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神の箱庭 〜氷水の魔女編〜  作者: 杯東響時
第二幕「パラダイス・ロスト」
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Case21「Not Found?」

 部屋に入って一番最初に目に入ったのは作業机。エイカムの執務室に置いてあったものとは全然違う、粗い手作り感満載の机。きっとハウリッドが座って作業するには些か高さが足りないはずだ。腰を掛けてみると、やはり自分でようやっとぴったりと言った感じ。机の上には何かのメモ帳と、無造作に置かれた資料。


「——栄養学?」


 ぱらぱらとページをめくるが本当にただの栄養学の資料だったらしい。ふと、資料を戻そうとした時に机に何か文字が刻んであるのが見えた。


「ベネリット、パイシャー、クラウン、ボイジャー、モルドレッド……」


 ここの施設にいる子供にそういう名前の子がいたはず。何のことかさっぱりだったが、一段目の引き出しを開いてあぁ、なるほどと合点がいった。入っていたのは一枚の紙。そこに描かれていたのは机の設計図のようなもの。形は少し歪だがおおよそこれと相違ない形の机がここにはあった。


「あの子達が作ったものだったのね」


 手作りの机にそっと触れる。内部構成を解析。仕掛けが施されていないことを確認して次の引き出しを開く。あったのは師団長に任命された時に貰ったであろう承認証明証。その下には魔装師団の規則帳。


「そういえば(カレ)のこと全然知らない」


 証明証にも魔力反応なし。十三年前に師団長に任命されていたらしい。エイカムは確か十年前だったはずなので、彼よりも先輩ということになるのか。


「十三年前、といったら(ワタシ)が九歳の頃か……」


 九歳の頃と言ったら今でも苦い思い出である魔法暴走事故があった年である。関係は無さそうなのでできるだけ思い出さないように頭を振って思考を振りほどいた。


 気を取り直して次の引き出し。


「——っと何かなこの本」


 ……表紙に何やら知らない文字が描かれている。この文字列は何を意味しているのか。さっぱりわからない。表紙をめくってみてもさっぱりだ。


「——《《神やらなにやら書いてはある》》けれど理解できないわね……。《《神の道に背きて》》……何?」


 やはりわからない。神の道に背きてとはどういう意味なのだろうか。ハウリッドは深き信奉者であることは誰もが知っている事実。背くことなど——


 ——待って。


(ワタシ)、もしかして今、この意味不明な文字を読めたの?」


 じっと目を凝らして読もうと試みるが、やはり読めない。何かと勘違いして読めた気になっていたのか? 《《神の道に背きて神に謁見せん》》とか意味わからん。


「——あー、やめやめ。これ見てると頭おかしくなりそう。次」


 っと次の引き出しが最後。しかし引いてみても変なものは何も入っていなかった。机を漁ることは諦めて、本棚などを徹底的に確認してみたが何もおかしなものは見つからない。強いて言えば所々、本に挟まっていた黒い羽。おそらくしおりのように使っているのだろうということはわかるが、何故黒い羽を挟んでいるのかはわからない。まあそこはただの趣味かもしれないから頭の隅に置いておく程度にしておこう。


「不気味なものはあるものの、厄災獣に関するあれやこれやは無し、か……。収穫なし、ってのは本来なら喜ぶべきことなのだけれど……」


 不自然なほどに何もない。本当にここは魔法使いの部屋なのかと錯覚するほどに普通の部屋だ。何もないのが違和感だなんて、こんなに座りが悪いことがあろうか。


 とにかく、だ。エイカムには何も見つからなかったと報告する他ないようである。


「——はー……。あっちが上手くやってくれてるといいのだけれど……」


 ふと外に視線を移すと空がオレンジに染まり始めていた。そろそろ子供達も起きてくる時間のはずだ。夕方に勉強をいつもやっていることは事前に子供達から聞いている。その準備もしながら夕飯のメニューも考えなければならない。これをハウリッドは弱音も吐かずに毎日こなしているのだと思うと、素直に彼の事を評価しなければという気になってくる。


「——それでも疑わなければいけないというのはつらいわね……」


 いっそ裏切者なんて最初からいなくて、全てエイカムの勘違いであってくれればどんなに良いことかと思ってしまう。大きくため息をついて後ろを振り向く。すると部屋の扉がほんの少し開いてしまっていたことに気が付いた。誰かいたのかと魔力探知をしてみても反応はなし。扉を開け閉めしてみた結果、建付けが悪くなっているとわかった。かなり急造の施設だったから五年程度でもガタがきてしまっているのかもしれない。


「というか五年程度でこれは欠陥施設にも程があるっての。雨風凌げればいいってもんじゃないのよ……」


 ハウリッドに明日改装するようにおすすめしよう。この国には優秀な魔法建築士くらいいるだろうからきっとよくしてくれるはずだ。


 とりあえず、気を取り直して——


「さて、今度は何を教えますかねー」


 この感じ、《《すごく懐かしい》》。意外と教師なんかの道もありなのかもとか思い始めたのだった。


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