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神の箱庭 〜氷水の魔女編〜  作者: 杯東響時
第二幕「パラダイス・ロスト」
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Case02「vs五賢者」

 マリンは現在、座天使いと同様の扱いを受けていて、実際去年もそうであったのだがどういうワケか《《熾天使いが転送させられるガチ本部の最奥に飛ばされていた》》。何にもない真っ暗な円形の空間の中心に一人ぽつんと立たされている。


 しかし。


「——はあ。まさかアーサーの直感が当たるとはね」

『マリン・ブリテンウィッカ。私達より用があったのでこちらに直接呼ばせてもらった』

『単刀直入に言おう。ガイナ・クォーノスの捜索を止め、今すぐその力を扱えるように訓練したまえ』

『その力を十全に扱うことができればきっと人類存続の役に立つはずだ』

『——かか。然り。人類存続のために動けぬ魔法使いなぞ存在理由すら無いと知れ。かっかか。あぁ、《《ブリテンウィッカ家現当主よ》》。今は無き兄の代わりに人類を背負って戦うのじゃ』

『————同意』


 姿が見えないが部屋中に不快な声が響き渡る。性別も年齢も性格も読み取れないような曖昧な声色が聞こえていた。一応周囲を見渡してはみるがやはり人影らしきものは確認できない。まあいつものことではあるが。


 この喋っている不愉快な声の主達が「五賢者」と呼ばれる魔法協会のトップだ。魔法使いにとっては彼らが決めたことが全てであり、彼らに背くものがあれば秩序を乱すものとして処理される。その行動原理はただ一つ——人間という種の存続——であり他のことは割と些事であるという認識を持った五人の自称賢者だ。


 まあこう書いてしまえば別に悪い組織ではないし、実際今は悪い奴らでもない。が、正直信用などこれっぽっちもしていない。


 例えば『A.T.Cアンチ・タナトス・クリーチャー』。対厄災獣専用に作られた疑似生物兵器があるが、これの材料は生きた魔法使い。魔力を固めれればなんでも良いらしいのだが、その一番簡単で都合の良い器が人間というわけだ。


 確かに厄災獣タナトスは放置しておけば人類の脅威となっていた。というかもう既に百年前になっていた。だがしかし。幾千もの魔法使いを犠牲にして出来上がったソレは暴走し、あまつさえ研究所の近くにあった村を一つ滅ぼしてしまった。その後始末のせいで心を歪めてしまった人も知っている。


 今までもこの「五賢者」という存在には疑問を持っていたが、あの事件がきっかけではっきりとした。


 ——こいつらはいつか必ず暴走する。一つの目的、人という種の存続だけしか考えられない異常者達なんだから。


 大を助けるためなら小の犠牲は仕方がないと切り捨てる。そんなやり方を許すわけにはいかないのだ。


「——いいえ、やめるつもりは毛頭ないわ。貴方(アナタ)達が(ワタシ)にどういう可能性を見出しているのかは知らないけれど。それに話をしたいというのなら顔を出せば? 公平に行こうぜ、《《ファイア》》」

『——かか。否。自分がここに招かれたからといって調子に乗っとるな、小娘』

「あら、五賢者に選ばれた途端素性バレを恐れながらびくびくして日常を過ごすおじい様達に比べれば自由で調子に乗っていると言えるかもしれないわね」


 五賢者はその名の通り五人いる。それぞれが五大属性に因んで「ファイア」、「ウォータ」、「ナチュア」、「ライト」、「ダーク」と呼ばれているが、勿論本名ではない。いつの時代、どの代においてもその素性を互いに晒さず知らず、また世間や身内に対してもそうしなければならないという暗黙の了解があるらしい。自身が引退する時になって初めて後継を指名するとのこと。え、なんで知っているのかって? それは後でわかるわよ。


「さて」

『なんだ、気でも変わったのか? 貴様は一般人の中では優れた力を持つ人材。《《所詮常人の域を越えられなかった兄とは違い》》、我々の思想に理解を示すことができたらしいか』


 ——本当は「これにて失礼」とだけ言って退室しようかと思っていたが今気が変わった。この推定老害共はここでわからせる!


「——すーーーーーーーーーーーーー。魔法ってーのは基本的に有効射程距離は視界内だと言われているわ」

『——はぁ? なんの話かね』

「しかし的を絞らなければ視界の外であろうと魔法を行使すること自体は可能である。勿論魔法においてイメージというのはとても重要な要素(ファクター)で、視界の外に打ったって望む効果を発揮させられるとは限らない」

『だから何の話だと聞いている!?』

「魔法の応用講義に決まっているでしょうが。さて、《《では逆に一分の狂いもなく的確に座標をイメージすることができたのなら?》》」

『——ッぐ、あああああああああああぁあぁああああああああああ!!??!?』

『ふぁ、ファイア!? 何が——』

「今、《《彼》》の足を魔法で貫いたわ」


 誰かの唾を飲む音が聞こえる。当然だ。五賢者とは先程も言った通り誰にも、互いにすら素性を晒していない。にも関らずここにいるただの魔法使いは正確な座標計算をもって「ファイア」に攻撃を加えたのだ。本来ならありえないような事態に言葉が出ないのも理解はできる。


「厄災戦より何年この世界を調査したと思っているの? 《《たかだかご老体の足を貫くなんてわけないわ》》。勿論皆様方の身もバレていることも心配しておいた方がいいですことよ」

『貴様、魔法協会に背くか!?』

「先に癇に障るようなことを言ったのは誰かしら? ——まあこれでわかったでしょうけれど、余計な干渉はしないで。変なことさえしなければ(ワタシ)はいずれ目的を達成して、あるいは目的達成のためにこの力を万全に振えるようになるから」


 沈黙。先程まで痛みでもがいていた彼の声も通信を遮断したのか聞こえない。一向に話し出そうとする雰囲気がないので部屋を出るために背を向ける。制止する声はない。


 ——根性なしが。自分達の喉元にナイフを突きつけられた途端に強く出られなくなる。まあこちらとしては都合が良いからいいけれど。


『————このままではいかんのだ』


 部屋を出る直前、誰かが一人ぼそっとそう呟いた。どういう想いでそう口にしたのか考える必要すらなく答えは出ている。彼らは善も悪もなくただただ純粋に『人類を救いたい』と行動しているだけなのだから——




 ——本気で救う気があるというのなら自分達が前に立って人類を導けっての……。


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