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神の箱庭 〜氷水の魔女編〜  作者: 杯東響時
第一幕「マリン・ブリテンウィッカの事件簿」
23/59

Case17「マリンの運命」

 ——鍛錬を続けているところに(ワタシ)の元にある依頼が舞い込んできたの。


「その頃も依頼を請け負っていたのか?」

「魔法使いは万人のためにあれ、って建前が魔法協会にあるからなんも募集してなくてもある程度来るのよ。熾天使いは特にその中でも重要度の高い依頼を配分される」

「じゃあそれも?」

「——ふふっ」


 さっきのは自分でもわかる。明らかに笑う時に顔が緩んでいた。だが、ここはそれでいい。


 ——(ワタシ)は依頼人の名前を見て飲んでいたコーヒーを吹き出したわ。だってそれは世界一有名な名前だったのだから。


「妙にもったいぶるな……」

「だって驚きよ? そもそも存命なのも知らなかったもの」


 ——その名を《《マキナ・クォーノス》》。約百年前に起こった厄災戦にて厄災獣タナトスを封印した大英雄その人だったのだ。


「——それは、本当か?」

「何の冗談かと思ったわよ。しかも——」


 ——依頼の内容を見てもっと驚いた。『自分の息子を旅に連れ出してほしい』とか一旦依頼紙を仕舞って二日寝た後にもっかい開いたくらい。どういう基準で(ワタシ)を選んだのかも不明だし、そもそも何のためなのかも不明だった。


「確かにそれは恐ろしいな……」


 ——まあ大英雄の依頼を反故にするわけにもいかないから指示の通り、大きさだけが取り柄みたいな山に登ることになった。いいや、それだけじゃなかった。外から見ればなんてことない山だったが、入ってみればなんかこう上手く言えないけれど一言で表すなら《《変な感じ》》。依頼紙を触れた時も説明し難い変な感じがしたが、あの山に入って確信した。


 ——『ここは招かれた人しか正しい順路で進めないようになってるんだ』


「魔法的な仕掛けがあったのか?」

「多分ね。何かしらの神秘的繋がり——例えばあの時受け取った依頼紙を持っていたら自然と山を歩けるようになる、みたいな仕掛けはあったかもね」

「用心深いな……。何かに追われてたりするのか?」

「————あるいは《《あの山自体に重要な何かがあるか》》」

「山に?」

「——話が逸れたわね。まだ続くわよ」


 ——依頼紙には件の息子の特徴が書かれていた。『黒髪ショートに灰色の瞳。安物の旅装束と腰に提げたロングソード』。何度かそれを見返していると人の気配がした。これは……と思い咄嗟に野生の猪に化ける。


「——何故?」

「——なんとなく?」


 ——そして唐突に軽い火の玉を飛ばした。


「————何故?」

「————なんとなく?」

「なんとなくで焼かれるのは可哀そうだな……。もしかしなくともその乱暴な性格は昔からだったのか?」

「————————違うわよ。きっと」


 ——それは置いておいて。それを剣で素早く受け止めた《《彼》》は即座に立ち上がり、安物の剣で猪の首を一閃。危うく(ワタシ)の首も落ちるところだったけれど、まあそこはマリン・ブリテンウィッカが天才である故。余裕の表情で(冷や汗を隠しながら)幻影を消して姿を現す。


「冷や汗はかいていたんだな」

「剣を構えたと思ったら二十歩ほどの距離をおよそ一秒で駆けるんだもの。天才だってそんな速度で首を落とされかければ冷や汗もかくし、《《腹も立つのよ》》」

「——腹が立ったのか? 自分から仕掛けたのに?」

「————————」


 ——一度冷静になって襲撃者——《《彼》》の姿をよく見ると、先程まで復唱していた特徴にそっくりだと思うと同時に《《変な魔法》》を使うものだと驚いた。


「変な魔法、か?」

「魔法の属性って知っているわよね?」


 ——それぞれの魔法は火、水、地、光、闇の五大属性を基礎にカテゴライズされている。しかし長い歴史の中ではこれらに当てはまらない魔法も発見されてきた。五大属性以外にも色々な属性が存在するが、その中でも特に希少なのが特異属性。魔法の内容はバラバラ。『正直どう分類したらいいのかわからん』と思考停止してテキトーにぶちこむとこである。どれくらい希少なのかというと、特異属性魔法を扱ったことのある人物は公式の記録に残っている限りでは三人しかいない。


 この時(ワタシ)も初めて特異属性魔法を目にすることとなる。その使い手が《《彼》》。記録には現在も残っていない希少な、天然の魔法使い。《《彼》》が使っていた魔法、呼称(私が勝手にそう付けた)『時間加速(クロックアップ)』。一秒の中に自分だけの時間を五秒分創造すること。単純な五倍速というだけでなく、思考なども五秒分アドバンテージを得ることができる。燃費が悪すぎることを置いておけば非常に強力で使い勝手の良い魔法だ。


「——それってもしかして君が……いいや、かなりすごい魔法の使い手だったんだな」

「んー、まあ自分が魔法を使っている自覚がないほど才能があったのに、魔法がどういうものか見たことがないくらい田舎男だったからねーーーー」

「——(妙に揚々と話すな)——。まさかその《《彼》》というのが——」

「————……ん。名前は《《ガイナ・クォーノス》》。大英雄マキナ・クォーノスの息子にして、特異属性魔法の使い手」




「—————————————————そして(ワタシ)の想い人であり、厄災戦時より五年、今まで行方知れずになっている男のことよ」


 ——今、(ワタシ)はどんな顔をしているのだろうか……——


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