当たり前のように魔力を察知できるため見る必要すらないのだ。要するに普通の魔法使いがするには効率が悪すぎるのだ。だから魔法学校でも積極的に教えることはない。普通の魔法使いにはピンとこない感覚なのだ。


 ——まして感情が見えるなんて話、実際にそれっぽいモノを持っていないと信じられないわよね……。


「おこってるなら赤、かなしいなら青、くやしいならオレンジ、たのしいなら黄。んで、《《ほんとのことを言ってるなら白》》。《《うそをついてるなら黒》》にみえる……」


 逆に言えばぽいモノを持っている自分からすれば、これほどに感情を精密にわかるのは規格外も規格外だと身をもって理解できる。そして彼女の言いたいことは全て後半に詰まっているはずだ。


「うそは言ってないのがわかる。テメェが良かれと思ってることも、本気でアタシ達のことを考えてるってことも!」

「…………」

「だったら直接言えば——」

「《《でもわかんねぇんだよ》》! もっとおくに、ずっとおくにこの眼でも見えない《《何か》》がある!」

「っ……!?」

「————モルドレッド」


 信徒は少女の名を呼ぶと一歩前へと踏み出す。当然、決して広いとは言えないこの部屋は彼女に退くという選択肢を選ばせてはくれない。


 一歩。少女は怯えたように身体を震わせる。


 一歩。少女はびくりと肩を跳ねさせ信徒を睨みつける。


 一歩。


 信徒と少女の間にはおよそ一人分の隙間。それを埋めるように伸びたのは人間のそれとは思えないほどに歪で、しかし腕のようなものには確かに見える氷の塊。


「それ以上彼女(カノジョ)に近付くな、リダウテン・ハウリッド」

「——おや、そんな敵意剥き出しでどうしたのですか?」

「それ以上近付くなと言っている! 貴方(アナタ)がどういう意図で近付いているのかその口で語るまでは——」

「視てもらうためですよ」

「……何を?」

「僕の心にはおそらく神の加護が宿っています。そのせいで中身が見えづらくなっているのでしょう。ですからこれを」


 ハウリッドが差し出したのは綺麗な純白の羽。魔力が宿っているのを見るにおそらく魔法使いなら誰でも使えるであろう『神の力(エンジェル・ウィング)』から零れ落ちた一片。これを渡してどうしようというのか。どうするか悩み思わずモルドレッドの方を見ると彼女もこちらを見ていたらしく、視線が合った瞬き後、ごくりと喉を鳴らして頷く。


「——何かあったらただじゃおかないから」

「何かやるなら既にやっています。さぁ」

「…………」


 再びごくりと喉を鳴らして一呼吸。少女は目を背けたくなるほど綺麗な純白を持つ翼を握りしめる。


「人は嘘を吐きます」

「——それは否定しないわ。人でなくとも高度な知性体であれば嘘というのは備わっている機能でしょうね」

「だから僕も嘘を吐いたことがないとは言えません。心の中に黒いものが見えることもあるでしょう」

「————」

「しかし魔力は嘘を吐かない。魔力は万物を生かすエネルギーです。心臓に貯まり、全身を血液と共に駆け巡りその生命を生かす。そこに意思はない。ただの装置です。しかし全身を巡り、何らかの意図も持って駆け巡るものであるなら残るはずなのです。魔力に意志の残滓が」

「——まあわからないでもないわ」

「であるのなら。見えないものを、魔力を見ることができる眼を持つ彼女なら視えるはずです。リダウテン・ハウリッドの魔力がどのように運営されてきたか。その残滓が。嘘偽りのない僕の生き証拠が」


 モルドレッドは特殊な魔眼を頼りに生きてきた。つまりその眼こそ彼女の最大の武器。その武器で読み取れた情報であれば信じざるを得ないということか。


 なるほど、合点はいく。しかしリスキーだ。もし自分に後ろ暗い過去があればそれすらもモルドレッドには筒抜けになってしまう可能性だってあるはず。彼がそこまでする理由は何か。考えるまでもない。


 ——《《信頼》》……。賞賛に値するわ。認めます。貴方(アナタ)は底なしの善人だ。


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