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まずはウェズリー家殺人事件について知りたい、ですか。
さて、どこから話したものか。
ーーそれは、そう。
私がまだあの家に仕える前のことです。
私は片田舎の出身でして、若かった頃はそれが嫌で嫌で仕方がありませんでした。
親から離れられる年齢になると、ろくな金も持たずすぐさま家を出てしまったのです。
しかしまあ、お恥ずかしい話、まともな教育も受けていなかったものですから、直ぐに仕事など見つかるはずもなく浮浪者同然の生活をしておりました。
そんなある夜。
私は空腹に耐えかね、とある家に盗みに入ろうと致しました。
ええ、あのウェズリー家の屋敷です。
あの屋敷の裏口は、毎週金曜だけ主人が愛人との逢引のために鍵をかけていなかったため、下級貴族の屋敷の中でも特に狙いやすかったのです。
その情報源ですか?
まあ、それはまた後ほど。
主人が愛人と逢引をしていたことは、恐らく周知だったと思います。
なにせ、浮浪者同然の私が気づくくらいですから。
私は早く何か食べたいという一心で、屋敷の中へと入りました。
下級といえど、やはり貴族。
内装は思わずため息が出るほど豪華絢爛なものでした。
片田舎にいては目にすることはできなかったであろう舶来品ばかりで、それを目にできただけでも盗みに入った価値はあったと思うほどでした。
しかし少しして、なにやら違和感を覚えました。
辺りが、異様に静かなのです。
まるで誰もいないかのようでした。
キッチンを探している間に、静けさの理由はすぐにわかりました。
床に、人が転がっていたのです。
それも、1人や2人ではありませんでした。
誰もが頭から血を流して、死んでいたのです。
メイド、執事、コック、主人の奥方らしき女。
全員が、頭を撃ち抜かれ死んでいました。
まるで地獄のような光景に、私は完全に恐怖で支配されてしまいました。
叫びながら屋敷を飛び出し、一目散に正面ゲートへと走ってなんとか脱出しました。
すると、ちょうど前を通りかかった一人の初老の男性が、私を見るなり目を丸くして訊ねてきたのです。
「どうかされましたか」
その男性こそが、後に私が仕えることとなった旦那様でございました。