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ミハエルらしい

「アオ、ちょっと来て」


試着室に入ったミハエルが中からそう声を掛けてくる。


「あ、うん…!」


呼ばれてアオは少し慌てて試着室を覗き込んだ。


その背後では、店員達が集まって試着室の方を見ながら何やらひそひそと話をしている。しかもその顔は、紅潮し、明らかに舞い上がった様子だった。


まるで、店にイケメン芸能人でも来て、それで浮かれているかのような。


「ねえねえ! あのコすごいよね!」


「あんな綺麗な生き物、初めて見た…!」


「どうすればあんな美少年と知り合いになれるの…!?」


等々、アオには辛うじて聞こえないが、それでも何か話しているのは分かるし、しかもミハエルには筒抜けだった。


『うわ~…めっちゃ注目されてるよ~』


とアオは思ったものの、ミハエルにとってはいつものことなので特に気にしてはいなかった。


それよりも、


「どう? 似合ってるかな?」


店員に薦められたブランド品の子供服を見にまとい、ミハエルが問い掛ける。


するとその姿は、さすがにいつもの格好と比べて明らかに雰囲気が違っていた。服によって人間の価値が決まるわけではないとはいえ、なるほど印象は格段に良くなる。ブランドは伊達ではないということか。


しかしそれも、その<ブランド>に負けない、と言うか、ブランド服さえあくまで自らの引き立て役でしかないという彼自身の素性の良さがあってのことなのだろうが。


ピシッと、一本筋が通ったかのような、重心が決まっている、それでいてどこにも無理がない、破綻している部分がない、完璧なバランスで立つミハエルの姿はもはや神々しささえ感じられた。


「いい……いいよ……尊い……」


人間、あまりに美しいもの、完璧なものを前にすると言葉を失うと言うが、この時のアオがまさにそれだっただろう。


しかし、


「ありがとう。でも、正直言って僕の趣味とは違うかな…」


そう言ってミハエルは苦笑いを浮かべる。


『ええ…? こんなに完璧なのに……?』


戸惑うアオをよそに、ミハエルはその服を脱いで、店員にそれを薦められている間に見付けていた服を手にして、再び試着室へと入った。


すると、アオの見ている前でするするとその服に着替えたミハエルの姿に、アオが「あ…!」という顔をする。


そして、


「どう? 僕はこっちの方が好きなんだけどな」


と言いながら彼女に話しかけた彼に、アオはぐうの音も出なかった。


『そっか…! そういうことか……』


ミハエルが選んだ服は、確かにさっきのものよりは<完璧>ではなく、どこか微妙にバランスを欠いた印象を与えるものだった。


しかし、なぜかそれがアオの目にもしっくりときた。先ほどの<完璧な美しさ>も確かに良かったが、こちらの方が、


『ミハエルらしい…♡』


と思えたのだった。



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