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神の箱庭 〜氷水の魔女編〜  作者: 杯東響時
第二幕「パラダイス・ロスト」
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Case06「裏切者」

 どうやら話は終わったらしく次々と騎士達が部屋を後にしていく。その中の一人から「もう大丈夫ですよ、マーリン様」と言われると小さく「ども……」とだけ言って顔を伏せ部屋へと入る。部屋の中心、机で頭を抱えながら何やら書類の山に囲まれていたのはイテグリア・エイカム。今は執務モードなのかいつもの鎧ではなく、ピシッと伸びたスーツを着用していた。


「ん、あぁ。マリン君か。ここからで失礼だがそこの椅子を持ってきてくれ」


 指したのは部屋の隅にあった折り畳みの椅子。彼の部屋は元より客を持て成す物は置いていない。ここは自分専用の仕事部屋だからだ。故にここで話す時は書類の積まれた机に向かい合うのがお決まりである。


「——む、随分と雰囲気が柔らかくなったか? もしかして」

「いいえ、まだ見つかっては無いわよ。でも、そうね。少し気は楽になったかも」

「そうか。それならば良かった。……いいや、むしろバッドか? いやいや良かった良かった」

「——何か含みがあるわね。《《ここに呼び出したってことは割と内密に話したいことなのでしょう》》? なら早く本題に入りましょう」

「話が早くて助かる」


 そう。ここは彼の完全にプライベートな空間でもある。誰かに聞かれたら都合の悪い話をしたりする時なんかは決まってここで話すことがお決まりだ。


「——私が過去の記録を調べていた中、《《前回の厄災戦で残されたであろう記録の残滓を見つけた》》」

「ッ、なんですって!?」

「しっ、声が大きい」


 実は五年前の厄災戦の約百年前にも厄災戦が起きていたのだ。その時はマキナ・クォーノスという一人の英雄が厄災獣を封印することで一旦終息したのである。そしていざ封印が弱まってきたとなった五年前に当時の資料を探したのだが、これがあら不思議。なんの資料も出てこなかったのだ。普通そんなことはありえないと思われていたが、やはり存在はしていたらしい。


 しかし、こんな重要な情報を内密に話したいなんて余程の事情があるに決まっている。それに大声でリアクションなんて本末転倒だ。自分の頭を軽くコツンと叩いて可愛く反省。


「——言っておくが可愛くはないぞ」

「なっ——」

「話を戻すぞ。まあ資料を見つけたはいいが、周到に隠されていた上にそのほとんどが焼失していて読み解くことすら困難だったさ」

「はえー、よくそんなもの見つけたわね」

「厄災戦で色々壊れてくれたおかげで探し出せたのかもしれんな。特に氷の巨人が国土を踏み荒らしてくれたこともあったからな」

「は、はは……」


 それについては弁明の余地はなかった。でも相手だって大きくなってきたし、最終的には大きい奴が勝つってお約束あるじゃない? しかもでかいやつにはでかいやつで! ってシンプルに燃えると思うのだけれどそこらへんどーよ?


「書いてあった内容は《《封印状態の厄災獣に干渉する方法だった》》」

「——なんですって?」


 瞬時に空気が凍る。自分でも感じることができるほどに吸い込む空気が痛い。いけないいけないと冷気を収める。あまりにも予想外な内容だったので驚いてしまった。


 しかし封印状態の厄災獣に干渉する方法、ときたか唇を指でさする。これを上手く扱えていたら、もしかしたら封印を解除して真正面から戦わなくても対処できていたかもしれない。これさえあれば失わずに済んだモノもあったかもしれないと考えると……。


 ぐっと力強く唇を噛み締める。血は出ないものの痛みを与えておかないと冷静ではいられないほどの衝撃を受けていた。


「——やれやれ。君が落ち着いてくれてよかった。で、ここからが本題なんだが」

「確かに重要な話ではあったけれど、もう過ぎてしまったことを悔やんでも仕方が——待って」


 ようやく気付いたかとエイカムは手を口の前で組む。待って、と言ったのは文字通り待ってほしいという意味ではなく、自分の思考に一旦ストップをかけるための待って。確かに過ぎたことと言ってしまえばそうだが、一つだけ彼は気になる言葉を発さなかったか?


「《《周到に隠されていた》》ですって——?」


 そう。確かに彼はそう言った。《《周到に隠されていた上に、焼失してしまっていた》》と。その言い回しから一つの最悪な推論が導き出せる。


「——《《何者かが隠した可能性がある》》……?」


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