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神の箱庭 〜氷水の魔女編〜  作者: 杯東響時
第二幕「パラダイス・ロスト」
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Case19「小さな違和感」

 子供達が一斉に食事を口に放りこんでいく。その光景がとても素敵でいつまでも見守っていたくなるほどだ。反応を見るにどうやら自分の舌に狂いは無かったらしい。どの子も笑顔でシチューを頬張っている。


「もぐもぐもぐもぐ」

「おかわりもあるわよ」

「えっ、今日はいっぱい食べていいの!?」

「遠慮しないで沢山食べてね。ちょっと作りすぎちゃったかもだから」

「うめ……うめ……」

「今日ってなんかの記ねん日だっけ?」

「さあ? わかんないけど食べるー!」

「あっ、おれもおかわりすーるー!」


 微笑ましい雰囲気を感じながらもほんの少しの違和感を感じる。正直作りすぎた、というのは嘘だ。このくらいの年頃の子供ならこれくらいは食べるだろうという計算をして作ったのである。おかわりもあるのは実際彼らがどのくらい食べれるのかを知りたかったから。まさかそこを見誤るようなマリン・ブリテンウィッカではないと自負していた。


 ——食が細いわね。


 普段からそんなに量を食べていない、あるいは《《食べれない》》と考えるのが妥当か。勿論、彼らは幼いながらに家族を亡くしている。そういう関係から食が細くなるなんてことは十分に考えられるが、彼らの会話から察するにそういうことではないらしい。


 さあ聡明な皆様なら何の話をしていたのかなんてわかったはずだ。そう、ずばりハウリッドからの依頼である【食糧泥棒を見つけてほしい】について語っているのである。こういう問題は犯人が身近にいるのがセオリーだ。故にこうやって仕掛けてみたわけだが。


 ——どうやらビンゴだったらしいわね。


 とはいえまだ推論の域を出ないのは事実。結論を導くのはもう少し詰めてからでもいいだろう。


「——普段はあんまり食べないの?」

「うーん……。こんなに食べれることはあんまりないかもー」

「だれかのたんじょう日とかはごうかかも!」


 ——なるほど。


 どうやら普段の食事提供量が少ないというのは間違いなさそうだ。まあ言われてみれば子供達は少し瘦せ気味かもしれない。と、なると彼らが元気である理由はつかなくなる。食事が足りていないなら栄養が足りず、おそらく騎士ごっこなんてしている体力はないはずだからだ。しかしその疑問もついさっき解決してしまった。


 ——あの水。想像してたより凄まじい効能ね。裏に畑があったと思うけれど、野菜もこの水を使って育ててるのかしら。この料理食べるだけで生命を維持するのに必要な栄養を摂取できてると実感できるほどだわ。


 量が少なくても子供達が元気なのはこれが要因だろう。危ない薬を使われている様子はないし、本当にこの水はどうやって精製しているのか気になるところだ。


 とて、だ。栄養が足りているからといって量を食べない、というのも間違いだ。既に身体が出来上がっている大人であればともかく、子供にそういうのはよくない。食事量が少ないことには何か理由があるのだろうか?


 食糧も決して豊富というわけではないだろうが、少なくて困っているという様子でもなかった(少なくとも色んな食材を使うクリームシチューを作ることに抵抗を覚えない程度には)。彼に限って虐待ということはないだろう。むしろ虐待をしているというのならば子供達と接させることなどしないはずだ。


 ——推察するに食糧泥棒の犯人は《《食糧を奪う動機がある人物》》。おおよそ目星はついた。あまり意味はないけれど《《どうやって》》の部分も察しはつく。


 だがこれだけでは不完全だ。食糧を奪う人物がわかったところで。どうやってやったかを暴いたところで。根本問題である《《ハウリッドの食事提供量が少ない》》ことを考えなければ解決とは言えない。


 ここからが本当の推理の始まり——






「んなわけないでしょ。誰がそんな面倒なことするかっつうの」


 とはならない。だって別にやましいことがあるまいに、直接本人に問いただせばよいのだ。もし彼側にやましい問題があったとすれば——


「それは叩いて解決してあげましょう」


 氷水の魔女たる所以がこの一言に詰まっていた。


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