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剣幕

日課の散歩とそのついでにスーパーに寄る時もある以外では滅多に外出することもなかったことでそれを控えてもアオとしてはこれといって支障もなかったものの、それをいつまでも続けるというのはさすがにいい気分のものではなかった。


「面倒臭いから引っ越ししようと思っているんだ」


そう言ったアオに、さくらが表情を曇らせる。


「それしかないのかもしれませんけど、やっぱり納得はできませんよね……


だってそうでしょう? どうしてストーカーの被害を受けてる方が逃げるみたいにして引っ越さなきゃいけないんですか? おかしいです」


「その点では、私もまったくもって同感だ。


ただ、現実問題として、被害を拡大させない手段としては、やはり、アリなんだと思う」


「……ですね……


私も、もし、先生と同じ立場だったら引っ越しするでしょうし……」


確かにそうだった。納得はできなくとも、それが現実的な対応であることは理解しているし、実際、大学時代にしつこく迫ってくる先輩学生にその当時住んでいたマンションを知られた時には、引っ越ししたこともある。


幸い、それについては、別の先輩が働きかけてくれたことでストーカー行為はエスカレートせず収まり、事なきを得たが、それ故に手段の一つとしてあることについては理解できているのだ。


なにしろ、つきまとってくる学生を説得してくれた先輩が動いたのも、


『引っ越しするくらい本気で困ってたのか』


というのが伝わったからだ。それまでは、


「あいつも悪い奴じゃないんだ。分かってやってくれよ」


などと、先方の肩を持つようなことすら言ってたくらいである。


また、つきまとっていた学生も、その先輩の言葉にはある程度耳を傾けるからこその結果だった。


このように、対応が上手くハマれば被害が大きくならずに済むこともあるのは事実だろう。




『でも、どうしたらいいんだろう……』


打ち合わせを終えてアオのマンションを出たさくらは、そんなことを考えながら歩いた。


そこに、


「なにを暗い顔をしている。さては、例のストーカーとやらの件か?」


闇の中からすうっと現れたエンディミオンが憮然とした表情で問い掛けた。


そうやって突然現れても、それはもういつものことなので、さくらも驚くことはない。


「まあね……」


気のない返事に、エンディミオンはますます不機嫌そうな表情になった。そして、


「なんだったら、俺がそのストーカーとやらを始末してやろうか…?」


と、いかにも当然のようにさらりとそんなことを口にする。だが、次の瞬間、


「……ヤメて…っ!」


さくらが弾けるように声を上げた。


「わ…分かってる。冗談だ……!」


まさかの剣幕に、エンディミオンの方が驚かされたのだった。



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