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完璧美少年を見た!!

こうして結局、ミハエルは、敢えてエンディミオンと事を構えることはしなかった。少なくとも彼の方から先手を打つつもりもなかった。


もちろん油断はしない。万が一にもアオが傷付けられるようなことがあれば一戦交えることにもなるかもしれないものの、そうならないように注意を払った。


何もせず、ただ毎日を穏やかに過ごし、さくらが仕事で訪れるのも歓迎した。


アオとさくらのためにコーヒーや紅茶を淹れ、自分で買ってきた茶菓子を振舞ったりもした。


今では買い物にもミハエルが自分で行く。


ただし、十歳くらいの子供にも見えるその外見を考慮し、日が暮れてからすぐの時間帯に、近所のコンビニに行く程度ではあったが。


でなければ、昨今ではいろいろ言われてしまいかねないからである。


『こんな時間に子供だけで買い物に行かせるとか、親は何をしてるんだ!?』


的なことを。


それでもなくても、


<美しすぎる外国人の少年>


のことは、既にこの近所では噂になっているらしい。


『完璧美少年を見た!!』


などとSNSにさえ投稿されていたりもする。


幸い、写真までは勝手にアップされていないようだが、それも時間の問題かもしれない。


ミハエル自身、そんなことで騒がれるのは本意ではなかった。


なお、


『気配を消して悟られないようにすればいいのではないか?』


という点については、確かに一人で道を歩いている時には気配を消してもいいものの、買い物をするとなればそういう訳にはいかない。


だから精々、後をつけられたりして家を特定されない程度のことにしか使えないのも事実である。


と、そういう訳でやはり気配を消しながらアオのマンションを出た時、


「あ、ミハエル君!」


不意に声が掛けられた。


突然ではあったものの、聞き覚えのある声だったので驚きはしなかったが。


「あ、さくら。こんばんは」


振り返ってそう応えた彼の視線の先には、笑顔で手を振るさくらの姿があった。


そして、その後ろ、街路樹の陰に隠れるようにして、エンディミオンの姿も。


けれど敢えてエンディミオンの方へは意識を向けなかった。


意識を向けると、敵対行動だと見做される可能性があったからである。


その上で、さくらに対しては穏やかに接し、彼女に対しては危害を加えるつもりがないことをしっかりと示す。


これをただ繰り返すのだ。


いつ終わるとも知れない、先の見えない行為ではある。けれども、ある種の<信頼>を得るためには必要なことでもある。


信頼とは、たった一つのきっかけだけで得られるものではない。無駄にも思える地道な努力の積み重ねがあってこそ成立するのだから。



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