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神の箱庭 〜氷水の魔女編〜  作者: 杯東響時
第一幕「マリン・ブリテンウィッカの事件簿」
12/59

Case08「謎解きはディナーのあとで」

 僕達は夕食を取るために宿に戻った。とはいえやはり少し早かったらしくしばらくは部屋で時間を潰そうと思っていたのだが、戻ってみたらどうやら部屋の前の人通りが慌ただしい。何かあったのだろうか。


「——————」


 そんな様子を気に掛けることもなく歩みを止めないマリン。心無しかいつもより歩幅が大きいような気がする。そんなに早く休みたいと思っていたとは意外だ。話を聞いたところここ数日まともに睡眠を取れていないらしいし夕食前の空き時間だけでも休みたいのは当然か。


 などと思考を巡らせている間に部屋は見えてきた。僕達から見て手前がマリンの部屋、奥が僕の部屋だ。と、マリンの部屋の前で足を止める。彼女は足を止め、視線だけを動かす。そこに微かにだが動揺の色が見られた。


 ……いいや、これで動揺するなという方が難しい。僕だって急にこんな光景を目の当たりにしたら驚いて言葉も出なかったはずだ。部屋の中から出て来たのは確かこの宿の支配人。こちらが上客なのを理解しているのか言葉を選んでいるような感じだ。


「あ、えっと……。その——」


 まどろっこしい? ならとりあえず結論だけ語ろう。


「いくらなんでもこれは……。えっと——困ります……」

「——《《マリンの部屋が荒れてる……?》》」




☆☆☆☆☆




 結論から述べよう。そう、マリンの部屋が荒れているのだ。ベッドは引き裂かれ、物が散乱している。幸いマリンは持ち物をほとんど持ち歩いていないので何かを取られたということはなかったが……。いや状況の整理よりも先にとりあえず支配人への弁解が先だ。


「あ、ああっと……。これは僕達が荒らしたわけではなくてだな——」

「——なるほど。しかし私としてもこのままで、というわけにはいかないので……」


 ——まあそうなるだろう。要は損害賠償を払えと言いたいわけだ。そりゃあ勿論そうだろうし、言われるだろうと覚悟もしていた。ある程度なら経費として落とせるが、全額は厳しいかもしれない。うちの国は現在復興作業中により他に回す資源も資金も限られている。足りない分は仕方ないが自分の財布から出すことにするか。


「——わかった。補填はさせていただく」

「あら、寛大」

「当然割り勘だ」

(ワタシ)、今手持ちないわよ?」

「国に君の金預けてるだろ。そこから徴収する……」

「えーーーーーーーーーーーー!?」

「勿論足りなかった分だけだ。立場上は僕の方が上なんだからここくらい従ってくれ」

「————ケチんぼ」

「え、何か言ったか?」

「なんでもない!」


 請求書を見せてもらうとどっとため息を吐く。真っ当な金額とはいえ目を背けたくなるような金額だなこれは。とはいえ経費分と事件依頼達成報酬で払えそうな金額で少しだけ安心。それを見たマリンは一言「タダ働き確定ね……」と肩を落とす。あまり金に執着はないと思っていたのでかなり意外な反応だと思った。


「旅の先々で依頼解決してその場その場で生活してるから。こうして都市部にも寄ればたまには贅沢もしたくなるってものよ。ということで、もう一部屋取って晩まで一休みよ」

「——それはいいが、こんなことをした犯人を突き止めなくていいのか? いつもならこう、絶対締め上げてやる、とか言ってそうな勢いのはずなんだが」

「————アンタの中の(ワタシ)どれだけ悪辣なのよ。さ、少しだけ寝かせてちょうだい。色々と疲れたわ」

「あ、あぁ。支配人、すまないが新しい部屋を手配してくれると助かる」

「かしこまりました。それではこちらへどうぞ」


 ある程度こうなることは予想できていたのか思いのほかスムーズに彼女の部屋を確保することができた。「じゃあ夕飯時に起こしに来てね」とだけ伝えるとそのまま部屋に引きこもる。早い。あまりにも行動が早い。そんな彼女にもう一つ大きなため息を吐きながら自分の部屋へと戻ったが、どうも落ち着かない。ふと気になったので隣の部屋、荒れた元マリンがいた部屋を覗いてみるとスタッフが一人あせあせと簡単な部屋の掃除を行っていた。


「…………ふむ」


部屋の鍵はフロントに預けてあるのでここのスタッフ以外にここを荒らせる人物はいない。となると犯人は宿の人間?


「——いいや違うな」


 ここはよく要人も利用している宿でスタッフの教育も行き届いている。それに内部犯というのはあまりにも真っ先に思いつくことだ。こんなところでそんなリスキーなことはしない——はず。


「つまり外部犯? しかしどうやって——」


 やったのか、と呟きそうになって口を閉ざした。この魔法溢れる世界においてどうやったか(ハウダニット)はそれほど意味がない、と先程マリンに言われたばかりではないかと頭を振る。重要なのはどうしてやったのか(ホワイダニット)。それこそが犯人を導き出す鍵だ。


「動機……。動機かぁ…………。————待てよ。《《さっきマリンに言われた》》……?」


 今更になって辿りついた。これは《《ダリアの事件とそっくりではないか》》と。つまり同一犯? そう断ずるには早急すぎるような気はするが、判断材料としては充分すぎるほどの状況の一致とタイミングの良さ。少なくともこれを無視して語ることはできない、と思う。


「考えろ、考えろ……」


 仮にこれが同一犯だとして。《《どうしてマリンを狙ったのだろうか?》》 普通に考えれば『捜査を打ち切れ』というメッセージとして受け取れる。ならば何故ここがわかった? もしつけられていたとすれば自分が、なによりあの警戒魔のマリンが気付かないわけがない。


「——ダメだ。また手段の話に脱線している……。ホワイダニットで考えるのは難しいな」


 何はともあれ自分だけで結論を出せそうにはない。この後の食事中にでもこのことを伝えておくか、と頭に刻んでおく。


「これで進展してくれればいいが——」


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