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神の箱庭 〜氷水の魔女編〜  作者: 杯東響時
第二幕「パラダイス・ロスト」
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Case16「マリンvsモルドレッド」

 互いに用意された模造剣を握る。模造剣、と言っても全力で叩けば痛い。それを子供に振るうのは気が引けるが、彼らの要望だ。できるだけ沿うように動きたかった。


「まずは魔力制御について。口頭でも説明するから見ている子もやってみてちょうだい」


 さあ、少し講義の時間だ。まずは魔力というものは全ての生物に存在している生命リソースって説明は前にした通りである。それを天使等の上位存在に献上することで神秘を借り受ける、これが魔法。しかし魔力の使い道は一つだけではない。


 その例が今から説明する身体強化。魔力は普段心臓部に溜まり、それを血液と共に流動させることで生物は活動している。その心臓部に溜まっている魔力を放出し、普段よりも多く血管に巡らせることで身体強化が成立するのだ。これは魔法ではなく、魔力の操作に慣れることができれば誰でも行うことができる一種のライフハックのようなもの。魔法使いは勿論、職業剣士であれば必須技術だ。


 ——まあ、魔力の扱いに不慣れで雑なアーサーは魔力を噴射して疑似的に動きを加速させていたけれど。あの妖精の加護付きの鎧が無ければ粉砕骨折してもおかしくない荒業だから、よいこのみんなはマネしないよーにね。


「心臓にある熱を強く意識しながら深呼吸。全身に流れる血液の熱を感じて。鼓動を激しく。強く」

「————強く……」


 モルドレッドの青い瞳が透き通っていく。瞳にまで魔力が行き渡った証拠だ。


「流石モルドレッド。飲み込みが早いわね。他の子もがっかりしなくても平気よ。この年で身に着けるなら普通半年は取り組まなきゃいけないしね」

「つまりアタシはテンサイってことか!?」

「ん、まあそゆこと」


 言うとえへへ、と照れくさそうに頭の後ろをかく。実際その通りで、一度聞いただけでこうも素直に魔力を意識できるのは天才と称するほかない。ちなみに(ワタシ)は説明を受ける前から自然と呼吸するのと同じように身についていたわ。


 さて、自慢話はこれくらいにしておいて、だ。


「身体強化ヨシ。じゃあどちらかが模造剣を身体に当てた時点で勝負あり、ってことでいいかしら?」

「おう! いつもやってる感じといっしょだな! おい、ウェイン! 始まりの合図!」

「もー、わかったからまってよー……。——これより双方の合意の元決闘を執り行う」


 ——え?


「きしさまごっこだよ」


 優しく教えてくれたのはオリヴィア。ありがとー! このままじゃなんのことかさっぱりのまま走るタイミング見失ってたとこだったよー!


「勝敗は通常通り相手の身体に模造剣を当てた者の勝利とする。立会人はウェイン・ガンソードが務めます。両者、向顔」

「…………」

「…………」

「——始め!」


 モルドレッドが駆ける。およそ十一の子供ではありえない速度での突進。身体強化をしているおかげだ。最初、驚いた様子を見せたものの即座に順応し剣を振るう。勢い余ってすっころぶこともない。二、三と振るわれた剣を受け流すと大きく一歩下がって大袈裟に剣を薙いだ。勿論当たる距離ではない。ただの牽制だ。


「………………」


普段は短剣ばかりで長物を扱うことはあまりないが、やっぱり扱いにくいことこの上ない。今回の場合はちょうどいいハンデになるから良しとする。


「マリン先生。なんで強化してねぇの……? もし子供だからって手を抜いてるってんなら——いたい目みるぜぇ!」


 自分が低身長なのを理解しているのか、姿勢を低くしたままに肉薄してくる。なまじ体格差があるため戦いにくいことはそうだが、それはそれとして——


「——手を抜いてるわけじゃないのよ」

「……っ!?」


 雰囲気が変わったことを本能で感じたのか一瞬手元が震えたように見えたが、唇を噛み締めて震えをなんとか抑えているようだ。身体強化をしていないのを魔力の流れで見抜いたのも恐れ入るが、それ以上に……。


 ——この時点でただの天才ってだけじゃないわね。


 戦いにおいて恐怖心からくる震えというのは本当に厄介なものだ。本来のパフォーマンスを発揮できないどころか最低値すら振り切ってしまうことすらあるほど。それを子供が自制できるというのか。


 ——《《覚悟が決まっている》》。


 ならばその覚悟に応えるしかない。ぐっ、と足に力を入れてひとっ跳び。五年前以前であれば最初から全力で魔力を流し続けながら戦っていただろう。だが今は使用できる魔力量にかなり制限があるのだ。つまり戦い方は常人のレベルまで落として——


 成人およそ五人分の高さを飛び上がり、一気に落下着地。砂埃が大きく舞い上がり、強く吹いた風がそれを散らす。そこに広がっていたのは同じく成人五人が縦に寝ころべろうなほどのクレーター。モルドレッドはよほど驚いたのか剣を手放して尻もちをついている。


「インパクトの瞬間にだけ魔力を込める。無駄のない効率的な魔力運用よ。これを覚えられるようになって一人前ね」

「なっ——んなこっとより! ころす気かよぉ!?」

「身体で覚えた方が早いじゃない?」

「へっ、その通りかも……ッな!」


 地面を蹴り、剣を前に突き出した状態で高速突撃を仕掛けてきた。いくらなんでもこの速度で模造剣を突き立てられれば腹に穴が空くのは間違いないだろう。


 ——なんて躊躇のない……ッ!?


 攻撃だと構えた直後に、彼女は突き出していた剣を地面へと突き刺し速度を殺すことなく握りしめた剣を支点に横腹を蹴り薙ぐ。


「ぐっ……!」


 なんて無茶苦茶な戦い方だ。おそらく剣と自身を強化して通常では読めない挙動を披露してみせたのだろうが……。あんな速度で突っ込んだのに急停止するような動き。強化が不完全なら腕が千切れていてもおかしくはなかった。それを躊躇なくなせる彼女の精神性が——


 ——違うでしょ、マリン・ブリテンウィッカ! 今考えるべきことはそこじゃない!


 思わぬ方向からの衝撃に思考が混乱していたが、今は別に解析するべき場面ではない。次に考えるべきは相手の行動——


 刹那、思考が飛んだ。


「——どこ?」


 土煙が舞っているわけではない。先程の蹴りで意識が揺らいでいるわけでもない。なのに何故、視線を動かしてもモルドレッドの姿が見当たらないのか。自分の真似事をして上空に跳躍したのかと上を見上げようとした時、《《それ》》は起こった。


「「————え?」」


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