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神の箱庭 〜氷水の魔女編〜  作者: 杯東響時
第一幕「マリン・ブリテンウィッカの事件簿」
18/59

Case13「本気の殺し合い」

 結論から言えばやはりアーサーの見積もりは甘かったと言わざるを得ない。読み自体は悪くなった。実際、彼女は魔眼と左腕の維持に八割ほど魔力を持っていかれている。見誤ったのはマリンの魔力総量。通常の魔法使いが十なら、マリンは《《二百》》。それが八割減っていたとしても四十。つまり普通の魔法使いの四倍は本気で戦える時間が長いわけで。


 彼女は熾天使と呼ばれる最上級天使と契約をしていたからトップクラスなのではない。魔法使いとしてトップクラスであったからこそ熾天使いとして成立していたのだ。




☆☆☆☆☆




 マリンより先に地面を蹴る。自慢の鎧は破損しており、その機能の七割以上が失われていた。アテにはできない。とてはいそうですかと負けを認められるほど諦めの良い男ではなかった。


 ——僕の中に己惚れがあったのは事実だ。何もかも甘えていた。


 だがここまでボロボロになって初めて気付いたことがある。彼女を止めるには殺す気で戦わないといけないということ。手加減していて勝てる相手ではない。だから——


「悪いが本気でいかせてもらうッ!」

「いいわ! 殺す気でいらっしゃい!!」


 剣を握り、歯を食いしばる。渾身の一振りは空気を揺るがすが考えなしの一撃が当たるわけはない。お返しと言わんばかりに振るわれた氷腕を避け、左の拳でもって全力を乗せる。先程までのジャブや牽制とは訳が違う。殺す気、とまではいかないが一撃で昏倒させられるくらいに力は込める。しかしこれはやや遅れて避けられる。当然織り込み済み。《《全力を込めないと牽制だと見破られて牽制の意味がなくなってしまうからだ》》。


 ——本命はこちらだ!


 左足での払い。反応できなかったマリンはバランスを崩す。彼女の背に小さな翼が現出した。空中ではいくらなんでもありの魔法使いとはいえ取れる選択肢はかなり限られてくる。その中でも『神の力(エンジェル・ウイング)』は背中に天使の羽を纏わせ飛ぶ逃走なら持ってこいの魔法だ。しかしそうしてくることもわかっている。飛び去る前に彼女の頭を掴み、勢いよく自分の額へと押し付けた。


「べぶ……ッ!」


 どんな人間だって頭に重い衝撃が走れば一時的にとはいえ意識を保つことは困難となる。続けざまに左で打、打、打。触れた部分から結晶が生え殴る度に傷は増していくが、そんなの関係はない。意識を集中させればこの程度の痛みには耐えられる。


 ——《《やはり右が死角か》》!


 戦っている最中に気付いたこともある。彼女の右目は氷で固まっているだけのように見えるが、実際氷結色の魔眼には現実の色を捉えることはできないらしい、と昔聞いたことがあったような気がしたがどうやら当たりだったようだ。


 マリンの視線が動く、と同時に左肩が炸裂し血飛沫が顔を濡らし思わず右の手で押さえつける。握っていた剣だって放り投げてしまった。なんてことない。魔法の有効射程距離は基本的に魔法使いの視界全体。これだけ激しく動いており的が絞りづらいとはいえマリンほどの魔法使いならば人体の中にだって直接攻撃魔法を打ち込むことくらいできるはずだ。


「——《《勿論わかっていたさ。こうしてくることくらい》》」

「ッ————!?」

「《《君が非常に優秀な魔法使いで本当に助かった》》」


 わざとらしく自分で攻撃を受けに行ったり、自分で血を流していれば絶対に何かがおかしいことくらい一発で見破られる。彼女にそういう甘えは通じない。《《だから正々堂々と本気で戦った上で、大量出血する必要があった》》。


 痛みに驚いて思わず左肩を押えた? とんでもない。魔法による攻撃手段を持たない自分が相手の動きを止めるならこうするのが最もわかりやすい。やることは単純だ。ただ血液を相手の瞳に向けるだけでよい。つまり——


「ぐ……! 目潰しなんて——」


 人が受ける情報の八割は視覚が占める、という話は聞いたことがあるだろうか。ではその八割が突如、一時的にでも失われればどんな達人でも行動が後手になるのは必至である。確かにほんの少しの時間かもしれない。でもそのほんの少しの時間が今は無限にも感じられるほど欲しかった!


「——中々(さか)しいことするだろ? これで……!」


 刹那、身体を貫く衝撃、いや冷気があった。貫いたのは彼女が魔法で精製したと思われる氷の槍。それが幾本も身体に風穴を開けていた。


 こちらも大事なことを失念していたらしい。魔法の有効射程は基本的に視界全域。目を潰せば魔法で狙いを絞ることもできないと踏んでいたが、《《的さえ絞らなければ視界の外にだって魔法は撃てる》》。周囲全体に氷の槍を精製するだけなら的を絞らなくとも容易い。昼間マリンが説明していたことだったのにそれがすっかり頭から抜けていた。


 流石に出血が多すぎて意識を保つことすら困難だ。薄れゆく意識の中、考えていたことは——


 ——《《あぁ。先に手を打っておいてよかった》》。


 ゴンッ! と先程放り投げた剣の柄がマリンの頭のてっぺんへと鈍い音を立てて落ちる。剣っていうのはそれなりに重いもので、それが落下速度を乗せて頭上から振ってくればそれだけで必殺の一撃足り得るはずだ。


「————————」

「————————」


 二人は大きな音を立て、力なく地面へと倒れこむ。両者共に血で大地を濡らしながら一人は満足気に笑みを作っていた。


 もう一人は——


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