桜貝
桜貝
「……ったく、なんでよりによってこいつと……」
「それは俺のセリフ。俺は椎と来たかったのに」
「ほざいてろ」
壱はそう言ってため息をつく。大体こんなところに椎を連れてこれるわけがない……海は海でも仕事場なのだ。
「……!」
動いた気配を察知して壱は懐へ手を入れる。振り向きざまに右手をふるえば確かな手ごたえ。それでも尚スピードは落とさずに左手で人影をつかみ振り下ろす。ドンっという音とともに二人の目の前に人が倒れる。壱の小柄な体が持ちあげたとは思えない大柄の男だった。男はぴくりとも動かない。ひゅーっ、と参が口で鳴らす。
「いつの間に腕上げたんだ?」
「別に……慣れただけだろ」
参の問いに壱はむすっとして答える。そして海に向かい手とナイフについた血を洗い流す。
ざぁ……っという波の音は壱にとってとても好きな音だった。すべてを洗い流すようで、海によれば自分のしている罪もぬぐわれるそんな気がしていた。
ふと砂浜をみるといろいろなかけらが光っていた。
「……きれいだな……」
ポツリ、と呟いた瞬間、ドンっと重い音がした。急いで振り返ればこちらを見据え、銃を構えた参と目があった。参は壱と目が合うとにやっ、と顔をゆがめた。
「まだまだだな、壱は」
「なんっ……!」
全部言い終わる前に壱は立ち上がりすうっ、と横に移動する。さっきまで壱がいた場所に小柄な少年が倒れた。じわっと左胸から血がにじむ。
「……誰……だ……?」
壱は不思議そうに少年を見、参を見る。参は手元に持っていた紙をひらひらと掲げる。
「親子だったんだよねー、ターゲット。息子見えないと思ったら壱の背後狙ってたからさ。もしかして油断してた?」
「ばっ……そんなわけ……」
「子供は素直なほうが可愛いんだよ」
ニヤニヤしながら参は銃をしまい出口のほうへと歩いていく。
「任務終了。さっさと帰って椎のご飯が食べたい……早く行くよ」
「……ああ」
壱は軽く返事をして海岸に目を戻す。光っている欠片の中にただ一つだけ割れていないものがあった。それを優しく拾い、一度海水につけて大切に握る。そして死体には振り返らずに参の後ろを歩いていく。
それは一つしか見つからなかったサクラガイ。
大切な君へ、届けるよ