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神の箱庭 〜氷水の魔女編〜  作者: 杯東響時
第二幕「パラダイス・ロスト」
52/59

Case24「逃走失敗、そして自首」

 そして丸一日が経った夜。ハウリッドはいつものように自身の部屋で仕事をしている。《《マリン先生》》は今朝、何か仕事があるようでハウリッドと入れ替わりで出て行ってしまった。またいつもの栄養があるだけの食事に戻ってしまったのである。自分はそれでも《《大気中に漂う魔力があれば事足りる》》が、他の子供達はそういうワケにはいかない。量が無ければ肉はつかない。いくら生きるのに必要なだけの栄養があったって、《《生きるのに必要な栄養だけあったって夢は叶えられないのだ》》。


「——————」


 だからせめて、彼らに《《アタシ》》が食糧を——


「《《見っけた》》」

「————ッ!?」


 真っ暗な食糧庫。そこについている窓から音を立てずに侵入したはずだ。先に誰もいないことは確認したはずだった。人らしき魔力反応なんて《《眼》》では見えなかったはず。


 いや、それだけではない。


 ——なんで……。


 なんでなんでなんで——!


「《《なんでマリン先生がいるの——!?》》」

「《《ざっつらいっ!》》 物分かりが早くて助かるわ、《《モルドレッド》》」




 月に照らされて、隠れていた者が姿を現す。


 一人はマリン・ブリテンウィッカ。世界最高峰の魔法使いにして、氷水の魔女の異名を持つ探偵。


 もう一人はモルドレッド・クラレンタ。孤児院にいる子供達の中でも最古参の一人で、リーダー的存在になっている女の子で。


 そして。


 そして。


「いいえ、《《食糧庫荒らしの犯人さん》》」


 氷水の魔女と呼ばれる女は、あくまで冷徹に。淡々と。しかし睨むことはなく。少しいたずらっぽく口角を上げ、そう口にした。




☆☆☆☆☆




「マリン先生がどうしてここにッ!?」

「あら、貴女(アナタ)も聞いていたでしょう? 食糧庫荒らしの犯人を見つけてほしいって依頼を受けてるとこ」

「そうでもあるけど……っ! そうじゃあなくって、なんでここにいるのかってことを聞いてんだよ!! 朝にしごとがあるって——」

「仕事、あるわよ。これとか正に仕事でしょ」


 何か納得のいっていない様子。それもそうで、今自分が話している内容はほぼ屁理屈みたいなものだ。嘘は伝えていないだけ。さあ、子供をいじめるのはこれくらいにしてそろそろ謎解きの時間といこうじゃないか。


「とは言っても謎なんてのはあまりなかったわ」

「————」

「まずは動機(ホワイダニット)。ここは語らずともわかる」


 勿論最初に話した通り食糧泥棒の動機なんて知れている。《《食糧不足》》だ。であれば食糧を必要としている者が犯人だと推察はできる。


「そして貴女(アナタ)達と共に一日過ごして、子供が成長に必要な量を満たせていないことも気付いた」

「——さいしょは気にしてなかったんだ。えいようがとれるならそれでいいんだってアタシも思ってた」

「けれどそれだけではダメなんだと気付いたのね」


 モルドレッドは静かに頷く。もはや隠すことは意味のないことだとわかっているのか、俯きながらも口を閉ざすことはなかった。


「みんな大きくならねぇんだ。それだけじゃない。ハウリッドはまほうで治せちまうけど、ビョーキにもなりやすくなる」


 免疫力が低下する、というのはただでさえ病気に弱い子供の症状が悪化してしまう可能性もあり、最悪ただの風邪でさえ死ぬことすらある。ハウリッドは治療や防御などの光属性魔法が得意であるため、病気になろうがある程度はその場で対処できるはずだ。しかし、もし彼の手に負えないような病気であれば? そもそもハウリッドがいない時に弱ってしまったなら? 多分子供達はあっという間に死んでしまうだろう。


「だから食べさせてやらねぇといけねぇんだ」

「それを(カレ)に直接言ってみた? 貴女(アナタ)達の言うことを無視するような人ではないと(ワタシ)は思っているけれど」

「——言ってない」

「なんでかしら?」

「……それは——」

「まさか君だったとは。モルドレッド君……」


 モルドレッドは顔を逸らし真正面から見ようとはしない。近づいていることは魔力反応でわかってはいたが、こうも到着が早いとは思わなかった。声の主の方を振り向けば、そこにいたのはよく見た顔の人物。


「リダウテン・ハウリッド……」

「つい先ほど書類仕事を終えたところだったので、食糧の補充依頼でもかけようかと思っていたのですが。どうやらタイミングが良かったやら、悪かったやら……」


 ため息をついて頭に手をやる。どうやら本当に偶然来て、偶然遭遇してしまっただけらしく、かなり反応に困っているといった様子だ。それもそのはず。何も知らずにここに来てみれば、今朝帰ったと思っていた人物が(状況的に)食糧庫荒らしの犯人と思しき施設の子供を問い詰めていたのだから。目の前にしても未だ存在感の薄い少女の表情から察するにもうバレているし、これ以上バレてもあまり変わらないと思っていることだろう。


 ——できればハウリッドに知られる前になぁなぁで済ませたかったけれど、仕方がない……か。


「……役者も揃ったようですし、改めて。——モルドレッド。貴女(アナタ)が犯人よ」


 覚悟を決めた少女の痛々しい姿を見つめながら、しかし目を逸らすことは許されない。


 ——貴女(アナタ)が逃げないのなら、(ワタシ)も逃げないわ。


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