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神の箱庭 〜氷水の魔女編〜  作者: 杯東響時
第一幕「マリン・ブリテンウィッカの事件簿」
24/59

Case18「マリンの未来」

 ——そこからはまた話をした。長いようでとても短く、短いようでとても長かった旅の話を。具体的に言えば前作一部『神の箱庭 ~Magic World~』の内容の話を。百二十八話、約三十万字分の話をゆっくりと語った。ずっと空と町を交互に見ながら、指遊びを少し眺めて、また星輝く空を見上げる。


 ——そこからはまた話を聞いていた。短いようで長く、長いようで短かった彼女の人生を。楽しそうに、時に真剣に話すその横顔を見ながら、彼女の視線を追い、また横顔を眺める。




☆☆☆☆☆




「————っとまあ、簡単に話せばこんなものかしら。貴方(アナタ)の知的好奇心は満たすことができてればいいけれど」

「知的好奇心て……。いやその通りだな。うん、割と満足できた。非常に有意義な時間だったよ」


 何か言いたげに俯いたアーサーの横顔を見つめる。この話を聞いてどう思ったのだろうか。そもそも知的好奇心とは言ってもその根にはどういう考えがあったのか。未だ見えずにいた。


 ——…………。


「「あの——あっ」」

「「…………」」

「「言いたいことが——」」

「……………………先に言っていいわよ」

「……………………そうさせてもらう」


 彼は大きく息を吸い、吐く。やがて決心(?)がついたのか視線を合わせるとぐいっと顔を近づけ——


「まずは話をしてくれて礼を言う。ありがとう。これで我が師に対する理解が深まった、と思いたい」

「うん?」

「ええっとだな、最後に一つ聞かせてほしい。《《君が必要以上に人を避けていたのは過去の出来事からか?》》」


 なんて意地悪な質問だと思った。ただでさえ自分の過去を赤裸々に語ったというのに、それだけでなく今現在の内面まで解剖しようとしている。これを意地悪と言わずなんと言うのか。


 少しだけ答えるのに躊躇したが、一つ唾を飲み込み口を開く。自分のくだらないトラウマの話。自分の一番情けない部分の話。


「——もう察しているかもしれないけれど(ワタシ)自身強い人間じゃない。勿論戦いでってことじゃない。(ワタシ)はね、これ以上傷つきたくなかったの。周りの人達、旅の仲間、大切な人……。その一つ一つ、失うことに耐えられなかった。ならいっそそんな大切なんて持たなければいい。そう思って逃げただけ。——逃げていただけなのよ。おかげで傷つくことは少なかったし、面倒事もなく万々歳ってやつだったわ。だから余計に拗らせちゃったのかもしれないけれど」

「————違う」


 話をただ静かに聞いていたアーサーが口を開く。いつになく真剣なその瞳を見て、次にどんな言葉がでてくるのか少し怖くなった。鈍感な自分でもわかる。これは責めるための言葉ではないことくらい。


「君は勘違いしているようだから言っておくが、《《僕は君が人を本気で避けていたとは思っていない》》」

「っ……」

「本気で人を遠ざけたいのならどうして依頼を受けている?」

「それは、《《彼》》ならきっとそうするだろう、って……」

「どうして僕を連れまわした?」

「——事情を知る人間がいなければ不都合だったから——」

「人を避けたいならどうしてそもそも人里に寄った?」

「————————」

「いいか。人間っていうのは一人では生きていけない生き物だ」

「そうかも、だけど……」

「仮に君が離れたいと思っていても周りは放っては置かないさ。《《そういう人に救われたことぐらいあるだろう?》》」


 反論はしない。する言葉も出ないしするべきではないと判断したからだ。五年の時を経て、一度負け、そして《《ある確信》》を掴んだ瞬間から何かが氷解したような気がする。


 ——うまく言語化できないけれど。


「——うん、まあありがと。貴方(アナタ)(ワタシ)を励まそうとしてくれてるんだってことはわかった」


 ——その善意はありがたく受け取ろう。


「こちらこそとても有意義な話を聞けて良かった。それで君はこれからどうするだ?」

「これから……ってとりあえず一晩待って依頼料ぶんどって、そのあとエイカムのとこに行くんでしょう?」

「ぶんどってって……。違う、僕が聞きたいのは《《その後のこと》》だ。また前みたいに彼を探すのか?」

「《《えぇ、勿論》》」

「——そうか。《《厄災戦で両親を失った僕にとって君は第二の母も同然なんだ》》。正直に言えばあまり無理はしてほしくないけどね……」


 アーサーを弟子として迎えたのはそこも関係している。厄災戦で大切なモノを失ったもの同士、何か思うものがあったのだろう。だがあの頃の自分に他人に優しくする余裕なんてありはしなかった。十一の子供には辛く、苦しい一ヶ月だったはずである。それでもついてきたのはきっと他に頼れる人がいなかったからなのだろうと王都で彼の生活できる環境を整えて去ったが、まさかそんなに慕ってくれていたとは思わなかった。


 ——となると過去の所業に重厚な罪悪感がのしかかってきたな……。


「————まあ、少しの間情報集めも兼ねて王都に留まるつもりだから? 羽伸ばしの時間くらいはあるかもね?」

「これは——。ははっ、気を遣わせたかな……。なんにせよ僕が伝えたかったのはそれだけだ。長々と付き合ってくれてありがとう、我が師よ」

「照れくさいわね……。まあいいわ。さ、日も沈んで早幾時間。瞬く星々を楽しむのは素敵なことだけれど、良い子は寝る時間よ」

「——確かに。今日は誰かさんのせいで疲れた。早く宿に戻って休むとしよう」

「ふふっ。えぇ、そうね」


 そう。ようやく《《確信》》を掴めた気がするのだ。これ以上我が弟子が悲しむような真似はしない。


 そして——


「首を洗って待っていなさい、ガイナ。今度こそ(ワタシ)貴方(アナタ)を掴んでみせる!」


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