婚約破棄を宣言する?違います。私が婚約破棄を申し出ます。
私はエリス・ブラウン。ブラウン公爵家の末娘。幼い頃から末娘と言う事で甘やかされ、家の権威を振りかざし傲慢で我儘なデブな子供だった。我儘娘の延長上で王太子の婚約者にもなった。
7歳の時買い物に行きたいと我儘を言い、市井に連れて行ってくれた侍女や護衛騎士を振り切り、迷子になったあげく、誘拐される寸前の所を見知らぬ兄妹が助けてくれた。
「こんな場所をそんな服装で歩いていたら襲ってくれって言ってるようなもんだぞ!」
助けてくれた兄が怒鳴ってきた。怒られた事がないエリスは逆ギレしていた。
「お姉ちゃん、喉渇いたでしょう?これ飲んで良いよ」
妹が服の裾を引っ張りながらコップを差し出した。
「触らないで!」
エリスはコップごと少女の手を払い除けた。コップの中身は床に溢れ落ちた。
「……お前知ってるか?このコップ一杯の水を買うのに幾らいるのか……」
「そんなの知らないわよ」
エリスは知らないし考えた事もなかったのでそのまま答えた。
「3時間だ。仕事を見つけて、3時間働いた給金でやっと買うんだ!その水をお前は無駄にしたんだぞ!!」
「お兄ちゃんやめて!このお姉ちゃんだって悪気があった訳じゃないよ。たまたま手が当たっ……!!」
「キャル!?大丈夫か?発作か?」
キャルと言う少女がエリスを庇っている最中に倒れ込んだ。
「だ、大丈夫?ねぇ?」
「キャルは心臓が弱いんだ!薬も今は買えなくて飲んでない上にさっき走ったから……キャル!死ぬな!キャル!!」
少年がキャルを抱えて泣いている。
「だ、誰か!誰か助けて!!死んじゃダメー!」
エリスが叫び、頭がボウッとしたと思ったらエリスとキャル、少年の体は光に包まれていた。光は暫く続き、この光を見た護衛騎士と侍女がエリスを見つけた。
見つけた時には3人は気を失っていた。
♢♢♢♢♢♢
「うっん?ここどこ?」
「エリス様?気が付かれましたか?痛いとこなどありませんか?ここはお屋敷でエリス様のお部屋ですよ」
部屋に居た侍女が足早に近寄って声を掛けた。
「あの少年と少女は?護衛騎士のカリダモンと侍女のシーナは?」
私は四人のことが気になっていた。
「カルダモンとシーナは隣の部屋で監禁されています。お嬢様を危険な目に遭わせたのですから。少年と少女は客室で寝かせています」
「あの子達無事なのね?」
「はい。二人とも疲れて寝ているだけでございます」
「キャルは、少女は心臓が悪いそうなの!あの時も発作で倒れたのよ」
倒れたキャルを思い出し、心配していた。
「診察をしましたが、どこも悪くは無かったです。健康体でしたが…」
我が家の主従医は国でもかなりの腕前を持つ医者だ。その医者がキャルは健康体だと言う。不思議だったが安心した。
「支度をするから、お父様とお母様とカルダモンとシーナを部屋に呼んで頂戴」
「畏まりました」
部屋に来たカルダモンとシーナは跪いていた。
両親は私の言葉を待っていてくれた。
「お父様、お母様、カリダモン、シーナ、迷惑を掛けてごめんなさい!!
今回の事は全て私の責任です!罰するなら私を罰してください!!」
エリスの言葉を聞き誰もが驚いていた。今まで自分が悪いと認めた事も謝った事も無かったのだから…。
「あの子達に助けられて、私がどれほど馬鹿だったのか、愚かだったのか分かりました。申し訳ありませんでした。
お父様、あの子達は私の命の恩人です!この家で雇って下さい!お小遣いもいりません。勉強もします!お願いします!」
エリスは父に頭を下げお願いした。
エリスの願い通り、兄グリムは執事見習いになった。妹キャルはエリス付きの侍女見習いになった。
お父様が私に伝えたのは私が気を失う前に希少な聖属性の癒しの力を使ったのではないかと。聖属性の力を持つ者は貴重で尚且つ狙われやすいのだと。自分の意思を持ち考えて生きていけと教えてくれた。そして暫くは力のことは秘密にするようにと。
エリスはあの日から暴飲暴食を止め、適度に運動も始め、国の事、領地経営の事、世間のお金の価値、生活費、周辺国の事など、知らない事は勉強していった。たった一杯の水が飲めず、一切れのパンが食べられず死ぬ者がいる事や親に捨てられる子供達がいる現実も知った。
自分がどれだけ周りに恵まれているかと言う事も知った。
知識を手に入れた今私が求めているのは王太子妃の地位ではなく、領民達の食べられない苦しみをなくす事だった。国民全てを助ける事は出来ないけど、領民だけでも救いたかった。
自由気ままな王太子には会う度に小言のように国民の事をまず考えてください、知識を増やして下さいと言っていたら、鬱陶しがられる様になった。王太子は全てを受け止めてくれる女性達と浮名を流した。
証拠は全て揃ったので、婚約破棄して貰います!
♢♢♢♢♢
「エリス・ブラウン!貴様とは婚約破棄だ!」
王太子が会場で叫んだ。
「可愛げないお前などもう見たくもない!俺はここに居るレイシと婚約する!」
レイシ・シャルマン。シャルマン侯爵家の令嬢。レイシは両親に甘やかされて育ち我儘だが、王太子妃になりたい為王太子に気に入られるように王太子の言いなりだった。王太子には婚約者が居るのに身体も差し出し攻落したようだ。王太子に恥ずかしげも無くピッタリ体を付けているのが証拠。
会場内に居る人達はこの婚約破棄劇場がどうなるのか静かに見守っていた。
愚鈍な王太子と令嬢達の手本と言われる聡明なエリスの婚約破棄劇場の結果を。
「婚約破棄は私も賛成ですが、王太子殿下から婚約破棄できる権利はすでにありませんよ。婚約中でありながら節度もなく遊び回り何度も浮気をし、その上国庫のお金でギャンブルをする。証拠もありますので、私の方から婚約破棄を申し出ます」
「な!?なんだと!!」
王太子は、激昂し顔は真っ赤だった。
怒った王太子はエリスを殴ろうと襲いかかった。
エリスの前に立ち塞がり王太子を止めたのはグリムだった。グリムはエリスとキャルと一緒に成長し、いまではエリス専属執事兼護衛にまでなっていた。グリムに押さえつけられた王太子は顔を歪めながら叫んでいる。
そんな王太子の前に立った者がいた。王太子の父、国王陛下だ。
父に助けてくれと叫ぶ王太子を国王陛下は殴りつけた。
「お前は廃嫡だ!国を守る者が何をしているんだ!!」
「は、廃嫡って?エリスと婚約破棄しただけで、なんでそうなるんだよ!?悪いのは俺に小言ばかり言うエリスだろ!」
国王は王太子をもう一発殴った。
「エリス嬢はお前の王太子として見合わない行動を諫めていただけだ!それにエリス嬢はお前より価値がある!」
「はぁ?王族より価値があるって意味わかんねぇ」
「エリス嬢は聖属性の魔法を使う事が出来る。聖属性を使える者は王族と同等だと貴様でも知っているだろう!?」
エリスが聖属性の魔法が使える事は周囲には隠していたので、周りは驚きと自国に聖属性の使い手が居た事の喜びで会場内はざわついた。
「エリスが聖属性を使える……。す、すまなかった。婚約破棄をすると言うのは撤回する!」
「お、王太子殿下!私はどうなるのですか?全てを捧げてきたのに…」
レイシ嬢は王太子に泣きながら縋り付いていた。
「今更無かった事には出来ません。貴方が廃嫡になる事も国王陛下が宣言されました。貴方はすでに王族ではありません」
エリスは元王太子にピシャリと言った。
「エリスの言う通りだ。新しい王太子はこの第3王子のマックスだ。そしてエリス嬢はマックスの王太子妃となる」
国王はマックスの肩に手を添え紹介した。
マックスはエリスの隣に立ち、宣言した。
「僕はエリスとこの国の国民の為に力を尽くす事を約束します!」
マックスの宣言に会場は沸き立った。
「な、なぜこんな事になったんだ!?」
「兄上、自業自得ですよ。王族は民から沢山の税を納めて貰っていますが、それは私達の物ではありません。キチンと管理をし、返さなければいけないものです。そんな事も分からずに好きに使うなどあってはならない事です!」
元王太子は王族籍から除籍され、王都から離れた小さな領地と子爵籍を貰いレイシと共に連れて行かれた。
マックスとエリスは生涯質素倹約を基にし、国民達の為により良い国作りに励んだ。
国民に聞くとこの国に生まれて幸せだと答える者の多さに驚き、この国の国民になりたいと思う他国民も沢山いたと言う。
沢山ある作品の中から、この作品を読んで頂いてありがとうございます。
とても嬉しいです!
感想も誤字脱字報告も感謝します。
お手数ですが、星で評価頂けたら今後の活力、パワーになりますので、よろしくお願い致します。
暑い日が続いていますが、熱中症ご注意下さいね