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芥川龍之介の地獄変っぽいのを書いてみたくて始めてみました。そんなに長くするつもりはないです。もしかしたら江戸川乱歩寄りになるかもしれません。足元にも及ばないかもしれませんが、読んで頂ければ幸いです。
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はじめまして。
あなたがあの事件について調査をしている記者の方ですか。
わざわざ遠くまで足を運んでくださり、ありがとうございます。
あの事件の真相は、おそらく多くの国民が関心を抱いていることでしょう。
当事者である私には、当然伝える義務があると思っています。
なぜこれまで口を閉ざしていたのか、ですか?
そうですね、私にとってあの事件は本当に凄惨なできごとでした。
とても、人様に聞かせられるようなことではないと思っていたのです。
ええ、あの日のことは今も忘れはいたしません。
このような老いぼれとなった今でも、鮮明に思い出せます。
鼓膜を突き刺すような銃声と、みるみるうちに紅く染まる絨毯。鼻をつく鉄の臭い。
私はこの目で、あの事件の全てを見届けたのですよ。
今になってこのようにあなたの取材を受けようと思ったのは、同じくあの事件を目の当たりにした旧友に、話すべきだと諭されたからなのです。
随分と時間が経ってしまいましたがね。
私も随分と歳をとった。
彼らと過ごした日々は、私の人生の中で一番幸せな時間でした。
旧友はその時間も、彼らが生きた証なのだと言っていました。
なので、私は生きている間にその証をあなたに託したいと思います。