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『まったく…人間ってやつは……』


さくらの思わぬ剣幕にたじろいエンディミオンだったが、内心ではやはり納得できていなかった。


あのミハエルという吸血鬼がストーカーされているという事実など本当にどうでもいいことだったが、さくらの表情を曇らせる輩についてはやはり許せない。


『お前は俺が守ってやる』


とさくらに告げたことは、今のエンディミオンにとっては決して軽くない矜持になっていたようだ。


それもあって、ミハエルに加えてストーカーについても気に掛けるようになっていた。


『何をやってるんだオレは……』


夜の公園で気配を消して潜み、やはりミハエルの様子を窺いながらそんなことも思う。


すると、そんな彼の視界に、一人の女性が現れた。ピシッとしたブランド物のビジネススーツにやや派手な印象のあるメイクが、夜目の効く彼にははっきりと見て取れた。


しかもそんな女性を見た瞬間、予感めいたものが彼の中を奔り抜ける。


『まさか…こいつが例のストーカーか……?』


淡々と公園の前の歩道を歩きながらもどこか思い詰めた表情をしているその様子に、それが何かに偏執的に入れ込んでいる人間の気配であると読み取ったからというのもある。


表向きは静かでも、頭の中では何らかの志向が激しく奔り回っている人間の表情だ。


もちろんまったく無関係な別人である可能性の方が圧倒的に高いが、少なくともそう遠くないうちに何かをやらかしかねない人間であることは、エンディミオンの目にははっきりと見て取れる。


『こいつがあの吸血鬼をヤれるタマなら利用してやってもいいんだが、さすがにそこまでじゃないだろうな……』


そんなことも思う。


なのでしばらく様子を窺うことにした。


するとその女性は、


「どうして見付からないの…!? 私と彼は赤い糸で結ばれてるのよ…! 一体、誰が邪魔をしてるの……!」


と、人間であればおよそ聞き取れるものではない呟きで、まるで<呪い>のような言葉を吐いた。


ダンピールであるエンディミオンにはそれがはっきりと聞き取れてしまった。


それと同時に、その女性の中で煮え立つように蠢く情念もが察せられてしまう。


『これはこれは……相当イカれてやがるな』


女性は、右手を口元に持ってくると、ハッとなったようにそれを左手で押さえた。しかし抑えきれずに左手を添えたまま口元にやって、爪を噛み始める。


どうやら女性の癖らしい。しかし普段はその癖が出ないように抑えているのが見て取れた。その理由がすぐに分かった。


女性は自分の爪を恐ろしい勢いで噛み、見る間にボロボロにしていったからである。


『こりゃヒドイ……』


何気なく見ていたエンディミオンでさえ呆れるほどの有様であった。



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