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登校中の風景は毎日代わり映えがなくていけない。
私はいつ何時であっても日常を刺激的なもので埋め尽くしたい人間であるから、こうも毎日同じ道を走るのは退屈そのものであるのだが、しかしその刺激が非日常的なものであるべきではないとも思っている。
昨日まではなかったものがあった。
通学路沿いにある小さな児童公園のトイレの壁に、真っ赤なスプレー塗料のようなものででかでかと落書きがされていたのだ。
「なんと」
ペダルを止めて見てみれば、教養の欠片も感じさせない字で「あほ」と書いてあるではないか。
「幼稚が過ぎる!」
普段ならば早朝のラジオ体操に勤しむご老人方が腰を曲げながら清掃作業を行っていた。
あの手のスプレーは水とブラシで落ちるものなのか疑問ではあるが、日々屯し、体操と世間話に喜びを見出す彼らに余計な刺激を与えるとはなんたることか、と憤ったところで私に出来ることなど何もない。
「これで一体何件目だろうか」
己の無力さと共に独り言つ。
噂ではあるが、この近くの公園、石塀、その他諸々、小耳に挟んだだけでもこれまでに五件の落書き事案が発生している。同一人物、もしくは同一グループの犯行であるかは知りようもなく、またこのような「幼稚」という言葉が大人びて見えるほどばかばかしい「あほ」の文字がそれら全てに書かれていたのかも判然としないが、にしても薄ら寒い話である。
これは我々校内週刊誌の出番ではなく警察のお仕事であるため詮索はしないが、高校の近くともなれば我が校の生徒が関与している可能性もなきにしもあらず。注視はしておきたい。
とまれこの手の事件というのは実にありふれたものである。近所の公園にどこぞの不良が落書きをしていたと話せば大概の者が「我が地元も同様に」と語り出すことだろう。
「しかしこうも頻発してはなぁ」
ありきたりなものでも身近にあると思うと気持ちが悪い。
「我が校の生徒であってくれるなよ」と独り言つ通学路。
この日常に差す色としてスプレーの赤だけは決して用いるまい! と固く誓って、私は重たいペダルを踏んづけた。