Case13「思わぬ依頼」
「ねえ、さっき——」
「そういえばマリンさんにお話ししたいことがあったんでした」
「……うぇ?」
「そんな変な顔されなくても……」
気になることは確かにあったが、ここで彼の話を遮ってまでするような話ではなかったので押し留まる。とはいえ胸に妙な違和感が残ったままなのは変わりないので、他の人からみれば変な顔に見えるかもしれない。しかしそれはそれとして女性に変な顔と言うのは失礼だと思う。こういう小さい無神経な発言が重なって嫌われているのではないかと勘繰ってしまった。だって十一の少女の心なんて敏感も敏感に揺れ揺れなの。もしかしたら反抗期なだけなのかもしれないが、であれば尚更慎重に——
——ってハウリッドが嫌われているのってもしかしてただ反抗期ってだけかしら……?
ある。充分にあり得る。というか可能性として考慮しないのが不自然なほどに自然な答えではないか? さっき思いつかなかった自分はアホなのかしら? などと腕を組んで訝しんだ。
「——あのー、多分内心色々と考えている最中でしょうが、そろそろ本題に入ってもよいでしょうか……?」
「え。あ、あぁ。続けてちょうだい」
いけないいけない。一度考えだすと思考が止まらないのは悪癖だ。このマリン・ブリテンウィッカ。基本的に完璧超人(自称)なのだが、あえて欠点を挙げろと言われればこのことを真っ先に挙げるはずだ。
「こほん」
……こういうところである。
「では改めて。《《少し困ったことがあってですね。マリンさんに事件解決の依頼をしたいのですよ》》」
「——依頼?」
依頼、と聞いて少し警戒をする。現在はエイカムの依頼でハウリッドの調査をしているところだ。そこで彼の依頼を受けてしまうのは果たして大丈夫なのだろうか。勿論リスクがある、という意味で。依頼内容によっては彼と接する機会が普段よりぐうんっと上がるかもしれない。それ自体はメリットなのだが、場合によっては逆に事実上監視下についてしまうということも考えられる。
反対にメリットもある。先程言ったことに加え、内容によっては彼の周辺を依頼だからという建前で動き回れるということ。
まあ、なんにせよ依頼内容を聞いてみなければ話にならない。慎重に行くべきか、積極的に攻めにいくか。できればぐいぐい攻めていきたいところではあるが。
「——とりあえず話を聞きましょう」
「そうですね。実はこの施設には国庫から独立した施設持ちの食糧庫があるんですが、その中身がたまに減っているのですよ」
「————!?」
「……たぬきとかじゃなくて?」
「僕も最初はそう思って動物魔力を感知する罠を敷いていたのですが一切ヒットしなかったのです」
この世界は原則として人だろうが動植物だろうが生命リソースとして魔力を保持している。つまり何者かが侵入した、というのは考えずらいということだ。
「そういえば捕縛する魔法を設置したりはしなかったのね」
「うーん……。なんか可哀そうで……」
捕縛罠を使うだけですぐに犯人がわかるというのにそれをしない。自分は困っていてそれを解決したいのに、それはそれとして犯人が可哀そう。正直気持ち悪ささえ覚えるほど矛盾している甘さだ。しかしその甘さに救われた人間も実際には数多くいるので、そこは真正面から指摘しない。クライアントの依頼には応えるのがプロフェッショナルというやつだ。
では話を戻そう。
「食べ物が勝手に逃げ出すわけがないから、何者かが盗んでいるというのは間違いなさそうね」
だとするならその犯人は何らかの手段で魔力的な痕跡を消せると考えていいだろう。しかし残念かな。魔力を消す魔法なんて存在しないのだ。何故なら魔法の発動に魔力を消費するからだ。当然の話である。
ではこの話はここで終わり? 食糧が減っているのは気のせい?
ノー。それでは面白くない。




