転生悪役令嬢は甘える事を諦めた
……メイリー・フォーラチタ。
恋愛ゲーム『オモチャの国のお姫様』……通称『オモ姫』の主人公の姉にして、甘え下手な悪役令嬢。
最後は悪役として処刑される彼女はーーー生粋のシスコンである。
なにをするにもお姉ちゃん、お姉ちゃん。お姉ちゃん大好き、男との恋愛なんて許すものか! な悪役令嬢としては、珍しすぎる、可愛い少女。
しかし、甘えるのが下手すぎて、誤解され、処刑された。
ちなみに、彼女の処刑エンドが公開された日、『オモ姫』は炎上した。
ーーーそんな彼女になっていることに気がついた私はどうしたら良いのだろうか?
少し、私について語らせて頂こう。
三兄弟のまんなか、問題児な姉と甘え上手な弟に挟まれた私、赤﨑 瑠花は、『手のかからない』子だった。
手のかかる二人に囲まれ、親は、ほとんど放置状態。
いわゆる、手のかかる子ほど可愛い、みたいな、そういうやつだ。
幼い頃は親に見てもらいたくて、わざと問題を起こしたこともある。
そのときにいわれたのは、唯でさえ、お姉ちゃんと弟で手間がかかるのにこれ以上迷惑かけないで頂戴、だ。
私は、甘えるのがド下手だった。
『オモ姫』で『メイリー』が死んだとき、ショックで寝込んだのも、『メイリー』と自分を無意識に重ねていたからかもしれない。
……というよりは、『メイリー』は私にとって憧れや尊敬の対象だった。
私と同じで甘える事を必要とされていないのに、それがわかっているのに、諦めなかった。
『メイリー』が処刑されず、助かって幸せに暮らせたら、私も少しだけ報われる気がしていた。
まぁ、結局『メイリー』が報われることはなかったが。
……前世の記憶を取り戻して思った。
『メイリー』は、本当に私に似ている。
……嫌われるのが嫌で、ワガママを言わなかった。
……興味をもってもらえるように、沢山、たくさん努力した。
……書斎に籠りっきりで、友達なんて一人もいない。
いつからか、嫌がらせや悪口が興味をもってもらうための手段の一つになって。
結局、誰にも見てもらえないまま、人生を終えた。
私は、そんな未来に絶望しながら、自分の家の書斎で俯いた。
使用人は、他の兄弟についていて誰一人、人はそばにいない。
ぽつりと本音が漏れた。
「……死にたくない……」
甘えたいけど。甘えるのが下手な私じゃ、きっと『メイリー』を殺してしまう。
どうしようか……。
…………。
………………。
そうだ……甘える対象は家族だけじゃない。
なんでいままでコレに気がつかなかったんだ、私は!
まずは大好きなお姉ちゃんである、アリアの恋を応援……もとい、見守ろう。
我儘なんて言わずに、家族に期待なんかせずに。
家族なんて、血が繋がってるだけの他人。
いつか自分の事を甘やかしてくれる人を見つけるまでは。
誰にも期待せずに独りでも、頑張ろう。
「……寂しいけど未来への投資だと思えば……惜しくないかな……」
私は読んでいた絵本をぱたりと閉じた。
幸い、この世界には想像力が命の魔法がある。
読書が趣味の私なら普通の6歳よりかは、上手く魔法を使えるだろう。
魔法書の棚に向かい、本をいくつか取りだし、机に座り直す。
齢6。悪役令嬢メイリー・フォーラチタに転生した私は、甘えることを諦めた。