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神の箱庭 〜氷水の魔女編〜  作者: 杯東響時
第一幕「マリン・ブリテンウィッカの事件簿」
13/59

幕間1「予防線なら十分」

 新たに確保した部屋に入って、まず魔眼で周りを見渡す。タンスの中、ベッドの下、浴槽、バルコニーも目視。一つ一つ隅々まで罠等仕掛けられていないか確認し、確実に無いと判断した後に氷による結界で部屋を覆う。ここまでこなしてようやっと息をつけた。


 ルームサービスであるドリンクをオーダーすると、テーブルの上に透き通るほどに透明な水がコップに注がれた状態で現れた。これは転移魔法の応用。通常、転移といえばかなり優れた魔法使いでも思った通りの場所に出ることが難しいほどの高等魔法である。まあそれも生物を飛ばすなら、という話限定なわけで。物だけであれば始点と終点さえ予め決めておけばある程度の魔法使いでもきちんと転送ができる。故にこういったサービスに転用できるように良いとこの宿では必ず魔法使いが常駐していた。


 コップを掴むと目を瞑り水に意識を集中させる。


 ——良かった。毒とかは無さそうね。


 水を飲むのにも一苦労。出された料理を食べるのなんてもっと大変。正直過剰な警戒だということはわかっていた。それでも警戒を解くことはできない。過去のある経験から。一つの問題が終わったとしても次の問題が瞬間に来ないとも限らないからだ。


 ——(カレ)が今の(ワタシ)を見たら笑うかしら。『あぁ、お前は本当に不器用だな』って。


 ベッドに倒れこむ。身体が布団に沈むこの感覚、どれくらい振りだろうか。野宿野宿で、しかも寝っ転がるってことをあまりしてこなかったせいもあり妙に落ち着かない。《《勿論少しワクワクしているという意味で》》。


「——————」


 どれだけ落ち着こうと意識的に意識を落とすことはしない。眠りにつけばまた悪夢を見てしまうから。そして起きていれば否が応でも思考は回り続ける。


「それにしたって、あの子なんたってあんなに強情なんだか……」


 あの子、とは勿論アーサーのこと。どれだけ突き放しても必死な顔で喰らいついてくる。今では共に行動することも滅多になくなったが、あの一ヶ月は本当に心が落ち着かなかった。旅の仲間を作れば五年前の記憶が蘇る。皆、皆厄災戦でいなくなってしまった。自分だけがこうしてのうのうと生きている。一人だけで生きていくのは辛く苦しい。苦しくて苦しくてたまらない。だが、だからといって命を絶つなんて真似は絶対にできなかった。


(ワタシ)とは関わらない方がいい——」


 もう他人を巻き込むのは御免だ。死なせたくない。苦しいのは自分だけで充分だ。


 だから他人を拒絶する。


 だから拒絶されるように生きる。


 容赦も油断もなく全てに厳しく生きなければ。


「——もはや呪いね、これ」


 自嘲気味に鼻で笑う。


 これは呪いであり贖罪。《《人を不幸にしてきたのだから、せめて頼られた時くらいは人を助けなければならない》》。故に別段得意でもない謎解きなんかをしている。


「——さっきから支離滅裂ね」


 思考に纏まりがない。まるで思考のごみ屋敷にいるみたいだ。何を拾えばいいのかも、何があるのかも、何が必要なのかもわからない。


 そんなごみ屋敷の頭でも確実にこなせていることはあった。


「————(ワタシ)に近寄ったら、ダメ……。————っぐ!」


 氷結色の瞳が疼く。《《人や物の感情を見るなんてのは全て嘘っぱち》》。悪意も善意も全て何かの変な色に見えるだけ。規則性もないため——


「ほーーーーーーーんっとに何の役にも立たない」


 日常生活を送る上では魔力を吸い取るだけ。


「《《まあこの魔眼の真価はそこじゃないけれど》》」


 まっいいか、と布団を顔に被せる。意識だけは落とさないように、思考もできるだけ回さないように。少しだけ休もう。


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