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神の箱庭 〜氷水の魔女編〜  作者: 杯東響時
第二幕「パラダイス・ロスト」
38/59

Case12「孤児院にて」

 色々と思うところはあるが今はとりあえず置いておく。足早に向かったのはハウリッドが私有している孤児院。ここを設立したのはちょうど厄災戦が終わった後。彼の強い希望で建てられた施設だと聞いている。ここでは厄災戦で拠り所を亡くした子供達が約十数人生活をしていた。


「——三年前に寄った時以来かしら」


 その建物は相変わらず急造で、お世辞にも上等とは言えないところではあった。が、それでも今は数多くの子供達を守る場所である。


「…………」


 正直ここに来るのは得意ではない。自分の無力さを見せつけれらているようで。自分にもう少し力があれば、とか。最初からなりふり構わず戦っていれば、とか。そうすればこの子供達は家族と共に今も健やかに日常を過ごせていたのだろうか、とか。


 勿論その時々の全力は出したつもりだったが、振り返ってみれば至らないところばかり。結果論な部分があるのも重々承知しているが、それでも後悔というものはそう簡単に振り切れるものではなかった。


 と、思いを馳せている間にどうやらあちらもこっちに気付いたらしく、何人かの子供、それにハウリッドが中庭から手を振ってくれている。少し気恥ずかしい気持ちもありながら人が集まっているところへと向かった。


「お待ちしてましたよ、マリンさん」

「——ここに来るのも久しぶりね。少しだけ知らない顔の子がいる」

「えぇ、三年前から四人増えました」

「——そう」


 おそらく彼も自分の力不足を痛感しているのだろう。ざっと確認してみると数にして十四。多いのか少ないのかはわからないが、それ以上の人達が犠牲になったのは事実。逆に路頭に迷う子供がこれだけで済んでよかった、なんて言う意見もあるかもしれないがこうも考えられる。もしかしたら見つけられていないだけでまだまだいるのではないか? と。


「——まあ暗い話はこれくらいにしておきましょう。少なくとも子供達に聞こえるようなところでは」

「そうね。……ところでアレは何をやっているのかしら?」


 指差したのは中庭中央。子供達に囲まれた中心で見知らぬ子供二人が模造剣で戦っていた。ここの施設では剣術も教えていたのか、と三年前の記憶を掘り返してみるが思い当たる節なし。一方、ハウリッドは少し笑み子供達の方を向きなおす。


「そういえば紹介がまだでした。今打ち合っている二人が去年からここに入った子供です。少し背の高い女の子がオリヴィア・エントリ・スターン。もう一人の男の子がウェイン・ガンソード。二人とも立派な騎士候補です」

「えっ、あぁそう? 紹介ありがと」

「どういたしまして」

「————っていやいや、そうじゃあなくって」

「……?」


 危うく雰囲気に流されそうだったがそういうことを聞きたいわけではなかったのだ。本当に聞きたかったことは何をしているのか、ってことであって紹介されたかったわけでは——


「——ん? 騎士候補?」


 騎士候補。確かに彼はそう言った。つまり彼らは剣の腕を競って高め合って、立派な騎士様になることを目指しているということだろうか?


「正解です。ほら、アーサー君が若くして第二魔装師団団長として抜擢されたじゃないですか。それから子供達の間で騎士ごっこが流行っていたのです。そしていざやってみれば実際に才能のある子がいた。それも彼らの選択だと思って尊重し、少しだけですが剣術の指南もするようになったというワケなんです」


 少し悲しそうにそう言った彼はバツが悪そうに頬をかく。何を思ってそんな表情をしたのか知る由もないし、正直知りたくはなかった。知れば、きっと痛いから。


「————それにしても、確かに剣の腕はいいかも。見た感じ二人とも年は十くらいよね?」

「えぇ。本当に人の子の成長は早いものです」

「——でもアタシの方が強いぞ」

「おわあっ!? い、いつの間に後ろにいたのよ……」


 ふと声のした方を振り向くとそこにはよく見知った顔の少女がいた。赤い髪に吸い込まれるかと錯覚するほど透き通った青い瞳。おそらく同年代の子供よりも小さく、しかし強気な性格が一目でわかる立ち姿。彼女こそが先程会いたがっていると話をしていたモルドレッド・クラレンタである。


「久しぶりね、モルドレッド」

「マリンさんっ! お久しぶりです! 会えてうれしい!」


 と腰に抱き着くモルドレッド。何故懐いてくれているのかは未だにわからないが、悪い気分ではない。よしよし、と頭をなでる。そうすればえへへ、なんて喜んでくれる。悪い気分ではない、と言ったがあれは撤回だ。すごく気分が良い。やはり可愛いは正義だ。


「確かに今のところモルドレッドに勝ったことがあるのはアーサーだけですからね」

「……む。そんなの当たり前だ!」


 げしっ! とハウリッドに向け足蹴り一つ。彼は「あいたっ」などと言いながらしかし笑っている。蹴るなり私の後ろに隠れてあっかんべーをするモルドレッドの姿は少し……訂正。非常に愛らしいが——


貴方(アナタ)、いつ見てもモルドレッドから嫌われてるのね……。本当に何かやってないの?」

「うーん、思い当たるところがあれば既に改善されていると思うのですが、結果は……。はは、見ての通りです」

「……別に嫌ってなんかねぇし」

「の一点張りで僕にはさっぱり。やはり人の子の気持ちというのはそう簡単にわかるものではないですね……」

「そうねー。ま、焦る必要はないわよ。(ワタシ)に懐いてくれてる理由もさっぱりだし、子供の気持ちってのは簡単に推し量れるものじゃないの」

「はは。それ、さっき僕が言いました」


 なんて他愛のない会話を他人とするのも久しぶりかもしれない。改めて目を覚まさせてくれたアーサーに感謝しなきゃ、などと思っていた時だった。


 ——あれ、今の会話少し変じゃなかった……?


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