Case15「まさかの展開」
「そこでですね……。物は相談なんですが……。もう一つですね? 頼みたいことがあってですね……」
なんだこの異様な腰の低さは。嫌な予感しかしないが。
「報酬はその分弾みますので!」
……まあできる限りクライアントの要件には応えるのができる探偵というもの。多少嫌な予感がしなくはないが、依頼人がそう望むのであればそうとあろう。
「——まあ乗りかかった舟ですし? 依頼の一つや二つ、私にとっては些事なわけですし」
「それは助かります!」
「で、頼みたいことというのは?」
「あぁ、それでしたら——」
☆☆☆☆☆
「——————————どうして」
大変なことになった。
「どうして——」
頼み事を安易に受けるものではないという教訓を得た。
「——こ」
「マリンさんー! 夢バトルしようぜ夢バトル!」
「いやいや、むしろきたえてほしいな、わたしは」
「むー! そーゆーことばっかりー! 大きな夢をみんなでかたろうよ!」
「けっきょくみんなアーサーみたいなりっぱなきしさまになりたいとしか言わないじゃん!」
「こうなった——?」
「一日施設を空けるから僕の代わりに子供達の面倒を見てほしい」と、そう頼まれてしまったのだ。ハウリッドがこの施設を離れる、というのは非常に調査がしやすくて助かるのだが、それはそれとして——
——負担がッ……! 負担がデカすぎんだろ……ッ!
いやしかし冷静に考えろよマリン・ブリテンウィッカ。ハウリッドは普段から一人でこの施設を切り盛りしているのではないか? ということはそれほど難しいことではないはず。幸いにもこうして見ていると子供特有の奇行に走っている子がいるわけでもない。むしろ皆大人しめの部類と見た。
数秒の熟考の末、天才魔法使いの導き出した答えは——
——いける。
「はいはい、わかったから順番にね。順番。でも夢バトル? っていうのは夜しましょう。その方が経験上雰囲気が出ていいわ」
「わーーーーーい! じゃあじゃあ! わたしとしよっ?」
「ちょ、ちょっと待ってよ、オリヴィアちゃん。さっきしたばっかりでつかれてるでしょ。ここはぼくが——」
「バーーカ。ウェインもさっき戦ってただろォがっ。アタシだ! 次はアタシがマリン先生としあいするんだ」
なにやら勝手に話が進んでいる。というかそもそも彼らは何故こんなにも鍛えたがるのだろうか。確かにハウリッドが言っていた通り、アーサーに憧れているというのはあると思う。子供の行動理由なんてその一言で片づけてもよいはず。よいはずなのに——
——子供達の瞳には明確に力が宿ってる……。
それだけではない何かを感じてしまうのだ。
唾が喉を通る。知ったら《《痛い》》ぞ、と本能が囁く。しかし逃げていてはダメだ。しっかりと子供達に向き合わないといけない。少なくともハウリッドと私には目を逸らす権利はないはずだ。
「——ねぇ、貴女達。どうして鍛えてるの……?」
おそらく最年長であるモルドレッドでさえ十一。まだまだ遊び盛りの年頃のはず。それが何故——
「へっ、簡単なことだぜ。マリン先生、《《アタシ達は孤児だ》》。ほぼ全員が厄災戦で家族が死んだ。自分を逃がすために両親が死んだやつだって珍しくない」
古傷のカサブタを無理矢理剝がされて、中に残る釘を無理矢理引き抜かれているかのような痛みが胸に走り思わず呼吸を忘れてしまう。
——やっぱり……。
「みんな力がなかった。だから死んだ。アタシ達も力がなかったから死にかけた。だから力をつけたいんだ。自分を守るために。周りの人を守るために」
十四の強い視線が突き刺さる。子供だから、と一蹴する資格はない。きっとハウリッドもこういう気持ちだったんだろう。自分達がもっとうまく戦えていれば、この子供達は今も家族と共に遊んでいたはずだって。結果論で語っても仕方がないとはわかっているが……。
「————わかった。でも私が教えるのは身の守り方。そして貴女達が身につけるのは人の守り方。これを忘れないこと。いいわね?」
全員が満面の笑みで頷く。
「——あぁ、なんて最悪な気分だ」
左脇腹にある癒えない傷を押えながら誰にも聞こえないように呟いた。




