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嬉し恥ずかし

『本当は気付いてたんだ』


それは、相手の心理を読み取る聡さを持つミハエルからすればごくごく当たり前のことだった。しかし、女性に対してあまりに気安く、


『一緒にお風呂入ろう』


と持ち掛けるのも憚られたので、もうしばらく様子を見ようと思っていたところだった。


そこにさくらがこれ以上ないタイミングで話題を振ってくれたので、切り出すことができたのだ。


「え…と、え…と……あの…その……」


しかし、肝心のアオはと言えば、あれほど望んでいたのに、いざ、ミハエルの方から、


「一緒に入ろう」


と言われてしまうと、やはり気恥ずかしさが勝ってしまう。自分の小説の中では、女性の方からあの手この手で少年をお風呂に誘うのに、自分が実際にとなると腰が引けてしまった。


『ファンタジーはやっぱりあくまでファンタジーなんだなあ……』


分かってはいても改めて思い知らされる。


そんなアオを、ミハエルはやはり優しく見守っていた。


「……」


急かすことなく、茶化すことなく、穏やかな表情で、彼女が自分で決められるまで。


『嬉しいけど、いいのかなあ…ホントにいいのかなあ……私なんかで……』


などという思考が彼女の頭の中をぐるぐると駆け巡っている様子も、ミハエルにはすごく良く分かった。アオは本当に素直で気持ちが全部表情に出る。彼にとって彼女の表情は、何よりも雄弁な言葉だった。


だから安心して一緒にいられる。彼女が危険な人間でないことは表情を見れば分かるから。そして、たとえ彼女が邪なことを考えていても、それは本当に他愛ないものでしかないのが分かるから。


ミハエルと一緒に風呂に入る妄想を抱いていることもずっと以前から気付いていたものの、それ自体が可愛いものだった。彼にとっては何の害にもならないものでしかないから。


しかも、いつだって彼のことを気遣ってくれている。そういう妄想を抱きつつも、それを『申し訳ない』と思ってくれている。


人間なら誰しも邪なことを考えてしまう時だってあるだろう。そういうものだとミハエルは知っているのだ。


故に、ついつい邪な気持ちを抱いてしまった上で、そんな自分を正当化しないアオを信頼していた。


「アオとだったら、何も心配せずに一緒にお風呂に入れるよ。だから一緒に入ろう?」


「はにゅあぁぁああぁあぁぁ~~~♡」


ミハエルの言葉に、アオは腰が砕けそうだった。


「入る、入りましゅぅ~~♡」


もう、抗いきれない。申し訳ないと思っているのに、自分が抑えられない。


さくらが帰ったら夕食とお風呂にする筈だったのでもうすぐにも入れる。


するすると服を脱ぎ始めるミハエルに、アオは、気が遠くなりそうにさえなったのだった。



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