もしかして…
私、大原由衣は普通の家の一人娘だ。
父と母はどうでもいいことでなぜか毎日口喧嘩をして、いつの間にか仲良く話している。そんな日常を飽きずに繰り返しながら、私が生まれて16年が過ぎた。
毎日繰り広げられる喧嘩の声は正直うるさくて、私は反抗期が終わりつつもいい加減口喧嘩はやめてほしいと常々思ってきた。
ごみを出してないとか、片づけをしないとか、よくもまあ毎日同じことで喧嘩できるものだと思いつつも、どうでもいいことを言い合えるから家族なのだろうとも思う。
だとしても、
「いい加減静かにして!もう私が片付けておくから二人ともそれで良いでしょ!」
結局この結末だ。
今日の口喧嘩の原因はどうやら、父がキッチンを使ったのに片づけをしなかったのだとか。
お互い意地を張って折れないから喧嘩になるんだ。
なんで私がやらなきゃいけないんだかわからないけれど、いつ終わるかもわからない口喧嘩を聞き続けるよりはましだと思う。
「結局、由衣に全部やらせて。なんでケンジさんは片付けないの」
「後でやるって言っただろ」
ケンジさん、というのは私の父のことだ。ちなみに母はマリコ。
私の仲裁、というより私に押し付けたことでやっと二人の喧嘩は収まった。
そもそもなんで普段は料理をしないお父さんがキッチンなんか使ってたんだろう。
置きっぱなしになっているボウルや泡だて器を見る限り、お菓子でも作っていたのだろうか。
でも、お父さんは確か甘いものは苦手だったと思う。
だとすると、誰かにあげるためとか?もうすぐホワイトデーも近いし、会社の人へのお返しとか。
いやいや、既婚者が手作りのお返しはさすがにないでしょ。
そもそもバレンタインに私以外からチョコもらえてなさそうだし。
じゃあ一体誰にあげるんだ?
考えてみれば、この前も食事中にスマホを見ていてお母さんと口喧嘩を始めていたけど、たまたま見えたページにはケーキの作り方がのっていた気がする。
あのサイトはいろんなお菓子の作り方が載っていて便利だから、私も良く使っているので見覚えがあった。
お父さんが不倫、なんていう可能性は娘として考えたくないし、そもそもお父さんはちょっとだらしないところはあってもそんなことをするような人じゃないはず。
ケーキ、ホワイトデー、お返し…
洗い物をしながら、探偵になった気分でキーワードをつなげて考えてみた。
あ!そういえば、前にお母さんはチーズケーキが好きだって言っていた気がする。
チーズケーキなら家でも簡単に作れるし、この砕けたクッキーの破片もチーズケーキの土台の部分だと言われれば納得がいく。
当たり前すぎて忘れていたけど、バレンタインにはお母さんもお父さんにチョコをあげていたし、お母さんへのお返しだとしたらすべての辻褄が合う気がする。
え、もしかしてお父さんってお母さんのことちゃんと大事に思ってたりするの?二人の馴れ初めとか聞いたことないし、今度聞いてみようかな。
結婚してるくらいだから、ちゃんと好きだったとは思うけど。
でもちゃんと好きなんだったらあんなに毎日喧嘩ばっかりしなくない?
あーもう、考えてたらよくわかんなくなってきた。
でもまあ、それはそれで面白そうだし、考えてみるのもちょっと楽しいかも。