Case23「子供」
現在深夜。子供達と共に同じ部屋、同じ布団で横になっている。ちょうど横にはオリヴィアとモルドレッドがいて、双方静かに寝息を立てていた。当然他の子供達も既に寝ており、この部屋で起きているのはおそらくこうして思考を回している自分一人だけだろう。
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長年、寝る時は常に警戒しながら寝ていたせいもあってか周りに人の気配がすると中々寝付けない自分を情けなく感じているところだ。しかし久しぶりに人と一緒に寝て気付いたこともある。
——人肌ってこんなにも暖かかったかしら。
この時期のこの地域は若干寒いため普段は大きく広がって寝ている子供達も集まって寝ているらしい。寒さに強い体質である自分では気にしたことはなかったが、確かに他の地域に比べると寒気を感じるかもしれない。だからだろうか。人肌の温かさを感じるのは。
——いえ、それ以上に子供が温かいのか。
確かに子供の体温は比較的高いとされている。隣で寝ているモルドレッドの頬をすりすりしてみるともちもちで温かい。
——ふにふに。
柔らかい。
——ふにふに。
あ、笑った。
——ふにふに。
食べちゃいたいくらいに可愛い。あるよね、こういうの。子供のほっぺって思わず食べたくなるよね。え、ならない? そう。
——それにしてもこのブレスレット本当に不思議ね。
注目したのはモルドレッドの右手首につけられたブレスレット。遠目で見てもかなり神秘的なものに見えたもので、昔から気になってはいたのだ。こうして近くで観察することで初めてわかることもあったのは収穫である。いつから所持している物かはわからないが、やたらと複雑な構造をしているのはわかった。
——……♪ 良いこと考えたー。
「——構造解析開始」
さてモルドレッドで遊ぶのはこれくらいにしておいて。そろそろ寝ておかなければ。不意に変なことをして子供達の眠りを妨げてもよくない。それに明日は朝から色々と工作しなければいけないことがある。
——おやすみなさい。
——んんっ。
何か変な感覚があって目が覚める。意識を落としてからそう遠くない時間だ。こう、こそばゆい感覚……。
「ひゃうっ!?」
ま、間違いない。何かが自分の服の中を弄っている感覚だ! 温かい手、ということは子供のもので間違いはなさそうだ。現状、横向けに寝ている自分の後ろから手を回してくる人物といえば——
——も、モルドレッド……?
お腹をつままれた。ちょっとくすぐったいような気もするが、しばらくしていれば慣れて寝付けるだろう。
結果から言えば甘かった。甘かったと言わざるを得ない。モルドレッドを腕は上へと向かい、やがて豊かな双丘を手のひらに収めた。
「……っ!????!??」
ビビッ! という痺れる感覚と共に《《なんだか熱くなる》》。所詮子供の寝相だ。《《刺激》》なんて大したものではない。しかし人の肌と触れ合うことすら久しぶりだった自分にとっては、他人の体温が身体を弄るという時点で強い《《刺激》》であった。
——ちょっ、このエロガキ……!
背後に意識を集中させる。どうやら起きている様子もなく、本当にただの寝相だったらしい。無理矢理跳ね除けてもよいが、それでは彼女を起こしてしまわないか心配だ。できるだけ子供達には沢山遊び、沢山食べ、沢山寝てほしい。大きくアクションを起こすわけにはいかない。
——大丈夫。常に余裕を持って優雅たれよ、マリン・ブリテンウィッカ。
もみっ。
——だからこれは平気よ。
もみっ。
——……平気。
ぎゅうっ。
——ひぃんっ!?
一際強い《《刺激》》が走り、とうとう我慢できなくなって起こさないようにゆっくりとモルドレッドの方を向き直る。そうすると後ろに腕を回して抱きつく体勢に落ち着いてくれた。これなら大丈夫なはず、と思いながらふとモルドレッドの方に視線を移すと思考が固まってしまう。モルドレッドを閉じた瞼、目尻から流れた一筋の涙。どういう涙だったのかは共に動いた口を見ればわかることだった。
ま
ま
——…………。
昼間は気丈に振舞ってはいたが、やはりこの子はまだ子供なのだ。それも五年前に両親を亡くしている。同年代の子がいるとは言ってもきっと寂しかったに違いない。これも全部、自分達が不甲斐なかったせいだ。
——いや、わかってるのよ。過去を悔いてもどうしようもないということは。
モルドレッドを胸の中に抱きしめる。優しく、強く。ずっと居てやることも、親の代わりをすることもできないけれど。それでも少しだけでも彼女達を安心させたい。《《しかし、だからこそ誤りは正さなければいけないのだ》》。彼女がいつか道を踏み外さないように。見守り、支えていかなければならない。
生き残った者の責務として。過去に囚われないよう。今は、未来に生きる世代を生かすために、この命を使おうと心に刻む。
——と言っても、こんなこと話したらアーサーには怒られちゃうでしょうね。あとガイナも怒るかしら。
そして一つ、決意する。
——貴方がもし今も生きているのなら、いつかきっとまた道が交わる日が来るよね。
マリン・ブリテンウィッカはこの思考を最後に、次の日の朝まで目覚めることはなかった。




