Case04「久しぶりの雑談」
横にいるのはキールの妻であるアイカ。三年前見た時はまだ少し幼さを残していたと思っていたが、今ではすっかり人妻の雰囲気が溢れていた。
「アイカも久しぶりね。随分とこう……人妻、って感じするわ」
「あらあら、それは……。ふふっ、喜んでいいのかな?」
「そうだろそうだろー? アイカってば年々色気が——ってあいたたたた!」
「往来で惚気るのは好きじゃないって言っているよね~~? ほっぺ引っ張るわよ~~~?」
「もう引っ張ってるじゃあねぇか! ……ったくさぁ」
「——んふふっ」
正直アイカと話した時間なんてそんなに長くないし、二人一緒に居るとこを見たことも少ない。それでもこういうやりとりを見て「あぁ、またやってるなぁ」と思ったり。そういうのが羨ましかったり、微笑ましかったり。感情の乗ったくすり笑いをしてお酒を一口。うん、美味しい。
「ガブリエラ、お前しばらく見ないうちに随分と昔の雰囲気に戻った——いや、大人の柔らかさを身に着けたか?」
「ふふん、今年から解禁のお酒を飲んでいる私は絶賛大人の時間を堪能していたのよ」
「微妙に話がかみ合っていないような……。そういえばマリンさんは今年からでしたっけ。職業魔法使いさんは大変ですね」
無駄に大きな胸を自信満々に張り上げてコップを持ち上げてお酒も主張する。お酒のおかげか少しだけ自己肯定感が自分の中で上がっているような気がした。非常に気分が良い。
「まあねー……」
「探偵マーリンの噂もうちの村まで届いてるぜぇ。良い感じに名をあげてるじゃあねぇの」
「その、マーリンってのはやめてよこっぱずかしい……。でもやっぱり氷水の魔女の異名の方が通りがいいけれどね」
少し肩をすくめる。氷水の魔女ははっきり言ってしまえば別に蔑称でもなんでもない。そう呼んで慕ってくれる人も勿論いる。しかし自分を目の敵にする人は皆、決まって「魔女だ!」と言ってきた。おそらくキールはそこに配慮して氷水の魔女という通り名を使わなかったのだろう。
案の定、その名前を出すと申し訳なさそうに頬を掻いた。言った後に気付いてしまったことだったが、どうやら余計なことを言ってしまったらしい。
「——それでもお前がやってきたことに変わりはねぇさ」
「あらら、うちの旦那もたまには人の事気遣えるのね」
「うっさいなぁ。俺様は年中優しいのさ」
「まあその通りなんだけどね」
「——んだよ……。人前では嫌だって言ってたくせに……」
「ふふっ、そういう気分の時だってあるんです」
あ、まぇぇぇぇええええええええええ!
っと失礼。取り乱したわ。それはともかくとして一つ疑問があった。
「キール達はどうしてここにいるの? 記憶が確かなら結構離れてたと思うのだけれど」
この国と彼らの住む町は一般人が行き来するには少し遠い距離にある。わざわざここまで遠出する用事なんてあまりないと思うが……。もしや何か大事なことでも起こって国に助けを求めに来たとか? だとすればこのマリン・ブリテンウィッカ、全力で助力させていただ
「普通に買い出しだな」
ごめんなさい。早とちりでした。
——いけないわね。どうもお酒のせいか思考がいつも通り回ってないような気がするわ……。
「遠いのはそうだけどさ、やっぱりここが一番物揃ってるからな」
「買ったものは転送魔法で送ってもらえばいいですし」
「自分達は転送できなくても物が送れれば充分来る価値ありだからな、ここ」
「しかも生き帰りは二人っきりのらぶらぶでーと」
「あめぇえええええええええ!」
失言。まさか洩れるとは。まあ是非もないヨネ! こんな甘々な展開を見せつけられれば誰だってこうなる。私だってこうなる。
「ん、そういえば子供……えっと、確かシップ! くんは一緒じゃないのかしら?」
「シップはじいさんに預けてきた。この旅には少し危険だからな」
「《《最近は魔族が人を襲ってくるって話もあるみたい》》ですし念のため、ね」
「魔族が? 馬鹿な——」
魔族とは妖精や小鬼などの種族のことを指す。普段は人前に姿を現さず、森の奥深くでひっそりと生活していると言われている。遺跡だとかの歴史深いところにいると言われてはいるが、人生で一度お目にかかれればラッキーと言われるくらい簡単に遭遇することができない種族なのだ。世界中を旅した自分ですら一度しか見たことがないというのに、それが何故人を襲うというのか。
「————魔族とか言われてるだけで実際暴いてみればただの盗賊だったりするものよ。でもま、そうね。念には念を。大事なことだわ」
「そゆこと。んじゃあ俺様達は愛しの愛息子が待っているからここらで失礼するぜ」
「今度うちにいらしてくださいね。いつでも歓迎しますから」
「えぇ、そろそろ色々落ち着きそうだから今度お邪魔させてもらおうかしら」
「————そっ……か。おう、じゃあマーリン様も気をつけろよー!」
大声でそう呼んで走って去っていくキール。それを追いかけるようにアイカ。
「——ったく、マーリン様とかやめなさいっての」
少し頬を緩ませてまた歩みを進める。懐かしい記憶を思い浮かべながら。幸せな時を夢想しながら。しかしそれでも歩みは止めない。彼女の時間は既に動き始めているのだから。




